甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

Love gauge:110 突然過ぎる別れ

＊1＊

「若様と喧嘩でもしたの？」

会社に戻ってから一週間が経とうとしていた。社長が翻訳者さんからお中元で頂いたおせんべいをかじりながら聞いてくる。

あの後、シャワーを浴び朝食を食べてホテルをチェックアウトした。再び水族館に行き、普段は見られない裏側を見せてもらったり生き物達にエサやりしたり出来る貴重な機会だったのに、まるで前の晩のことはなかったみたいなトキの態度が気になって心がいっぱいで、見るものも聞くものも触ったものもまるで心に残らなかった。彼からも生き物達以外のことを話しかけてくることはなかった。

水族館を出るととても良い天気だった。ホテルから水族館までも水族館から駅までもすぐだったけれど、トキは言っていた通りの日光を避ける装備をしていた。サングラスがとても似合っている。サングラス=ちょっとやんちゃな人とか怖い感じの人がするもの、みたいな印象だったのに、トキがかけると洗練された大人な感じがした。日傘も見た目の可愛さを重視した私のものとは違い、外側がシルバーで内側が黒い本格的なものだ。

「男がこんな街中で完全防備とか恥ずかしいだろ。一緒に歩くの嫌だったら先に行く。」

と彼が言って先に進もうとするのでその腕を掴んだ。

「そんなことない。あのね私、誰かが一緒でその人が日傘をささない場合は相手に合わせて自分もささないでいたの。でもトキとだったら一緒にさせるから嬉しい。」

その言葉にトキが困ったような表情になったのがサングラス越しでもわかった。気に障ったのかもしれない。


家───オフィス兼寮───に戻ると彼は『翻訳ももう終わるし、あとは自分の家で作業したい。』と言った。