お前は家から追放する？構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ？

1話

「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ？」

　静かな食堂の間。
　私の父アランは私に向かって突然追放すると告げた。
　同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
　いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言に私は戸惑いよりも心底呆れた。

「何を言っているんですか。この領地を経営しているのは私ですよ？」
「うむ、その経営もここ数年軌道に乗ってきたからな、お前はもう用済みだ」

　笑顔でそんなことをのたまう父の正気を疑った。
　しかしどうやら父は本気で言っているらしい。

　実はこの五年間、私がこのアトキンソン家の領地を経営していた。
　なぜこんな伯爵令嬢が領地経営をしているのかというと、両親が貴族の責務を投げ出して領地の経営をしなかったからだ。
　結果、アトキンソン家の領地は荒れてしまった。
　これは不味いと思った私が領地経営に乗り出し、ここ数年ようやく軌道に乗ってきたのだ。

　なのに何故こんなことが言えるのだろう。
　私はため息をついて席を立ち上がった。

「こんな茶番に付き合っている暇は無いのでもう行かせてもらいますね。まだ仕事が残っているので」
「黙れ！」

　父が机に手を叩きつけて怒鳴る。

「お前は追放すると家族全員で決めたんだ！　もし出ていかないなら、強制的に出て行かせるぞ！」

　父は睨みを効かせて私に凄む。
　そんな父に私は深くため息をついた。

「はぁ……、そんなこと出来るわけないでしょう。やっぱり全然分かってないじゃないですか」
「なに？」

　私の意味ありげな言葉に父が訝しげな顔になるが、どういうことかは詳しく説明しない。

「まぁでも、そこまで出ていって欲しいなら出ていってあげますよ」

　私がそう言うと父を含め全員が大笑いした。

「ははは！　何だ！　やはり出ていくんじゃないか！」
「抵抗もしないなんてとんだ腰抜けね！」
「強がって本当に可哀想な奴だな！」
「私、お姉さまみたいな人だけにはなりたくないわ！」

　全員腹を抱えて私のことを指差し笑っている。
　私はその家族たちを哀れむ目で見ていた。

（かわいそうに……。これから地獄を見るのに）

　だって、この家の全権力を握っているのは私なのだから。