元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

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【第三章】 第一節:そろそろ別の仕事をしてみるべく

第27話 最近ちょっと変わった事

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 エレンがうちに住み始めてから、一週間くらい経った。

「おはよー、スレイ……」
「お。おはようエレン。顔洗ったら、ちょっと卵取ってきてくれないか」
「うん、わかった」

 眠気眼で起きてきたエレンに、俺は小さな頼み事をする。
 今日も元気な寝癖をつけたエレンの頭が、目の端でリビングを横切って隣の部屋へと消えていく。

 そんな彼女を見るのにも、この一週間ですっかり慣れた。
 しかし慣れたのは、俺だけではない。
 
 たとえば顔を洗いに行く時に、エレンの後ろを二匹の犬が嬉しそうについて行くようになった。
 顔を洗って帰ってくると、エレンが寝癖を少なからず直してくるようになった。
 
 そして一番変わったのが。

「おはよー、げんじろう。きょうもたまご、もらっていくね」
「……コケッ」

 エレンの言葉に源次郎が、少なからず反応を返すようになった。


 同居の動物たちの中で、唯一つれない態度を取っていた源次郎だったが、何故か毎日、朝と帰宅後と、寝る前の一日三回。
 エレンに後ろから胴を挟むようにして捕獲され、無言で見つめられた結果、折れた。

 終始、話しかけずにただ見ているだけ。
 そんな奇行と無言の圧力に、おそらく根負けしたのだろう。
 ついに一昨日の夜から、エレンの言葉に「……コケッ」という返事のような鳴き声を返すようになった。

「たまご持っていったら、げんじろうにごはん用意してあげるね」
「コケッ」

 さも「仕方がないな、待っててやる」とでも言わんばかりのつれない返事を返した源次郎に、エレンは嬉しそうに笑う。

 彼の腹に手を差し入れてワシワシと撫でるのは、褒めているつもりなのだろうか。 
 俺がやったら間違いなくその手を突かれるが、若干面倒臭そうな顔をしているような気はするが、されるがままになっている。


 エレンが痛い思いをしないで済むのは、いい事だ。
 以前は卵を持っていくところを見られると必ず奇襲を受けていたが、エレンを通せば穏便に朝飯の卵を取ってくる事ができるようにもなった。

 いい事づくめで助かる……のだが。

「たまご、もってきたよ!」
「ありがとうエレン。……エレンは源次郎と仲良しだな」
「うん! お友だちまたふえて、エレンうれしい!」
「源次郎も、エレンにかかれば『友達』かぁ」

 あの頑固な鶏がなぁ。
 そんなふうに苦笑交じりに感心する一方で、――屈託のない彼女の笑顔を前にして思うには、あまりにも大人げないとは思うものの――エレンと仲良くできるんなら、俺にも少しは慣れてくれよという気持ちに、若干なる。

「エレン、もっとお友だち、つくりたいなぁ」

 卵を割ってフライパンの上に落としたところで、ジューッという音に紛れてエレンが小さくそんな呟きを漏らした。

「友達かぁ……」

 少し考える。

 俺の生活範囲は、家と冒険者ギルドと依頼先だ。
 エレンの同年代の知り合いはいないし、行く先で子どもの姿を見る機会も滅多にない。

 しかし、エレンにとって『友達』の対象範囲は、おそらく人間だけではない。

 動物たちの言葉が分かるエレンにとっては動物も、姿形が自分とは少し違うだけの、意思ある者たちなのだろう。
 ならば俺にも、伝がない訳ではない。
 
「そろそろエレンも今の仕事に大分慣れたし、メェ君もちゃんと『沼』を出さないように気を付けている。今日あたり、チャレンジしてみてもいいかもな」

 いつも通りの朝食を手元で作りながら、俺はふむと考えた。



 

「じゃあ、今日はこれを」
「あれ? 最近ずっと畑仕事でしたけど、今回はこれでいいんですか?」

 冒険者ギルドの受付カウンター。
 いつものように非戦闘系依頼の依頼書を出してもらった俺は、仕事を選んで提示した。

 今回選んだのは、牧場での仕事。
 ここ一週間ずっと受注していた畑仕事とは、別の場所と依頼人の仕事である。


 連日同じ人の依頼を受ける俺に珍しさを感じたらしい彼女に四日ほど前、俺は「エレンが仕事に慣れるまでは、同じところで似たようなことをさせた方がいいかと思って」という趣旨の説明をしていた。
 だから「おや?」と思ったのだろう。

 だから再び「そろそろ新しい事とさせてみてもいい頃合いかな、と思いまして」と話す。


 牧場には、動物たちがいる。
 選んだ仕事も「掃除の際の動物たちの移動と、エサやり」だ。
 これならエレンが危険なく仕事ができるし、動物と触れ合いながら作業ができる。
 牧場仕事の中でも比較的、友達が作りやすいのではないかと思ったのだ。

「いいと思います、新しい事。ジェームスさんもエレンちゃんの事、『大分仕事に慣れてきたみたいだ』って言っていましたし」
「そうですか。段々とご迷惑をおかけしないようになっているのならいいんですが」
「あら。まさか、迷惑だなんて。ジェームスさん、言っていましたよ? 『エレンちゃんは、楽しく仕事をする事を忘れない、とてもいい子だ』って」

 まぁたしかに俺の目から見ても、エレンは「楽しむ」という事が得意な子だ。
 素直だし、物事の覚えも悪くない。
 人好きのするいい子なので、ジェームスさんみたいな人からの評価は高いだろう――。

「無言でも、ここまでのドヤ顔を見せられれば、何を考えているのか丸わかりですね。親バカ」
「親バカ?」

 そんな事、初めて言われた。
 一体どんな顔をしていたんだ、俺。

 
 マリナさんは、苦笑しながらも受注手続きを手早く済ませてくれた。

 依頼書を受け取り、俺は「エレン、今日はちょっと今までと違うところに――」と言いながらエレンがいた場所を振り返る、が。

「またか」

 つい先程まで隣にいた筈のエレンが、忽然と消えている。
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