甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

Love gauge:10 甘過ぎるお仕事

＊2＊

「ふうん、そういう反応か。」

若泉さんは納得したようにそう言ってパッと手を離すと、何事もなかったかのようにパソコンに向き直った。その途端部屋の空気がきゅっと引き締まったように感じた。ピアノで音楽を奏でるように繊細かつ力強いタッチでキーボードを叩いていく。先程まで私の手に触れていたその手は爪の先まで隙がなく美しい。まるで馬みたいなしなやかなその動きに思わず見とれてしまう。

───・・・あ、もしかして・・・！

思い当たって翻訳の原文を確認してみる。ドSな社長や優しい先輩、かわいい後輩などイケメンばかりのオフィスで繰り広げられるオフィスラブのシミュレーションゲームだ。

その中に隣の席に座る無口で何を考えているのかわからない同期がいきなり手を繋いでくるシーンがあった。

───もしかして、このシーンの参考にするために・・・？

この作品は元が小説なのでゲームは会話文だけでなく男女双方の心理描写もされて進む。原作の小説も参考にしながら進めてはいるが、翻訳をする上では文字になっていること以上のことを読み取らなければならない。実際に突然手を繋いでみたら手っ取り早くこのシーンをイメージ出来ると思ったのだろう。

なおこのシーンで手を繋がれたヒロインプレイヤーの反応として選択肢が3つある。『振り払う。』『握り返す。』そして『そのままにする。』だ。

───急にこんなことされたら驚いて固まっちゃうよね・・・。

驚いたけれど、これきりのことだと思ったし、私もすぐに平常心に戻り仕事に取り組んだ。

しかし、これはその後私が翻弄されることになる甘過ぎるお仕事の始まりに過ぎなかったのだ。