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第三章:妹が家に帰ってきたよ
プラチナトロフィー:ゲームクリア
しおりを挟む【九】
【魔王の交代】
魔王ライゼン=グロアブルの軍勢との最終決戦。
戦連国ドミネイアの仲間が、次々に倒れていく。
幾千、幾万、幾億の剣閃を潜り抜け、弓と魔術の雨をくぐり抜け──
ついに向かい合う、姫戦士シキと魔王ライゼン=グロアブル。
互いの獲物がひゅっと走り、黒風の巨大居合と、聖炎の戦斧が衝突する。
---
【魔王の交代 ― システム再構成】
最終戦闘フェーズ:開始。
敵対存在【魔王ライゼン=グロアブル】確認。
味方ユニット:壊滅状態。
回避、接近、攻撃。
弓・魔術・近接攻撃を突破。
姫戦士シキ、ボスユニットへ到達。
---
魔王が手を上げて、挨拶するように言った。
「やっほー、とうとう今日まで来たねえ、シキ! 君は簡単に死なないでよね!」
「貴女のせいで……ミーナも! アンヌも! ヤーラも! ドナも!」
「ごめん、誰だっけ? まあ、いっか。もうすぐ会えるよ」
「貴女がみんなに詫びろ!! 私の親にもだ!!」
【イベントセリフ:挑発】
歯軋りし、次々に斧を叩きつける戦士。
斬撃と打撃が融合した断戟は、大地を割り、空を裂く威力だ。
異世界に来たとき。
魔王への憎しみというものは、志紀には理解できなかった。
大きくなっても、「そうすれば家に帰れる」「みんなが喜ぶ」と言われることで、戦う意志を保てた。
故郷の記憶が薄れる中でも、それをモチベーションに変えることができた。
だが今は違う。
無情に踏み潰される人々。荒廃していく都市と心。
戦いで倒れた仲間。親同然のギリーの死。
愛する者たちの死を積み重ねるほど、魔王への憎しみと敵意は、志紀自身のものになっていった。
すべての悲しみは、姫戦士として終わらせる。
今日この日に、希望を現実にするのだ。
「ハハハッ、あたしにそう叫ぶのは君で三十人目だ!
楽しませてよぉ。今が一番楽しい瞬間だからね!!」
暗い希望に瞳を輝かせ、魔王は無邪気に笑う。
殺してきた相手を、砕いてきた希望を──スコアのように数え上げる、その口ぶりに、志紀は激昂した。
「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!」
跳躍する魔王を追いかける姫戦士。
斧が生む爆炎を推進にして飛び、魔王の眼前へ肉薄する。
---
【敵ボス:高揚状態】
撃破数カウント:表示中。
感情パラメータ:楽しさ[MAX]。
【プレイヤーユニット:シキ】
感情変化:
怒り → 憎悪 → 固定。
---
ライゼンは飄々とした態度を崩さず、刀身から無数の鎌鼬を生み出した。
宙にいる戦士は、無防備に攻撃を喰らう。
白い血。
昔は赤かった気がするが、もう朧げだ。
全身から噴き出す白が、彼女の体力を奪っていく。
大きく息を吸って、止める。
活力を体内に閉じ込める。
潜水の要領──育ての親が教えてくれた、気休め。
炎で攻撃を潰していくが、すべては消しきれず、いくつか被弾してしまう。
追い打ちに、魔王が打刀へ力をすべて籠める。
結んだ黒髪が暴れ、魔王は地上へ強大な一閃を放った。
視界一面に、闇が走る。
シキのいる地点から、地平線まで続くクレバスが生じた。
炎の熱放射で耐えたシキは、動かない。
そこへ魔王が淡々と斬りかかる。
「はい、ハッピーエンド」
姫戦士の心臓がある胸部。そこが深々と裂かれ、やがて両断された。
──だが、斬られたシキは、炎で作られた分身体だった。
養親ギリーに教わった、シキが使える唯一の高等魔術。
ここで使うのは、自分を庇って死んだ彼への手向けにもなる。そう彼女は思った。
「なにっ!」
囮に気づいた魔王が、周囲を見回す。
魔王が生み出した亀裂から、褐色の影が跳び出した。
身を潜めていたシキが、奇を衝いてライゼンへ斬りかかる。
反射的に柄へ手をやった魔王だったが、目を閉じて呟いた。
間に合わないと悟ったのか。
それとも──死を受け入れたのか。
後になっても、わからない疑問だ。
「ごめん」
短い謝罪。
その意味を問うために、攻撃を止めることはできない。
魔王が討たれた。
肩で息をし、無我夢中のシキには、その最期の言葉の意図がわからない。
英雄である姫戦士に、勝利の歓喜も、高揚も、達成感もなかった。
---
【演出:心臓貫通】
対象:分身体
高等魔術(炎分身):成功
カウンター攻撃:発動
奇襲:成功
敵ボス:回避失敗
セリフログ:「ごめん」
撃破処理:開始
◆ ボス討伐完了 ◆
---
周囲から地を揺るがす歓声が響き渡る──はずだった。
だが、そこにあったのは、奇妙なまでの沈黙。
すべてが無音だった。
敵軍の音もない。
味方の歓声も、解放の涙も、勝利の雄叫びもない。
敵による絶望も、失意もなかった。
戦いの興奮が冷めたシキの背筋を、冷たい悪寒が走る。
首を振って、辺りを見る。
何も動かない。
時間が止まっているのか。
風すら吹いていないのではないか。
混乱し、誰かに何かを叫びたくなった。
狂乱しそうな彼女へ、天から無機質な言霊が投げかけられた。
『クリアおめでとう。貴女が次の魔王です。
姫戦士としてのクリア報酬に、願いを一つだけ叶えましょう。
それでは、貴女のさらなるご健勝をお祈り申し上げます』
それだけ。
それだけだった。
---
【プレイ継続】
パーティ:解散
観測者:なし
引き継ぎ:完了
進藤志紀
ステータス更新
役職変更:【姫戦士】→【魔王】
ユニット数:現在、単独
---
こうして、かつて進藤志紀だった者は、魔王になった。
たった、ひとりで。
---
【ゲーム再開準備】
世界リセット:部分的
時間経過:継続
記憶:保持
肉体:再構成
【魔王仕様適用】
生命力(寿命):無制限
軍勢操作:解放
共感機能:制限
【名称更新】
進藤志紀 → 魔王シキ=ヴァンキッシュ
【警告】
このジョブは変更できません
離脱条件:不明
【告知】
クリアおめでとうございます。
エンドコンテンツが解放され、
あなたは魔王になりました。
魔王視点で次の周回をお楽しみいただけます。
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