【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

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第7話 掬い上げて、くださるのですね

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 まるで私という存在を確かめるように、それでいてまるで「もう逃がさない」とでも言わんばかりに、彼は私を腕の中に閉じ込めた。
 そんな彼の強引さに驚いていると、小さな声が私の耳へと落とされた。

「リリアンヌ、怪我は無いね・・・・・・?」

 まるで囁くようなその声は、私に否応なしに距離の近さを自覚させて。
 頬が一気に熱を帯びるのを感じながら、とりあえず彼に「あの」と弱々しい声を上げる。
 すると「あぁ、ごめん」と言って、やっと私を解放してくれた。

 適切な距離というにはまだ少し近すぎる距離感の中で、彼は笑う。
 まるで綻ぶような、それでいて疑問ばかりの私に向かって「何?」と尋ねるようなその表情に、私は甘える事にする。

「どうして、ここに・・・・・・?」
「君が窮地だと聞いてね、ついここまで来てしまった」
「『つい』って、ここは隣国ですよ?」
「うん、つい」
「・・・・・・ここは王族との謁見の間で、今はまさに謁見中だったのですよ・・・・・・?」
「うん。分かってるけど、つい」

 笑顔で『つい』と言い切る彼に、私は思わず苦笑した。


 呆れではなく苦笑だったのは、その物言いがとても「彼らしい」と思えたからだ。


 いつだって彼は、笑顔で割と適当な事を言う人だった。
 それでも周りから許されるのは、なんだかんだで彼が「すべき事はきちんとする人」だからだろう。
 だから周りは彼の少々の我が儘も「仕方がないな」と許してしまうのだ。

 彼にはそういう不思議な魅力がある。

 
 そんな事を思っていると、彼は私の手を両手で包むようにギュッと握り込んでこう言った。

「不安だっただろう? 大丈夫かい?」

 心配の表情で私の顔を覗き込んできた彼の姿に、私の中の苦笑が一気に吹っ飛んだ。
 その代わりに私の名かへと押し寄せてきたのは、計り知れない安堵と泣きたくなるような嬉しさである。


 私は今まで、周りに望まれて未来の王妃に相応しい淑女で居た。
 そして今日は、望まれる『悪役』になった。

 しかし、それらはすべて作り物だ。
 そう演じることが出来るからといって、何も心まではそう染まれる訳ではないのだ。


 不安だったか・・・・・・?
 不安じゃない筈がない。

 私は、私が悪いことをしていないと知っている。
 しかし誰一人として味方はおらず、あまつさえ濡れ衣のせいで私は公然と処刑されるところだったのだ。

 本当は泣きたいくらい怖かった。

 それを、貴方は。
 
「掬い上げて、くださるのですね」

 国境を越えて、時間をかけて、おそらく臣下や周りの静止さえをも跳ね除けて、彼はここまで来てくれたのだろう。
 私の不安を晴らすために。

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