熱い風の果てへ

朝陽ゆりね

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9、事変、謀反

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 翌朝、早々に朝食を終えると、沙良はラムセスとラトゥタに連れられ、ハリハラ邸にやってきた。

 一連の説明をラムセスが行っている間、沙良は一言も口を挟むことなく、ジッと様子を見守っていた。説明が終わると、ラトゥタをその場を残し、沙良とラムセスは離れの館に向かった。

 侍従たちが丁寧に頭を下げて立ち去る中を進み、奥の部屋に入る。

「ラムセス!」

 甲高い声が部屋中に響いた。二人はベッドに歩み寄った。

「サーラ、サトラーだ」

 沙良は目を見開き、愕然とベッドに横たわる少女を見つめた。十五歳ぐらいの少女だった。

「彼女は体が弱くて外に出られん。ほとんどを館の中で過ごしている。サトラー、わけあって保護し、今は母上の弟子として迎え入れられたサーラだ」

「おば様の弟子?」
「そうだ。イシスの占い師としての素質があるらしい。俺にはわからんが」
「サトラーよ、よろしく」

 その目には明らかな嫉妬の色がある。だが、沙良はまったく気にならなかった。気になるのは彼女の容姿のほうだ。

 サトラーはとてもエジプト人とは思えない姿をしていた。肌の色が白く、髪も金に近い茶色をしている。そしてなにより、目が赤い。沙良は一目でみなの言葉の真意を悟った。

(アルビノ!)

「サーラ」

 ラムセスに促され、我を取り戻す。それから微笑んで手を出した。

「よろしく、サトラー」
「……なに?」
「握手よ。私の国では握手をして友好を深めるの。イヤ?」

 サトラーは一瞬躊躇し、それからおずおずと手を出した。沙良はその手を両手で優しく握り締めた。

「これからよろしくね。私、ここにきてまだ日が浅いの。エジプトのこと、よく知らないし、友達もいないから仲よくしてね」

 サトラーが胡散臭そうに沙良を見ている。彼女がなにを言いたいのか察し、沙良は穏やかに微笑んで続けた。

「心配しないで。あなたのラムセスを取ったりしないわ」
「…………」

「ホントよ。私、今はラトゥタ様のお手伝いをすることになったけど、自分の世界に帰りたいのよ。だからあなたからラムセスを取っている余裕なんかないの。それよりも、この世界で仲よくできる友達のほうが欲しいわ」

 沙良の笑みに、サトラーの表情がわずかに弛んだ。

「紫外線が体によくないのよね。部屋から出られないって退屈でしょ。私、ちょくちょく通うわ」
「シガイ、セン?」

「太陽の外側の光のことよ。太陽の光には幾つかの要素があって、その中の一つが肌によくないの。ほら、焼けて黒くなるじゃない。あの現象を作るのが紫外線なの。あ、シミを作るのはメラニンだけど」

 サトラーは驚いたように目を丸くした。同様にラムセスも驚いている。

「サーラって、物知りなのね! 神官様たちより詳しいかもしれないわ!」 
「そう? じゃー、サトラーの知りたいことで、私の知ってることを話しに通うわね。そうしたら退屈しないでしょ?」

 サトラーの目が驚きに丸くなり、それから歓喜にそれに変わった。

「素敵! すごく素敵! えぇ! お願い!」

 嬉々とした笑顔を、沙良は満足したように見つめた。

 昼過ぎ、帰路についた。帰宅するとそれぞれ沐浴を済ませ、昼食の席に着く。

「サトラーのことは礼を言う。あんな楽しそうな顔は久しぶりだった」
「いいの。友達がいない寂しさは私が一番よく知ってるから」

 ラムセスが不可解な顔をしたが、沙良は気にせず食事を進めた。

「そろそろ儀式も終盤の頃だな」

 ホルエムヘブが口を開いた。

「出ないのは痛手だが、大神官の晴れの姿を見ないで済むのはありがたい限りだ」

「まぁな。『祝いの儀』なんて言っているが、実際はアメン神官どもの権力を誇示する場にすぎん。ヤツのイヤなツラを見ないでいいってのは確かにツイてるよなぁ。あのクソ爺、ヘドが出るぜ」

 そんな話で盛り上がり、飲み物が運ばれてくる。みなが一息ついた時、若い男が血相を変えて転がり込んできた。

「何事だ、騒々しい」

 ホルエムヘブが怒鳴った。

「た、たた、大変でございます!」
「もっと静かにしないか。親父殿の棺の前で、失礼であろうが」

「大変でございます! アメン神の『祝いの儀』の席で、ファラオが何者かに襲撃され、現在意識不明の重体だと大騒ぎでございます!」

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