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【第四章】第二節:初めてのスキル相談室への依頼
第48話 もっさもさの、わっさわさ
しおりを挟むさっき初めて会ったのにもう仲良くなっている辺り、流石はエレンと言うべきか。
「なぁぷぅちゃん。冗談や挑発を抜きにして、いつまでも変なところで引っ込み思案を発動させていると、エレンの作る輪はもっと大きくなっていくぞ?」
「……ぷ」
何か思うところでもあったのだろうか。
ぷぅぷぅと鳴き、体を俺に掴まれたままジタバタとさせていたぷぅちゃんが、急に声も手足も大人しくなった。
「ぷっ」
離せと言われたような気がして、そっと手からぷぅちゃんを逃がす。
すると彼女は空を飛び、エレンたちの元へとまっすぐ向かう。
彼が着地した先は、メェ君の頭の上。
モフッと体を落ち着けた彼を見て、俺は鼻で控えめにため息を吐いた。
どうやら今度は、うまく導けたようである。
「スレイ!」
「どうだった? エレン」
「あのね、いりうすがーでんっていう所に、りすさんのごはんがあるんだって!」
「イリウスガーデン?」
ガーデンという名がついているのだから、おそらく庭なのだろう。
しかし聞いた事がない。
まぁ俺がこの町で知っている事の方が、どちらかというと少ないのだろうが。
「まぁとりあえず、元の通りに戻れば人もいるだろう」
知らない事は、誰かに聞くしかない。
「必要以上に家を出ない、仕事場と要所の行き来しかしない生活が、仇になった感じだな」
頭にぷぅちゃんを乗せたメェ君と一緒に、るんたったと前を歩くエレンに続きながら、俺は自分事ながらに苦笑する。
こんな田舎の町でも魔道具の捜索を依頼される事もあると分かっていたら、少しは町中を把握していたのに。
……あぁいや、そもそもスキルに直接関係のある事も、ない事もすべて知っておく事が、俺が過去に導き出したスキル研究家の在り方だ。
それでいえば、似たような仕事を生業にするにあたり、町の事もこの一年で調べてしっかり頭に入れておくべきだったのだろう。
王城から追い出された原因が原因だったから、今まで必要以上の人間関係を作ってこなかった。
そのお陰でこの一年、多少周りから勘違いされたり遠巻きにされて何か言われたりした事はあったにしても、特に精神的疲労を感じる事はなかった。
まぁそんな状況も、最近は少しずつ変わってきているのだが――。
「あれ? エレンちゃんとスレイさん。こんなところで何してるんだ?」
「あっ、もしかしてこの前教えた動物穴場スポットに行ってた?」
小道から元の大通りに出たところで、見知った顔が声を掛けてきた。
「おおきな木のところ、どうぶつさんがいっぱいいたよ!」
「でしょー?」
「サイチェスさん。少し聞きたいのですが」
「ん? どうした?」
相手が冒険者ギルドでよくエレンの相手をしてくれている人の一人・サイチェスさん一行だったので、ここは彼らに聞いてみよう。
「イリウスガーデンって、どこか知っていますか?」
「イリウス? あそこは鑑賞向きじゃないぞ? 花を見るならルクラーズの丘の方が――」
「リスのエサがあるのがそこだと聞いて」
「あぁなるほど、大きな木のところで見つけたリスにやりたいのか」
違うが、否定すれば「じゃあ何故」という話になるだろう。
余計な口は挟むまい。
「イリウスガーデンは、西の町外れだ。行くなら汚れるだろうから――と、その服なら大丈夫そうだな」
俺もエレンも、朝は今日も仕事を請け負うつもりで家を出た。
そういう服装をしているので、言うまでもないと思ったのだろう。
「ところで、服は買えたのか?」
「あぁ。『店の人に相談するといい』という助言も大いに役立った」
「ならよかった。じゃあ明日は新しい服のエレンちゃん、お披露目だな!」
「エレン、あしたかわいくしてくる!」
「言っておくけど、おめかし用のはダメだからな」
「えー?」
「仕事に行く前にギルドに寄るんだから、汚れるぞ?」
「それはダメ」
「だろう?」
エレンを納得させて、サンチェスさんたちに別れを告げる。
少しの間残念さを引きずったエレンだったが、俺が「イリウスガーデンに行く途中にいるかもしれないからな。エレンとメェ君とぷぅちゃんで、しっかり周りを見ていてほしい」とお願いすると、すぐに嬉しそうに頷いてくれたのだった。
イリウスガーデンは、鑑賞向きではない。
サイチェスさんのそんな言葉の通り、目の前の景色はたしかに「綺麗」と形容できる景色ではなかった。
「き、もっさもさ! くさ、わっさわさ!」
エレンは何故こんなに楽しそうなのか。
ここは、森と呼ぶには緑深くないけど、庭と呼ぶには野生的過ぎる。
手入れを怠ったら植物が以上に成長してしまった、と言うべきか。
伸びっぱなしになった草木が、鬱蒼とした景色を作っている。
「どんぐりの木の群生地だな。これなら探し物のリスも、たしかに好んで来そうだけど」
こんなにも草木が無秩序に育てば、件のリスを見つけるのも一苦労。
そして何より見つけたとして、逃げるリスを追いかけるのにまた一苦労するだろう事は、想像に易い。
「ここにいればいいのだが」
いなかったら探し損になる。
外から見た感じ、それなりの広さだし、流石にこれが空振りだったら、幾ら探し物には根気強さが必要だと分かっているとはいえど、少なからず徒労にガックシとくる――。
「ねぇスレイ。どうやってりすさん、さがせばいいの?」
「え、どうやって……そうだなぁ」
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