くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち

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第71話夏と鬼と駅前でランチ

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 夏の日差しの中、杏樹は友人と駅で待ち合わせをしていた。

 日差しは強く、お世辞にも過ごしやすいとは言えない。

 でも今までなら駅なんて人の多い場所は何かと理由をつけて遊びに行くこと自体を断っていたに違いない。

 だがむやみに駅は知らない妖怪が多いと怖がっていたのは今は昔の話。

 なぜ大丈夫なのかと言えば……そういう良くないものに対しての対抗手段があるからだ。

「ヤッホー待った?」

「大丈夫。今来たところ」

 なんて友人と恋人同士のような言い回しをして笑い合う。

 遅れてやって来た風野 真理はすまないとあやまりながらも、すでに暑さに参っているようだった。

「いやーあっついねー。今年の最高気温また更新だってー。地獄のような暑さだよー」

「……いやー、ホント暑いよねぇ」

 ただ、汗ばんだ服をパタパタ動かしている友人の感覚はおそらく間違っていない。

 きっとこの場所は他の日照りの場所よりもずっと暑いはずである。

「……」

 杏樹が我慢出来ずにチラリと視線を横に動かすと、そこには暑さとは別ベクトルの地獄が広がっていた。

「人様の集まる駅で、迷惑行為とはとんでもない輩だ。申し開きをしてみろ? ん? どうだ? 何とか言って見ろ?」

「逃げようとしてる? 出来るわけないでしょー? マジウケるんですけどー」

「私の炎は浄化の効果がありましてね。……ホラホラ、魂が綺麗になってしまいますよ?」

 駅の広場で、見た目恐ろしい肉の塊のような妖怪が筋肉逞しい女性鬼にこん棒でシバかれている。

 妖怪は暴れているのはわかるが、ろくに抵抗は出来ていないようだ。

 吸血鬼がその体から伸ばした謎の黒い縄状の何かに拘束されて、ミノムシの様に吊るされているのだから当然だった。

 更にその状態で青白い炎の塊が相当強火で妖怪を炙っていた。

 あまりの絵面に、杏樹は思わず視線をそむけた。

 何でこんなことになってしまったのか……それは30分ほど前に遡る。



「ちょっと早く来すぎちゃったなぁ……」

 移動に時間がかかるから少し早めに出たのだが、思ったよりもスムーズについてしまった杏樹は駅前で暇な時間が出来た。

 そんな時、見かけたのが現在ひどい目に合っている妖怪だった。

「……嫌な感じのがいるな」

 ひどく疲れた顔をした女性にこの妖怪は憑りついていて、肩に乗ったままニタニタ笑っていた。

 明らかに人を怖がらせるための不気味な姿は、どういう存在の妖怪なのか杏樹にはすぐさま察することが出来た。

 しかし杏樹だって学んでいる。

 ここで見知らぬ人に、怪しい行動をとったところで不利益にしかならないと。

(今ここではいったんスルー……)

 そう決めた杏樹が女性から視線を外していると―――アプローチをしてきたのは向こうの方からだった。

「おい貴様……何のつもりだ?」

「!」

 だが、いつの間にか疲れた女性の肩から消えていた妖怪は杏樹の背後で捕まっていた。

 むんずと妖怪を鷲掴みにしているのは、鬼神であり、ボディガードでもあるヒガンである。

 すっかりボディガードが板についてきた彼女は今回もばっちり役目を果たしてくれたようだった。

「杏樹は黙っていてよいぞ。我が眼は卑しい心を暴く。なになに? 人間の女に憑りついていたが? うまそうな女がいたので? 一舐め味見をしてみようと思った……などと考えているが?」

「……」

 全身に鳥肌が立ったけれども、どうしたいかはハッキリした。

 杏樹はなるほど?っと微笑み、自分の首筋を人差し指でなぞって見せた。

 すると鬼らしい荒々しい笑みを浮かべて、ヒガンは頷く。

「わかった。こういうのは得意だ。……さてどうしてくれようか?」

 するとどこからともなくバサバサと羽音が聞こえて、吸血鬼のリリーがこちらにやって来て、手を振っているのが見えた。

 今は霊体の様で、周囲の人には全く姿が見えてはいない様子である。

「なんか面白そうなことやってんじゃーん。混じっていいー?」

「何だリリー。いたのか」

「駅前は割と来てるんだってー。たまにおみやげ買ってくるでしょ?」

「ああ、あれはそう言うことだったのか」

雑談に二人が興じている間にも、不審者妖怪は逃げようと頑張っていたが、鬼の力からのがれられるわけもなく。

 しかしさらに追加で杏樹のカバンからメラリと立ち上った炎が暴れる妖怪を包み込んで拘束した。

『往生際が悪い。逃げられるわけがないだろう?』

 普通の人には見えない炎が妙にやる気を出しているのは一目瞭然だった。

 いつもいるわけじゃないのに、こういう時に限って三人揃った鬼達は、妙なところでピタリと気が合うわけだ。



 で、あれよあれよという間に駅前はひどいことになった。

 さっきまであんなに恐ろしげだった妖怪は鬼に睨まれ、尻尾を掴まれたオタマジャクシのようにもがいていて、いっそ哀れである。

 この光景が自分にしか見えていないことは、不幸中の幸いだと杏樹は心から思った。

「……まさに地獄だ」

「ねー。うん、早くエアコンあるとこ行こうよ」

「そ、そうだねー」

 杏樹の身を守ると約束している、鬼神、吸血鬼、鬼火。

 三人の鬼はハッキリ言って強くなる不思議なプラモデルなんてなくても、そん所そこらの妖怪くらいプチリと潰せる存在である。

 だからこそ杏樹は安心できるのだけれど……どうにも別種の不安が掻き立てられる光景なのは間違いなかった。

 でも杏樹はグッともろもろの感情を飲み込んで深く頷き、何事もなかったかのようにニッコリ笑った。

「それじゃあ―――向こうにコーヒーのおいしい店があるんだ。行ってみようよ」

「いいね! なんか冷たいものも食べたい!」

 何はともあれ、憑りつかれていたお姉さんの顔色が目に見えてよくなっているし、気がかりが一つ解決した。

 せっかく遊びに来たんだもの。楽しまないと損!

 そう、杏樹は結論する。

 何やら大切な価値観を、ポロリと駅前の地獄に落としてしまった心地だったが、杏樹は今日も元気だった
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