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【第二章】第四節:初めての料理育
第24話 エレンと居候(動物)たちの関係
しおりを挟む動物が持ち得ない、スキルに類似した能力を持つ可能性。
特異な治癒能力を持っている可能性。
それらの希少性とどうとでも使いようがある能力に戦慄した俺だが、畑仕事は実に偉大だ。
作業に没頭しているうちに、ごちゃごちゃと考えていた頭が痛くなるような懸念が、頭の外に逃げていく。
気が付けば無心で続ける作業に、エレンとメェ君のあの小気味のいい餅つき的なやり取りが聞こえてきて、表情が自然と緩んできた。
「今日もお疲れさん。エレンちゃんもメェ君も、よかったらまた来てね」
「エレン、くる!」
「めぇっ!!」
夕方になり、帰路に着く。
ジェームスさんから予告通り、レタスを四玉も貰っての帰宅だ。
持ち違ったエレンに一つ。
エレンと同じがいいらしいメェ君に一つ。
あとの二つは俺が持って、三人で並んで街の門を目指す。
門番には昨日と同じ人がいた。
彼にはそれ程怪しまれる事もなかったが、彼の同僚を安心させるために、形だけの脅威判定を受ける。
昨日と同様、魔道具の杖は俺たちを「害意なし」と判断した。
エレンは門番に「またね」と手を振って、二人と一匹で俺の家に帰る。
家に帰れば、今日は扉の前に犬たち――わんさんとウォフさんが座って待っていた。
いい子で待っていたんだな、と思ったのだが、エレンを見るなり飛び掛かり、彼女が泥だらけなのもお構いなく、まるで片方ずつ分担でもしているかのように、両頬をベロンベロンと舐める。
自分よりも体が大きな犬たちに、半ば押し倒された形だ。
流石に可哀想だったので助けてやろうかと思ったが、本人が楽しそうだったので助けるのはメェ君に任せておいて、俺は先に庭の井戸に向かう。
二人と一匹分の体についた泥や砂汚れと汗を落とした後、着替えてサッパリしたら、いつも通りエサやりをする。
エレンが「やる!」というので、同居動物たちのエサを保管している場所を教えた。
エレンの後ろをトコトコとついて回る、犬たち二匹。
エレンが一度にたくさんの藁――モォさんの食事を持ってよろよろと歩いていたところ、彼女を助けるためなのか、それともただの気まぐれなのか、移動しながらその藁の一部を食べ、体積を減らしていたモォさん。
どうやらこの二匹と一頭は、エレンに心を許しているようだ。
対してエレンに近寄らない奴も、一羽いた。
「お前はいいのか、源次郎」
珍しく自分から寄ってきた彼に、俺はそう声をかける。
彼はウンともスンともコケとも言わない。
何か言いたい事があるのか、ないのか、よく分からない顔で、ただこちらをジーッと見てくるだけ。
まぁお前は、そういう奴だよな。
そう思いながら、小さく息を吐く。
居候たちの中でも初めてうちに来た動物がこいつだが、新しい奴が来るたびに、こいつはまず相手から距離を取る。
そうやって、様子を見るところから始めるのだ。
警戒心が高く、少しばかり攻撃的。
これは、そんな彼が他者との共同生活を送るための処世術とか、防衛本能の一種なのだろう。
そもそも、まだ二日目だ。
むしろ他の子たちが、エレンに慣れるのが早いだけ――ガシッ。
「コッ!」
鶏が、源次郎が悲鳴を上げた。
そう分かった瞬間なんて、これが初めてだった。
しかし、基本的に怒りと気にくわない時以外には鳴かない彼が、声を上げるのも仕方がない。
なんせ後ろから掴まれたのだ。
小さな両手で、ガシッと体を。
エレンは、持ち上げるでもない。
ただジッと後ろから源次郎を見ている。
彼自身が振り返ったりしない限り、目と目で見つめ合うような事にはならない向きなのが、彼にとっては幸いか。
でも分かる。
まるで手に取るように分かるぞ、源次郎。
今背中にヒシヒシと感じている、エレンの視線。
お前がそれに「一体何をするつもりなのか」と、冷や汗ダラダラになっているのが。
しかし、すまん。
助けられない。
俺だって、エレンが暴力的な何かをしようとしているのなら、止めただろう。
しかし現状、何もしていない。
単に源次郎の胴を程よい力加減で挟み込み、後ろから見ているだけなのだから。
一応数秒間様子を見てみたが、それ以上両者は動かない。
エレンはもちろん源次郎も、エレンに攻撃する様子はない。
本当に反発心を持ったらあの程度、いつもの源次郎なら簡単に抜け出す事ができる。
もしかしたら突然のエレンの行動に、動揺して体が硬直している可能性はあるが……まぁ、それはそれという事で。
お互いに危害を加えないんなら、それでいいや。
俺にはこの後、晩飯を作るという仕事が待っている。
腹も減ったし、とっとと作ろう。
源次郎の分のエサを箱に入れた俺は、挟み挟まれる一人と一匹を置いて、いそいそと台所に向かったのだった。
今日の飯は、昨日貰ったトマトの余りと、今日貰ったレタスを使う。
それらを料理用のテーブルの上に乗せたところで、エレンがこちらにやって来た。
「源次郎への用事は終わったのか?」
「うん! 今日の『げんじろうかんさつ』、おわったよ!」
アレは源次郎を観察していたのか。
一体何を、何故観察していたのかは知らないが……などと思いながらふいにリビングに目をやれば、ちょうど歩いている源次郎の姿が視界に入った。
俺は源次郎の言葉も、心の声も聞こえない。
それでも彼がグッタリしているのは、一目見て分かる。
珍しい姿を見たなぁ。
思わず小さく笑ってしまった。
「今からごはんつくるの?」
「うん。食べるようになるまでもうちょっと待ってろ」
「エレンもつくりたい!」
「え」
予想外の事を言われて、少し驚いた。
エレンが期待した目を向けてきているが、少し「うーん」と考える。
料理なんて、子どもにどの程度手伝わせていいものなのだろうか。
俺が子どもだった時は、料理はすべて雇われの料理人たちが作っていた。
できた料理が、テーブルに出てくるだけの日々。
材料の原型さえ知らなかった。
それが普通だった俺に、どの程度ならとか分かる筈もない。
テーブルの上を見る。
トマトを切るための包丁があるが、これを使わせて手を切ったらどうするのか。
これは流石にまだ早いだろう。
じゃあ火にかけた後の鍋を混ぜさせる?
……いや、火の近くも危ないんじゃないか?
火傷するかもしれないし。
でもそうなると、やらせられる事なんて他に何も……。
「あっ!」
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