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少年の名は 2
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「実はこの先の道で、崖崩れがありまして。道が大岩で塞がれてしまったんです!」
「おいおい、そいつは勇者の仕事の範囲外じゃにゃいかにゃ?」
事故があったからどうにかしてくれというおじさんにネコミミはなんだかにゃぁと肩をすくめていた。
しかし強力な魔法を使える者に、こういった急を要する事態を頼むことはある。
勇者一行も、何度かそう言う場面に遭遇したことはあった。
「まぁいいじゃない。困っているみたいだし。僕らに何とかできるなら」
「そうですわ! 民草の願いを聞き届ける事も勇者の使命! さすが勇者様です!」
「そうですか! ありがとうございます! それではさっそくお願いいたします!」
大慌てで案内された場所は、崖沿いにあるいかにも危なそうな道だった。
その上今は完全に岩の壁で塞がれてしまっている様である。
切り立った岩肌に沿うように道は作られているから、片方は大きな谷。
道幅はそれなりにあるが、風も強く、通るだけでも神経を使いそうだ。
「怪我人はいなかったんですか?」
そう勇者が尋ねると、おじさんは眉の両端を困ったように下げていた。
「行商人が一人……。村に物資を運んできている者なんですが、幸いその者は足を骨折したくらいで済みました。馬車と積荷はダメだった様です」
勇者達に声をかけて来たおじさんは簡単に状況を説明してくれる。
それを聞いて真っ先に進み出たのは白い少女である。
「なら、その方はわたくしが治療してきます!」
「うん、よろしく。それじゃあ僕らは……」
「そうにゃね。ここをどうにかした方がいいにゃ。私は役に立たにゃさそうだけど」
ネコミミは間近にある岩をポンポンと叩く。
見上げる様な大岩は魔法を使わずにどうこうするにはかなりの労力と時間が必要だろう。
「持ち上げるのは無理かな?」
「いくら体を強化してもこればっかりはにゃぁ」
「だよねぇ……」
自分達ではそれは無理だと断言できる。
肉体強化の魔法は人それぞれ適正が大きく違う。
ネコ耳はスピード重視でさほど常識はずれな力を発揮できるわけではなく、力に適性がある勇者も建物ほどもあり、土砂に囲まれている岩をどうにかするパワーはさすがに出ない。
とすると対処は属性魔法に絞られるだろう。
「私の風じゃ、よくてひっかき傷にゃ。勇者の得意魔法も火だから、瓦礫をどかすのにはあんまりむかにゃいかにゃ?」
「じゃあ、二人で岩の魔法を使っていく?」
「うーん……それもあんまりお勧めしないかにゃぁ。使い慣れない魔法は魔力の消費が激しいにゃ。見た所、かなりの大きさがあるようだしにゃぁ」
「……そっか」
勇者は唸る。
今は少し下がってもらっている村の人達の顔は不安に曇っていて、勇者達の事を心配そうに見ていた。
そんな視線を感じるだけで、勇者の中から後に引くと言う選択肢は消えていた。
勇者は表情を引き締め、巨岩を改めて眺める。
「……でも、それなら使える魔法で工夫するしかないよね」
「んにゃ? なんかあるのかにゃ?」
怪訝な顔をするネコ耳に、勇者は曖昧に笑って一歩前に出た。
それは自分に任せて欲しいと言う意思表示だ。
「まぁ少し考えてた事もあって……それに困っている人を見過ごすなんて勇者じゃないだろ?」
勇者は力づよく断言する。
勇者にとってそれは息をするように当たり前のことで、揺るぎはない。
だがそんな勇者を見ていたネコミミは静かだがはっきりと、呼び止めた。
「ふーん……にゃあ勇者?」
「なに?」
「まぁここだけの話だけどにゃ? 私は出来ないことは断ってもいいと思うにゃ。一人で出来る事なんてたかがしれてるってみんなわかってるにゃ。無理して頑張ったって勇者の得なんて何もないかもしれないにゃ?」
ネコミミの声はいつも通り気楽なものだった。でも目はとても真剣で口調と全く合ってはいない。
勇者は一瞬だけ振り返って、彼女の顔を見たが、すぐに岩に視線を戻して大きすぎるくらいに首を振る。
「……大丈夫。ちゃんと出来るから。それに僕は一人じゃないよ」
「そうかにゃ? ……まぁやるだけやってみるにゃ」
ネコミミは結局そう言い。その後、ためらいがちに勇者の背中を任せたと叩いた。
勇者は大岩の前で剣に手をかけ、大きく息を吸い込む。
自分は弱い。
いくら魔力がすさまじいと驚かれても、そう実感してしまっていた。
勇者の頭に真っ先に浮かんでいたのは、魔王と普通に話をしていた魔法使いの顔だった。
ああやって彼が普通の顔で魔王と話が出来るのは、彼に力があるからだ。
もっと言うなら、魔王がそうしなければいけないほどの何かを持っているという事だろう。
たぶんまだ自分には、魔王と話をするために必要な最低条件すらまったく足りてない。
しかし足りないところを補わなければ、この先に進めないこともわかっていた。
「……訪ねて行けもしないんじゃ話どころじゃないよね」
だから勇者は考える。
手の先に意識を集中すると、勇者の手に息をのむほどの魔力がうねって立ち昇る。
人より飛び抜けた魔力がある、勇者とはそういうものらしい。
しかし勇者の強みはそれだけではない。
普段魔力を使う時、命の危険が付きまとうからこそ、どこかブレーキを早く踏みがちになるが、勇者はそのギリギリを見極めて魔法陣を思い描く。
そして勇者は得意な火の魔法を聖剣エーリュシオンを引き抜いて、一気に刀身に集中させた。
「行くよ!」
『ガッテン!』
引き抜かれた瞬間、威勢よく吼えるエーリュシオンを手に、勇者は今自分にできるありったけを乗せる。
一閃。
剣は膨大な熱の塊を一直線に吐き出す。
自然界ではまず起こりえないであろう熱線。
レーザーや、ビーム。
そう言った焼き斬るイメージは、炎の魔法にありえない形を与えてくれる。
巨岩に叩きつけられた強力な熱の塊はどんな岩でも溶かし貫く。
そして、そのままありえない熱量は切り裂いた道を溶かし固めた。
予想でしかなかった結果はすぐに出た。
閃光が収まるとそこには、一直線に溶かし、切り開かれた道が出来ていたのだ。
勇者の強み。それは現代にいた発想だった。
ただ生き残れるだけの実力じゃ足りない。
だからもう少し道を切り開く実力をつけなければならない、これが試行錯誤の一つである。
魔法剣と呼ばれる技術がある。それは刀身に魔法の力を上乗せする物だが、勇者のそれは炎そのものが、刀身として機能する。
勇者のイメージと、聖剣エーリュシオンの魔力を刀身に変える力も、この技を形作る助けとなっていた。
唖然とする周囲の視線を感じ。そんな彼らにちょっと得意げに勇者は振り向くと言う。
「こんな感じ……名付けて……」
「焼きカニカマにゃ!」
「どうしてもそっちにつなげないとダメかな!」
かぶせてきた、興奮気味のネコ耳のネーミングに何はなくとも全力でツッコミを入れた勇者だった。
すぐに残った土砂を取り除く作業を勇者とネコミミが手伝っていると、そこに治療を終えた白い少女が合流した。
息を弾ませ急いでやってきた白い少女は相当急いでやって来たみたいだった。
「どうでしたか!」
「うにゃ、大丈夫だったにゃ。勇者の新必殺技もさく裂したにゃ!」
「なんですかそれ!」
「いやぁ。まだ全然未完成なんだけどね」
照れている勇者に、白い少女はずるいと絶対に自分にも見せるように主張した。
この様子だと治療の方もうまくいったのだろう。
万事うまく運び、喜んでいる村の人達を見て、勇者は仲間に呟いた。
「……やっぱり。意味はあるんだろうな」
「何がにゃ?」
「こうやって僕が旅をする意味。魔王討伐だけじゃなくて、人を助ける事とか、喜んでもらえている事とかって、きっと意味があるんだよ。だから僕はここで何かやりたいと思えるんだ」
人が喜ぶ姿を見ていると不思議と力が湧いてくる。
ちょっとだけ変な事を言ってしまったかと思っていると、仲間達は嬉しそうな顔をして頷いた。
「そうです! わたくしが勇者様を支えて見せます!」
「仕方がないにゃぁ。しようがないからもうちょっとだけ手を貸してあげるにゃ」
「うん……ありがとう」
勇者ははにかんだ笑顔で礼を言った。
この旅がどういう結末を迎えるかなんてわからないけれど、少なくてもこの仲間で旅を続けたことを意味がないものになんてしたくない。
こみ上げてきた感情に、勇者は意気込みを新たにしていた……のだが。
『なぁなぁ……まだごたごたは収まってねぇみたいだZE?』
そんな風に声をかけたのは腰にある聖剣エーリュシオンである。
言われてみれば確かに、喜んでいる人の中に若干焦った表情の人達をちらほら見かける。
先ほどのおじさんもその一人で、勇者は気になっておじさんを呼び止めた。
「どうしたんですか? まだ何か問題が?」
「……ええまぁ。実はこの崖崩れで被害にあった馬車は食料を積んでいたんです。ここは山奥の村ですから、ダメになった分がかなり痛手でして」
「食料が……それは大変ですね」
「ええ。しかしこればかりはどうにも……」
「……それは確かに」
村一つ分の食糧など、確かに勇者一人がバタバタしたところでどうにかなる物ではない。
気の毒だとは思うが、自分達に出来ることはもうないと肩を落とした勇者に、自信満々のエーリュシオンはその刀身をきらりと輝かせる。
『おいおい、悲しいこと言うなYO? 勇者に不可能はないんだZE?』
「それはいったいどういうことですか?」
予想していなかった言葉に反応したのはおじさんである。
しかし肝心の勇者はといえば、心当たりのない申し出に困惑するばかりだ。
「……エーリュシオン?」
『まぁ俺にまかせな! いいかい? 今から村にある長細いものを一か所に集めるんだ? 形が長細けりゃ素材は何でもいい! 片っ端からだ! そこらに落ちてるこいつが砕いた岩なんかでもいいZE?』
「は、はい! すぐに!」
恩のある勇者、その愛剣の言葉とあって、おじさんは姿勢を正すと走って行ってしまった。
偉そうにおじさんに指示する聖剣を前に、勇者は嫌な予感がしていた。
エーリュシオンの指示で一か所に集められた長細いもの。
それを、今一意味が分かっていない勇者一行と、村の人達が囲むと、エーリュシオンは勇者に指示を出す。
『そんじゃ! 俺を地面に突き立てな!』
「う、うん。でも一体何をするつもりなの?」
『ふっふーん! 見てりゃわかるZE? 聖剣に隠された神秘の力、見せつけちゃうZE?」
「……そうなんだ」
『見よ! これが必殺―――』
刀身にはやはりあの模様が浮かび上がり、未だかつてない最高の光を集めたの物体に向けて照射する。
「……」
勇者はすごく嫌な予感がしていた。
それがなんなのかはわからないが、とにかくとんでもなく嫌な予感が止まらない。
ポカンと謎の煙が弾けて視界を遮る。
しかし中から現れたものを見て勇者は絶句した。
ブリリンと赤いその身を震わせ、弾けんばかりの弾力を太陽の元にさらしたのは、磯の香り漂う大量のアレだ―――。
「か……かにかま」
「ウニャー! フニャー! フンニャラー!」
大興奮のネコミミである。
「こ、これは……」
流石に唇の端をヒクつかせる白い少女。
すっかり、ごみ置き場からカニカマ市になったその場で唯一事情が分かっている剣は得意げに自慢した。
『これぞ奥義! カニカマフェスティバル! この聖なる光を浴びた棒状の物を全てカニカマに変えるんだZE!』
「だから、こういうことしないでって言ってるだろ! っていうか刀身がカニカマに変わるだけじゃなかったの!」
『あれはあれで無限なんだYO? だけど一度に量を用意するならこっちがおすすめなんだZE! 一回一回刀身を戻すのは大変なんだZE!』
「聞いてないよ!」
悲壮感の漂う勇者の叫びが木霊するが、エーリュシオンは勇者の態度が不服らしい。
『えー。だって、困ってるって言ってたジャン? みんな喜んでNE?』
「う……それはそうだけど」
隣にいるネコミミが涎を垂らしてそれを見ているのを勇者は見なかったことにした。
実際カニカマ関連の使用頻度は、勇者がいくらあがこうが一番多かったりする。
なにせいつでもどこでも食料が手に入る魔法なのだ。戦うよりもよほどお世話になる機会は多い。
空腹な人間というのも旅をしていれば出くわすことは多く、緊急の場合はカニ……エーリュシオンにも活躍してもらっている。
そして突発的に起きたカニカマ大増殖を目の当たりにしたあのおじさんは勇者一行を感動に震えながら見つめると何かを思い出したようだった。
「は! 三人組の不思議な食べ物を出す聖剣を携えた一行……ひょっとしてあなた達はあの!」
ここに来て勇者は最大級の嫌な予感を感じていた。
「カニカマ様とはあなたの事で! それならそうとおっしゃっていただければ!」
「カニカマじゃないです!……って言うかなんでそんなに広まってるんですか!」
勇者カニカマは彼の言葉を全力で否定したのだった。
最初は異世界から来た少年で、勇者と呼ばれる機会が多くなってきたと思ったら、最近はカニカマの方が浸透してしまった。
彼の名前は雨野 隆星。
しかしこの名前を知っている者はあまりにも少ない。
「おいおい、そいつは勇者の仕事の範囲外じゃにゃいかにゃ?」
事故があったからどうにかしてくれというおじさんにネコミミはなんだかにゃぁと肩をすくめていた。
しかし強力な魔法を使える者に、こういった急を要する事態を頼むことはある。
勇者一行も、何度かそう言う場面に遭遇したことはあった。
「まぁいいじゃない。困っているみたいだし。僕らに何とかできるなら」
「そうですわ! 民草の願いを聞き届ける事も勇者の使命! さすが勇者様です!」
「そうですか! ありがとうございます! それではさっそくお願いいたします!」
大慌てで案内された場所は、崖沿いにあるいかにも危なそうな道だった。
その上今は完全に岩の壁で塞がれてしまっている様である。
切り立った岩肌に沿うように道は作られているから、片方は大きな谷。
道幅はそれなりにあるが、風も強く、通るだけでも神経を使いそうだ。
「怪我人はいなかったんですか?」
そう勇者が尋ねると、おじさんは眉の両端を困ったように下げていた。
「行商人が一人……。村に物資を運んできている者なんですが、幸いその者は足を骨折したくらいで済みました。馬車と積荷はダメだった様です」
勇者達に声をかけて来たおじさんは簡単に状況を説明してくれる。
それを聞いて真っ先に進み出たのは白い少女である。
「なら、その方はわたくしが治療してきます!」
「うん、よろしく。それじゃあ僕らは……」
「そうにゃね。ここをどうにかした方がいいにゃ。私は役に立たにゃさそうだけど」
ネコミミは間近にある岩をポンポンと叩く。
見上げる様な大岩は魔法を使わずにどうこうするにはかなりの労力と時間が必要だろう。
「持ち上げるのは無理かな?」
「いくら体を強化してもこればっかりはにゃぁ」
「だよねぇ……」
自分達ではそれは無理だと断言できる。
肉体強化の魔法は人それぞれ適正が大きく違う。
ネコ耳はスピード重視でさほど常識はずれな力を発揮できるわけではなく、力に適性がある勇者も建物ほどもあり、土砂に囲まれている岩をどうにかするパワーはさすがに出ない。
とすると対処は属性魔法に絞られるだろう。
「私の風じゃ、よくてひっかき傷にゃ。勇者の得意魔法も火だから、瓦礫をどかすのにはあんまりむかにゃいかにゃ?」
「じゃあ、二人で岩の魔法を使っていく?」
「うーん……それもあんまりお勧めしないかにゃぁ。使い慣れない魔法は魔力の消費が激しいにゃ。見た所、かなりの大きさがあるようだしにゃぁ」
「……そっか」
勇者は唸る。
今は少し下がってもらっている村の人達の顔は不安に曇っていて、勇者達の事を心配そうに見ていた。
そんな視線を感じるだけで、勇者の中から後に引くと言う選択肢は消えていた。
勇者は表情を引き締め、巨岩を改めて眺める。
「……でも、それなら使える魔法で工夫するしかないよね」
「んにゃ? なんかあるのかにゃ?」
怪訝な顔をするネコ耳に、勇者は曖昧に笑って一歩前に出た。
それは自分に任せて欲しいと言う意思表示だ。
「まぁ少し考えてた事もあって……それに困っている人を見過ごすなんて勇者じゃないだろ?」
勇者は力づよく断言する。
勇者にとってそれは息をするように当たり前のことで、揺るぎはない。
だがそんな勇者を見ていたネコミミは静かだがはっきりと、呼び止めた。
「ふーん……にゃあ勇者?」
「なに?」
「まぁここだけの話だけどにゃ? 私は出来ないことは断ってもいいと思うにゃ。一人で出来る事なんてたかがしれてるってみんなわかってるにゃ。無理して頑張ったって勇者の得なんて何もないかもしれないにゃ?」
ネコミミの声はいつも通り気楽なものだった。でも目はとても真剣で口調と全く合ってはいない。
勇者は一瞬だけ振り返って、彼女の顔を見たが、すぐに岩に視線を戻して大きすぎるくらいに首を振る。
「……大丈夫。ちゃんと出来るから。それに僕は一人じゃないよ」
「そうかにゃ? ……まぁやるだけやってみるにゃ」
ネコミミは結局そう言い。その後、ためらいがちに勇者の背中を任せたと叩いた。
勇者は大岩の前で剣に手をかけ、大きく息を吸い込む。
自分は弱い。
いくら魔力がすさまじいと驚かれても、そう実感してしまっていた。
勇者の頭に真っ先に浮かんでいたのは、魔王と普通に話をしていた魔法使いの顔だった。
ああやって彼が普通の顔で魔王と話が出来るのは、彼に力があるからだ。
もっと言うなら、魔王がそうしなければいけないほどの何かを持っているという事だろう。
たぶんまだ自分には、魔王と話をするために必要な最低条件すらまったく足りてない。
しかし足りないところを補わなければ、この先に進めないこともわかっていた。
「……訪ねて行けもしないんじゃ話どころじゃないよね」
だから勇者は考える。
手の先に意識を集中すると、勇者の手に息をのむほどの魔力がうねって立ち昇る。
人より飛び抜けた魔力がある、勇者とはそういうものらしい。
しかし勇者の強みはそれだけではない。
普段魔力を使う時、命の危険が付きまとうからこそ、どこかブレーキを早く踏みがちになるが、勇者はそのギリギリを見極めて魔法陣を思い描く。
そして勇者は得意な火の魔法を聖剣エーリュシオンを引き抜いて、一気に刀身に集中させた。
「行くよ!」
『ガッテン!』
引き抜かれた瞬間、威勢よく吼えるエーリュシオンを手に、勇者は今自分にできるありったけを乗せる。
一閃。
剣は膨大な熱の塊を一直線に吐き出す。
自然界ではまず起こりえないであろう熱線。
レーザーや、ビーム。
そう言った焼き斬るイメージは、炎の魔法にありえない形を与えてくれる。
巨岩に叩きつけられた強力な熱の塊はどんな岩でも溶かし貫く。
そして、そのままありえない熱量は切り裂いた道を溶かし固めた。
予想でしかなかった結果はすぐに出た。
閃光が収まるとそこには、一直線に溶かし、切り開かれた道が出来ていたのだ。
勇者の強み。それは現代にいた発想だった。
ただ生き残れるだけの実力じゃ足りない。
だからもう少し道を切り開く実力をつけなければならない、これが試行錯誤の一つである。
魔法剣と呼ばれる技術がある。それは刀身に魔法の力を上乗せする物だが、勇者のそれは炎そのものが、刀身として機能する。
勇者のイメージと、聖剣エーリュシオンの魔力を刀身に変える力も、この技を形作る助けとなっていた。
唖然とする周囲の視線を感じ。そんな彼らにちょっと得意げに勇者は振り向くと言う。
「こんな感じ……名付けて……」
「焼きカニカマにゃ!」
「どうしてもそっちにつなげないとダメかな!」
かぶせてきた、興奮気味のネコ耳のネーミングに何はなくとも全力でツッコミを入れた勇者だった。
すぐに残った土砂を取り除く作業を勇者とネコミミが手伝っていると、そこに治療を終えた白い少女が合流した。
息を弾ませ急いでやってきた白い少女は相当急いでやって来たみたいだった。
「どうでしたか!」
「うにゃ、大丈夫だったにゃ。勇者の新必殺技もさく裂したにゃ!」
「なんですかそれ!」
「いやぁ。まだ全然未完成なんだけどね」
照れている勇者に、白い少女はずるいと絶対に自分にも見せるように主張した。
この様子だと治療の方もうまくいったのだろう。
万事うまく運び、喜んでいる村の人達を見て、勇者は仲間に呟いた。
「……やっぱり。意味はあるんだろうな」
「何がにゃ?」
「こうやって僕が旅をする意味。魔王討伐だけじゃなくて、人を助ける事とか、喜んでもらえている事とかって、きっと意味があるんだよ。だから僕はここで何かやりたいと思えるんだ」
人が喜ぶ姿を見ていると不思議と力が湧いてくる。
ちょっとだけ変な事を言ってしまったかと思っていると、仲間達は嬉しそうな顔をして頷いた。
「そうです! わたくしが勇者様を支えて見せます!」
「仕方がないにゃぁ。しようがないからもうちょっとだけ手を貸してあげるにゃ」
「うん……ありがとう」
勇者ははにかんだ笑顔で礼を言った。
この旅がどういう結末を迎えるかなんてわからないけれど、少なくてもこの仲間で旅を続けたことを意味がないものになんてしたくない。
こみ上げてきた感情に、勇者は意気込みを新たにしていた……のだが。
『なぁなぁ……まだごたごたは収まってねぇみたいだZE?』
そんな風に声をかけたのは腰にある聖剣エーリュシオンである。
言われてみれば確かに、喜んでいる人の中に若干焦った表情の人達をちらほら見かける。
先ほどのおじさんもその一人で、勇者は気になっておじさんを呼び止めた。
「どうしたんですか? まだ何か問題が?」
「……ええまぁ。実はこの崖崩れで被害にあった馬車は食料を積んでいたんです。ここは山奥の村ですから、ダメになった分がかなり痛手でして」
「食料が……それは大変ですね」
「ええ。しかしこればかりはどうにも……」
「……それは確かに」
村一つ分の食糧など、確かに勇者一人がバタバタしたところでどうにかなる物ではない。
気の毒だとは思うが、自分達に出来ることはもうないと肩を落とした勇者に、自信満々のエーリュシオンはその刀身をきらりと輝かせる。
『おいおい、悲しいこと言うなYO? 勇者に不可能はないんだZE?』
「それはいったいどういうことですか?」
予想していなかった言葉に反応したのはおじさんである。
しかし肝心の勇者はといえば、心当たりのない申し出に困惑するばかりだ。
「……エーリュシオン?」
『まぁ俺にまかせな! いいかい? 今から村にある長細いものを一か所に集めるんだ? 形が長細けりゃ素材は何でもいい! 片っ端からだ! そこらに落ちてるこいつが砕いた岩なんかでもいいZE?』
「は、はい! すぐに!」
恩のある勇者、その愛剣の言葉とあって、おじさんは姿勢を正すと走って行ってしまった。
偉そうにおじさんに指示する聖剣を前に、勇者は嫌な予感がしていた。
エーリュシオンの指示で一か所に集められた長細いもの。
それを、今一意味が分かっていない勇者一行と、村の人達が囲むと、エーリュシオンは勇者に指示を出す。
『そんじゃ! 俺を地面に突き立てな!』
「う、うん。でも一体何をするつもりなの?」
『ふっふーん! 見てりゃわかるZE? 聖剣に隠された神秘の力、見せつけちゃうZE?」
「……そうなんだ」
『見よ! これが必殺―――』
刀身にはやはりあの模様が浮かび上がり、未だかつてない最高の光を集めたの物体に向けて照射する。
「……」
勇者はすごく嫌な予感がしていた。
それがなんなのかはわからないが、とにかくとんでもなく嫌な予感が止まらない。
ポカンと謎の煙が弾けて視界を遮る。
しかし中から現れたものを見て勇者は絶句した。
ブリリンと赤いその身を震わせ、弾けんばかりの弾力を太陽の元にさらしたのは、磯の香り漂う大量のアレだ―――。
「か……かにかま」
「ウニャー! フニャー! フンニャラー!」
大興奮のネコミミである。
「こ、これは……」
流石に唇の端をヒクつかせる白い少女。
すっかり、ごみ置き場からカニカマ市になったその場で唯一事情が分かっている剣は得意げに自慢した。
『これぞ奥義! カニカマフェスティバル! この聖なる光を浴びた棒状の物を全てカニカマに変えるんだZE!』
「だから、こういうことしないでって言ってるだろ! っていうか刀身がカニカマに変わるだけじゃなかったの!」
『あれはあれで無限なんだYO? だけど一度に量を用意するならこっちがおすすめなんだZE! 一回一回刀身を戻すのは大変なんだZE!』
「聞いてないよ!」
悲壮感の漂う勇者の叫びが木霊するが、エーリュシオンは勇者の態度が不服らしい。
『えー。だって、困ってるって言ってたジャン? みんな喜んでNE?』
「う……それはそうだけど」
隣にいるネコミミが涎を垂らしてそれを見ているのを勇者は見なかったことにした。
実際カニカマ関連の使用頻度は、勇者がいくらあがこうが一番多かったりする。
なにせいつでもどこでも食料が手に入る魔法なのだ。戦うよりもよほどお世話になる機会は多い。
空腹な人間というのも旅をしていれば出くわすことは多く、緊急の場合はカニ……エーリュシオンにも活躍してもらっている。
そして突発的に起きたカニカマ大増殖を目の当たりにしたあのおじさんは勇者一行を感動に震えながら見つめると何かを思い出したようだった。
「は! 三人組の不思議な食べ物を出す聖剣を携えた一行……ひょっとしてあなた達はあの!」
ここに来て勇者は最大級の嫌な予感を感じていた。
「カニカマ様とはあなたの事で! それならそうとおっしゃっていただければ!」
「カニカマじゃないです!……って言うかなんでそんなに広まってるんですか!」
勇者カニカマは彼の言葉を全力で否定したのだった。
最初は異世界から来た少年で、勇者と呼ばれる機会が多くなってきたと思ったら、最近はカニカマの方が浸透してしまった。
彼の名前は雨野 隆星。
しかしこの名前を知っている者はあまりにも少ない。
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“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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