元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
36 / 53
【第三章】第二節:初めての牧育

第35話 王城時代

しおりを挟む


 ――穴花スズメバチ。
 その名の通り、穴に住むスズメバチなのだが、この国での確認数は少ない。


 ハチが家畜の脅威だと知っている牧場主は多いが、ハチの巣は普通、木や物の隙間に巣を作る。
 脅威は他にも野生の動物や魔物などがいるが、どれも地上に存在するのが常識だ。

 だから、必然的に気を配るのは地面より上。
 広い柵の中ともなれば尚の事、地中の巣の存在に気付く事は難しいのだが。

「まさか王城時代の、あの僻地からの調査依頼の時の経験が役に立つとはな」

 リステンさんの依頼に応じた冒険者たちが牧場の一角で調査をしているのを遠目に眺めながら、俺は小さくそう呟いた。


 思い出したのは、王城時代に引き受けたスキル研究家の俺へのある相談。
 辺境伯から『正体不明の暗殺者』について、スキル知識の豊富な俺に、犯人の探し方や弱点などの助言を求められた時の事である。


 曰く、死亡者には決まって体のどこかに針のように細い物で刺した跡があり、ひどく腫れ上がった患部からは毒の成分が検出された。

 やつの出現前には、必ず甘い臭いがする。

 やつの出現は、必ず夜。
 見回りの衛兵ばかりが、狙われる。
 
 ブ~ンという耳障りな音が直前にするが、犯人は決して姿を現さない。
 見回りは二人一組で行う決まりなので被害者の側には常に同僚がいたが、そいつも犯人を見ていない。
 
 犯人が相棒の同僚に成りすましている可能性も加味して四人一組で見回りさせてみたが、必ず一人だけが死ぬ。
 他の人たちは、犯人を見ていない。
 別のグループでも同じ事が起きたので、成りすましや同僚の中に犯人がいる可能性は消えた。

 そんな情報の数々が伝えられた。

 それらを元にスキルの推察をさせられたのだが、これが中々に難航したのだ。
 

 姿が見えないのなら、遠距離から攻撃をするスキルか、姿を消すスキルか。
 まず俺はそう考えた。

 姿に関しては、完全に透明化するものもあれば、縮小化できるものもある。
 毒針を刺すだけなら、体が小さくても実行可能だ。
 夜なら尚更、「小さい人間が存在する」という可能性にすら気が付いてもいない人間を、誰にも見られずに害し、その場を後にする事は簡単だろう。


 しかしもしそうだとしたら、『甘い臭い』と『ブ~ンという音』とは何なのか。
 せっかくのステルス能力なのに、そんな痕跡を残すような真似をするなんて、そんなのまるで犯人が見つかりたがっているかのようである。

 ……いや、犯人が意図せずそういう痕跡を残してしまった可能性もあるか。
 つまり、スキルを使うとそうなってしまうとか。
 だとしたら、ステルス系のスキルとして使うにはあまりにも大欠陥だけど。

 どちらにしてもこの臭いと音が、犯人を見つける勝機かもしれない。


 臭いや音の原因は、見つけた結果分かればいいと思った。
 ただ純粋にこの二つをスキルの使用箇所だと仮定して、それを元に兵士たちが被害を受けずに脅威を捕縛できるように、五つの助言を提示した。

 すぐにできるものもあれば、装備などの準備が必要なものもあった。
 警戒度合いの低い場合に行う策から、最高に高い警戒度で行う策まで。
 段階に合わせて出してほしいという要望だったので、それに従った。

 中でも最高警戒度の策は、その分かなり金のかかるものだった。


 『見回り時のスキル検知用の魔道具携帯』案。
 この町でも門番が使っているアレを、見回り時に一人一つずつ携帯するというものだ。

 この魔道具を使っていれば、スキルが使われた瞬間やスキル行使中の人間が近づいてくればすぐに感知する事ができる。
 脅威にいち早く気が付き厳戒態勢を取れるため、兵士たちの生存率も上がる。


 とはいえこれは、「もうこれ以上の警戒度もないだろうという感じの策」と言われて作っただけで、実際にやる事を想定して提示した訳ではなかった。

 そもそも俺がするのは、助言。
 それを受けてやるかどうか決めるのは、現場の辺境伯領の兵士たちだ。
 対スキル警戒において、これ以上の警戒もないとは思うが、実際に使われる事はないだろうと思っていた。


 だから実際に使われたと聞いた時には、そしてそれでも尚犯人を捕まえられないと殴り込みよろしく辺境伯領の衛兵長が俺の部屋に乗り込んできた時には、様々な意味で驚いた。

「犠牲者が二桁に乗ったから『背に腹は代えられん』という事で、全員分の魔道具を買い揃えたのに、犯人は一向に捕まえられず、被害も収まらないではないか! この血税無駄遣い野郎!」

 それが、衛兵長の第一声だった。

 
 しかしこの件があったのは、俺がスキル研究家になった翌年。
 ちょうど周りから「研究と称して引きこもって本を読んでいるだけの、何の役にも立たないくせに王城に囲われてぬくぬくとやっている恥知らず」と揶揄され始めていた時であり、まだ俺も十六歳の年だった。
 
 端的に言えば、若く青かった。
 だから、倒れる部下を前に頭に血が上っていた衛兵長の口の悪さに、人生で一番イラッと来て、売り言葉を真っ向から買った。

「犯人が見つからない? 知りませんよ、そんな事! こっちはスキルの専門家だ! 言った事に間違いはない! それでも見つからないんなら、スキルと暗殺者は関係ないんじゃないですかね?! この分じゃあ、そもそも犯人が人間かも怪しい!」

 今だったら絶対に「自分が言った事に間違いはない」などとは言わない。

 世の中には、誰も知らない事がまだまだたくさんある。
 その筆頭が、それこそスキルだ。

 誰も知らない事でさえたくさんあるというのに、それ以上に物を知らない俺が言った事に間違いなんてない?
 当時の俺は本当に、了見が狭かったと思う。



 しかし若さ故の暴走も、時には役に立つ。

 俺は、自分が口にした言葉を嘘にしないために、衛兵長に『犯人が人間じゃない、スキルも関係ない可能性』について熱く語った。

 相手も言い返してくる。
 結果、議論は平行線のまま白熱し、俺は相手を言い負かせるだけの知識を手に入れるために、王城に来て初めてスキルの様々な文献を読み漁り、調べ上げた。

 その結果浮上したのが、『犯人はハチ』説だ。
 目の下に大きな隈を作った俺の説明を聞いた衛兵長は、「これでもし間違っていたら、お前は今度こそ自分がポンコツだと認めて、スキル研究家と名乗るのも止めろ!」という啖呵と共に、俺の仮説を辺境伯領に持ち帰った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

処理中です...