くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち

文字の大きさ
76 / 77

第76話その時何かが起こった

しおりを挟む
 会場がどよめく。

 無理もない。あの迸る力強さは僕ですら想定外だった。

 しかし実際に中身が入ればこの通り、筋肉に神は宿ったという事だ……まぁ実際に宿ったのは河童の三瓶君だが。

 僕は腕を組み、ムフーと鼻息を荒くした。

「どうだろう? 筋肉と血管の表現にこだわったんだが?」

 こだわりを披露すると神木さんがじとっとした視線を向けて来た。

「それは見たらわかるんだけど……こだわりが戦闘力に直結しちゃってない?」

「……その可能性はなくはないけど……まぁビームとか出ないし?」

「そんなものなにから出ても困るよ?」

 そうだろうか? まぁそうか。

 ひとまず日常生活でビームを出せなくて困った経験はないけど。

 河童の三太夫は、しかし鬼哭き三瓶を見てもまだ闘志が萎えてはいない様子だった。

 片足を高々と上げ、しこを踏んだ姿は、誇り高くさえ感じてしまった。

 対して鬼哭き三瓶も地面を揺らしながら土俵入りして、四股を踏み、腰を落とした。

 一度踏み込むだけで大地が揺れるそのパワーは、河童の常識を逸脱していた。

 はっけよい―――のこった!

 行司役の河童が軍配を上げ、試合開始の合図をすると、まず動いたのは三太夫だ。

「カアアアア!」

 気合と共に、恐ろしく強靭な足腰から生み出される突撃はまるで重戦車のような迫力だ。

 村長さんは不敵に笑って、解説した。

「三太夫の得意技はあのぶちかましですじゃ。アレを耐えられる河童は村にもそうはいない」

「……やっぱり三瓶君勝たせる気ないよね? 相撲が見たいだけだよね?」

「……しょうがない。だって三太夫の相撲は中々見れないんじゃもん」

「チャンプっぽいしね……安売りしないのかな?」

 その割にお試しにホイホイ来てくれるとは、三太夫はいい河童の様だった。

 しかしそれを黙って見つめる三瓶は不沈の戦艦のようにその場から動かずに、張り手を一発その場で繰り出した。

「な、なにぃぃぃぃ!」

「これは!?」

 とたん手のひらが飛ぶ。

 冗談でもなんでもなく、手のひら型の衝撃波が大砲のように打ち出されると、飛び出した三太夫の身体を容赦なく反対にぶっ飛ばした。

「ビームは飛ばなかったけど……ツッパリは飛んだね」

「なんてことだ……僕は何て化け物をこの世に生み出しちまったんだ」

「……」

 そんなに冷めた目で見ないで? 

 だが直撃を受けたはずの三太夫は土俵に残った。

 本当にギリギリだが、確かに踏みとどまった三太夫に会場が沸いた。

「すげぇ! なんて根性だ!」

「うおおおおお! 三太夫!」

「……村長、単純に三太夫ファンだな?」

 勝てないことは明らかだったが、三太夫はそれでも踏みとどまった。

 だがすでに大砲張り手は深刻なダメージを三太夫に与え、膝はガクガクと震えていた。

 鬼哭き三瓶の全身の筋肉は更に隆起して、妖気を迸らせるとその場から動けない三太夫にとどめを刺すべく再び腰を深く落して今度は両手を構えた。

「ま、まさか……さっきのを両手で?」

「そのまさかだ……そしておそらく左右一発ずつじゃない」

「「!!」」

 打ち出す突っ張りを連続で繰り出す荒業。

 命名千手突っ張りは他ならぬ僕の入れ知恵だったが、正直やりすぎだったかもしれない。

 普通張り手は飛ばないのだが、無数に飛ばした飛ぶ突っ張りは、もはや大砲の一斉掃射と変わりはしない。

 三太夫!

 僕もうっかり応援する方を間違えてしまいそうだ。

 手に汗握る展開に、神木さんも自分のバックを握り締める。

 だがその時、いきなりまばゆい光が家の庭を照らし、あっという間に真っ白な光に包まれていた。

「え?」

「え? なに?」

 突然のことに騒然となる相撲会場だったが、ただのドッキリというわけでもなく、変化は確かにあった。

 鬼哭き三瓶の手はピタリと止まり、強大な妖気が風船がしぼむ様に一気に抜けてゆく。

 そして、筋肉隆々だったそのボディが砂となって崩れた。

「…………へぁ?」

 僕はなんかここ最近で一番間抜けな声が出た。

 僕の傑作はなんだかよくわからないうちに砂となり、三瓶本体はコロリンと転がり出て砂の上で首をかしげていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...