新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち

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ダンジョンとおっさん 3

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「すげぇー……こんな街、初めて見た」

「僕もです。どこの国の王都だって、こんなにでっかい建物はないですよ……巨人でも住むんでしょうか?」

「でっかいもんなぁ……」

 遠目からみてもよくわからない場所だったが、距離の目算を間違えるほどに立ち入った場所はすさまじかった。

 四角い巨大建築物が所狭しと建ち並び。完全に舗装された道と、砂漠の真ん中なのに豊富な水の運河が美しく完璧に整備されている。

 そのくせ人の気配はまったくと言っていいほど存在しないときている。

 そのせいか、どことなく冷たい印象の街はたった二人に強烈な印象と共にプレッシャーを与えていた。

 おっさんは圧倒されたまま、少年に思いつくまま尋ねた。

「ところで少年。もう、震えは収まったのか?」

 ひとまずその点を確認すると少年は頷いた。

「ええ……まぁ、圧倒されてしまって。相変わらずものすごく嫌な感じはしますけど、慣れればなんとか」

「え? そんなもん?」

 あの嫌がりようだっただけに驚いたおっさんだが、少年は複雑そうな顔で頷いた。

「ええ。感覚がにぶりそうで怖いですが」

「それはまぁ……でも危険な臭いもプンプンするが面白そうではある」

「ええまぁ見たこともないところですし、あらゆる意味で」

 少年も、感覚はともかく目に見えた脅威がないことで落ち着きを取り戻している。

  どうやら探索に問題はなさそうだった。

「じゃあ、ちょっと見て回って見るか」

「……調査しないとですしね」

 二人は頷き、そしてとりあえず周囲を見て回ることにした。


 慎重に探索すること数十分。街の中には店らしきところがいくつもあった。

 その種類も道具屋に武器屋、防具屋。宿屋に、薬屋、食堂と様々だ。

 少年とおっさんはお互い偵察して、気が付いた点を話し合った。

「人はやっぱりいない。無人ってことか」

「あの砂嵐じゃ外から人は入ってこられなかったでしょう? でもその割りにやたらと店が多いですよね」

 店員もいないのに、店だけがある不自然な場所。

 看板は二人にもなじみのあるものが多く、魔法的な遺跡というのもしっくり来ない。

 突然人が消えてしまったような状況だが、こんな場所にこんなものがあること事態が世の中に一切知られていないことを考えると、人に行き来すらあったのかは怪しいところである。

 おっさんはひとまず一軒、看板の掛かった店をじっと眺めて言った。

「ちょっと中に入ってみるか?」

「え? ……大丈夫ですかね? まだ心の準備が」

「大丈夫だろう。看板出てるし」

 とにかくちゃんと入ってみなければはっきりしないのは明らかだ。

 道具屋らしき場所にめぼしをつけて、おっさんと少年は慎重に店の中に踏み込んだ。

 店内にはやはり人がいない。

 だが埃一つなく、カウンターらしき場所が目に付いた。

「おーい! 誰もいないのか!?」

 おっさんは大声で呼んでみる。すると少年は血相を変えておっさんを止めた。

「こ、声なんてかけないでくださいよ。なんか出てきたらどうするんですか!」

「いや、出てきてくれんと、正直どうしようもないだろこれ?」

『はい。いらっしゃいませ』

「「!!」」

 まるで効果のほどは期待していなかったおっさんだったが、ちゃんと返事が返ってきて、二人は飛び上がった。

 さっきまで何もいなかったはずのカウンターに誰かいる。

 カウンターの中には女が一人こちらに営業スマイルで座っていた。

 ただその声におっさんは聞き覚えがあった。

「ん?……あんたひょっとして、さっき忠告してきた奴か?」

『……何のことでしょう? 初対面ですが?』

 表情を崩さない女はさっとわざとらしく視線を逸らしていて、冗談なのかわかりにくいことをする。

 答えるつもりはない、ということらしい。

「……まぁいいんだけど。何であんた透き通ってるの?」

 だがおっさんには、そんなことより気になることがあった。

 半透明の店員に、少年がものすごく怯えているのでその点ははっきりさせて欲しい。

 すると女は深々と頭を下げてきた。

『私はこのダンジョン・シティを管理しております。ハナコと言います。以後お見知りおきを。ちなみに透き通っているのは仕様ですのでおきになさらず』

「「そ、そうなんだ」」

 自己紹介ではあったが、一切何者なのかわからない自己紹介である。

 ハナコは更に説明を続けた。

『はい、そうなんですよ。こちらでは旅に必要な最低限の買い物ができるようになっております。回復薬に携帯食料、各種状態異常に効く治療薬などなどダンジョンに潜る際にはご利用ください』

 そう言って、店内を指し示す。

 すると店内の棚の上に、無数の商品がずらりと現れたのだ。

 だがそれはどれもこれも半透明だった。

「……幽霊の商品なんてどうやって買うんだ?」

『いえ。アレは盗難防止の立体ディスプレイです。商品名のプレートを指でタッチしていただきまして。こちらのカウンターで清算していただければ、商品をお買い上げいただけます。現金でもかまいませんが、ダンジョンシティバンクのカードがあればよりお手軽にお買い物が出来ますし、ポイントもたまりますよ?』

「そ、そうなんだ。至れり尽くせりだな」

『ええ。必要最低限の物資は街の方で用意させていただいております』

 なんだか聞いたこともない単語が沢山飛び出した。

 これはまたおいおい理解していくしかなさそうだとおっさんはあきらめた。

『それでは、いかがいたしましょう?』

 完璧な営業スマイルを浮かべたハナコに、おっさんも少年も一歩たじろぐ。

「今はいいよな?」

「……今はいいです」

『そうですか。それではまたお越しください』

 深々と頭を下げるハナコは最初から最後まですまし顔だった。

 

 なんとも奇妙な店にくらくらしながら外に出る。

 少年はすでに恐怖は薄れて、頭の中には?が乱れ飛んでいるだろう。

「ふーむ。おかしな感じだが、普通に店だった」

「店員さん透けてたけど。普通に売ってくれるみたいでしたね」

「今度はあっちの店に入ってみるか」

 とはいえ調査は始まったばかりだ。

 おっさんと少年は、ここから更に踏み込んで店を見て回る。

 だがしかし見て回ったところで?は増える一方だった。



『いらっしゃいませお客様。ようこそ武器屋へ!』

「……どういうことでしょう?」

 すがるような少年に、おっさんは眉間にしわを寄せる。

 さっき見た顔とまったく同じ顔。同じ声。さらには半透明なところまで同じだ。

 顔を真っ青にする少年もいちいち素直である。

「……あんたさっき道具屋にいたハナコさんだよな?」

 そう尋ねたおっさんにそのハナコは頷く。

『はい。あっちもハナコですが、私もハナコです。そういうものですのでお気になさらず』

 なんとも言いたいことが沢山ある言葉である。

 だが、おっさんはすでに学習し始めていた。

「そ、そうなのか?……ならいいけど」

「いいんですか!?」

 驚く少年だが、おっさんは頷いた。

 もちろん、おっさんとて納得したわけはない。

 そして彼は少年にこの場所を、スムーズに歩くコツを伝授した。

「もういいよ。わからないことはわからないで」

「ああ、そうですね……。わかってないのが僕だけじゃなくって安心しました」

 混乱する頭をもてあましていた少年も、おっさんの言葉をすぐに受け入れた。



 数店見て回ると、どの店も同じ顔の『ハナコ』と呼ばれる店員がいて、同じように簡単に買い物が出来ることがわかった。

 ためしに買ってみた安めのりんごは、かじってみると普通のりんごだった。

 おっさんはもしゃもしゃと一個、りんごをかじり終え、ごくりと飲み込む。

 少年はそれを信じられないという顔で見た。

「よく食べられますね、毒だったらどうするんです?」

「毒どころかこのりんご、すごくうまいぞ? 生でも甘いし」

「ホントですか?」

「ホントホント。俺が昔食ったりんごはもっとすっぱくて、生じゃ食べられなかった」

「何でもそろって、食料も新鮮。信じられない」

 少年の言葉におっさんも頷いた。

「ああ。すごいな。荒野のど真ん中だってのにびっくりするくらい充実してる」

「でもどの店に行っても、店員さんはあのハナコって人なんですよね」

「姉妹とかなのか? 透き通ってたし幽霊かな?」

「ちゃんと。物はもてるみたいでしたよ?」

「ああ。不思議なことがあるもんだ」

「不思議すぎでしょ……。ああ、でも宿屋泊まりだけなら無料らしいですよ?」

「……けっこうなじんできたじゃないか、少年」

 謎は驚くほどに多い。

 しかしこの街に着いての情報はびっくりするほど提供されていた。

 彼らの手元に面白いものがある。

 買い物をすると渡される紙には、綺麗な印刷でこの街の地図が印刷されていた。

「随分細かい地図だ、簡単に渡すもんだな」

「ちゃんとしてるんですかそれ?」

「まぁ現在位置を見る限りじゃ、今のところ嘘はない」

 観光案内だと言って渡されたそれは、確かに今までめぐった店が記してある。

「んで、肝心のダンジョンってのが、このでっかい塔の地下らしい」

 そして中でも重要施設として赤い矢印が書いてある場所に二人はたどりついた。

 下から見上げると圧倒的スケール感である。

 街のシンボルのように聳え立つのは巨大な塔だ。

 あまりにも巨大すぎる建造物は、この世のものとは思えない。

 今からここに入ると思うと、とれるリアクションも偏った。

「……ここですよね」

「だな」

「本当に、ここですよね?」

「そうだと思うぞ」

「入るんですか?」

「当たり前だろう? 怖気づいたか?」

 おっさんは軽い口調で言うと、少年から怒鳴られた。

「あったりまえじゃないですか! どれだけ怖いと思ってるんです! 魔力が! 魔力がやばいんですよ!」

「そんなこと言われてもなぁ……わからんしなぁ」

 今更のことを蒸し返す少年は、恐怖が蘇ってきたらしい。

「なんだろうなこのでかさ。建物って言うより別のなんかに見える」

「……」

 仕方がないので、そのまま入っていこうとするおっさんを、少年は一度、呼び止めた。

「……本当に行くんですね?」

「もう準備しちゃっただろ? 安いからって買いすぎたけどな」

「おじさんも、随分活用しちゃってますね」

「そりゃそうだ。冒険者たるもの使えそうなもんなら何でも使う」

「冒険者……そうですね」

 少年はそう呟くと後に続く。

 塔の扉は、目の前の立つだけで開いた。

 なにから何まで便利な所だ。

 楽しくなってきて、おっさんは中に踏み入った。

「一番乗り!……だと思ったんだが、先客がいたな」

「え?」

 そこで出会ったのは白い鎧と黒い剣を携えた少年と、小さな妖精だった。
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