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第一章:自称「たびびと」の女の子を拾いました
第0話 拾った女の子が羊の羊毛に食われた
しおりを挟む人生で、その時ほど自分の目を疑ったことはない。
たまたま出会って、腹が減っていそうだったから晩飯を作ってあげた女の子・エレン。
彼女が満腹で彼女が召喚した羊のメェ君の羊毛にポフンと身を投げて、「沼のように沈み込むモフモフ~」と呟いた瞬間、エレンはまるで沼に沈むかの如く、モフモフの中に沈んでいった。
メェ君はたしかにもう量が多いが、小さな体の子ども相手とはいえ、流石にその体の殆どを沈み込ませる程の奥行きはない。
物理的に、あり得ない。
その上、一部始終で連想したのは、魅力的なもので獲物を誘引して捕食する擬態型の魔物の姿だった。
気が付けば、俺はその羊毛にズボッと両手を差し込んでいた。
抱き上げたエレンは、キョトンとしている。
どうやら外傷はないようだが、遅効性の状態異常にかかっている可能性だってある。
この羊は、エレンの召喚動物で、今日見ていた限りでは、主人への庇護欲がかなり高く、群を抜いて仲良しだった。
彼がまさか自らの意思で、エレンを傷つけたとは思いたくないが、だからこそ、今のあり得ない光景の正体を知る必要がある。
「ドラド、助けてくれ! この子が羊の羊毛に食われたんだ!!」
駆け込んだ先は、冒険者ギルド。
ギルド長であり既知でもあるドラドに、エレンの無事と妙な事を引き起こしたメェ君を見てもらうために走った。
血相を変えた俺を見て、ドラドはまるで奇妙なものを見たかのような顔で片眉を上げる。
「何言ってんだお前、女の子がお前の脇に抱えられている時点で、羊毛に食われてないだろうが」
「食われたんだよ! 引き上げたんだ!!」
俺の剣幕に合わせるように、両脇に抱えていたエレンとメェ君の足がプランと揺れた。
「スレイ、おちついて?」
「めぇめ?」
「元はと言えば、お前たちが!」
一人と一匹に剣幕を向けかけて、我に返る。
何が起きたのかにすら気が付いていない様子のこの子たちに何を言ったところで、意味はない。
俺は意識的に腹から深く息を吐き、自らをどうにか落ち着けた。
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