【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

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第六章「結びあう魂」

6、勝利のご褒美は……

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 おもむろに意志を固めた私は、攻撃を受けながら馬から滑り降りる。

「あらあら、シア、とうとう馬を捨てたの」

 あとは馬を壁がわりにして陰で守護剣に力をため、逃げ切れない範囲の大きさの攻撃を一思いに放つのみ。
 性能差ゆえ、母の剣では防ぎきれない威力で――

「デリアンへの恨みを晴らすためなら、私は何でも捨ててみせるわ!」

 慌てて剣を構えた母は、大きな黒炎の塊の直撃を受け、馬もろとも吹っ飛ばされた。

「ぐはっ……!?」

 それでも空を舞いながら回転して、地面に着地した母はさすがといえた――が、鮮血が溢れだす腹は、一目で致命傷だと分かるほどに深く裂けていた。

 にもかかわらず立っている母の顔には、なぜか苦痛よりも、満足げな笑みが浮かんでいた。

「……シア、よくぞここまで、成長したわね……」

 最期に生まれて初めて母親らしい優しい言葉をかけると、糸が切れたように地面に崩れていく。

 私は駆け寄りたい衝動をぐっと堪え、

「お母様、この罪は必ず地獄で償うわ!」

 母の亡骸に誓うと、胸を引き裂くような悲しみを振り払うように、馬に飛び乗り夢中で駆けだした。

 余計な時間をくったぶん、セドリックが消えた方向へ最短で進むため、鉄をも紙のように斬る魔法剣を奮い、前方に立ち塞がる敵をことごとく斬り飛ばしていく。

 ――そうしてついに目印の白銀の兜と真っ青なサーコートを見つけたとき、セドリックはすでにリューク王と対峙していた―

 私は全力で駆け寄りながら声を張り上げて志願する。

「下がって、セドリック! あなたがやられたらお終いなのよ。
 私が先にその男の相手をするわ」

「シア!」

 いくら老いていても、武で鳴らしてきたリューク王の相手は、絶対的に戦いの経験不足のセドリックには荷が重い。

 ところが、セドリックは大きく頭を振り、

「いいや、これは君にも誰にも譲ることのできない戦いだ」

 きっぱり断り、一際目立つ黄金の兜と鎧をつけたリューク王へと白く輝く聖王の剣の先を向ける。

「簒奪王リューク! 父の、母の無念を晴らし、正統な王位を取り戻すため、このセドリックが今ここに一騎打ちを挑む!」

 対する余裕と貫禄をみなぎらせたリューク王は、あざけるように喉を鳴らす。

「ほう、これは愉快だ。乳飲み子と思っていた甥っこが、ようやく口をきける程度には育ったらしい。
 ここはぜひとも、叔父として可愛がってやらねばなるまい。
 いいだろう、挑戦を受けて立とう」

「セドリック、お願い、止めて、撤回して!」

 騎士同士で挑戦者が一対一の戦いを申し込んで相手が受け入れる、お互い同意の一騎打ちが成立したら、以降、手出しをするのはルール違反だった。

「大丈夫だ。シア、君への愛に賭けて戦う僕は、決して誰にも負けはしない。
 お願いだから信じて、そこで黙って見ていて欲しい。
 そしてどうか僕が勝利した暁には、祝福の口づけを――」

「……っ!」

 硬い決意をうかべたセドリックの表情に、説得しても無駄だと悟って諦めた。

「分かったわ、セドリック。口づけでも何でもしてあげるから、必ず勝ってちょうだい!」

 必死な思いで約束したとき、背後から却下の声が飛んでくる。

「なーにが、口づけよ。させるものですか!」

 振り向くと、逆巻く炎のように真紅の巻髪を広げて、馬を寄せてくるエルメティアが見えた。

「セド、こんな大事な場面でもあんたのそのおめでたい脳みそには、大好きなシアのことしか詰まってないのね。
 幼い頃から、もういい加減、うんざりなのよ。
 お父様、お願いだから、その馬鹿を私にらせてちょうだい!」

 緑色の瞳をらんらんと燃し、嫉妬ともとれる発言をするエルメティアと、馬を回して向かい合った私は、ばっ、と黒く燃え立つ守護剣を突き立てる。

「いい加減にするのはあなたでしょう?
 セドリックを馬鹿呼ばわりすることも、仇討ちの邪魔も、この私が許さないわ!」

「はん、許さないですって?
 デリアンの話によると、少しは剣を使えるようなったようだけど、シアごときが私にでかい口を叩くなんて百年早いのよ!
 いいわ戦って、身のほどを直接身体に刻みこんでやり、ついでに腸を引きずり出して、その生意気な口に突っ込んでやるわ!!」

 およそ姫君らしからぬ口汚い言葉を吐くと、エルメティアは真っ赤に燃え立つ炎女神の剣を構えた。

 張りつめた空気のなか、背後からリューク王のかけ声と金属音がする。
 しかしセドリックを信じることに決めた私は、決して振り向かなかった。
 代わりに自分の戦いを始めるため、復讐の女神の剣をしっかりと握り直す。

「こちらこそ、長年に渡る嫌がらせと侮辱、デリアンと一緒に私を笑い者にした恨みを、そっくり今こそまとめて返してやるわ!」

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