セジアス 魔物の惑星

根鳥 泰造

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魔物外交編

神との遭遇

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「ねぇ、やはり大陸造成計画は止めた方が良いんじゃないかしら」
 セシルはロキに、自分の食事を分け与えながらそんな事を言いだした。
 ロキとは、着陸した島で最初に会った十センチ程のリスザルに似た生物。長い尻尾が二本ある。
 なぜかセシルに擦り寄って来て、ビスケットをやったら、そのまま離れず、彼女のペットになった。
 器用に手を使う上に頭もよく、愛嬌もあって、人気者になっているが、雄のためか結構エッチな奴。よく彼女の服の中に入り込んで、胸を揉んだりして、悪さをしている。スカート姿の時なんて、スカート捲りして、パンツをずりおろそうとして、セシルに追いかけられていた。

 そんな事はどうでも良いが、俺達が島と海洋調査とを始め、早くも十日が経った。
 そして今、海洋生物の調査から戻って来て、ヘリオスの食堂で、夕食を取っている最中だ。

「でも、どうするんつもりだ。人類を分散させて、居住させるのは、無理だろう」
「そうだけど、調べれば調べる程、可哀相になるのよ」
「確かに、人間が住むためとはいえ、他の生物の命を奪うの横暴である」
「あんたは、黙ってなさい」
 ギグはまたセシルに怒られシュンとなる。
 ギグもかなり色々と役に立つ様になっているが、ここ数日、セシルはなぜかギグを疎んじる様になっている。俺の知らない所で、何か気に障る事をしたらしい。
「たしかに、あんな可愛い生物ばかりだとなぁ」
 ガスパまでもがそんな事を言いだした。


 確かにこの海は素晴らしい。
 未だ知的生命体と呼べる程の海洋生物には遭遇していないが、大陸棚は生命の宝庫で、沢山の種類の生物が生息していた。
 光り輝くクラゲ、七色の魚や軟体生物、可愛い海蛇や海蛙。海カマキリや海蜘蛛という昆虫の妖精。イルカやサル程度の高い知能を備えていたる種も沢山見つかった。珊瑚に似た刺胞動物も沢山住んでいる。
 なのにこの大陸棚を埋め立てすれば、彼らの地を奪う事になる。
 中央部のみを陸地にして、周辺の大陸棚をそのまま残すとしても、生態系が大きく崩れ、多くの生物が死滅する。
 そんな事は分った上での、大陸造成計画だったが、実際に生物と触れ合ううちに、迷いがでてきたということらしい。

「空中都市ならどうだろう。まだ地球上のどこにも存在しないが、グラニウムを使えば、原理上は可能だという報告はあったはずだ」ケビンがそんなことを言いだした。
「そんな事ができるの?」
「アテーナさん、確かにそんな理論が報告されているよな」
「はい。その空中都市建造計画も、かなり詳細まで詰められていました。ガイアの裁きに陥り、計画のまま、実行に移される事無く、頓挫することになりましたが……」
 ガイアの裁きとは、地球を襲った一連の天災のことだ。
「まさか天空の城ラピュタが実現できるか?」
 ガスパはやはり、俺と同類のアニメ好きだ。
「そうではありません」
 否定したという事は、天空の城ラピュタを知っているということ。流石はアテーナ。古典アニメの知識も持っていた。
「街が空に浮かぶのではなく、常時、反重力コイルを作動させ、都市の重力負荷を一万分の一しているだけです。地上と空中都市とは無数のエレベータを兼ねた柱で支えられます。都市の上に、更に都市があるという積層都市のイメージになります」
「そんなに巨大な反重力コイルをこの地で作れるのか?」
 反重力コイルとは、このヘリオスにも搭載が検討されたハチソン効果を生み出す装置。僅かな万有斥力を得るのにも、膨大なエネルギー消費するので、結局採用されなかったエネルギー効率が極めて悪いものだ。
「可能だと考えますが、それを作動させるには二キログラムものグラニウム鉱石が必要となります。現在考えてる大陸相当のものを浮かせるとなると、百キロ以上が必要で現実的ではありません」
 この星では、魔晶石が取れるが、それでもレア鉱石。百キロものグラニウム鉱石を見つけ出すのは至難だ。
「やはりだめか」
「空中大陸は駄目かもしれませんが、生態系への影響を最小にする方法ならあります。ですが、実例もなく、推奨できません」
 アテーナさんが、そんな事を言いだした。
「どんな方法なんだ。もったいぶらずに教えてくれ」俺が代表で尋ねる。
 アテーナ提案は、海抜マイナス百メートル大陸というもの。ドーム型海中都市ではなく、陸地化する周囲を完全に物理シールドで覆うという発想。シールドを常時維持するエネルギーも、二キログラム程度のグラニウムで賄える。
 エリア内の海水を全て組みだす必要があるが、月から土砂を運んで埋め立てする陸地造成とは違い、生態系への影響を最小にできるし、ドームと違い美味しい大気をそのまま味わう事ができる。大陸を生み出すための作業日数も大場に削減できるというメリットもある。
 かと言って、大陸棚に住む彼等の地を奪う事になるのは変わらないし、陸地造成と同じく、海流に変化が起き、生態系そのものに多大な影響を与えるのは変わらない。
 そこは大陸を作る以上、止むを得ないことだ。

「やぱり、彼等の生活を奪うのは変わらないのよね」
「それは人間大陸を作ると言い出した時から、分っていた事だろう」
「そうだよ。犠牲はやむを得ない。その方法で、人間大陸をつくろうぜ」
「いや、それは良くない。やはり陸地造成した方がいいと思う。常時、シールド発動させると言うのは、エネルギーを大量消費することで、このセジアスまで、地球の二の舞になるぞ」
 さっき、空中都市計画を言いだした本人なのに、そんな事を言って来た。だが、グラニウムによるエネルギー抽出は、セジアスの生命を奪い取る様なもの。ここは、生態系を大きく破壊することになっても、無駄なエネルギー消費は抑えるべきだ。
「地球の二の舞って、人間が、地球を滅ぼしたのか?」
 ギグが小声で俺に聞いて来た。
 正直、何とも答えようがない。その通りだが、その時は地球の生命エネルギーを使っていたなんていう原理を知らなかった。
「人間は愚か者なんだ。一度、贅沢を覚えるとやめられなくなる」
「アヘン中毒と同じだな。我にも分るぞ」
 ギグは独りで納得していた。

「確かにな。でも、人類がここに移住したとして、そのエネルギー源はどうするつもりなんだろう。ここには化石燃料も僅かしかないし、ウランも見つかっていない。あるとすれば、グラニウム鉱石位だろう。折角、移住しても、人類がエネルギーを浪費する限り、数百年で、セジアスも滅ぶ事に成りかねないぞ」
 ガスパの一言に皆の表情がまた暗くなる。
「そうだな。人間はガン。この星も食いつぶして、また別の星に移住すると言い出すんじゃないか。いっその事、とんでもない病原体が居て、この星は人類が生存できる星ではなかったと報告したらどうだ」
 ケビンの冗談を誰も笑えない。
 そして、重苦しい空気に包まれる。
「何をくよくよしておるのじゃ。どんな難題でもクリアして乗り越えるのが人間であろう。我は人間と知り合えて、幸せだぞ。我が国の民も皆に感謝しておる。今は先の事を悩まず、やるべきことをするだけであろう」
「そうだな。まさか、ギグに悟らされれるとは思わなかったが、その通りだ。今は先の事をくよくよ悩んでも仕方がない。海洋調査に専念しようぜ」
「そうね。今は自分の任務に、ひたすら打ち込みましょう」
 そういうことで、この日は解散となったが、俺はやはり人類移住計画を根本から、見直さなければならないと考え始めていた。




 そして、翌日から、潜水調査艇での海溝調査が始まった。全員、順次乗る予定だが、第一日目は、俺が潜る。

 潜水艇は、耐圧構造のため、直径二メートル程の分厚い球体で、室内空間は実に狭い。カメラも照明も、一つずつしかなく、モニタも偵察艇の様に全空間モニタ型ではなく、前方のみのシンプルなものだ。
 それでも、ガスパが急ごしらえで、作ってくれれたものなので、文句は言えない。
「まもなく、水深五千メートルです」
 順調に潜水を続け、光も届かない深度五千メートルに到達しようとしていた時だった。
【お主が、人間という異星人のボスなのか?】
 頭の中に男の声が聞えて来た。今は通信コネクタをつけていないが、念話で話し掛けて来た様に、直接脳内に男のかなり低い声が聞えた。
 英語の様な気がするが、言語中枢を解さず、直接意図が伝わる不思議な感じで。
「今、なにか低音の男の声が聞えなかったか?」
「何も? 悩み過ぎて、幻聴でもしたんじゃないのか?」
「そうかもな。こんな所で人の声が聞える訳ないからな」
【愚かものめ。幻聴では無いわ。吾が見えぬのか?】
 やはり幻聴では無い。確かに声が、否、意思が伝わってくる。
 でも、モニタには何も映っていない。
 ぐるっと旋回動作して周囲を探っていると、ぎろりと巨大な目がモニタに映った気がした。
 でも、錯覚だったのか、もう一度見ると、モニタには何もない。
「ガスパ。ソナーに反応がなかったか?」
「そんなもの映って無い。周囲には何もいないし、モニタもクリアだ」
 でも今度は巨大生物が大きく口を開けた気がした。
 いや、モニタには映ってないが、脳内イメージがそう見せている。
 次の瞬間、この潜水艇がその巨大生物に咥えらたイメージがして、実際に大きく揺れた。
 そして、操縦桿を操作しても、全く船が動かなくなった。
 俺はパニックになっていた。
「やはり、何かがいる。全センサーで確認してくれ」
「既にしている。あれ、潜航が停止してる。こちらでは異常検知できていないが、何か起きたのか?」
「ああ、そいつに襲われた。身動きがとれない」
「嘘だろう。直ぐに引き上げる」
 だが、潜水艇は全く動かない。
【すこし、話したいだけじゃ。話が終われば放してやる】
【分りました。話を聞きます。ですが、貴方はいったい誰ですか?】
「強制回収機能が動作しません」
「モロウ、無事なの?」
「アテーナさんが完全沈黙しています。何が起きているんですか」
【煩いやつらだな。仕方がない。暫く黙っていてもらうとしよう】
 その途端、無音になり、俺も身体を一切動かせなくなった。声も出せない。
【吾に名はないが、人は吾をゲンブシンと呼ぶ。この星を作った四柱の神の一柱だ。次は吾の質問に答えて貰おう。お主が、異星人のボスなのか?】
【ボスというほど偉くはありませんが、船長を任されています】
【なら、お主に命ずる。この星より立ち去れ】
【待って下さい。それはできません。我々の星は……】
【説明はいらぬ。お前達がこの地に来た時から、観察をさせて貰っていた。昨晩の話も聞かせてもらった。人間が己が星を破滅させ、今度は我が星を食いつぶすつもりだという事も、よくわかった。それをさせる訳にはいかん。よって、吾の方針も決まった。直ちに立ち去れ】
【待ってください。話を聞いて下さい。確かに人間は愚かな害虫の様な生物かもしれません。しかし、常に最善の道を探し出す努力をしています。地球の場合は、既に手遅れでどうにもなりませんでしたが、今度は、破滅させない方法を必ず見出す筈です。この星を破滅させる様な事はしないと約束します】
【よかろう。嘘はついていないようだ。吾は、困っているものを突き放す様な真似はせん。この星での生活を認めてやろう。だが、この海は吾の領域。住むのは良いが、勝手に地形を変えるのは許さぬ。それを誓えぬのであれば、やはりこの星を出て行ってもらうしかない】
【それに関しては、暫らく時間を下さい。もう少し考える時間を下さい】
【よかろう。存分に考えるがよい。だが、地形を少しでも変える事は許さん。それだけは覚えておけ】
 次の瞬間、身体が動かせる様になり、地上の声も聞こえて来た。
「モロウに何かあるわけないではないか。心配はいらぬ」
「あんたは黙ってなさい。モロウ、黙ってないで返事をして」
 俺は何て応えればいいのか、頭が混乱して、声を出せずにいた。
「ケヴィン、アテーナさんはちゃんと動いているぜ。また機嫌を損ねたんじゃないか?」
「いいえ、ケヴィンさんの指摘の通りです。なぜか電子の流れが停止し、思考停止状態でした。今、正常復帰したところです」
 それを聞いて、さっき何が起きたのか分った気がした。時間が止まっていたのだ。物理学上あり得ないが、神ならそんな事ができたとしてもおかしくない。
「ほら、やっぱり完全沈黙状態だったんじゃないか」
「そんなことより、モロウの心配をしなさい。キャプテン、聞えてる? 聞えてたら、返事をして」
「セシル、心配するな。心霊体験をして茫然としていただけだ。もう心配いらない。すべて正常だ。調査は中断する。このまま浮上を開始する」
「心霊体験? なにがあったんだ」
「俺にだって説明できない。でも、実際に起きた。戻ったら説明する」
「私も、ありえない事を体験しました。同一のものかは分りませんが、モロウキャプテンに起きた事象の詳細な説明を求めます。戻ったらでかまいませんので、何が起きたのかを正確に説明して下さい」
「私は、今すぐ聞きたい。説明ぐらい、操縦しながらでも可能でしょう」
「御免、頭を整理する時間が欲しいんだ」
「我儘を言うでない。ちゃんと無事に戻ってくるのであるから」
 この事をどう説明すれば良いんだろう。俺はその事ばかり考えていた。


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