8 / 10
8話
しおりを挟む「ぐっ……!」
因果応報ともいえる自らの台詞をそっくりそのまま返されて、ジョンはたじろぐ。
その時、ヘレンがヒステリックに叫び始めた。
「ね、ねぇ! 嘘よね!? 財産の半分なんて、そんなの払えるわけないわ!」
そんなヘレンの言葉に裁判官は冷たい声で素っ気なく返答をする。
「いいえ、嘘ではありません。裁判官である私が嘘をついたところで何のメリットもありません。すべて事実です。それに私が提示したのは相場ですから、詳細な判決が出ればもっと慰謝料が高くなる可能性があります」
「そ、そんな……」
淡々と突きつけられる事実に、ヘレンは絶望したように膝をついた。
これでようやく大人しくなったか、とヘレンのヒステリックな叫びを鬱陶しく感じていた私は、ヘレンが落ち着いたことに安堵した。
しかし次の瞬間、ヘレンはとんでもないことを言い始めた。
「お願い! 私は知らなかったの! コイツが浮気してるなんて全く、これっぽっちも知らなかったの!」
「は?」
「なっ!? ヘレン!?」
ヘレンはジョンを指差して叫ぶ。
私は心の中でヘレンの思惑を理解した。
ヘレンは恐らくジョンが妻帯者であったことを知らない、と言い張り慰謝料から逃れようとしているのだろう。
最も、そんな稚拙な企みが通じるはずもない。
「はぁ……急に何を言い出すかと思えば、無駄ですよ。今更知らなかったフリをしても」
「え?」
「役所に行けばクラーク伯爵が結婚していることも、相手もすぐにわかります。貴族の情報は公開されていますからね。つまり、知らなかったのはあなたの怠慢であり、慰謝料が無くなる理由にはなりません」
「……嘘よ。そんなの嘘! ねぇ、お願い! 私だけは、私だけは助けてちょうだい! 本当に知らなかったの! なんなら、この男と今すぐに別れたっていいわ! だから、それだけは勘弁して!」
「な、何を言い出すんだヘレン!」
「うるさい! 全部あんたのせいよ! 私は幸せにならないといけないの! こんな借金を背負うなんて、絶対に嫌!」
ヘレンは頭を抱え、涙を流していた。現実を受け入れたくないようだ。
一方、ジョンはヘレンに裏切られ、憎悪の熱を滾らせていた。
憎しみのこもった瞳でヘレンを睨んでいる。
「……私の手紙の中に妻がいることを記しているものがあります」
「……ジョン?」
その言葉を発したのはジョンだった。
ヘレンに裏切られたジョンは、彼女を地獄に落とす決意をしたらしい。
ヘレンはジョンの言葉の意味を理解して涙を流しながら、ジョンへ怒声をあげる。
「あんた! なんてことするのよ! ふざけないで!」
「お前こそふざけるな! 女のくせに私を裏切るなんて!」
ヘレンとジョンは叫び合う。
部屋の中は地獄のような空気になっていた。
私はそれを満足しながら眺めていた。
143
あなたにおすすめの小説
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
ごきげんよう、元婚約者様
藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」
ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。
手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。
※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。
※ 3/25 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
貴方が要らないと言ったのです
藍田ひびき
恋愛
「アイリス、お前はもう必要ない」
ケヴィン・サージェント伯爵から一方的に離縁を告げられたアイリス。
彼女の実家の資金援助を目当てにした結婚だったため、財政が立て直された今では結婚を続ける意味がなくなったとケヴィンは語る。
屈辱に怒りを覚えながらも、アイリスは離縁に同意した。
しかしアイリスが去った後、伯爵家は次々と困難に見舞われていく――。
※ 他サイトにも投稿しています。
私は人形ではありません
藍田ひびき
恋愛
伯爵令嬢アリシアには誰にも逆らわず、自分の意志を示さない。そのあまりにも大人しい様子から”人形姫”と揶揄され、頭の弱い令嬢と思われていた。
そんな彼女はダンスパーティの場でクライヴ・アシュリー侯爵令息から婚約破棄を告げられる。人形姫のことだ、大人しく従うだろう――そんな予想を裏切るように、彼女は告げる。「その婚約破棄、お受けすることはできません」
※なろうにも投稿しています。
※ 3/7 誤字修正しました。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
身勝手な婚約者のために頑張ることはやめました!
風見ゆうみ
恋愛
ロイロン王国の第二王女だった私、セリスティーナが政略結婚することになったのはワガママな第二王子。
彼には前々から愛する人、フェイアンナ様がいて、仕事もせずに彼女と遊んでばかり。
あまりの酷さに怒りをぶつけた次の日のパーティーで、私は彼とフェイアンナ様に殺された……はずなのに、パーティー当日の朝に戻っていました。
政略結婚ではあるけれど、立場は私の国のほうが立場は強いので、お父様とお母様はいつでも戻って来て良いと言ってくれていました。
どうして、あんな人のために私が死ななくちゃならないの?
そう思った私は、王子を野放しにしている両陛下にパーティー会場で失礼な発言をしても良いという承諾を得てから聞いてみた。
「婚約破棄させていただこうと思います」
私の発言に、騒がしかったパーティー会場は一瞬にして静まり返った。
あなた方の愛が「真実の愛」だと、証明してください
こじまき
恋愛
【全3話】公爵令嬢ツェツィーリアは、婚約者である公爵令息レオポルドから「真実の愛を見つけたから婚約破棄してほしい」と言われてしまう。「そう言われては、私は身を引くしかありませんわね。ただし最低限の礼儀として、あなた方の愛が本当に真実の愛だと証明していただけますか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる