熱い風の果てへ

朝陽ゆりね

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13、二人きりの夜と計画の開始

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 翌朝早く、二人は本隊を残して先にカデシュに向かった。本隊はザンナンザがカデシュ入りしてからのほうが、油断するだろうという見立てであった。

「これを渡しておく。太ももの内側に巻きつけて隠しておけ」

 手渡されたのは小さく細長い筒だった。

「コブラの毒だ。万が一って時は野郎の口に放り込め。俺が間に合わなかった時、代わりにお前を守ってくれる。いいか、そいつは猛毒だ。飲めば声も出ず、わずかな時間で泡を吹いて死ぬ。扱いには気をつけろ」

「うん、わかった」

 沙良はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「お前の身は俺が必ず守る。約束する、サーラ。それから、こんな危険な真似は今後させない。最初で最後だ。エジプトの戦いに、これ以上、巻き込まない。これも、約束する」

「大丈夫、信じてるから」

 ラムセスはしばし俯き、沈黙した。が、顔を上げると再び厳しい口調で続けた。

「この役目を果たしたら、アイがファラオになるだろう。だが、同時にエジプトはヒッタイトと全面戦争に入るはずだ。どんな方法を用いても、シュッピルリウマは王子への報復に出るだろう。エジプトは激動する。おそらく、この数年間は不安定で危険な日々が続く。俺は――勝ち抜くことができるのだろうか?」

「…………」

「お前は俺に向かってファラオになると言った。新しい王朝を作るって。しかし俺の考え方を否定した。サーラ、許されるなら教えてくれ。俺はホルエムヘブを信じ、あいつをファラオに立ててエジプトを変えようと決意した。お前の言葉を信じ、ファラオになって国を変えるのではなく、国を変えてからファラオになるんだと解釈した。それでいいのか? 俺は間違っていないか?」

 なんとも言い難い複雑な目だ。いつものふてぶてしいラムセスとは異なっていた。それだけ彼も不安なのだろう。

 無事目的を果たしてヒッタイトの王子を暗殺しても、ラムセスが殺したという証拠が残れば、必ず執念深くつけ狙われ続けることだろう。さすがにそれはラムセスにとっても辛い日々となる。片時も緊張を解けないというのは、どんなに頑強な精神力を持っていても耐え難い苦痛だ。

 沙良はなにを、どう答えようか迷った。

「サーラ」
「私は、あなたがファラオになるって言ったわ。私はあなたがラムセス一世って呼ばれることを知ってる。それじゃ……ダメ?」

 二人は互いを食い入るように見つめ合い、その瞳に宿る輝きを見つめ続けた。

(サーラの心の奥底に隠された、秘密の心で世界は変わる。秘めたるものは、秘められているからこそ効力を発揮する――問い詰めてはいけない)

 ラムセスはラトゥタの言葉を思い出した。彼女の黒い瞳に映る自分自身を見、邪念を払うかのように目を閉じて首を左右に振った。

「いや、十分だ。すまない、俺はいつもお前を困らせるな。反省するよ」
「うぅん、いいの。私もラムセスに協力したいから」

 緊張に強張った沙良の顔を慈しむように眺めると、ラムセスは優しく頷いた。

「そろそろヒッタイトの連中が到着することだろう。サーラ、頼んだぞ」
「うん」

 後はザンナンザを待つだけだ。そして一行を見つければ、ひたすら兵士の誰かが一人になるのを待つ。時間との戦いだった。

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