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第26話 これでチェックメイトだ……!
しおりを挟む『男と食事するとか幻滅しました。今までひかるんのこと応援してきた俺の時間を返してください。ファンのこと裏切るんですか? 俺は女性と食事とかいったことないのに…… 50000円』
一人のひかるんガチ恋勢の男が、そんなコメントを残した。
正直、これには俺もドン引きだった。
「な、なんじゃこいつは……」
そこからコメント欄が一気に荒れ狂う。
『うわwwwwきっしょwwww』
『食事くらい普通にするだろw』
『お前みたいなファンがいるからひかるんが苦しむんだよ』
『裏切ったのはお前定期』
『女性と食事行ったことないのはお前の問題だろw』
『お前のこととかどうでもよくて草』
『ひええええええwwwww』
『これが厄介ガチ恋勢か……』
さすがにこれはひかるんもスルーするだろうな……。
そう思いきや、男のコメントは高額スパチャのせいで、コメント欄のトップに表示され続けている。
なので当然、ひかるんの目にも入ってしまうわけで……。
ひかるんは、少し涙目になりながらこう言った。
【な、なんでですか……? なんで私が食事にいったらファンを裏切ったことになるんですか? 私にはそんな自由もないんですか?】
拾わなくてもいいのに、ひかるんは男のコメントを読み上げ、そんな反応を見せた。
ひかるんに男が返事をする。
『そりゃそうですよ。こっちは全部をひかるんに捧げてるんだから……! ひかるんも俺たちのことちゃんと見ていてくれないとだめですね。もう幻滅しました。このクソビッチが! もう二度と見ないからな……!』
『ファーwwwwwなんじゃこいつ……www』
『だめだこりゃ……』
『もう無視しよ』
『ひかるんもこんなの相手しないでいいよ』
するとひかるんは、泣き出してしまった。
【う……うう……ごめんなさい……。私の行動があなたを傷つけてしまったのなら、謝ります。引き留めることはしません。仕方ないですもんね……。でも、いままで応援してくれてありがとうございました】
泣き出したひかるんに、男がさらに追い打ちをかける。
『泣いたからって許されないからな。泣けばいいと思うなよクソ女!』
【う、うう……ごめんなさい……ごめんなさい……全部私が悪いんです。辻風さんはなんにも悪くありません……だから、どうかみなさん、許してください】
コメント欄が、一気にはやくなる。
ひかるんを泣かせた男を許せないと、みんなは怒り狂う。
『おい誰かこいつBANしろよ』
『あーあ、ひかるん泣かせた』
『ひかるんはわるくないよ!』
『ガチ恋勢きっしょ……ちゃんと縄につないどけ』
『クソはてめえだよ!』
これには正直俺も、かちんときた。
いくらなんでもひどすぎる。
ひかるんはなにも悪くないのに。
このファンの男は、ひかるんを傷つけた。
俺はそれを、許せないと思った。
するとひかるんはコメント欄の険悪な雰囲気に耐え兼ねて、そうそうに配信を終了してしまった。
そして、ひかるんが配信を終了させたと同時。
こんどは、滝川アソレがまたツイートをした。
【人気ダンチューバーひかるん、ファンを裏切るwwwwww】
そんな内容とともに、先ほどの配信の切り抜きが投稿されている。
滝川アソレという男は、どうしてもひかるんを炎上させたいみたいだ。
こいつ……どこまでもクソだな。
明らかにさっきの配信、悪いのはファンの男のほうだ。
なのにそれをひかるんが悪いみたいに切り抜きやがって……。
滝川アソレの信者たちも悪乗りして、アソレに乗っかるようなリプライを送る。
「こんなの……見てられない……!」
だが、俺と同じ思いの奴も多いようだ。
滝川アソレを叩くようなリプライも多数あった。
『これはさすがに無理筋では』
『ひかるんなにも悪くないような……?』
『いやおかしいのはこの男だろw』
『アソレどうした……?』
しばらくして、一件の別のツイートが流れてきた。
かなりのいいね数とリツイート数がある。
【最近の滝川アソレはやりすぎだと思う。前はこんなんじゃなかったのに……。軽い判断で一人の人間の人生を終わらせれるレベルまでなってるから、そろそろ永久凍結したほうがいい】
そのツイートは、多くの共感を得ていた。
みんな、近頃の滝川アソレの行動に不信感を抱いていたようだ。
どうやらこれまでの滝川アソレのツイートは、どれもまあ、賛否両論はあるものの、まだ納得のいくようなものが多かった。
たとえば、闇に葬られかけたいじめの告発など、社会で裁けない悪を暴くようなもの。
滝川アソレはいわば、必要悪として受け入れられていた部分がある。
だが、それによって力を持ちすぎてしまい、今の滝川アソレは、誰にも手がつけられなくなっているのだ。
ようは、増長しすぎている。
それは、多くのTwitterユーザーが感じていることだった。
『最近のアソレおかしいよな』
『やりすぎだわ』
『前は共感できたけど、これはだってひかるん悪くないもんな』
『最近のアソレ自我出してきててキメェ』
たしかに、これには俺も違和感を感じた。
滝川アソレはこれまで、いろんな炎上をまとめて、拡散してきている。
例えば、すし屋で醤油さしを舐めた高校生を晒上げたりなどだ。
それらはどれも、まあ、晒された側もなにかしら悪い部分などがあった。
だからこそ、滝川アソレは共感を呼び、一種の正義としても扱われてきていた。
だが今回のケースはおかしい。
まずひかるんは明らかに悪くない。
滝川アソレはひかるんを恣意的に悪者にしようとしている。
これって……どういうことだ……?
今までのアソレの行動と、明らかに矛盾しているのだ。
これまでのアソレは、こんなふうに私怨で行動するようなアカウントではなかった。
「私怨……? そうか……もしかしたら……」
俺は、そこで気づいてしまった。
もしかしたら、アソレはもともとひかるんのファンだったんじゃないのか?
それで、裏切られたと感じ、こんな奇行に出たのでは?
その自己中な思考回路は、どこかあのコメントでひかるんを泣かせた男に似ている。
というか……もしかしたら同一人物……?
俺のなかで、点と点がつながったような気がした。
「これは……たしかめてみる価値はあるな……」
俺はいそいで調べることにした。
滝川アソレとさっきのコメントの男が同一人物である証拠……それがどこかにあるはずだ。
俺はこれでもそこそこ腕のあるプログラマーだ。
このくらいのハッキングはお手の物。
俺はひかるんを傷つけたやつを、絶対に許さない。
「ビンゴ……!」
しばらくして、俺は決定的な証拠を見つけた。
さきほどひかるんの配信に現れたガチ恋勢の男、そいつのアカウントと滝川アソレのアカウントは、ダンチューブとTwitterで紐づけされていたのだ。
つまり、同一人物だ。
「滝川アソレ……これでチェックメイトだ……!」
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