元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

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【第四章】第一節:初めてのお買いもの

第42話 エレンたちと街歩き

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 町の商店街を歩く、子どもと俺。
 そして動物たち。

 こんな田舎にも、冒険者や御者など、動物を使役する人はいる。
 理由は違えど、動物たちを連れて歩く事自体は、それ程珍しい事でもない。

 にも拘らず、周りの視線が痛かった。

 理由は簡単。

「おかいもの~」
「めぇ~」
「ぷぅ」
「たのしみね~」
「めぇ~」
「ぷぅ」

 少女と動物たちの大合唱。
 楽しげなそのやり取りを邪魔するのも気が引けて、俺は「誰に迷惑をかけている訳でもないし」と今正に傍観している訳だが、そのせいで周りからの微笑み半分面白がり半分の視線を一心に受ける羽目になっている。

「ねぇスレイ。まずは、なにかうの?」

 スキップ交じりのエレンがクルリと振り返ってきた。
 「あぁえっと」と少し考えて、俺は脳内で選択肢を絞る。

「食品も買うが、重いからな。他のも買うなら先にそっちだな」
「う?」
「つまり、まずはエレンの服を買いに行きます」
「ふく! どこ?」
「え」

 どこと聞かれて、ちょっと困った。

 俺はずっと、一年前に王都から持ってきた物を着ている。
 新しい服が欲しいと思った事もなかったから、興味の対象外だった。

 自分の服にさえ、興味がなかったのだ。
 エレンの――子ども用の女の子の服がどこに売っているのかも、当然知らない。


 こんな事なら、ギルドにいた時にそこまで聞いておけばよかった。
 あれでは単にいたたまれない目を向けられ損というか、何というか。
 ……いや、でもあの場で聞いたら聞いたで、呆れられて可哀想なものを見るような目を向けられたかもしれない。

 そう思うと、普段顔を合わせる人たちにそんな目を向けられずに済んで、むしろ良かったのか?
 いやいや、そんなのは今、どうでもいい。
 問題は、どこに行けばエレンの服を買えるのかが分からないという事だ。


 周りには、たくさんの道行く人がいる。
 通りの両側には露店も出ており、そこにはもちろん店番もいる。
 
 こんな事、した事なんてないけど……。

「あの、すみません」
「いらっしゃい!」
「いや、買い物ではなくて」

 通行人を呼び止めて店の場所を聞くのは、少々敷居が高すぎる。
 だから出店の店番に声をかけたのだけど、別の店の事を店番の人に尋ねるのは失礼だったかもしれないと、今更思う。

「買い物じゃないんなら、どうしたんだい?」
「この子の服を買いたいのですが、どこのお店がいいかなと」

 俺がそう言うと、店番のおばさんがエレンに目をやってニコリと笑う。

「おや可愛い」
「こんにちは! エレンはエレン。メェ君はメェ君で、ぷぅちゃんはぷぅちゃんだよ!」
「めぇ!」
「ぷぅ」

 エレンが挙手をしながらいつもの自己紹介をすると、おばさんは「皆、挨拶ができて偉いねぇ」と更に目を細める。

「うちの娘にも、こんな小さな頃があったよ。って、あぁそうだ、服屋さんだったね。それならあそこがいいんじゃないかね? あの鳥の看板の店さ」
「鳥?」

 指さしながらそう言った彼女の指の先を目で追えば、たしかに鳥の絵が描かれた吊り看板が下げられている店がある。

 服が売っているようには見えないが、彼女は「昔からある店だけどねぇ、娘の服もよくあそこで買ったよ。今は娘さん一家が継いでいてねぇ」と言っているので、実際にあるのだろう。

「ありがとうございます。あ、あと、そのクッキーを二つください」
「あいよ! まいどあり!」

 買うつもりはなかったのだが、一度「別の店の事だけ聞いてさようならは、流石に失礼かもしれない」と思ってしまったら、気付かなかったふりはできなかった。

 手のひら大の大判クッキーを二つ貰い、エレンに一つ。
 もう一つを、メェ君とぷぅちゃんと俺とで分ける。

 これから店に入ろうというのに、すぐに食べられない量は買えない。
 二匹には食べられる分だけ、砕いてあげて、俺は残りを食べる。

「うんまぁ!」
「めーめ!」
「えっ!」
「どうしたエレン」

 おいしさに蕩けるような顔をしていたエレンが、メェ君から何事かを言われて固まった。
 不思議に思って尋ねれば、エレンが衝撃を受けた顔のままで見上げてくる。

「メェ君、頬っぺた落ちたって!!」
「あぁ、それは『頬っぺた落ちちゃうくらい美味しい』っていう意味で、本当に落ちた訳じゃないぞ」

 苦笑気味に教えてやると、エレンが見るからにホッとした。
 すると、通りがかりの人が笑いながら足を止める。

「お嬢ちゃんにそんなに言われるクッキーとは、どれほど美味しいのか、気になるね」
「え? ……あっ」

 エレンはそんな事、言ってないけど。
 そう思って一拍後、俺はここで初めて自分の注意力のなさに内心ひどく慌て始める。

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