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魔物外交編
第二次移住準備
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アテーナが【どのカメラにもセシルさんは映っておりませんでした】と報告して来た時は、正直、パニックに陥った。だが、意地悪せずに直ぐに【怪しい大きな荷物を運び込んだ場所が三ヵ所あります】と、伝えてくれてほっとした。
アテーナもセシルが誘拐された責任の一端を感じていたらしい。
その最も怪しい場所とアテーナが予想した場所に、俺とガスパとフチコマとで出向くことにした。他の二か所には、フチコマとターミネータとを引連れて、新米警察官に行って貰った。
俺達が向かったのは、売春街にある居酒屋。
まだ営業前で、客は一人もいなかったが、行くと、早速、怪しい奴らが三人襲い掛かってきた。
ここが奴らのアジトで間違いない。そう確信して一瞬で制圧したが、何処にもセシルがいない。
既に、別の場所に移動したのか。それとも外れだったのか。
そう思っていた時、食器棚の向こうからセシルの声が聞えて来た。
食器棚は簡単に横にずらせるようになっていて、そこに隠し扉があった。
ドアを開けると、そこはアヘン窟で、下着姿のセシルがぼうっとして立っていた。
事前に粘着網に絡まった服が発見されていたので、できるだけ見ないつもりだったが、見入ってしまう。
大きな胸を突き出し、涙で潤んだ虚ろな瞳で見つめて来て、実に色っぽいということもあるが、首から血が出ていたからだ。
だから傷口を確認しようと近づくと、セシルが俺の胸の中に飛び込む様にして抱きついて来た。
初めて彼女と抱き合えた事は嬉しいが、セシルがこんな事をしてくるなんて、よほど怖い目にあったのだろう。あいつ等を絶対に許さない。
彼女を抱きしめながら、そんな事を考えていたが、セシルの様子が何か変だ。少し熱っぽい気はしていたが、柔らかい乳房を押付け、僅かに上下させながらながら、躰をくねらせて、誘惑している。その上、顔を突き出し、キスまで要求して来る。
どうやらこのアヘンの煙にやられ、酩酊して欲情しているらしい。
積極的に迫ってくれるのは嬉しいが、今はガスパもいる。キスは我慢して彼女を押しのけた。
それで正気に戻ったのか、「見ないで」と女の子座りして、その場にしゃがみ込んだ。
俺が持参した着替えを渡すと、「エッチ。早く出て言って」と顔を膨らませた。
やれやれだが、本当に可愛い。
誘惑してくる妖艶なセシルもいいが、やはり気の強い素直でないセシルの方が、俺は好きだ。
マゾかって。違うから……。
その後、セシルが犯人の顔を確認し、リーダーがいないと言い出した。どうやら、取り逃がしたらしい。
ひとまず、セシルをガスパに任せて、ヘリオスに送り届けてもらうことにし、俺は少々乱暴な事をして、犯人一味から話を聞き出した。
アヘン窟まで隠し持っていたので、きっとマフィアだと予想していたが、彼等はゲリラ組織の一員だった。
そしてオークの男は、リーダーは自分だと言い張った。もう一人、オルグ族の男がいただろうと詰め寄ると、彼は依頼者だと言って来た。その依頼者の名前を白状させようとしたが、頑として口を割らない。否、本当に身元を知らないのかもしれない。
だが、こちらにはアテーナさんという強い味方かいる。
アテーナが、過去の防犯カメラ画像を徹底的に確認してくれ、数時間後には、彼と接触していた依頼者とおぼしき人物の特定が完了した。
ナスカ卿と呼ばれる王都近隣を治める伯爵家の領主。王都近隣に領地を持つことから、かなりの地位にある貴族ということになる。
俺はその名を覚えていなかったが、国王主催の立食パーティーで、我々を自宅に招待したいと言って来た貴族の一人なのだそう。
あの日は紳士しかいなかったが、人は見かけによらないということだ。
ここは、二度とこんな気を起こさない様に、きついお仕置きをすべき所だが、彼に関しては、国王に任せることにした。
この国の重鎮であることも理由の一つだが、国王の誤解を解く意味もある。国王は、我々のことを、普段は優しい顔をしているが、刃向う者は徹底的に潰す残忍な輩と、誤解している節がある。ここは、俺らは羊の皮を被った狼ではなく、本当の善人なのだと、示しておくべきだと判断した。
それに、国王に任せた方が、俺らなんかより、よっぽどきついお仕置きをしてくれる筈だから。
まあ、唆されたにしろ、刃向ったゲリラの方は徹底的に潰す。マフィアの連中にも、俺らに手を出せば、組織が壊滅するとしっかり認識できるように派手に注目を浴びる様に。
そして、全てのアジトを特定したのち、警察官、警備ロボット軍、偵察艇で、全アジトとを同時に包囲して、降伏勧告した。
勿論、素直に降伏するものなどいない。ゲリラとはどんなに絶望的状況でも、最後まで徹底交戦する輩の集まりなのだから。
そして、五分待って、ギャラリーも集まってきた所で、攻撃開始。
場所毎に、非殺傷兵器の種類を換え、どうやっても刃向う手だてはないと、マフィアにも思い知らせる。
ロシナント王宮で披露した音響兵器の原理を使った音響手榴弾。涙が止まらなくなる催涙弾。失明リスクも高く激しい痛みで発狂しそうになる超強力閃光弾。マイナス百九十度の液体空気を流し込んだりもした。
そして、本拠地には、この偵察艇で、地上で使用禁止にされたマイクロ波レーザー砲を照射した。これは電子レンジに人間を入れる様な物。身体を焼き、大やけどさせるだけでなく、脳障害を起こす程の非人道兵器だ。勿論、そうならない様に短時間照射にとどめたが。
そして、阿鼻叫喚のアジトに突入し、ゲリラ全員を逮捕した。
聴覚や視覚を失ったり、凍結したまま倒れて、手足が欠損する者が出たりと、少しやり過ぎた感は否めないが、これを知れば、マフィアの連中も大人しくなるに違いない。
以上で、セシル誘拐事件は終幕。セシルも教師の任を愛弟子の一人に任せる事で納得してもらった。
そんな訳で、再び、ヘリオスで宇宙空間に戻り、今後の方針を打ち合せた。
これ以上、この国に関っていても、碌なことが無い。治安回復できれば、この地の移住許可が貰えることになっているし、その為の手筈も整えた。治安回復には時間がかかるし、じっと待っている程の時間的余裕は俺達にはない。次の行動に出て良い頃合いだ。
そう言う訳で、俺らは次の移住準備に進むことにした。この遥か東方に位置する島々と海中の調査だ。
無数に点在する島々には、知的生命体が存在せず、獣や鳥、巨大トカゲ等しかいないと確認されている。だが、海洋調査は不十分。そこに知的生命体がいる可能性もある。
早速、その為の準備を始めることにした。
この島々がある周囲には、宇宙から見ると大陸と勘違いする程の巨大な大陸棚も拡がっている。その調査はヘリオスで直接海中に潜って行う予定だが、このヘリオスでも、水深千メートルが限界深度。潜水艦並の強固な装甲を備えていても、外圧耐性はそれほど強くない。
大陸棚は深い所でも五百メートル程度なので、問題ないのだが、その更に先に、かなり深い海溝もある。そこまで調査するとなると、その水圧にも耐えられる潜水調査艇が必要だ。
そんな訳で、その製作に取り掛かる事となった。
念の為、ギグにも、一緒にくるかと確認したが、「冒険がしたくて仲間に成ったのじゃ。今更、仲間外れにするでない」と怒られた。
五人で手分けして、作業に当る。役立たずのギグとケビンにもそれなりの雑用仕事を任せた。
潜水調査艇の製造には、ヘリオス内の材料だけでは不足だし、ヘリオスの格納庫も作業するには狭すぎる。
そこで、月面に造船工場を建て、そこで作業を始めた。
同時に、宇宙服の改良や、調査のための装備品づくり等、奔走する日々を送った。
作業を始めて、五日目の昼過ぎ、緊急ホットラインが掛かってきた。
緊急ホットラインとは、簡易通信機。
地上を引き上げ宇宙に戻ると、国王に挨拶に行った際、国王がタブレット端末を欲しいと言ってきた。何時でも俺らと連絡が取れるようにする目的があったみたいだ。
予備のタブレットもまだ何台かあるので、渡しても良いと思ったが、アテーナに戒められた。色々な機能がありすぎて、文明提供をし過ぎる事になるとの警告だ。
そんな訳で、ガスパに動画通信しかできない小型通信機をつくってもらい、それを渡して置いた。
バッテリーが上ると使えなくなるが、緊急回線の使用に限定するなら、その心配もない。
中央モニタには、国王ではなく、ギラ王子が映しだされた。
「おお。本当に繋がった。今、本当に宇宙にいるんですか。信じられない」
厳密には月面だが、ややこしいので黙っておく。
「緊急事態って、なにがあったんだ」
「いえ、緊急というほどではないのですが、ナスカ伯爵、いやナスカの処刑が決まりましたので、連絡を入れさせて頂きました」
そんな事を態々知らせてくれなくともと思ったが話を聞いた。
ナスカはロシナント王国に買収されたスパイで、麻薬密輸ルートの元締めだった。
今回のセシル誘拐に、マフィアを使う予定でいたが、アヘン入手が困難となってから、協力が得られなくなり、仕方なく、ゲリラに取り入って、今回の計画を企てたらしい。
目的は、俺らをロシナントに呼び戻し、手元に置いておきたかったとの事。
あのペダルの命令で動いていたこともわかった。
そして、我々を手元に引き込んだ後で、この国と戦争を始める積りだった事も知らせて来た。
「以前も申し上げましたが、恥ずかしながら、現在の我が国は完全に力を失っている。徴兵すら難しく、とても防戦する力がないのが実情です。ですので、我が国に協力願いたい。勝手ばかり申して恐縮ですが、国家防衛のお願いもしたいのです。移住契約は、治安回復後との約束でしたが、防衛協力頂けるのなら、直ちに調印すると国王陛下も仰っております。どうか、協力をお願いします」
態々、ナスカの処刑の知らせて来たのは、そう言う意図だった。
皆の顔をみたが、何も意見を言わないでいる。前回、口出して、酷い目にあったので、俺に回答を委ねるつもりらしい。
「少し、相談の時間をくれ。話がまとまったら、こちらから連絡を入れるので、一旦切らせてくれ」
「御待ちを……」
ギラはまだ何か言いたかったみたいだが、こちらから回線を切ってやった。
「防衛協力までお願いされたが、皆の意見を聞かせてくれ」
ギグは、何かいいたそうだが、じっと口をつぐみ、発言を控えている。
「私は反対。一方の国に味方するなんて、どう考えても、して良い事じゃない」
セシルが、協力要請を受けるべきでないと主張してきた。
「俺も、止めるべきだと思う。治安回復だって、良い様に使われたし、この戦争も全て俺らに丸投げするつもりに決まってる」ケビンも反対。
「でも、やつらに戦う力が無いのは確かだろう。昔は軍事国家だったみたいだが、今じゃ完全に腐りきってるからな。折角、受け入れてくれると言ってくれてるのに、滅ぼされでもしたら、振り出しに戻る。三カ月の努力も、水の泡だぜ」ガスパは賛成らしい。
「アテーナは、どう思う」
「難しいところです。マルン女王は、この国を占領するため、アヘンを広め、攻め入る機を伺っていた。我々の脅威を知りつつも、地球に追い返そうとしたのは、我々が戦争をやめさせるように動く事を危惧したからだと予想します」
「そうだろうな。アヘン精製工場を潰されたのに、攻め込んでこなかったのは、俺らを恐れての事だろう」
「だから、俺らをこの国から引き離なそうとした。その見解は間違いないだろう」
「でも待って。それなら失敗した今は、攻め入って来ないんじゃないの?」
「はい。その可能性はあります。難しいところと言ったのは、その可能性と、戦争になる可能性とが五分五分だからです。もたもたしていると、モールガン王国が建て直すので、戦争をしかけるなら今しかありません。我々なら戦争行為に加担しない筈と判断して、強行する可能性は十分に高いです」
「そう訊くと、ますます防衛協力した方がよくないか。侵略行為には加担しないが、あくまで防衛に徹するということなら、構わないだろう」
「やはり、私も賛成に変える。私達が協力しなければ、多くの人が命を失うことになる。マルンもペダルもナーシャも気に入らないし、私達が手を出さないと決めつけている所も許せない。それに私達なら、命を奪わずに勝つことだってできるじゃない」
「待ってくれ。そんなことすると、また良い様に使われる事になるぞ。最悪、手助けするとしても、それは戦争が始まって、向こうに押されてからにすべきだ。自分達で努力して、犠牲も出してからにしないと、あいつ等の手駒にされてるだけじゃないか」
ケビンだけは、反対姿勢を崩さない。
「キャプテンは、どうしたいの? 私はキャプテンの判断に従う事にする」
「俺は正直、ケビンと同じ意見だ。この地の戦争に我々が介入すべきでないと考えている。かと言って、占領されて、ロシナント王国から移民受け入れ承認を貰うのも、違う気がする。だから、立ち場上は協力しない姿勢を示し、本当に開戦され、領土が侵され始めたら、そっと支援する。その立場で行きたい」
「キャプテンがそういうなら、俺もそれでいいや」ガスパも納得してくれた。
「モロウ、感謝する」
ギグが俺に抱きついて来たが、男にハグされたくないし、いい加減、キャプテンと呼べ。
そんな訳で、俺はギラに連絡をいれ、その件は協力できないと突き放した。それでは蹂躙されるだけだとかほざいていたので、戦争になったら警備ロボットの半分を軍事投入しても良いと許可してやった。ドローンは敵偵察に最適だし、フチコマは戦士十人分以上、ターミネーターに至っては一個大隊に匹敵する。
これなら、戦力として十分以上で、負ける事はないだろう。
「それから、俺らは別任務で、暫らくこの地を離れることにした。だから。戦争になっても、助けにも行けない。自分達の事は自分達だけで何とかしろ。それと、このホットラインは緊急時用にあげたものだ。本当に緊急の時以外には使うなよ」
それでも頼られると困るので、そう伝えておいた。
勿論、嘘では無い。あと二週間以上先になるが、潜水艇が完成次第、彼等の裏側の海中探索に行くつもりだ。
それからは、地上の様子を見舞りながら、海洋調査の準備を続けた。
そして三週間後、予定より時間が掛かったが、水深十キロメートルでも堪えられる一人乗りの潜水艇完成させた。
俺達は、戦争が始まる気配が無いのを確認して、いよいよ海洋調査に動き出す事となった。
アテーナもセシルが誘拐された責任の一端を感じていたらしい。
その最も怪しい場所とアテーナが予想した場所に、俺とガスパとフチコマとで出向くことにした。他の二か所には、フチコマとターミネータとを引連れて、新米警察官に行って貰った。
俺達が向かったのは、売春街にある居酒屋。
まだ営業前で、客は一人もいなかったが、行くと、早速、怪しい奴らが三人襲い掛かってきた。
ここが奴らのアジトで間違いない。そう確信して一瞬で制圧したが、何処にもセシルがいない。
既に、別の場所に移動したのか。それとも外れだったのか。
そう思っていた時、食器棚の向こうからセシルの声が聞えて来た。
食器棚は簡単に横にずらせるようになっていて、そこに隠し扉があった。
ドアを開けると、そこはアヘン窟で、下着姿のセシルがぼうっとして立っていた。
事前に粘着網に絡まった服が発見されていたので、できるだけ見ないつもりだったが、見入ってしまう。
大きな胸を突き出し、涙で潤んだ虚ろな瞳で見つめて来て、実に色っぽいということもあるが、首から血が出ていたからだ。
だから傷口を確認しようと近づくと、セシルが俺の胸の中に飛び込む様にして抱きついて来た。
初めて彼女と抱き合えた事は嬉しいが、セシルがこんな事をしてくるなんて、よほど怖い目にあったのだろう。あいつ等を絶対に許さない。
彼女を抱きしめながら、そんな事を考えていたが、セシルの様子が何か変だ。少し熱っぽい気はしていたが、柔らかい乳房を押付け、僅かに上下させながらながら、躰をくねらせて、誘惑している。その上、顔を突き出し、キスまで要求して来る。
どうやらこのアヘンの煙にやられ、酩酊して欲情しているらしい。
積極的に迫ってくれるのは嬉しいが、今はガスパもいる。キスは我慢して彼女を押しのけた。
それで正気に戻ったのか、「見ないで」と女の子座りして、その場にしゃがみ込んだ。
俺が持参した着替えを渡すと、「エッチ。早く出て言って」と顔を膨らませた。
やれやれだが、本当に可愛い。
誘惑してくる妖艶なセシルもいいが、やはり気の強い素直でないセシルの方が、俺は好きだ。
マゾかって。違うから……。
その後、セシルが犯人の顔を確認し、リーダーがいないと言い出した。どうやら、取り逃がしたらしい。
ひとまず、セシルをガスパに任せて、ヘリオスに送り届けてもらうことにし、俺は少々乱暴な事をして、犯人一味から話を聞き出した。
アヘン窟まで隠し持っていたので、きっとマフィアだと予想していたが、彼等はゲリラ組織の一員だった。
そしてオークの男は、リーダーは自分だと言い張った。もう一人、オルグ族の男がいただろうと詰め寄ると、彼は依頼者だと言って来た。その依頼者の名前を白状させようとしたが、頑として口を割らない。否、本当に身元を知らないのかもしれない。
だが、こちらにはアテーナさんという強い味方かいる。
アテーナが、過去の防犯カメラ画像を徹底的に確認してくれ、数時間後には、彼と接触していた依頼者とおぼしき人物の特定が完了した。
ナスカ卿と呼ばれる王都近隣を治める伯爵家の領主。王都近隣に領地を持つことから、かなりの地位にある貴族ということになる。
俺はその名を覚えていなかったが、国王主催の立食パーティーで、我々を自宅に招待したいと言って来た貴族の一人なのだそう。
あの日は紳士しかいなかったが、人は見かけによらないということだ。
ここは、二度とこんな気を起こさない様に、きついお仕置きをすべき所だが、彼に関しては、国王に任せることにした。
この国の重鎮であることも理由の一つだが、国王の誤解を解く意味もある。国王は、我々のことを、普段は優しい顔をしているが、刃向う者は徹底的に潰す残忍な輩と、誤解している節がある。ここは、俺らは羊の皮を被った狼ではなく、本当の善人なのだと、示しておくべきだと判断した。
それに、国王に任せた方が、俺らなんかより、よっぽどきついお仕置きをしてくれる筈だから。
まあ、唆されたにしろ、刃向ったゲリラの方は徹底的に潰す。マフィアの連中にも、俺らに手を出せば、組織が壊滅するとしっかり認識できるように派手に注目を浴びる様に。
そして、全てのアジトを特定したのち、警察官、警備ロボット軍、偵察艇で、全アジトとを同時に包囲して、降伏勧告した。
勿論、素直に降伏するものなどいない。ゲリラとはどんなに絶望的状況でも、最後まで徹底交戦する輩の集まりなのだから。
そして、五分待って、ギャラリーも集まってきた所で、攻撃開始。
場所毎に、非殺傷兵器の種類を換え、どうやっても刃向う手だてはないと、マフィアにも思い知らせる。
ロシナント王宮で披露した音響兵器の原理を使った音響手榴弾。涙が止まらなくなる催涙弾。失明リスクも高く激しい痛みで発狂しそうになる超強力閃光弾。マイナス百九十度の液体空気を流し込んだりもした。
そして、本拠地には、この偵察艇で、地上で使用禁止にされたマイクロ波レーザー砲を照射した。これは電子レンジに人間を入れる様な物。身体を焼き、大やけどさせるだけでなく、脳障害を起こす程の非人道兵器だ。勿論、そうならない様に短時間照射にとどめたが。
そして、阿鼻叫喚のアジトに突入し、ゲリラ全員を逮捕した。
聴覚や視覚を失ったり、凍結したまま倒れて、手足が欠損する者が出たりと、少しやり過ぎた感は否めないが、これを知れば、マフィアの連中も大人しくなるに違いない。
以上で、セシル誘拐事件は終幕。セシルも教師の任を愛弟子の一人に任せる事で納得してもらった。
そんな訳で、再び、ヘリオスで宇宙空間に戻り、今後の方針を打ち合せた。
これ以上、この国に関っていても、碌なことが無い。治安回復できれば、この地の移住許可が貰えることになっているし、その為の手筈も整えた。治安回復には時間がかかるし、じっと待っている程の時間的余裕は俺達にはない。次の行動に出て良い頃合いだ。
そう言う訳で、俺らは次の移住準備に進むことにした。この遥か東方に位置する島々と海中の調査だ。
無数に点在する島々には、知的生命体が存在せず、獣や鳥、巨大トカゲ等しかいないと確認されている。だが、海洋調査は不十分。そこに知的生命体がいる可能性もある。
早速、その為の準備を始めることにした。
この島々がある周囲には、宇宙から見ると大陸と勘違いする程の巨大な大陸棚も拡がっている。その調査はヘリオスで直接海中に潜って行う予定だが、このヘリオスでも、水深千メートルが限界深度。潜水艦並の強固な装甲を備えていても、外圧耐性はそれほど強くない。
大陸棚は深い所でも五百メートル程度なので、問題ないのだが、その更に先に、かなり深い海溝もある。そこまで調査するとなると、その水圧にも耐えられる潜水調査艇が必要だ。
そんな訳で、その製作に取り掛かる事となった。
念の為、ギグにも、一緒にくるかと確認したが、「冒険がしたくて仲間に成ったのじゃ。今更、仲間外れにするでない」と怒られた。
五人で手分けして、作業に当る。役立たずのギグとケビンにもそれなりの雑用仕事を任せた。
潜水調査艇の製造には、ヘリオス内の材料だけでは不足だし、ヘリオスの格納庫も作業するには狭すぎる。
そこで、月面に造船工場を建て、そこで作業を始めた。
同時に、宇宙服の改良や、調査のための装備品づくり等、奔走する日々を送った。
作業を始めて、五日目の昼過ぎ、緊急ホットラインが掛かってきた。
緊急ホットラインとは、簡易通信機。
地上を引き上げ宇宙に戻ると、国王に挨拶に行った際、国王がタブレット端末を欲しいと言ってきた。何時でも俺らと連絡が取れるようにする目的があったみたいだ。
予備のタブレットもまだ何台かあるので、渡しても良いと思ったが、アテーナに戒められた。色々な機能がありすぎて、文明提供をし過ぎる事になるとの警告だ。
そんな訳で、ガスパに動画通信しかできない小型通信機をつくってもらい、それを渡して置いた。
バッテリーが上ると使えなくなるが、緊急回線の使用に限定するなら、その心配もない。
中央モニタには、国王ではなく、ギラ王子が映しだされた。
「おお。本当に繋がった。今、本当に宇宙にいるんですか。信じられない」
厳密には月面だが、ややこしいので黙っておく。
「緊急事態って、なにがあったんだ」
「いえ、緊急というほどではないのですが、ナスカ伯爵、いやナスカの処刑が決まりましたので、連絡を入れさせて頂きました」
そんな事を態々知らせてくれなくともと思ったが話を聞いた。
ナスカはロシナント王国に買収されたスパイで、麻薬密輸ルートの元締めだった。
今回のセシル誘拐に、マフィアを使う予定でいたが、アヘン入手が困難となってから、協力が得られなくなり、仕方なく、ゲリラに取り入って、今回の計画を企てたらしい。
目的は、俺らをロシナントに呼び戻し、手元に置いておきたかったとの事。
あのペダルの命令で動いていたこともわかった。
そして、我々を手元に引き込んだ後で、この国と戦争を始める積りだった事も知らせて来た。
「以前も申し上げましたが、恥ずかしながら、現在の我が国は完全に力を失っている。徴兵すら難しく、とても防戦する力がないのが実情です。ですので、我が国に協力願いたい。勝手ばかり申して恐縮ですが、国家防衛のお願いもしたいのです。移住契約は、治安回復後との約束でしたが、防衛協力頂けるのなら、直ちに調印すると国王陛下も仰っております。どうか、協力をお願いします」
態々、ナスカの処刑の知らせて来たのは、そう言う意図だった。
皆の顔をみたが、何も意見を言わないでいる。前回、口出して、酷い目にあったので、俺に回答を委ねるつもりらしい。
「少し、相談の時間をくれ。話がまとまったら、こちらから連絡を入れるので、一旦切らせてくれ」
「御待ちを……」
ギラはまだ何か言いたかったみたいだが、こちらから回線を切ってやった。
「防衛協力までお願いされたが、皆の意見を聞かせてくれ」
ギグは、何かいいたそうだが、じっと口をつぐみ、発言を控えている。
「私は反対。一方の国に味方するなんて、どう考えても、して良い事じゃない」
セシルが、協力要請を受けるべきでないと主張してきた。
「俺も、止めるべきだと思う。治安回復だって、良い様に使われたし、この戦争も全て俺らに丸投げするつもりに決まってる」ケビンも反対。
「でも、やつらに戦う力が無いのは確かだろう。昔は軍事国家だったみたいだが、今じゃ完全に腐りきってるからな。折角、受け入れてくれると言ってくれてるのに、滅ぼされでもしたら、振り出しに戻る。三カ月の努力も、水の泡だぜ」ガスパは賛成らしい。
「アテーナは、どう思う」
「難しいところです。マルン女王は、この国を占領するため、アヘンを広め、攻め入る機を伺っていた。我々の脅威を知りつつも、地球に追い返そうとしたのは、我々が戦争をやめさせるように動く事を危惧したからだと予想します」
「そうだろうな。アヘン精製工場を潰されたのに、攻め込んでこなかったのは、俺らを恐れての事だろう」
「だから、俺らをこの国から引き離なそうとした。その見解は間違いないだろう」
「でも待って。それなら失敗した今は、攻め入って来ないんじゃないの?」
「はい。その可能性はあります。難しいところと言ったのは、その可能性と、戦争になる可能性とが五分五分だからです。もたもたしていると、モールガン王国が建て直すので、戦争をしかけるなら今しかありません。我々なら戦争行為に加担しない筈と判断して、強行する可能性は十分に高いです」
「そう訊くと、ますます防衛協力した方がよくないか。侵略行為には加担しないが、あくまで防衛に徹するということなら、構わないだろう」
「やはり、私も賛成に変える。私達が協力しなければ、多くの人が命を失うことになる。マルンもペダルもナーシャも気に入らないし、私達が手を出さないと決めつけている所も許せない。それに私達なら、命を奪わずに勝つことだってできるじゃない」
「待ってくれ。そんなことすると、また良い様に使われる事になるぞ。最悪、手助けするとしても、それは戦争が始まって、向こうに押されてからにすべきだ。自分達で努力して、犠牲も出してからにしないと、あいつ等の手駒にされてるだけじゃないか」
ケビンだけは、反対姿勢を崩さない。
「キャプテンは、どうしたいの? 私はキャプテンの判断に従う事にする」
「俺は正直、ケビンと同じ意見だ。この地の戦争に我々が介入すべきでないと考えている。かと言って、占領されて、ロシナント王国から移民受け入れ承認を貰うのも、違う気がする。だから、立ち場上は協力しない姿勢を示し、本当に開戦され、領土が侵され始めたら、そっと支援する。その立場で行きたい」
「キャプテンがそういうなら、俺もそれでいいや」ガスパも納得してくれた。
「モロウ、感謝する」
ギグが俺に抱きついて来たが、男にハグされたくないし、いい加減、キャプテンと呼べ。
そんな訳で、俺はギラに連絡をいれ、その件は協力できないと突き放した。それでは蹂躙されるだけだとかほざいていたので、戦争になったら警備ロボットの半分を軍事投入しても良いと許可してやった。ドローンは敵偵察に最適だし、フチコマは戦士十人分以上、ターミネーターに至っては一個大隊に匹敵する。
これなら、戦力として十分以上で、負ける事はないだろう。
「それから、俺らは別任務で、暫らくこの地を離れることにした。だから。戦争になっても、助けにも行けない。自分達の事は自分達だけで何とかしろ。それと、このホットラインは緊急時用にあげたものだ。本当に緊急の時以外には使うなよ」
それでも頼られると困るので、そう伝えておいた。
勿論、嘘では無い。あと二週間以上先になるが、潜水艇が完成次第、彼等の裏側の海中探索に行くつもりだ。
それからは、地上の様子を見舞りながら、海洋調査の準備を続けた。
そして三週間後、予定より時間が掛かったが、水深十キロメートルでも堪えられる一人乗りの潜水艇完成させた。
俺達は、戦争が始まる気配が無いのを確認して、いよいよ海洋調査に動き出す事となった。
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かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
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