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魔物外交編
キキ救出作戦
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キキの捉えらている牢獄は、俺が急遽各地に造る様に命じた刑務所ではなく、王宮に隣接する近衛兵控え所の地下牢とのこと。
常時兵隊二百人近くが詰めていて、ゴウモールやオークだけでなく、オグル族の騎士等も多くいる。
こんな施設に忍び込むなんて不可能だ。
だから、昼間に堂々と俺とギグが正門から、キキとの面会を求める作戦にした。
監視ドローンとフチコマもそれぞれ一台を連れていく。
俺が出歩く時は、常に監視ドローンかフチコマかを同伴していたので、ドローンとフチコマとを同時に連れて来ても怪しまれない筈だ。
この二台が、この救出作戦の大事な役割を担っている。
そして俺らは、近衛兵控え所へとやってきた。
「キキにもう一度、会わせてくれ。どうしても確かめておきたい事があるんだ」
「これはギグ王子、いやモーネス公爵様。面会は構いませんが、既に刑が決まっている以上、以前の様に、部屋まで連れて来る事はできません。牢屋での面会となりますが、構いませんか?」
キキの場合、一応貴族ということもあり、王の判断が出るまでは、例外的に優遇措置が取られていた。でも今は貴族の資格も剥奪された囚人。
面会室で会えるのがベストだが、こうなる事も予想していた。
「それで、構わない」
そして、入口の衛兵とは違うオークの兵が現れ、彼に連れられて、地下牢へと続く扉の前まで問題なく進むことができた。
彼は私たちをその場に待たせ、鍵を取りに行ったのか、どこかに走って行った。
扉の前にはゴウモールの二人の衛兵が立っていて、訝しげにフチコマを見つめている。
もしかして仕込みに気づかれたかと焦ったが、【単に興味があるだけの様です】とアテーナが教えくれれた。
そしてここまで案内してくれれた兵士は、オルグ族らしき人を連れて戻ってきた。
「これはモーネス卿とモロウ様。私がここの看守長のミネです。こんな汚い場所にお出で頂き、申し訳ありませんでした。事前に知らせて頂ければ、面会室を準備しましたのに」
その方が手間は省けたが、もうどうでもいいことだ。
「いや、気にせずとも良い。それより、キキに会わせて貰えるか?」
「ええ、勿論です。ですがこのロボットは御遠慮願えませんか?」
「分りました。指示に従います」
これも予定通り。というか、万一、一緒に入れることになった場合の方が問題だった。
これから、この二台には、逃走経路確保の為に、いろいろとやって貰わなければならない事がある。
フチコマには、セシルが王都病院から持ち出した麻酔薬を大量に搭載してある。沢山の兵隊がいる大部屋控室の窓脇からその液体を流し込む。気化したガスにも麻痺作用があり、室内にいる全員を麻痺させ、眠らせる事ができるという算段だ。
そして、ドローンには例の催眠銃が搭載してある。緊張状態では効果が無いが、今は皆、リラックスしているので、大部屋に居ない兵士達も、多くは眠ってくれるとの予想だ。
引き金を引く為の工作に試行錯誤したが、これもガスパが現地の材料だけでなんとか急ごしらえしてくれた。
「それから、これは言いにくいのですが、牢屋内への武器の持ち込みは禁止になっておりまして、銃等の武器をお持ちの場合は、ここに預けて頂きたいのですが……」
これは想定外。そんな話は聞いていなかったし、牢屋の鍵はレーザー銃で壊す予定で、看守は電撃銃で倒す計画だった。
俺が困っていると、腰の刀剣を先に置いたギグが咄嗟に対応してくれた。
「この笛も置いておくべき?」
笛と言って取り出したのは、なんと俺らがプレゼントした魔法の杖。予定になかったが、何かの時に使おうと持参してきたらしい。
確かに見ようによっては笛に見えなくもない。
「武器だけで結構です」
ナイスだ。この魔法の杖があれば、二つの銃の代用がきく。
お蔭で、俺もレーザー銃と電撃銃の二つを預ける事ができた。
その後、念の為と身体検査され、漸く扉を開けて貰えた。
そこからは、この扉を警備していた衛兵二人を伴って、ミネが中へと案内してくれれた。
「足元に注意して下さい」
薄暗い日の当たらない所で、三人の持つランタンの明かりを頼りに地下への階段を降りて行く。
だが次第に異臭が強くなる。糞尿の臭いだ。かなり衛生的でない環境にあるらしい。
地下には鉄格子の扉があり、それを開けた先には二メートル間隔に、扉がびっしり並んでいる。どうやら全て独房になっているらしい。
奥行は分らないが、かなり狭い部屋に違いない。
足元も水たまりができていて、じめじめしている。
「おおっ」俺の顔に何かが当り、思わず声を出した。
ポテッと何かが地面に落ち、見ると変な虫だった。二十センチ程の極太ミミズに手足と羽が生えた様な奇妙な生物だ。床にひっくり返って、じたばたしている。
「大丈夫ですか。ここはじめじめしているので、ガジが湧くんです」
ミネはそう言うとガジなる虫を踏み潰した。
「ギャア」 ガジが子供の悲鳴のような声を上げた。
【虫なのに声帯が有る様です。知能も高いのかもしれません。セシルさんの為に持ち帰っては如何でしょう】
【馬鹿をいうな。今はミッションの最中だぞ】
【そうですか? 昨晩、キャプテンに肩すかしされ、ご機嫌斜めの様にお見受けしましたので……】
そう言えば朝から機嫌が悪かった。やはり、昨晩は判断を誤ったか。
「ここになります。この扉は開けられせんので、窓越しにお話し下さい。私どもは少し離れた位置で、待っておりますので」
そう言ってカンテラの一つを渡してくれて、三メートル程離れて行った。
扉はギグが閉じ込められていた地下牢の扉に似たものだが、窓は鉄格子ではなく、かなり小さく、鉄製の蓋を上下に開閉させるタイプだ。
その蓋を持ち上げると、中から悪臭が漂って来た。
その窓からカンテラの明かりを当て、中を覗くと、奥にみすぼらしい女性が丸くなっている。虫が蠢くじめじめした土間に寝転んでいる状態だ。
トイレは見えるが、ベッドはないらしい。
「ギグなの?」 彼女がこちらに気づいて、ふらふらと近寄って来たが、キキではあるが別人のよう。みすぼらしい服を着ているからかもしれないが、若々しい気品があった丸顔はやつれて老け込み、眼の下に隈ができている。
「どうしたんだその格好」
「もう貴族ではないから、これに着替えろって。それより本当に御免なさい。あの時どうかしていたの」
「それはもう何度も聞いた。分ってるから……。それより食事は? ちゃんと食べさせてもらっているのか?」
「ううん、水だけ。処刑される者に食事は必要ないんだって」
既に判決がでて今日で五日目だが、食事抜きとはあまりの仕打ちだ。
「俺が直ぐに来て遣れば良かった。今、ここから出してやるからな」
【馬鹿、まだ早い。準備の時間が必要だ】
「もう待ってられるか」
「何かありましたか?」ミネが不信がってこちらに近づいて来た。
「貴様、食事も与えていないのか。許さんぞ」ギグが襟元を掴んで睨みつける。
「国王陛下を殺害した極悪人ですよ。元婚約者だからと、優遇しろとでも言う気ですか」
「貴様!」ギグがミネを殴りつけた。
気持ちは分らなくもないが、計画が台無しだ。
一緒にいた二人の兵も駆け付けて来て、必死に取り押さえようとする。
【目を瞑れ、閃光を使う】
俺はギグの腰から魔法の杖を抜き取り、すぐさま閃光を放った。
最大出力でも、それ程強烈な光にはならないが、それでも数秒間は視界が奪える。
その間に電気ショックモードに切り替え、三人の首に杖を当て、失神させた。
「お前、勝手をすると、助けられるものも、助けられなくなるぞ」
「すまん、つい我を忘れて暴走してしまった」
「いつ目を覚ますか分らんから、さっさと済ますぞ」
今度はレーザ光線モードにして鍵を壊した。
だが鍵は壊れた筈なのに、なぜか施錠された儘で扉が開かない。
「どうした。何かあったのか」
「鍵が引っかかったままみたいだ。もう一度焼き切ってみる」
最大出力で完全に焼き切る作戦に変更したが、時間が掛かり、衛兵の一人が目を覚ましてしまった。
「こっちは任せろ」
ギグは何とその男の首をねじって殺してしまった。
何て事をする。既に極悪人を脱獄させる犯罪者たが、殺人の罪まで犯してしまった。
扉が開くと、後の二人をもう一度感電させて失神させ、殺させないように手を打った。
キキはフラフラで立っているのもやっとの状態だったので、ギグが背負う事になった。
そして地上で居眠り作戦が終わるまで、地下で待機し、時間とともに地上へと上がった。
「おいこっちだ。予想以上に眠らない奴が多くて手間取った」
スタン棒を手にしたガスパが合図してきた。
屋内にはフチコマが三台居て、兵を動けない様に拘束してくれていた。
屋外も激しい戦闘中。フチコマ六台が兵の捕獲で交戦し、ケビンは魔法の杖で応戦していた。
「ケビン、退却するぞ」
俺らは施設の門に向って全速力で駆けだした。
「早く、早く、王宮からも援軍が出て来たから」
セシルが馬車の御者席から手招きする。
馬車の入手は難しいと言っていたが、ちゃんと手配できた様だ。
足の怪我が無ければ、門の上を跳び越えるのが早いが、今はそれだけの跳躍はかなりきつい。それにキキを背負ったギグも居る。面倒で時間が掛かっても、正門を開門して脱出し、馬車の荷台に飛び乗った。
その間にフチコマを振り切った兵が追いかけてくる。王宮の援軍兵は道を塞ごうとするし、近衛兵控え所からは矢も飛んでくる。
それでも馬と言うか子牛というかに鞭を打って、必死にその場から逃走した。
「セシル、お前の麻酔薬、半分も効いて無かったぞ」
「そんな事言われても、それしかなかったもの。きっと窓が開けっ放しで十分に喚起されてたのよ」
そういうリスクがあるなら、先に話して欲しかったが、大騒ぎになっても何とか無事に、救出成功したので、良しとしよう。
「私、逃げ出して来ていいのかしら?」キキがギグに話し掛ける。
「良いに決まってるだろう」
「でも両親が……」
「それも大丈夫。俺が領主になったシャルルに引っ越して来て貰っているから」
何も言わなかったので知らなかったが、ギグはキキの両親の面倒も見ていたらしい。
二人のラブラブぶりを見せつけて、こちらも恥ずかしかったが、ふとその会話に疑問が湧いた。
魔法にかかっていたら何も考えなくなり、素直に全てを受け入れ、疑問に思わなんじゃなかったかという事。
もしかして、キキは既に魔法から抜け出しているのか?
【明るい所に出ても瞳孔が開いたままなので、まだ魔法は解除させていません。ですが、私もかなり解け掛けている様に思います。断食による極限生活が、いい方に作用したのかもしれまん】
【ギグに教えてやった方がいいかな】
【まだ、完全には解けていませんので、黙っておきましょう。その方が面白いですし】
こいつ、完全な悪者だ。
そして馬車を走らせ続け、深夜遅くに、シャルルに到着した。
そして豪邸に案内された。年期が入っているが、オルネー公爵邸よりも大きくて立派な豪邸だ。
執事らしき男とメイドが二人、走り寄ってくる。三人ともホブリンみたいだ。まさかとは思うが嫌な予感がした。
「今日は本当に有難う。感謝する。既に風呂も寝室の準備もさせてあるので、ゆっくりしていってくれ。俺達はキキの両親の所に挨拶にいってくから」
そう言って、今度はギグとキキが仲良く御者席に座って馬車を走らせて言ってしまった。
味は今一でも、見た目は豪華な食事が準備されていて、それを食べ終わると部屋に案内された。
「お二人には、こちらの部屋を使うように指示を受けております」
客間は沢山あるみたいだが、俺とセシルは夫婦用の寝室に案内された。
「ギグも気が利くね」
「今日こそ、お楽しみですな」
仕方なく俺とセシルはその部屋に二人で泊まる事になった。
それからどうしたって? そんなこと言えるわけないだろう。
ちゃんとプロポーズして、受けて貰えたことだけは教えておく。
「ご主人様、大変です」
翌朝、朝食に集まると、執事が慌てて駆け込んで来た。
「警察と近衛兵がロボットを引連れてやってきました」
もう逃亡先が見つかってしまった。俺達が造ったドローンとネットワークの所為で、国内何処に逃げても直ぐに見つかるという事を失念していた。
「随分と早いな。そういう事で俺らも追われる身。また一緒に冒険の旅に行こうでは無いか?」
「もしかして、最初からそのつもりだったのか?」
「まあいいではないかモロウ。さあ、裏口から逃げるぞ」
困った奴だが、仕方がない。
【アテーナ。フチコマとドローンを無力化してくれ】
【既に沈黙化しております】
「暫く留守にする。後は任せた」
こうして俺ら六人は、モールガン王国の警察に追われ、ロシナント王国へと逃げる事になったのだった。
===============================================
以上で魔物外交編は終りです。
この後、逃走生活編、革命・統一編と続く膨大な構想を抱いておりましたが、お気に入り登録数がわずか3と反響がないので、これにて打ち切りる事にしました。
本当に申し訳け御座いません。
常時兵隊二百人近くが詰めていて、ゴウモールやオークだけでなく、オグル族の騎士等も多くいる。
こんな施設に忍び込むなんて不可能だ。
だから、昼間に堂々と俺とギグが正門から、キキとの面会を求める作戦にした。
監視ドローンとフチコマもそれぞれ一台を連れていく。
俺が出歩く時は、常に監視ドローンかフチコマかを同伴していたので、ドローンとフチコマとを同時に連れて来ても怪しまれない筈だ。
この二台が、この救出作戦の大事な役割を担っている。
そして俺らは、近衛兵控え所へとやってきた。
「キキにもう一度、会わせてくれ。どうしても確かめておきたい事があるんだ」
「これはギグ王子、いやモーネス公爵様。面会は構いませんが、既に刑が決まっている以上、以前の様に、部屋まで連れて来る事はできません。牢屋での面会となりますが、構いませんか?」
キキの場合、一応貴族ということもあり、王の判断が出るまでは、例外的に優遇措置が取られていた。でも今は貴族の資格も剥奪された囚人。
面会室で会えるのがベストだが、こうなる事も予想していた。
「それで、構わない」
そして、入口の衛兵とは違うオークの兵が現れ、彼に連れられて、地下牢へと続く扉の前まで問題なく進むことができた。
彼は私たちをその場に待たせ、鍵を取りに行ったのか、どこかに走って行った。
扉の前にはゴウモールの二人の衛兵が立っていて、訝しげにフチコマを見つめている。
もしかして仕込みに気づかれたかと焦ったが、【単に興味があるだけの様です】とアテーナが教えくれれた。
そしてここまで案内してくれれた兵士は、オルグ族らしき人を連れて戻ってきた。
「これはモーネス卿とモロウ様。私がここの看守長のミネです。こんな汚い場所にお出で頂き、申し訳ありませんでした。事前に知らせて頂ければ、面会室を準備しましたのに」
その方が手間は省けたが、もうどうでもいいことだ。
「いや、気にせずとも良い。それより、キキに会わせて貰えるか?」
「ええ、勿論です。ですがこのロボットは御遠慮願えませんか?」
「分りました。指示に従います」
これも予定通り。というか、万一、一緒に入れることになった場合の方が問題だった。
これから、この二台には、逃走経路確保の為に、いろいろとやって貰わなければならない事がある。
フチコマには、セシルが王都病院から持ち出した麻酔薬を大量に搭載してある。沢山の兵隊がいる大部屋控室の窓脇からその液体を流し込む。気化したガスにも麻痺作用があり、室内にいる全員を麻痺させ、眠らせる事ができるという算段だ。
そして、ドローンには例の催眠銃が搭載してある。緊張状態では効果が無いが、今は皆、リラックスしているので、大部屋に居ない兵士達も、多くは眠ってくれるとの予想だ。
引き金を引く為の工作に試行錯誤したが、これもガスパが現地の材料だけでなんとか急ごしらえしてくれた。
「それから、これは言いにくいのですが、牢屋内への武器の持ち込みは禁止になっておりまして、銃等の武器をお持ちの場合は、ここに預けて頂きたいのですが……」
これは想定外。そんな話は聞いていなかったし、牢屋の鍵はレーザー銃で壊す予定で、看守は電撃銃で倒す計画だった。
俺が困っていると、腰の刀剣を先に置いたギグが咄嗟に対応してくれた。
「この笛も置いておくべき?」
笛と言って取り出したのは、なんと俺らがプレゼントした魔法の杖。予定になかったが、何かの時に使おうと持参してきたらしい。
確かに見ようによっては笛に見えなくもない。
「武器だけで結構です」
ナイスだ。この魔法の杖があれば、二つの銃の代用がきく。
お蔭で、俺もレーザー銃と電撃銃の二つを預ける事ができた。
その後、念の為と身体検査され、漸く扉を開けて貰えた。
そこからは、この扉を警備していた衛兵二人を伴って、ミネが中へと案内してくれれた。
「足元に注意して下さい」
薄暗い日の当たらない所で、三人の持つランタンの明かりを頼りに地下への階段を降りて行く。
だが次第に異臭が強くなる。糞尿の臭いだ。かなり衛生的でない環境にあるらしい。
地下には鉄格子の扉があり、それを開けた先には二メートル間隔に、扉がびっしり並んでいる。どうやら全て独房になっているらしい。
奥行は分らないが、かなり狭い部屋に違いない。
足元も水たまりができていて、じめじめしている。
「おおっ」俺の顔に何かが当り、思わず声を出した。
ポテッと何かが地面に落ち、見ると変な虫だった。二十センチ程の極太ミミズに手足と羽が生えた様な奇妙な生物だ。床にひっくり返って、じたばたしている。
「大丈夫ですか。ここはじめじめしているので、ガジが湧くんです」
ミネはそう言うとガジなる虫を踏み潰した。
「ギャア」 ガジが子供の悲鳴のような声を上げた。
【虫なのに声帯が有る様です。知能も高いのかもしれません。セシルさんの為に持ち帰っては如何でしょう】
【馬鹿をいうな。今はミッションの最中だぞ】
【そうですか? 昨晩、キャプテンに肩すかしされ、ご機嫌斜めの様にお見受けしましたので……】
そう言えば朝から機嫌が悪かった。やはり、昨晩は判断を誤ったか。
「ここになります。この扉は開けられせんので、窓越しにお話し下さい。私どもは少し離れた位置で、待っておりますので」
そう言ってカンテラの一つを渡してくれて、三メートル程離れて行った。
扉はギグが閉じ込められていた地下牢の扉に似たものだが、窓は鉄格子ではなく、かなり小さく、鉄製の蓋を上下に開閉させるタイプだ。
その蓋を持ち上げると、中から悪臭が漂って来た。
その窓からカンテラの明かりを当て、中を覗くと、奥にみすぼらしい女性が丸くなっている。虫が蠢くじめじめした土間に寝転んでいる状態だ。
トイレは見えるが、ベッドはないらしい。
「ギグなの?」 彼女がこちらに気づいて、ふらふらと近寄って来たが、キキではあるが別人のよう。みすぼらしい服を着ているからかもしれないが、若々しい気品があった丸顔はやつれて老け込み、眼の下に隈ができている。
「どうしたんだその格好」
「もう貴族ではないから、これに着替えろって。それより本当に御免なさい。あの時どうかしていたの」
「それはもう何度も聞いた。分ってるから……。それより食事は? ちゃんと食べさせてもらっているのか?」
「ううん、水だけ。処刑される者に食事は必要ないんだって」
既に判決がでて今日で五日目だが、食事抜きとはあまりの仕打ちだ。
「俺が直ぐに来て遣れば良かった。今、ここから出してやるからな」
【馬鹿、まだ早い。準備の時間が必要だ】
「もう待ってられるか」
「何かありましたか?」ミネが不信がってこちらに近づいて来た。
「貴様、食事も与えていないのか。許さんぞ」ギグが襟元を掴んで睨みつける。
「国王陛下を殺害した極悪人ですよ。元婚約者だからと、優遇しろとでも言う気ですか」
「貴様!」ギグがミネを殴りつけた。
気持ちは分らなくもないが、計画が台無しだ。
一緒にいた二人の兵も駆け付けて来て、必死に取り押さえようとする。
【目を瞑れ、閃光を使う】
俺はギグの腰から魔法の杖を抜き取り、すぐさま閃光を放った。
最大出力でも、それ程強烈な光にはならないが、それでも数秒間は視界が奪える。
その間に電気ショックモードに切り替え、三人の首に杖を当て、失神させた。
「お前、勝手をすると、助けられるものも、助けられなくなるぞ」
「すまん、つい我を忘れて暴走してしまった」
「いつ目を覚ますか分らんから、さっさと済ますぞ」
今度はレーザ光線モードにして鍵を壊した。
だが鍵は壊れた筈なのに、なぜか施錠された儘で扉が開かない。
「どうした。何かあったのか」
「鍵が引っかかったままみたいだ。もう一度焼き切ってみる」
最大出力で完全に焼き切る作戦に変更したが、時間が掛かり、衛兵の一人が目を覚ましてしまった。
「こっちは任せろ」
ギグは何とその男の首をねじって殺してしまった。
何て事をする。既に極悪人を脱獄させる犯罪者たが、殺人の罪まで犯してしまった。
扉が開くと、後の二人をもう一度感電させて失神させ、殺させないように手を打った。
キキはフラフラで立っているのもやっとの状態だったので、ギグが背負う事になった。
そして地上で居眠り作戦が終わるまで、地下で待機し、時間とともに地上へと上がった。
「おいこっちだ。予想以上に眠らない奴が多くて手間取った」
スタン棒を手にしたガスパが合図してきた。
屋内にはフチコマが三台居て、兵を動けない様に拘束してくれていた。
屋外も激しい戦闘中。フチコマ六台が兵の捕獲で交戦し、ケビンは魔法の杖で応戦していた。
「ケビン、退却するぞ」
俺らは施設の門に向って全速力で駆けだした。
「早く、早く、王宮からも援軍が出て来たから」
セシルが馬車の御者席から手招きする。
馬車の入手は難しいと言っていたが、ちゃんと手配できた様だ。
足の怪我が無ければ、門の上を跳び越えるのが早いが、今はそれだけの跳躍はかなりきつい。それにキキを背負ったギグも居る。面倒で時間が掛かっても、正門を開門して脱出し、馬車の荷台に飛び乗った。
その間にフチコマを振り切った兵が追いかけてくる。王宮の援軍兵は道を塞ごうとするし、近衛兵控え所からは矢も飛んでくる。
それでも馬と言うか子牛というかに鞭を打って、必死にその場から逃走した。
「セシル、お前の麻酔薬、半分も効いて無かったぞ」
「そんな事言われても、それしかなかったもの。きっと窓が開けっ放しで十分に喚起されてたのよ」
そういうリスクがあるなら、先に話して欲しかったが、大騒ぎになっても何とか無事に、救出成功したので、良しとしよう。
「私、逃げ出して来ていいのかしら?」キキがギグに話し掛ける。
「良いに決まってるだろう」
「でも両親が……」
「それも大丈夫。俺が領主になったシャルルに引っ越して来て貰っているから」
何も言わなかったので知らなかったが、ギグはキキの両親の面倒も見ていたらしい。
二人のラブラブぶりを見せつけて、こちらも恥ずかしかったが、ふとその会話に疑問が湧いた。
魔法にかかっていたら何も考えなくなり、素直に全てを受け入れ、疑問に思わなんじゃなかったかという事。
もしかして、キキは既に魔法から抜け出しているのか?
【明るい所に出ても瞳孔が開いたままなので、まだ魔法は解除させていません。ですが、私もかなり解け掛けている様に思います。断食による極限生活が、いい方に作用したのかもしれまん】
【ギグに教えてやった方がいいかな】
【まだ、完全には解けていませんので、黙っておきましょう。その方が面白いですし】
こいつ、完全な悪者だ。
そして馬車を走らせ続け、深夜遅くに、シャルルに到着した。
そして豪邸に案内された。年期が入っているが、オルネー公爵邸よりも大きくて立派な豪邸だ。
執事らしき男とメイドが二人、走り寄ってくる。三人ともホブリンみたいだ。まさかとは思うが嫌な予感がした。
「今日は本当に有難う。感謝する。既に風呂も寝室の準備もさせてあるので、ゆっくりしていってくれ。俺達はキキの両親の所に挨拶にいってくから」
そう言って、今度はギグとキキが仲良く御者席に座って馬車を走らせて言ってしまった。
味は今一でも、見た目は豪華な食事が準備されていて、それを食べ終わると部屋に案内された。
「お二人には、こちらの部屋を使うように指示を受けております」
客間は沢山あるみたいだが、俺とセシルは夫婦用の寝室に案内された。
「ギグも気が利くね」
「今日こそ、お楽しみですな」
仕方なく俺とセシルはその部屋に二人で泊まる事になった。
それからどうしたって? そんなこと言えるわけないだろう。
ちゃんとプロポーズして、受けて貰えたことだけは教えておく。
「ご主人様、大変です」
翌朝、朝食に集まると、執事が慌てて駆け込んで来た。
「警察と近衛兵がロボットを引連れてやってきました」
もう逃亡先が見つかってしまった。俺達が造ったドローンとネットワークの所為で、国内何処に逃げても直ぐに見つかるという事を失念していた。
「随分と早いな。そういう事で俺らも追われる身。また一緒に冒険の旅に行こうでは無いか?」
「もしかして、最初からそのつもりだったのか?」
「まあいいではないかモロウ。さあ、裏口から逃げるぞ」
困った奴だが、仕方がない。
【アテーナ。フチコマとドローンを無力化してくれ】
【既に沈黙化しております】
「暫く留守にする。後は任せた」
こうして俺ら六人は、モールガン王国の警察に追われ、ロシナント王国へと逃げる事になったのだった。
===============================================
以上で魔物外交編は終りです。
この後、逃走生活編、革命・統一編と続く膨大な構想を抱いておりましたが、お気に入り登録数がわずか3と反響がないので、これにて打ち切りる事にしました。
本当に申し訳け御座いません。
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有難う御座います。
読み返してみると、前半部は、言葉の理解や、技術説明のため、今一面白くありませんでしたが、中盤からは面白くなります。是非、最後まで読んでいただけるよう。お願いします。
お気に入り登録しときますね♪
お気に入り登録、有難う御座います。誰も読んでくれないと、書きつづける気力が湧きません。もし少しでも面白いと思われたなら、拡散お願いします。