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第三章 魔王討伐という名の試練
最後の試練は重傷者が多数となりました
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時間は、まだ昼過ぎ頃だったが、僕らは、第二の試練の間にて、休息を取ることにした。
ユリは意識不明の重態だし、僕の魔力も底を突き、マナポも残り一つしかない状態だったからだ。
一命はとりとめたものの、ユリの容態は深刻で、僕は毒消し発動可能になる度に、ユリの身体の毒を除去していき、三十分ほどで、全ての毒を中和し終わり、腫れもかなり引いてきた。ただ、意識の方はなぜか戻らず終いで、僕らは心配しつづけることになった。
全員で彼女を看病していも無意味なので、医師として僕だけが残り、三人にはそれぞれ明日の準備等の作業をしてもらう事にした。
二時間ほどすると、夢でもみているのか、楽しそうな表情を浮かべ始めた。もう大丈夫だ。揺り起こせば、きっと目を覚ますだろう。
だが、僕はそのまま彼女に楽しい夢を見ていてもらう事にして、勇者一行の皆に、ユリの意識が戻りそうだと伝えて回った。
皆がやって来て、そのユリの表情を見て、好き勝手に文句を言って、ほっと一息つく。
ローラだけは、その場に残ったが、フレイアとアーロンは作業中断して様子を見に来てくれたので、直ぐに戻って行った。
「皆を心配させといて、一人だけ楽しそうだなんて、許せないわね」
「顔に、いたずら書きしちゃおうか」
ローラも乗り気で、魔法の無駄使いが嫌いな筈なのに、油性マジックを魔法で作り出して、その一本を渡してくれた。
そして、落書きしようとした時、ユリが目を見開いた。
「あれ、やっぱり夢だったんだ」
ローラはさっと自分のマジックを消し去り、抱き着いて、わざとらしい演技を始めた。
「ユリのバカ。あんな無茶なこと、アーロンにさせて置けばいいのよ」
僕はペンを後ろに隠して、瞳孔確認し、「もう大丈夫」と診察していた振りをして誤魔化した。
「ローラ、アーロンの体力なら死んでいたぞ。あれは体力馬鹿のユリにしかできない作戦なんだ。だがユリ、無茶し過ぎだ。死んだら元も子もないんだぞ」
「でも、ユウスケが魔力切れになったら全滅だし、ユウスケなら、きっと何とかしてくれると信じてたから」
「ユリの無茶の所為で、僕はマナ切れを起こして、どうにもならなかったんだ。ブリッドがエクストラポーションで回復させていなけば、死んでたんだぞ」
あの時の詳細を説明すると、ユリは真っ赤になっていた。
「お礼にいかないと」
「バカ、まだ安静にしていろ」「意識不明の重態だったんだよ」
僕らの忠告も無視して、ユリはブリットの許に行き、感謝の意を示していた。
夕食後には、僕の魔力も全回復し、ユリはやはり化け物で、体力も全快したので、この日のうちに、三階の階段までは進めようとなった。
本当に呆れてしまうが、これが勇者ユリだ。
第二試練の間を抜けた廊下の突き当りに、扉があった。廊下の隣は、巨竜が居た吹き抜けの大広間なので、どうやらここがこの階の最後の部屋のような気がする。
「みんな準備はいい。いくわよ」
ユリの合図で、第三の試練の間に入ると、そこは太陽光が降り注いでいるかのように明るい場所だった。だが、室内を見回す間もなく、僕たちは皆、身体を全く動かせなくなった。
呼吸も声を発する事もできず、もしかして心臓も止まっているかもしれない。でも、全く苦しくなく、自分の時間が停止している様な感覚だ。もしかして、蘇生魔法をかけられたのかもしれない。
「よくぞ、ここまでたどりつきましたね。ここが、最後の試練の間となります」
右側から声が聞こえ、視界の端に、女魔人の姿が入ってきた。瞳孔をそっちに向けたいが、やはり動かせない。
魔人は黒いレオタード姿で、黒人にしては色白だ。
「私は、最後の試練の間を預かる第二王妃のミユーイです。ここのテーマは協調性。全員で息を合わせて協力し、最上階の私の固有領域まで、たどり着いて下さい。丁度八人いるので、二人ずつ、四組に分かれて、二人三脚で、障害物競走をしてもらうだけです。私はこの真上の私の固有領域にてあなた達の到着をお待ちしています。到着した者から順に甚振って差し上げますよ。といっても、私はか弱い女なので、三組以上同時に来られると、負けてしまいそうです。でも、そうはならないでしょう。一組も到着しないのは流石につまらないので、一組くらいは頑張って、私の部屋に来てくださいね」
そういって、彼女は僕の視界の端から立ち去って行った。
暫くすると、右向きになる様に、ダニエルが置かれ、その隣にアーロンが置かれた。岩の化け物が、僕らを右向き横一列に並べているのだ。
五人目が僕で、その際に、化け物の全貌が見えた。三メートル越えの巨大ゴーレムだった。
僕の隣には勇者が配置されたが、どうやら身長の高い順に並べているらしい。
この位置だと、視界に室内全体を見ることができる。
女魔人は、絶世の美女で、レオタードではなく、黒革のボンテージに黒革のピンヒールブーツを穿いた女王様ファッションだった。右手には、太い鞭を持っている。
部屋は、さっきまでの正方形の部屋より一回り広い円形状で、天井高も二倍の屋内庭園だった。辺り一面に緑の芝が生い茂っていて、太陽光の様な強烈な明かりが上から降り注いでいる。
壁面には、幅二メートル程のらせん状のスロープがあり、ぐるっと一周掛けて、三階まで上がれるようになっていた。
全員を一列に並び終わると、ミユーイは二人一組に、その膝と足首とを、伸縮する黒い革で、固定していった。
ダニエルとアーロン、ブリットとボルドー、僕とユリ、ローラとフレイアが二人三脚の組になった。
「それでは、この先でお待ちしています」
ミユーイは、ゴーレムの掌に乗って、エレベータの様に視界の上方に消えていき、彼女が視界から完全に消えた途端、身体を動かせるようになって、声も出せるようになった。
「二人三脚とは、何を考えているのかしら」
同時に目の前のゴーレムが、腕を振りかざして、攻撃態勢を取った。
ユリはさっと飛び退こうとしたが、僕の反応が遅れ、そのまま倒れてしまう。巨体なのに、腕の振り下ろしは速く、五十センチ角の巨石の蠅叩き攻撃という感じだ。
なんとか間一髪で交わしたが、ズシンという振動の衝撃波だけでも、ダメージを負った。
「一、二、一、二」
他の三組はどんどん先に歩いていくが、僕らは出遅れてしまった。
僕らが立ち上がると、ゴーレムがまた僕らを攻撃しようと、振りかぶった。
「肩を組んで! 私が合図したら、そのコンマ四秒後にジャンプね」
脳から足の筋肉に指令が伝達するまで、コンマ二秒と言われているが、スタートピストル音を聞いてから、スタートするまでの反応速度は、早くともコンマ三秒、アスリート平均がコンマ四秒と言われていて、一般人ならコンマ五秒近くかかる。早く動かないと回避できないので、コンマ四秒を妥協点に選んだんだろうが、とんでもない要求をされてしまった。
肩に回したユリの指先の合図で、瞬時に飛び退いた。少し遅れ、足に革ベルトが食い込み痛かったが、コンマ二秒以内の誤差なら、問題なく動ける。
ゴーレムは一体だけらしく、僕の組ばかりを狙ってきたが、その後は転倒することなく、問題なく回避し続け、先行する三組を必死に追いかけた。
「アーロン、止まって。ブービートラップが一杯。ボク達が先に行く」
先頭でスロープ入り口に掛かったダニエル・アーロン組に二番手のローラ・フレイア組が注意喚起した。
「トラップマスターってスキルだろ。大丈夫なのか」アーロンが心配そうに聞いた。
「称号でもあるから見極めるだけなら大丈夫。ボクの後ろをついてきて」
僕らも、上手に走って、前の三組に追いつくことができたが、今度は僕らだけでなく、ブリット・ボルドー組にまで、攻撃を始めた。
彼らは慌てて転倒してし、回避するも、ボルドーが足を潰された。と言っても、スロープは土の芝なので、骨折も捻挫もしていなかったが、足を引きずる怪我を負う事になった。
「最後尾を狙ってくるみたい。ユウスケ、囮になるよ」
ユリはそう言ってすこし戻り、ゴーレムの攻撃を引き受けて、ブリット・ボルドー組を先に行かせた。
だが、フレイアとの距離が空いてしまったのが最悪事態を招くことになった。
ゴーレムの攻撃を交しながら、ブリット達の後ろを進んでいたのだが、地雷トラップを踏んで、吹き飛ばされ、僕たち二人は大怪我を負う事になったのだ。ユリ一人なら、軽傷で逃げれるが、僕が居るので、どうにもならなかった。
直ぐに、ユリにスーパーヒールを掛けたが、ゴーレムが潰し攻撃してきて、僕は回復できないままだったので、回避が遅れ、また転倒して、二人とも背中を岩の塊で、叩かれた。
下は芝地だといっても、血反吐を吐く程の衝撃で、肋骨が何本も骨折した。しかも、折れた肋骨が肺に刺さったのか呼吸が苦しく肺の中で血液が動く音まで聞こえ、力がでない。ユリもチアノーゼがでて、唇が真っ青になっているので、外傷性血気胸になっている。彼女は僕以上に重傷みたいで、身体を動かせない状態だ。
なのに、ゴーレムは無情に止めを刺しに振りかぶる。絶体絶命だ。
そう思ったら、ゴーレムが爆裂魔法を浴び転倒した。流石はゴーレムで、頭に爆裂魔法を受けても、少し顔の石が削れた程度の損傷だ。しかも、このゴーレムも治癒能力を持っているのか、次第に元通りに復旧されていく。
ローラ・フレイア組は、そのまま下まで飛び降りてきて、ゴーレムの注意を引きつけてくれた。
僕は、急いで、ユリと僕とにスーパーヒールを掛け、何とか立ち上がれるほどに回復できたが、骨折や気胸は簡単には治らない。
息苦しく、酸素が取り込めないので、少し動くだけで、直ぐに息切れをおこしてしまう。
しかも、大人しく待っていればいいのに、ダニエル・アーロン組が先に進んでトラップを踏み、飛び出してきた毒矢を回避しきれず、手傷を負う。一人なら余裕で回避できるブービートラップでも、二人三脚状態では回避できないのだ。
かすり傷程度の傷であっても、矢には猛毒が仕込まれている。さっきのユリの手当てで、毒消し薬は全部使い切ったので、僕が急いで毒消しを掛けなければならないが、距離が離れすぎていて、二人に毒消しを発動することができない。
そう思っていたら、アーロンが毒消し薬を取り出し治療していた。休憩時間にローラかフレイアが、薬草で毒消しを作って補充してくれていたみたいだ。
ゴーレムは、腕の振り下ろし以外は鈍間だが、こっちも二人三脚状態なので、運動性能は極端に低下している。最終組しか襲ってこないので、その特性を使って、なんとか持ちこたえ、合流を果たしたが、かたまったのは最悪だった。両手攻撃に踏み潰しまで始め、回避しようとして、トラップ発動してしまうのだ。ダニエル・アーロン組は、地雷トラップを踏み、ブリットとボルドーは閃光を浴び目が見えなくなってしまう。
とっさに、ローラ・フレイアが後退して、ゴーレムの注意を引きつけてくれ、瀕死のアーロンとダニエルの治療をしたが、まだ四分の一も進んでいないのに、僕の魔力は三分の一以上消費することになった。
「フレイアは道案内して。私たちが囮になる。ミユーイ討伐は皆にまかせるから」
「そんな青白い顔で、無茶よ」
ローラはブリットに囮になれと言わんばかりに、視線を向けた。
「嫌なこった。一番弱っている奴が、囮になるべきだ」
「俺は皆を守らないとならないし、フレイアには先頭を進んでもらうしかない。ユリとユウスケを信じろ。ミユーイをたおすぞ」
アーロンの指示で、ローラも決心してくれた。
ローラとフレイアは、掛け声を合わせ、急いで先頭に立ち、先導し始めた。
僕とユリは、呼吸すら苦しいのに、ゴーレムの攻撃を一手に引き受ける。だが、トラップも巧妙に隠されているうえ、気配感知が使えない。攻撃を回避して、僕らはブービートラップを頻繁に踏んでしまう。
それでも、ユリの基本能力は高く、僕を押し倒したりすることもあったが、致命傷にならない様にした。
僕も治癒し続け、彼らとの距離を保つように最後尾を、三組が通った痕跡を辿って、進んでいく。
回廊を半分ほど進むと、ゴーレムは頭が天井と擦れるようになり、身をかがめざるを得なくなり、攻撃も鈍り始めた。
だが、ここからはトラップも特殊仕様に変わったらしい。
「ここからは、あの隠しダンジョンのトラップ。しかも発動スイッチが沢山ある」
隠しダンジョンのトラップとは、前後を壁で封鎖して、全体範囲攻撃するタイプのもので、あの時、全員で協力しても、大怪我する程のトラップだ。
今の状態なら、万一発動させると、全滅しかねない程の破壊力がある。
そんな訳で、フレイアが、細かく指示を出しながら、慎重に進むことになった。
だが、残り四分の一まで来たところで、迂闊にも誰かがトラップ発動スイッチに触れてしまった。
僕らの目の前に壁が出て、壁が消えた時には、閉じ込められた六人は重傷を負っていた。特に、B級のアーロンは瀕死の重態だった。
その所為で、エクストラヒールを多発することになり、僕の魔力はほとんどなくなってしまった。
「あと四分の一程なのに」 ユリは悔しそうに唇をかみしめる。
「ローラ、転送陣を出して」 ユリはリーダーとして撤退判断を下した。
「待て、魔王の姿も拝めないまま、撤退なんてできるかよ。俺たちで、ゴーレムはなんとかする。お前たちは先にすすめ」
トルスタンの三人は、バックからミサイル砲のパーツを取り出し、組み立て始めた。
僕らは、ゴーレムの注意を引きながら、少しづつ距離をつめ、ミサイル砲の準備を待つ。
「準備完了。ダニエル、遣れるな。アーロン、肩をかせ。勇者はさっさと先にいけ」
「では、お言葉に甘えて」
僕らは急いで、フレイアの後を負った。後の人達がトラップを踏むことがないように、芝を剣で掘り起こす様にして、進路を明確に残しながら進んだ。
ドカン。振り向くと、念力でゴーレムの動けなくして、アーロンの方にミサイル砲をのせ、ゴーレム目掛けて、発射していた。
煙で損壊状況は確認できないが、ローラの爆裂魔法より攻撃力は強いとしても、ゴーレムにはさほど効果はないと思われる。
その後も、ドカン、ドカンと、ミサイル砲を何発も連発させていた。
あれだけ多発すれば、ゴーレムの回復が追い付かず、もしかして、倒せるかもしれない。
決着を見たい気もしたが、僕ら四人は、彼ら四にゴーレム退治を任せ、先へと進んだ。
ユリは意識不明の重態だし、僕の魔力も底を突き、マナポも残り一つしかない状態だったからだ。
一命はとりとめたものの、ユリの容態は深刻で、僕は毒消し発動可能になる度に、ユリの身体の毒を除去していき、三十分ほどで、全ての毒を中和し終わり、腫れもかなり引いてきた。ただ、意識の方はなぜか戻らず終いで、僕らは心配しつづけることになった。
全員で彼女を看病していも無意味なので、医師として僕だけが残り、三人にはそれぞれ明日の準備等の作業をしてもらう事にした。
二時間ほどすると、夢でもみているのか、楽しそうな表情を浮かべ始めた。もう大丈夫だ。揺り起こせば、きっと目を覚ますだろう。
だが、僕はそのまま彼女に楽しい夢を見ていてもらう事にして、勇者一行の皆に、ユリの意識が戻りそうだと伝えて回った。
皆がやって来て、そのユリの表情を見て、好き勝手に文句を言って、ほっと一息つく。
ローラだけは、その場に残ったが、フレイアとアーロンは作業中断して様子を見に来てくれたので、直ぐに戻って行った。
「皆を心配させといて、一人だけ楽しそうだなんて、許せないわね」
「顔に、いたずら書きしちゃおうか」
ローラも乗り気で、魔法の無駄使いが嫌いな筈なのに、油性マジックを魔法で作り出して、その一本を渡してくれた。
そして、落書きしようとした時、ユリが目を見開いた。
「あれ、やっぱり夢だったんだ」
ローラはさっと自分のマジックを消し去り、抱き着いて、わざとらしい演技を始めた。
「ユリのバカ。あんな無茶なこと、アーロンにさせて置けばいいのよ」
僕はペンを後ろに隠して、瞳孔確認し、「もう大丈夫」と診察していた振りをして誤魔化した。
「ローラ、アーロンの体力なら死んでいたぞ。あれは体力馬鹿のユリにしかできない作戦なんだ。だがユリ、無茶し過ぎだ。死んだら元も子もないんだぞ」
「でも、ユウスケが魔力切れになったら全滅だし、ユウスケなら、きっと何とかしてくれると信じてたから」
「ユリの無茶の所為で、僕はマナ切れを起こして、どうにもならなかったんだ。ブリッドがエクストラポーションで回復させていなけば、死んでたんだぞ」
あの時の詳細を説明すると、ユリは真っ赤になっていた。
「お礼にいかないと」
「バカ、まだ安静にしていろ」「意識不明の重態だったんだよ」
僕らの忠告も無視して、ユリはブリットの許に行き、感謝の意を示していた。
夕食後には、僕の魔力も全回復し、ユリはやはり化け物で、体力も全快したので、この日のうちに、三階の階段までは進めようとなった。
本当に呆れてしまうが、これが勇者ユリだ。
第二試練の間を抜けた廊下の突き当りに、扉があった。廊下の隣は、巨竜が居た吹き抜けの大広間なので、どうやらここがこの階の最後の部屋のような気がする。
「みんな準備はいい。いくわよ」
ユリの合図で、第三の試練の間に入ると、そこは太陽光が降り注いでいるかのように明るい場所だった。だが、室内を見回す間もなく、僕たちは皆、身体を全く動かせなくなった。
呼吸も声を発する事もできず、もしかして心臓も止まっているかもしれない。でも、全く苦しくなく、自分の時間が停止している様な感覚だ。もしかして、蘇生魔法をかけられたのかもしれない。
「よくぞ、ここまでたどりつきましたね。ここが、最後の試練の間となります」
右側から声が聞こえ、視界の端に、女魔人の姿が入ってきた。瞳孔をそっちに向けたいが、やはり動かせない。
魔人は黒いレオタード姿で、黒人にしては色白だ。
「私は、最後の試練の間を預かる第二王妃のミユーイです。ここのテーマは協調性。全員で息を合わせて協力し、最上階の私の固有領域まで、たどり着いて下さい。丁度八人いるので、二人ずつ、四組に分かれて、二人三脚で、障害物競走をしてもらうだけです。私はこの真上の私の固有領域にてあなた達の到着をお待ちしています。到着した者から順に甚振って差し上げますよ。といっても、私はか弱い女なので、三組以上同時に来られると、負けてしまいそうです。でも、そうはならないでしょう。一組も到着しないのは流石につまらないので、一組くらいは頑張って、私の部屋に来てくださいね」
そういって、彼女は僕の視界の端から立ち去って行った。
暫くすると、右向きになる様に、ダニエルが置かれ、その隣にアーロンが置かれた。岩の化け物が、僕らを右向き横一列に並べているのだ。
五人目が僕で、その際に、化け物の全貌が見えた。三メートル越えの巨大ゴーレムだった。
僕の隣には勇者が配置されたが、どうやら身長の高い順に並べているらしい。
この位置だと、視界に室内全体を見ることができる。
女魔人は、絶世の美女で、レオタードではなく、黒革のボンテージに黒革のピンヒールブーツを穿いた女王様ファッションだった。右手には、太い鞭を持っている。
部屋は、さっきまでの正方形の部屋より一回り広い円形状で、天井高も二倍の屋内庭園だった。辺り一面に緑の芝が生い茂っていて、太陽光の様な強烈な明かりが上から降り注いでいる。
壁面には、幅二メートル程のらせん状のスロープがあり、ぐるっと一周掛けて、三階まで上がれるようになっていた。
全員を一列に並び終わると、ミユーイは二人一組に、その膝と足首とを、伸縮する黒い革で、固定していった。
ダニエルとアーロン、ブリットとボルドー、僕とユリ、ローラとフレイアが二人三脚の組になった。
「それでは、この先でお待ちしています」
ミユーイは、ゴーレムの掌に乗って、エレベータの様に視界の上方に消えていき、彼女が視界から完全に消えた途端、身体を動かせるようになって、声も出せるようになった。
「二人三脚とは、何を考えているのかしら」
同時に目の前のゴーレムが、腕を振りかざして、攻撃態勢を取った。
ユリはさっと飛び退こうとしたが、僕の反応が遅れ、そのまま倒れてしまう。巨体なのに、腕の振り下ろしは速く、五十センチ角の巨石の蠅叩き攻撃という感じだ。
なんとか間一髪で交わしたが、ズシンという振動の衝撃波だけでも、ダメージを負った。
「一、二、一、二」
他の三組はどんどん先に歩いていくが、僕らは出遅れてしまった。
僕らが立ち上がると、ゴーレムがまた僕らを攻撃しようと、振りかぶった。
「肩を組んで! 私が合図したら、そのコンマ四秒後にジャンプね」
脳から足の筋肉に指令が伝達するまで、コンマ二秒と言われているが、スタートピストル音を聞いてから、スタートするまでの反応速度は、早くともコンマ三秒、アスリート平均がコンマ四秒と言われていて、一般人ならコンマ五秒近くかかる。早く動かないと回避できないので、コンマ四秒を妥協点に選んだんだろうが、とんでもない要求をされてしまった。
肩に回したユリの指先の合図で、瞬時に飛び退いた。少し遅れ、足に革ベルトが食い込み痛かったが、コンマ二秒以内の誤差なら、問題なく動ける。
ゴーレムは一体だけらしく、僕の組ばかりを狙ってきたが、その後は転倒することなく、問題なく回避し続け、先行する三組を必死に追いかけた。
「アーロン、止まって。ブービートラップが一杯。ボク達が先に行く」
先頭でスロープ入り口に掛かったダニエル・アーロン組に二番手のローラ・フレイア組が注意喚起した。
「トラップマスターってスキルだろ。大丈夫なのか」アーロンが心配そうに聞いた。
「称号でもあるから見極めるだけなら大丈夫。ボクの後ろをついてきて」
僕らも、上手に走って、前の三組に追いつくことができたが、今度は僕らだけでなく、ブリット・ボルドー組にまで、攻撃を始めた。
彼らは慌てて転倒してし、回避するも、ボルドーが足を潰された。と言っても、スロープは土の芝なので、骨折も捻挫もしていなかったが、足を引きずる怪我を負う事になった。
「最後尾を狙ってくるみたい。ユウスケ、囮になるよ」
ユリはそう言ってすこし戻り、ゴーレムの攻撃を引き受けて、ブリット・ボルドー組を先に行かせた。
だが、フレイアとの距離が空いてしまったのが最悪事態を招くことになった。
ゴーレムの攻撃を交しながら、ブリット達の後ろを進んでいたのだが、地雷トラップを踏んで、吹き飛ばされ、僕たち二人は大怪我を負う事になったのだ。ユリ一人なら、軽傷で逃げれるが、僕が居るので、どうにもならなかった。
直ぐに、ユリにスーパーヒールを掛けたが、ゴーレムが潰し攻撃してきて、僕は回復できないままだったので、回避が遅れ、また転倒して、二人とも背中を岩の塊で、叩かれた。
下は芝地だといっても、血反吐を吐く程の衝撃で、肋骨が何本も骨折した。しかも、折れた肋骨が肺に刺さったのか呼吸が苦しく肺の中で血液が動く音まで聞こえ、力がでない。ユリもチアノーゼがでて、唇が真っ青になっているので、外傷性血気胸になっている。彼女は僕以上に重傷みたいで、身体を動かせない状態だ。
なのに、ゴーレムは無情に止めを刺しに振りかぶる。絶体絶命だ。
そう思ったら、ゴーレムが爆裂魔法を浴び転倒した。流石はゴーレムで、頭に爆裂魔法を受けても、少し顔の石が削れた程度の損傷だ。しかも、このゴーレムも治癒能力を持っているのか、次第に元通りに復旧されていく。
ローラ・フレイア組は、そのまま下まで飛び降りてきて、ゴーレムの注意を引きつけてくれた。
僕は、急いで、ユリと僕とにスーパーヒールを掛け、何とか立ち上がれるほどに回復できたが、骨折や気胸は簡単には治らない。
息苦しく、酸素が取り込めないので、少し動くだけで、直ぐに息切れをおこしてしまう。
しかも、大人しく待っていればいいのに、ダニエル・アーロン組が先に進んでトラップを踏み、飛び出してきた毒矢を回避しきれず、手傷を負う。一人なら余裕で回避できるブービートラップでも、二人三脚状態では回避できないのだ。
かすり傷程度の傷であっても、矢には猛毒が仕込まれている。さっきのユリの手当てで、毒消し薬は全部使い切ったので、僕が急いで毒消しを掛けなければならないが、距離が離れすぎていて、二人に毒消しを発動することができない。
そう思っていたら、アーロンが毒消し薬を取り出し治療していた。休憩時間にローラかフレイアが、薬草で毒消しを作って補充してくれていたみたいだ。
ゴーレムは、腕の振り下ろし以外は鈍間だが、こっちも二人三脚状態なので、運動性能は極端に低下している。最終組しか襲ってこないので、その特性を使って、なんとか持ちこたえ、合流を果たしたが、かたまったのは最悪だった。両手攻撃に踏み潰しまで始め、回避しようとして、トラップ発動してしまうのだ。ダニエル・アーロン組は、地雷トラップを踏み、ブリットとボルドーは閃光を浴び目が見えなくなってしまう。
とっさに、ローラ・フレイアが後退して、ゴーレムの注意を引きつけてくれ、瀕死のアーロンとダニエルの治療をしたが、まだ四分の一も進んでいないのに、僕の魔力は三分の一以上消費することになった。
「フレイアは道案内して。私たちが囮になる。ミユーイ討伐は皆にまかせるから」
「そんな青白い顔で、無茶よ」
ローラはブリットに囮になれと言わんばかりに、視線を向けた。
「嫌なこった。一番弱っている奴が、囮になるべきだ」
「俺は皆を守らないとならないし、フレイアには先頭を進んでもらうしかない。ユリとユウスケを信じろ。ミユーイをたおすぞ」
アーロンの指示で、ローラも決心してくれた。
ローラとフレイアは、掛け声を合わせ、急いで先頭に立ち、先導し始めた。
僕とユリは、呼吸すら苦しいのに、ゴーレムの攻撃を一手に引き受ける。だが、トラップも巧妙に隠されているうえ、気配感知が使えない。攻撃を回避して、僕らはブービートラップを頻繁に踏んでしまう。
それでも、ユリの基本能力は高く、僕を押し倒したりすることもあったが、致命傷にならない様にした。
僕も治癒し続け、彼らとの距離を保つように最後尾を、三組が通った痕跡を辿って、進んでいく。
回廊を半分ほど進むと、ゴーレムは頭が天井と擦れるようになり、身をかがめざるを得なくなり、攻撃も鈍り始めた。
だが、ここからはトラップも特殊仕様に変わったらしい。
「ここからは、あの隠しダンジョンのトラップ。しかも発動スイッチが沢山ある」
隠しダンジョンのトラップとは、前後を壁で封鎖して、全体範囲攻撃するタイプのもので、あの時、全員で協力しても、大怪我する程のトラップだ。
今の状態なら、万一発動させると、全滅しかねない程の破壊力がある。
そんな訳で、フレイアが、細かく指示を出しながら、慎重に進むことになった。
だが、残り四分の一まで来たところで、迂闊にも誰かがトラップ発動スイッチに触れてしまった。
僕らの目の前に壁が出て、壁が消えた時には、閉じ込められた六人は重傷を負っていた。特に、B級のアーロンは瀕死の重態だった。
その所為で、エクストラヒールを多発することになり、僕の魔力はほとんどなくなってしまった。
「あと四分の一程なのに」 ユリは悔しそうに唇をかみしめる。
「ローラ、転送陣を出して」 ユリはリーダーとして撤退判断を下した。
「待て、魔王の姿も拝めないまま、撤退なんてできるかよ。俺たちで、ゴーレムはなんとかする。お前たちは先にすすめ」
トルスタンの三人は、バックからミサイル砲のパーツを取り出し、組み立て始めた。
僕らは、ゴーレムの注意を引きながら、少しづつ距離をつめ、ミサイル砲の準備を待つ。
「準備完了。ダニエル、遣れるな。アーロン、肩をかせ。勇者はさっさと先にいけ」
「では、お言葉に甘えて」
僕らは急いで、フレイアの後を負った。後の人達がトラップを踏むことがないように、芝を剣で掘り起こす様にして、進路を明確に残しながら進んだ。
ドカン。振り向くと、念力でゴーレムの動けなくして、アーロンの方にミサイル砲をのせ、ゴーレム目掛けて、発射していた。
煙で損壊状況は確認できないが、ローラの爆裂魔法より攻撃力は強いとしても、ゴーレムにはさほど効果はないと思われる。
その後も、ドカン、ドカンと、ミサイル砲を何発も連発させていた。
あれだけ多発すれば、ゴーレムの回復が追い付かず、もしかして、倒せるかもしれない。
決着を見たい気もしたが、僕ら四人は、彼ら四にゴーレム退治を任せ、先へと進んだ。
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アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
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エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
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無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
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そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
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