壺の中にはご馳走を

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真也の不運な一日②

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 真也は大学の講義を午前中に済ませ、午後にティサへ行く予定だ。

 いよいよ午後になり駅に向かおうとすると、同じ学部の女子に声をかけられた。

「ねぇ、神楽坂くん。ちょっと話したいことがあるの。今からお茶しない?」

 真也に訪れた大チャンス――!

「もちろん!!」


 大学近くのカフェに入り、真也のソワソワは治まる気配がない。

「間宮さん、あのさ! 俺たち同じ学部で、講義も被ってるじゃん! だからってのもアレなんだけど、……愛ちゃんって呼んでもいい?」

 もじもじする真也に、間宮愛は可愛らしく微笑んだ。

「そんなことより、神楽坂くんはお小遣い欲しくない? 彼氏から聞いたんだけど、このサプリを打ったら売上の何%かが自分にも入るんだって! まずは自分でサプリを買わなくちゃいけないけど、どんどん買ってくれる人を探せばたくさん稼げるよ!!」

 

 それからのことは真也の記憶にはない。

 過度な期待を打ち砕かれた者の最後の抵抗、自己防衛である。


「ごめん、俺金ないからさっ! ハハッ、今急いでてっ! これは俺の分! じゃっ!」

 自分が注文したコーヒー代をテーブルに置いて、足早に駅へと向かった。

 背後でチッっと聞こえた気もしたが、気のせいだと思うことにした。


 駅に着くと構内アナウンスが流れている。

「ホームに鹿が侵入した影響で、ダイヤに乱れが生じております。運転見合せとなっているのが~」

(こんな時に運転見合せか~。鹿って何だよ……)


 電車は諦めてバスターミナルへ向かう。

 運転見合せもあってか、いつもよりバスを待つ人の行列が長い。

(……うーん。歩きの方が早いかな)

 仕方なく徒歩を選択した。


 その道中

「ちょっとそこの若い人っ。交番まで案内してくださいな」

「すまないねぇー、兄ちゃん。まさか、人が通ると思わねぇだろ? バケツの水ぜーんぶ、ぶちまけちまったよー。シャツが乾くまでウチでゆっくりしてってよ!」

「キャー引ったくりー!! 誰か捕まえてー!! おにーさーん、そっちに向かったわー!!」

 真也には様々なアクシデントが襲った。


(ふぅ……。やっと来たぞ!)

 いつもの見慣れた風景にたどり着いた頃には、すっかり日が暮れていた。

 この角を曲がれば、ティサがある通りに入る。


「よお、真也ー。なーにやってんのー?」

「洋介! ちょっとバイト先に……」

「はぁ!? お前、週1のバイト休みって言ってたじゃん! ってか、今から合コンなんだけど、男が1人来れなくなったんだよ。お前、付き合えよ?」


 行きたいのは山々だが、済ませなければならない用事がある。

「俺はパスで……」

「なーに遠慮してんだよ!! 今日は可愛いコが来るぞー。間宮ちゃんっ。お前あーゆーの好きだろ?」

 洋介にグイグイと腕を引かれ、ティサとは逆方向へ歩き出す真也。

「いやっ、あのコは――」

「俺がアシストしてやるからさー」


 結局、真也はティサの扉の前にすら立つことができなかった。
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