凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造

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第四章 魔王討伐が終わった後は

不穏な王宮

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 独りで個室車両はもったいないので、夜発の一等車両に乗ったが、リクライニングできないので、熟睡できない。うとうとした程度で目が覚めてしまい、それからは、ずっとユリのこれからを心配して過ごした。
 と言うのも、この暗殺計画を企てた真犯人は、ユリの婚約者となるミハエル殿下ではないかと気づいてしまったからだ。国王暗殺で得をする人物を考えていくと、必然的に、真犯人はミハエル殿下となる。

 次期国王候補のリムナントは、暗殺する必要がないし、既に嫁いでいる二人の娘も、王位継承者だが、王子全員が国王就任困難にならない限り、女王にはなれず、この二人も可能性も薄い。となると、ロレンスかミハエルが暗殺を企てた可能性が高いが、ロレンスは、国王になるのを諦めて自堕落な生活をおくっているダメ人間。国王を暗殺して、自分が王位につこうなんて、考えない様な気がする。
 こうやって消去していくと、犯人はミハエルとなってしまうのだ。
 彼の場合、国王を殺しても、王位継承できないが、リムナント王子までも暗殺するのではないかと、予想している。

 ミハエル殿下は無関係で、彼を押す有力貴族が黒幕の可能性もあるが、有力貴族の場合、ことが発覚して失脚するリスクが高すぎる。やはりミハエル殿下が首謀者の可能性が濃厚になる。

 だからこそ、ユリのこれからが気になってしまう。ユリも馬鹿じゃないから、きっとそのことに気づくはずだが、その時ユリがどうするのかが、不安でならない。
 プロポーズを断るのならそれでいいが、ユリなら虎穴に入らずんば虎子を得ずで、ミハエル殿下に近づき、証拠を手に入れようする気がする。
 目が見えればまだしも、盲目では、手紙や密書を読むことはできない。色仕掛けで自白を誘う可能性もないとはいえない。国王陛下暗殺の証拠集めだけでなく、リムナント王子の暗殺計画も阻止しなければならないので、そんな愚行を行わないとはいいきれないほど、切羽詰まった状態なのだ。
 例えミハエル殿下に証拠探しをしていると見つかっても、ユリなら殺されることはないとは思うが、精鋭で構成される親衛隊との戦いになれば話は別だ。無傷では済まない。
 昨晩、ユリを抱きしめていればと、深く後悔したが、もう後の祭りだ。

 昼過ぎに、観光都市クラウスについたが、もたもたしているうちに、乗り合いバスが出てしまい、クラウスで一泊することになってしまった。
 そんな訳で、漸く待望の温泉に入ることができたのだが、そこはまさに天国。乳白色の硫黄泉で、湯温も丁度良く、疲れが取れるだけでなく、湯衣着用の混浴なのだ。日没前の夕刻だったのだが、周りに若い巨乳の美女が沢山いて、巨乳の谷間がハッキリ見えて興奮していまう。しかも、平気で寝転んで涼んでいる子もいて、湯船の中にいると、湯衣から生尻が見えたりするのだ。
 お蔭で、湯船から出られず、のぼせて鼻血まで出してしまった。
 宿の料理も、最高に美味しく、久しぶりにぐっすりと熟睡できた。

 翌朝一番の乗り合いバスで、リットに行き、以前世話なったサミエル医院に顔をだした。
 既に結核騒動は沈静化していて、看護士のポッサムがやはり医療行為を代行して働いていた。
「ユウスケ先生、今日はいったい何しに来られたんですか?」
「国王からたんまり報奨金を貰えたので、このリットに病院でも開こうと思ってね。でも、病院が建設できるまで、何もしないのも嫌なんで、ここで働かせてもらえないかと思って来た。ここなら、医療設備がそれなりにあるだろう」
「そんな嬉しいことを言ってもらえるなんて、流石は勇者様です。ですが、この医院は、管理局の管轄で、僕は管理局からお金をもらって、住み込みで働いているだけなんです。管理局の方で、相談していただけませんか」
 そんな訳で、リットの管理局に顔を出したが、勇者ユウスケが来たと大騒ぎになり大変だった。
 けど、病院設立の件も、サミエル医院の医師になることも、快く了承いただき、医院名もユウスケ医院と変更して開業する運びになった。
 魔王討伐直後に、伝令のようにやってきたローリエが、僕の専属担当になることになり、必要な機材の手配や、病院設立のこまごまとした処理を全て代行してくれ、本当に助かった。

 それからは、管理局職員ローリエもユウスケ医院の職員になったように、医院の受付処理を手伝ってくれ、時には助産師にもなってもらい、看護士のポッサムと三人で頑張った。
 ローリエは、本当に明るくいい子で、ユリのことなんか忘れて、彼女と付き合おうかとすら考え始めた位だ。
 彼女の運転で、三人で、無医村に往診していた時、初産の妊婦の出産を手伝う事になったのだが、徹夜になり、そこで休憩させてもらうことになった。その家でお風呂も借りたのだが、僕らをくっつけようとしているポッサムに嵌められて、彼女が入浴中だったのに、全裸で乱入してしまったのだ。僕が慌てて出て、何もなかったが、その後、彼女から「責任を取って結婚して」とまで言われ、冗談だとは言っていたが、彼女も僕の事を好きなんだと確認できた。
 彼女はフレイアと同い年で僕より九歳も若いのだが、今は真剣に結婚を前提にお付き合いしようかと悩んでいる。

 因みに病院の建設も順調に始まり、ユウスケ医院も大繁盛だ。
 細胞変質や、心霊手術のスキルは、医師の僕にはとんでもなく有用なスキルで、悪性転移したがん細胞を目視できれば通常細胞に変質させられるし、盲腸の切除、人工血管への代替等も簡単におこなえる。もっとも、開腹手術は必要だ。目視できないと有用な臓器まで切除してしまったりする。だから、外科手術は不可欠だが、心臓のバイパス手術等のこの世界では実施されていない大手術でも、未実施だが原理的には簡単にできることになる。
 病院ができたら、そんな夢の様な大手術もバンバン実施していくつもりでいる。
 それと、まだ二例しか実施していないが、出産時に、心霊手術はとても有効だった。リットには助産師が何人かいるので、ユウスケ医院で出産する人はいないのだが、周辺の村には助産師がいない村もあり、その出産に立ち会った際、もしかしてと試してみたら、大成功だった。
 出産時に妊婦は地獄の様な痛みに苦しむが、子宮口が六センチ程に広がり、頭が見えてきたら、心霊手術で、胎児を取り出すことができたのだ。当然、無痛分娩となるので、妊婦に凄く感謝された。
 その噂を聞きつけたのか、最近はユウスケ医院に、リットの妊婦たちが押し寄せ始め、毎日、目が回るほど忙しくなっている。

 そんな多忙な、ここに来て一か月程の頃、この世界の新聞様な冊子にて、国王逝去を知ることになった。
 脳死状態だったので、一か月も生き続けた事は凄いことだが、驚いたのは、その新聞に報じられていた次期国王候補の名前だ。
 第一王子暗殺の記事は見なかったので、暗殺は阻止できたのかと安心していたのだが、リムナント第一王子ではなく、第三王子のミハエルが王位を継承すると書かれていたのだ。
 その記事には正式発表ではないと記載されていたが、有能で国王代理までしていたリムナント王子が、王位継承しないのは何かおかしい。
 王子暗殺が秘匿されることはないはずなので、生きている筈だが、王位継承を剥奪されるような何かがあったのは間違いない。
 念のため、新聞を隅々まで読み返してみたが、次期国王をミハエルとしている根拠は、どこにも記載されていなかった。

 国王がこんな状態なので、ミハエル王子婚約も新聞では報じられなかったが、僕が危惧した通りに運んでいる。もしかして、ユリが無茶をして、投獄されているのではないかと、心配でならなくなった。
 今すぐにでも、ユリの許に行きたいところだが、今は医院から離れられない。それなりの手術をしたばかりの患者が二人も居るので、ポッサムだけでは術後の容態急変に対処できないからだ。
 
 その日からは、盲腸の様な簡単な手術しかしないようにして、まとめて休める時間を取れるようにしていった。
 その一週間後、またも新聞で衝撃的な事実を知ることになった。新たなプルキナス王国として、ロレンスが正式に冠位を授与したと報じられたのだ。
 ロレンスと言えば、自堕落な生活を送っていたあの第二王子だ。
 一週間前の新聞の予想では、ミハエルだったのにと読み進めると、ミハエル殿下が重篤な病を患っていると判明したため、急遽ロレンスが王位継承することになったと書いてあった。リムナント王子の事も僅かに触れていたが、病気は改善しつつあり、今後はリムナントが、ロレンス国王を支えていくことになるだろうと記載されていた。
 一週間前の記事で、ミハエルが国王候補になっていたのは、リムナントが病気を患っていたためだと分かったが、今度はそのミハエルが重篤な病にかかった。

 まあ、それはユリが無事、投獄されずにいて、ミハエルが国王暗殺の黒幕だった証拠を押さえたという事でもある。
 新聞には、ミハエルが重篤な病で国王継承ができなくなったと書いてはあるが、きっとユリの直訴で、継承資格を剥奪され、そのような表現をして国民が動揺しないようにしただけだ。
 この結果として、棚ぼたで、ロレンスが国王になった事になるが、直訴したユリの事が急に不安になりはじめた。
 ミハエルの婚約者だったとしても、ミハエルが国王暗殺の黒幕だと直訴すれば、ミハエル親衛隊からみればユリは裏切り者ということになる。裏切り者をそのままにしているとは思えない。
 ユリが命を狙われている気がして、居ても立っても居られなくなり、五日間の休みを貰い、王都ラクニスに行くことに決めた。

 列車のなかで、もう一度改めて考え直すと、本当にミハエルが黒幕だったのかすら疑問に思い出した。
 新聞記者は、王宮の公式発表を鵜呑みにせず、ちゃんと裏を取りして記事を書くものだ。
 なら、ミハエルは重篤な病を患っているのは真実となる。リムナントも病気が改善しつつあると書いてあり、二人とも、何らかの手段で、病気にさせられた可能性がある。
 なら、無能を装って自堕落な生活を送っていたロレンスが黒幕という可能性が急上昇する。棚ぼたではなく、陰謀で二人の王子を落としいれ、国王の座を手に入れた可能性が高い。

 となると、ユリの身が危ない。ユリは国王暗殺者をずっと追いかけていた。最初はきっとミハエルが真犯人だと証拠集めしていた筈だが、今頃、ロレンスが黒幕だと気づいている筈だ。その事実を知った彼女を、ロレンスがそのまま生かしておくはずがない。次に排除に掛かるのがユリとなる。
 ローリエには悪いけど、僕の心は、再びユリぱかりに埋め尽くされていた。
 盲目でもユリが強者なのはかわらないが、精鋭の親衛隊が束になって襲い掛かれば、多勢に無勢。ユリで有っても敵わない。もしかして、今頃、殺されてしまっているのではと不安でならなかった。

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