壺の中にはご馳走を

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忌み歌③

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「翌朝、愛理ちゃんは普通に起床し、何も覚えていなかった。

 俺たちはキャンプ場のオーナーに鬼電して、何か隠していることがないかと問い詰めた。


 オーナーはコテージに足を運び、直接謝罪を受けた。

『あの小屋は、祟りを鎮めるために建てられたものでして。普段はバリケードで入れないようになっているのですが……。私も最低限の管理しかしておりませんし』

 オーナーは高橋を見た。

 高橋は2人っきりになれる場所を探して、立ち入り禁止の小屋に入ったらしい。

 今回の件は、俺たちにも非があったってことだよ。


 すみませんと頭を下げる高橋にまぁまぁと言い、オーナーは続けた。

『昔、自ら地獄に堕ちてやると宣言した男がおりまして。名は乃備末のびす。乃備末はいわゆるケガレを持つものとして、人間の扱いを受けてきませんでした。そんな恨みを晴らすために、自ら地獄へ行ったのです。死後、乃備末と関係があった者の急死や病が続き、この地で代々祀っていると祖父から聞いたことがあります』


 俺たちはあの歌のことを質問した。

『乃備末の祟りで死にゆく者は皆、奇妙な歌を歌うそうです。ご安心ください。最初から最期まで歌わなければ命は取られません。現に、お嬢さんは元気じゃないですか』


 それを聞いて安心した俺たちは、オーナーと一緒にバリケードを直してある意味一生忘れられない旅行を終えた。

 過ぎてしまえば、あんなに震えていた太田と香澄ちゃんも、刺激的だったと満足そうだったよ。

 迷惑をかけたからと、料金の半分を返してくれたことも大きかったかな。


 ただ気になることがあって。

 愛理ちゃんが最近寝込んでるんだよ。

 本人は風邪引いたって言ってたけど、俺、オーナーの話を思い出したんだ。


 愛理ちゃんは最期まで歌った気がしなくもない。

 あの時、はっきりとは聞こえなかったけど、確かにそれまでと違う歌詞だったんだ。

 ……なんて歌ってたんだっけ?

 頭にモヤがかかったみたいに歌詞が入ってこなかった。

 念のため、俺が代表してお祓いを受けてみようかなと思って」


 西川勇人はしんみりした空気を察して、明るい声で

「うーん、やっぱ思い出せないや! また何かあったら来ますね!」

 と言って帰った。


「当時は絶大な影響力も持っていたものも、時代を経て忘れ去られることは珍しくない。

 祟りも当時の人間を震撼させ、自分たちの愚かさや無力さを思い知ったはずだ。だが、時代の流れと共に祟りを恐れる人間は減り、祀り方もいい加減になった。伝承すらあやふやで、オーナーは事の重大さを分かっていないようだしな。

 それでも辛うじて役割を成していた祭壇を、ズカズカと部外者が入ったのだから、怨霊の怒りに触れたのは想像に易い。惰性で祀っているから、祓いを受けるべきかの判断すらできないんだ。

 愛理は恐らく最後まで歌ったのだろうな。祓いを受けて正解だ。勇人も歌詞を聞き取っていれば、愛理と同じ目に遭っていただろう。

 祟った者に歌を歌わせ、さらにその歌を聞いた者を祟っていけば、町、いや国をも滅ぼすことができる。乃備末とかいう人間は、効率の良い祟り方をしたものだ。


 立ち入り禁止にはそれなりの理由がある。ましてそんな場所でいかがわしいことをするなど、言語道断だ。若気の至りでは済まされないところだったぞ!

 ……まぁ、お前には無縁の話だけどねぇ」


 クックッと笑う茉美に、何も言い返せない真也であった。


 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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