2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩

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3月2日(月)

*2*

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駅に着き、梨衣乃りいのが女性のトートバッグをひったくるように持ち、肩を貸して『降ります。』と周りに声をかけると皆が場所を空けてくれる。ドアが開き私も一緒に降りた。

「あたしこの子といるから、あんた駅員の人呼んで来て。」

「うん!わかった!」

ベンチに座ることも出来ず、座面に頭を乗せている女性は生あくびをしながら目に涙を浮かべていた。酸素が足りていないのかもしれない。梨衣乃は彼女の荷物をベンチに置くと『水飲むのはつらい?』などと声をかけていた。

車椅子を押した駅員さんを連れて二人のところに戻ると、女性が『すみません・・・!すみません・・・!』と必死に謝っている。

近づいてよく見ると梨衣乃が着ている真っ白いコートが派手に汚れていた。女性が戻してしまったみたいだ。

「そんなのどーでもいいから。まだ出る?」

梨衣乃は汚れを気にするそぶりもなく女性の背中を優しくさすっている。

「大丈夫!?」

女性だけでなく梨衣乃にも声をかける。

「車椅子来たよ。座れそう?横になったらよくなるから。」

梨衣乃と二人で謝り続ける女性を支え、車椅子に座らせた。

「あとお願いします。」

梨衣乃が駅員さんに軽く頭を下げたので私も続く。駅員さんは『ご協力ありがとうございました。』と私達二人に感謝の言葉をくれエレベーターの方に歩き出した。

車椅子を押す駅員さんの体の向こうから顔を出した女性はぐちゃぐちゃな表情で何度も頭を下げていた。

エレベーターが行ってしまうと『あたしは気にしないけど、皆びっくりするよね。』と言って汚れたコートを脱いだ。

「あ、レジ袋あるよ!というか私駅員さんのところ行く前に袋渡していけばよかったね。そうしたらそこに出せて・・・焦っちゃっててごめん!」

「いいよべつにそんなの。」

持っていたレジ袋に二人がかりでなんとかコートを入れるとパンパンだった。黒いノースリーブのニット姿であまりにも寒々しい梨衣乃の肩に自分の首に巻いていたスモーキーピンクのショールを巻く。

「ありがと。」

梨衣乃はにっこり笑ってから『あのさ・・・』と話し始める。
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