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第8話 愛を知り、私はついに羽化をする(1)
しおりを挟むそもそも私は、今回の断罪の事実は知っていても、周りに示せる証拠なんてものは何一つとして持っていなかった。
王族の方達が不穏な動きをしていた時、私はまだ淑女だったのだ。
彼らが望むのならば、その望みの通りに断罪される役回りを請け負う事に抵抗など、まるで感じていなかったのである。
だから証拠集めなんて何一つとしてしなかったし、彼の使いが私に与えてくれた『武器』も持ち運ぶつもりは無かったのだ。
それでも実際に今日この場所にそれらを持ち込んでいたのは、ただの気まぐれでしかない。
しかし、その気まぐれの根底には。
(やっぱり「彼が用意してくれたものだから」という理由が隠れていたのかもしれない)
私に対していつも誠実に接してくれた彼が用意してくれたものだからこそ、私はこの場で堂々とそれを『武器』にする事が出来たのかもしれない。
今になって、そう思う。
だから。
「殿下……」
そんな彼に、私は言うのだ。
「先日いただいたあのお話、今受け取らせていただくのは卑怯ではないでしょうか・・・・・・?」
「何が卑怯なものか、私はいつでも大歓迎さ」
その言葉ひとつで私が被っていた仮面がすべて、跡形もなく剥がれ落ちた。
私はもう『従順』でも『悪役』でもない。
今の私は、もう『ただの』リリアンヌだ。
そしてそんな私にしてくれたのは紛れもなく、彼である。
先程からからずっと温度を分け与えてくれている彼の手を、私はぎゅっと握り返した。
そして。
「貴方の下へ、私をお連れください」
そう言って、彼に微笑む。
笑った拍子に頬を伝った温かな雫は、私の心が流した喜びに違いなかった。
やっと解放された事への、私をきちんと思ってくれる人と出会えた事への、そして開かれた未来への喜びだ。
私の言葉に彼は今度こそ破顔した。
それは、私が初めて見る顔だった。
いつものよそ行きを引っ込めた無邪気なその顔に、私の心臓はドキリと大きく跳ね上がる。
その時だ。
「その様子を見るに、貴君はこの件の加担者なのか。隣国の王子よ」
警戒心に満ちあふれたその声が、私と彼の間に割り入ってくる。
その声で、私は現状を思い出した。
ここは私に沙汰を下す場であり、王族やたくさんの貴族の目が在る場所だった。
そんな場所で周りを忘れて自分の世界に入っていたなど、顔から火を吹きそうな程に恥ずかしい。
そんな事を思いながら声のした方に視線をずらすと、そこには国の王族達が顔を苦くして座っていた。
「確かに貴君は彼女を気に入っていた様だったが……まさかお前達」
「誤解のない様に言っておきますが、僕たちは気持ちを通じ合わせるような関係ではありませんでしたよ、今の今までね」
そう言って、彼は私に優しげな瞳を向けてくる。
その瞳があまりに甘くて、恥ずしさにたまらず視線を床に落とす。
すると。
「……まぁ、僕が彼女にずっと好意を抱いていた事は否定しませんが」
俯いた私の頭上へと、はにかむ声が降り注いだ。
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