転んでもタダでは起きないシンデレラ

夕景あき

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月夜の出会い

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シンデレラは屋根裏部屋の窓から、満月に照らされた王城を眺めながら呟いた。

「身分不相応の夢を見るのは間違っているのでしょうか·····」

 夜の屋根裏部屋にポツリと響いたシンデレラの言葉に、か細いキーキー声が答えた。

「·····身分不相応の夢って、王子と結婚したいとかか?」

 シンデレラはギョッとして、窓を背にして屋根裏部屋を見回した。

「だ、誰ですか!?」

 屋根裏部屋にはランプもなく、窓からの月の光だけが部屋を照らしている。
 部屋の中には、いつも通りの藁を積み上げて布をかぶせただけのベッドと2枚だけあるボロボロの洋服と竹箒、母の形見の裁縫セットと、父の形見の日記帳の本だけがある。

「·····聞き間違えでしょうか?」

「聞き間違えでは無い!俺の声だ!ここだ!ここにいる!」

 シンデレラが後ろから聞こえた声に、慌てて振り返ると、窓枠に小さい灰色の小動物が立っていた。

「ね、ね、·····ネズミー!」

 シンデレラは素早く竹箒を手に取り、ネズミに向かって鬼の形相で箒を振りかぶった。

「えーー!ちょ、ま、待って!殺さないでください!·····動物に優しい女性だと聞いてたのだけど!?なんで!?」

「動物は好きですけど、ネズミだけは無理なんです!ネズミは親の仇です。·····見つけ次第、抹殺します」

 最後の言葉だけ妙な低音となったシンデレラの声を聞き、ネズミは震え上がった。

「まてまて!怖い怖い!ちょっと待って!見た目はネズミだけど、俺は人間だから!ホラ!言葉を話してるでしょ!ネズミが言葉を話すなんて普通ではありえないだろ!?」

 ネズミはそう叫びながら、殺戮者の顔をしたシンデレラから逃れるべく部屋の隅に積み上げてある藁の中に走り込んだ。

「·····そう言われてみれば、そうですね。ネズミが言葉を話すなんて不思議です·····」

 振り上げた竹箒をおろし戸惑った顔のシンデレラを見て、ネズミはおずおず藁から顔だけ出して話しかけた。

「あの、俺は人間なんだ。恐い魔法使いにネズミに変えられてしまっただけなんだ!信じてくれ!」

「魔法使いなんて、本当に実在するのですね·····。でも、目の前に確かに、普通では有り得ない喋るネズミがいる訳ですし·····。信じるしかないですね。ネズミにされてしまうなんて大変ですね。殺そうとしてゴメンなさい」

 しょんぼり頭を下げたシンデレラを見て、ネズミは安心して藁から這い出してきて話しかけた。

「さっき、ネズミが親の仇って言っていたが、あれはどういう事だ?」

「私の父も母も疫病で亡くなったのです。町のお医者様から最近の研究で、疫病の原因はネズミが菌を媒介したせいだと判明したと聞きました。その話を聞いて以来、ネズミを見たら殺すようにしているのです。ネズミのせいでまた疫病が流行り、死ぬ人が増えたら嫌ですから·····」

 悲しげな表情で語るシンデレラの話を聞いて、ネズミはナルホドと頷いた。

「そうか、そう言う理由だったのか·····。安心してくれ。俺は毎日風呂入ってるし、清潔だと思う。ここにも転送魔法で飛ばされてきてるんだ。·····それにしても、君は両親共に早くに亡くしてるのだな。疫病が流行ったのは10年以上前だったな。特効薬ができて収束してきたのが8年前だったか·····」

「そうです。母は疫病が流行り始めてすぐの私が3歳の時に亡くなり、父は私が8歳の時に亡くなりました。それから8年はこの屋根裏部屋に追いやられて、継母達に使用人のように扱われながら生きてきました·····」

 シンデレラの話に神妙な顔で頷いてるネズミを見て、シンデレラはクスリと笑った。

「ふふふ·····ネズミと疫病の話をしてるなんて、ふざけた夢を見てるみたいです」

「夢·····そう言えば。先程、君は『身分不相応の夢がある』と王城を見ながら呟いていたな。·····君みたいな年頃の娘の夢なんて、どうせあのイケメン王子と恋愛したいとかなんだろ?」

 ネズミは急に拗ねたようにシンデレラに言うので、シンデレラは驚いて言い返した。

「王子様と恋愛したいなんて、考えたことも無いです!恋がなんだかよく分からないですし·····私の夢は、疫病などの感染対策を学び、この国の民を守れるようになることです。·····でも、私は学もないですし·····身分もないです·····本を読みたいけど買うお金もないです····私が日々行えてる感染対策なんて、ネズミを見つけ次第、抹殺することくらいです·····」

「抹殺されそうになった身としては、なんとも言えない気分になる話だな·····本もないと言うが、本ならそこに1冊あるではないか·····」

 ネズミが小さい指で、日記帳の本を指し示した。

「あれは私が唯一持っている形見の、父の日記帳です。8歳までつけてもらっていた家庭教師からの知識と、あの日記帳で知った情報が私の唯一の学と呼べるものです。父は商人で多くの国と取引をしていたから、各国の様子が日記帳には書かれています」

シンデレラは読みふるした日記帳を手に取り該当の所を開き、指でなぞりながら続きを話した。

「遠い東の大国では平民でも女でも、子供なら誰でも学校に行けるそうです。その国では感染対策により、疫病を早くに撲滅させたらしいです。そして感染対策に大きく貢献したのが1人の女性議員と書かれています。私はその人に憧れているのです」

「君の夢は、立派な夢だな·····低俗な夢だと決めつけて悪かった。疫病から国民を守るという夢のために、見つけ次第ネズミを殺すという、自分の出来ることを実践している君を尊敬するよ」
 
 ネズミがうなだれながら返す言葉に、シンデレラは微笑んだ。

「私の夢を肯定してくれて、ありがとうございます。自分で自分の夢を信じられなくなっていたので、少し元気が出ました」

 ネズミは一瞬、シンデレラの笑顔に見とれていたようだが、すぐしかめっ面をして言った。

「それにしても、東の大国の話を聞くと、この国はとんでもなく遅れているように感じるな·····国政を担うのは頭の硬い、腰の重い老人ばかりで何かって言うとすぐ、伝統を重んじろやら、前例がないやらそればかり·····」

「東の大国には憧れますが、この国にはこの国の歴史がありますし、きっとこの国ならではの良さもあるとも思います」

「この国の良さか·····」

シンデレラはネズミの眉間のシワを指でチョンとつつきながら微笑んだ。
 
「ふふふ·····ネズミさんと国について話すなんて面白いです·····それにしてもなんで、ネズミになる魔法なんてかけられてしまったのですか?魔法を解く方法はあるのですか?」

ネズミはシンデレラを見上げて、困ったように言った。

「魔法使いに、魔法をかけられてしまった理由は·····不運としか言い様がないんだ。そしてこの魔法を解く方法は『王城のイケメン王子様より、ボロネズミの方が好き』と思ってくれる女性に恋してもらうしかないらしい···············絶望的だろ?」

「·····絶望的ですね。どうりで王子様を敵視してると思ってましたが、そんな理由があったのですね」

 シンデレラとボロネズミの1人と1匹は途方に暮れた顔で、月夜に照らされた王城を眺めるのだった。

 
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