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10.公爵夫妻の罪
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「エサイアスが療養していた離宮は、プルムがリクハルドを産んだ場所でもある。もちろん、部屋は違ったのだが。昨日、エサイアスの使っていた部屋を清掃していた下働きがプルムの日記を見つけたと報告してきた」
若くして亡くなってしまったエサイアス殿下やプルム様のことを偲んでいるのか、国王陛下はとても辛そうだった。目の周りにはくっきりと隈ができている。
私は口を挟むこともできず、ただ、まっすぐに目の前に置かれた高価なカップを見つめていた。
「日記には衝撃的なことが書かれていた。プルムは現シーカヴィルタ公爵アハティの弟カレルヴォと恋仲だったというのだ。当時シーカヴィルタ公爵はまだ代替わりしておらず、長男のアハティはサロライネン子爵を名乗っていた。アハティが公爵位を継げば、弟のカレルヴォがサロライネン子爵となる予定で、プルムはその時に恋人だと公表し、国王である父に結婚を願い出るつもりだった。しかしアハティは、プルムとカレルヴォが結婚すれば、公爵位はカレルヴォのものになるのではないかと恐れた。そして、婚約者であるヘルヴィにカレルヴォを誘惑させ、弟の名でプルムを呼び出しその場面を目撃させた。恋人に裏切られたと悲観したプルムは、半ば自棄になって同じく婚約者の裏切られたと思っていたアハティと結婚したいと言い出したのだ。すべて、アハティの策略だった。プルムは公爵夫人になることなど願っていなかったのに」
陛下は悔しそうに歯を食いしばっている。強い怒りのためか握りしめた手が小刻みに震えていた。当時既に立太子されていてかなり忙しかったであろう陛下と年の離れた王女。それほど交流はなかったのかもしれないけれど、それでも血を分けた妹なのだから、そのように謀られたのなら悔しいに違いない。
「それでは、プルム様が無理やりシーカヴィルタ公爵と結婚したというのは嘘だったのですね? なんという酷いことを!」
そのせいでリクハルド様が冷遇されていたと聞いたのに、そうじゃなかったの? そんな策謀を巡らせてまで結婚したプルム様との間にできた長男を、シーカヴィルタ公爵はあれほど冷遇し続けたというの? 本当に許せない!
「そうだ。なぜプルムがそのことを知ったかというと、プルムが妊娠してしばらく経った頃、ヘルヴィがアハティを訪ねてきて約束が違うと迫っているのを、たまたま聞いてしまったらしい。ヘルヴィとの約束では、アハティはプルムと白い結婚を貫き、無事公爵位を継いだ後に子ができないことを理由に離婚。その後ヘルヴィと再婚することになっていたという」
そんな約束さえもシーカヴィルタ公爵は守らなかったの? リクハルド様の父親だからあまり悪く言いたくないけれど、子どもが産まれても冷遇するくらいなら、子どもができないようにするべきだと思う。それとも、プルム様と離婚するつもりがなかったのだろうか? でも、プルム様が亡くなってすぐにヘルヴィ様と再婚しているし。
とにかく、シーカヴィルタ公爵はとても不実な男なのは確定だわ。
「だから、プルムは公爵家を出て離宮で子を産みたいと言ってきたのだ。産まれてきた子が女の子ならすべてを明らかにして離婚を。男の子なら次期公爵にするために、何も言わずに公爵家へ帰るつもりだったようだ。だが、産後の肥立ちが悪く、プルムは……」
プルム様はどれほど無念だっただろうか。命をかけて産んだリクハルド様を遺して亡くなられてしまった。その上、父親であるシーカヴィルタ公爵はリクハルド様に爵位を継ぐための教育もせず、従兄の不祥事を口実にして家を追い出した。私なら公爵夫妻揃って祟ってやるわ。絶対に許さない。
「今日、エルナに来てもらったのは、シーカヴィルタ公爵家でリクハルドがどのような扱いをされていたか本当のところを聞きたかったからだ。リクハルドが愛されて育ったのならば、父親と義母が母親を謀った悍ましい人間だと知れば衝撃を受けるのではないかと思ったのだが、その心配は無用のようだ。王家を虚仮にしたあいつらを金輪際許すつもりはない! 」
陛下の怒りはもっともだと思う。シーカヴィルタ公爵は無事爵位を継げたのだから、プルム様に感謝してしかるべきなのに、息子のリクハルド様を冷遇するなんてあり得ない。
リクハルド様はずっと辛い思いをしてきたのだから、報復されて当然よ。
「陛下、もう一つお伝えしてもよろしいでしょうか?」
この際だから、全部訴えてやる。そこで涼しい顔をして立っているタルヴィティエ卿をはじめとする近衛の皆さんも、リクハルド様を無視していた報いを少しは受けるべきだわ。
若くして亡くなってしまったエサイアス殿下やプルム様のことを偲んでいるのか、国王陛下はとても辛そうだった。目の周りにはくっきりと隈ができている。
私は口を挟むこともできず、ただ、まっすぐに目の前に置かれた高価なカップを見つめていた。
「日記には衝撃的なことが書かれていた。プルムは現シーカヴィルタ公爵アハティの弟カレルヴォと恋仲だったというのだ。当時シーカヴィルタ公爵はまだ代替わりしておらず、長男のアハティはサロライネン子爵を名乗っていた。アハティが公爵位を継げば、弟のカレルヴォがサロライネン子爵となる予定で、プルムはその時に恋人だと公表し、国王である父に結婚を願い出るつもりだった。しかしアハティは、プルムとカレルヴォが結婚すれば、公爵位はカレルヴォのものになるのではないかと恐れた。そして、婚約者であるヘルヴィにカレルヴォを誘惑させ、弟の名でプルムを呼び出しその場面を目撃させた。恋人に裏切られたと悲観したプルムは、半ば自棄になって同じく婚約者の裏切られたと思っていたアハティと結婚したいと言い出したのだ。すべて、アハティの策略だった。プルムは公爵夫人になることなど願っていなかったのに」
陛下は悔しそうに歯を食いしばっている。強い怒りのためか握りしめた手が小刻みに震えていた。当時既に立太子されていてかなり忙しかったであろう陛下と年の離れた王女。それほど交流はなかったのかもしれないけれど、それでも血を分けた妹なのだから、そのように謀られたのなら悔しいに違いない。
「それでは、プルム様が無理やりシーカヴィルタ公爵と結婚したというのは嘘だったのですね? なんという酷いことを!」
そのせいでリクハルド様が冷遇されていたと聞いたのに、そうじゃなかったの? そんな策謀を巡らせてまで結婚したプルム様との間にできた長男を、シーカヴィルタ公爵はあれほど冷遇し続けたというの? 本当に許せない!
「そうだ。なぜプルムがそのことを知ったかというと、プルムが妊娠してしばらく経った頃、ヘルヴィがアハティを訪ねてきて約束が違うと迫っているのを、たまたま聞いてしまったらしい。ヘルヴィとの約束では、アハティはプルムと白い結婚を貫き、無事公爵位を継いだ後に子ができないことを理由に離婚。その後ヘルヴィと再婚することになっていたという」
そんな約束さえもシーカヴィルタ公爵は守らなかったの? リクハルド様の父親だからあまり悪く言いたくないけれど、子どもが産まれても冷遇するくらいなら、子どもができないようにするべきだと思う。それとも、プルム様と離婚するつもりがなかったのだろうか? でも、プルム様が亡くなってすぐにヘルヴィ様と再婚しているし。
とにかく、シーカヴィルタ公爵はとても不実な男なのは確定だわ。
「だから、プルムは公爵家を出て離宮で子を産みたいと言ってきたのだ。産まれてきた子が女の子ならすべてを明らかにして離婚を。男の子なら次期公爵にするために、何も言わずに公爵家へ帰るつもりだったようだ。だが、産後の肥立ちが悪く、プルムは……」
プルム様はどれほど無念だっただろうか。命をかけて産んだリクハルド様を遺して亡くなられてしまった。その上、父親であるシーカヴィルタ公爵はリクハルド様に爵位を継ぐための教育もせず、従兄の不祥事を口実にして家を追い出した。私なら公爵夫妻揃って祟ってやるわ。絶対に許さない。
「今日、エルナに来てもらったのは、シーカヴィルタ公爵家でリクハルドがどのような扱いをされていたか本当のところを聞きたかったからだ。リクハルドが愛されて育ったのならば、父親と義母が母親を謀った悍ましい人間だと知れば衝撃を受けるのではないかと思ったのだが、その心配は無用のようだ。王家を虚仮にしたあいつらを金輪際許すつもりはない! 」
陛下の怒りはもっともだと思う。シーカヴィルタ公爵は無事爵位を継げたのだから、プルム様に感謝してしかるべきなのに、息子のリクハルド様を冷遇するなんてあり得ない。
リクハルド様はずっと辛い思いをしてきたのだから、報復されて当然よ。
「陛下、もう一つお伝えしてもよろしいでしょうか?」
この際だから、全部訴えてやる。そこで涼しい顔をして立っているタルヴィティエ卿をはじめとする近衛の皆さんも、リクハルド様を無視していた報いを少しは受けるべきだわ。
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