甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

Love gauge:120 尊過ぎる恋心

＊8＊

「・・・あ、外だね。」

「・・・今日ってさ、会社に戻るの？」

「ううん。直帰でいいって。」

「・・・その、ここで感じたこと忘れないように家に帰ったらすぐ翻訳に取りかかりたいんだ。それでチェックを頼みたい。今日金曜だし。」

「！？」

「い、いや、違う。仕事じゃなくて・・・その、うちに泊まりに来てほしい。むしろそのまま棲みついてほしい。」

「！？！？」

トキは真っ赤だ。きっと私の顔も同じ色だろう。このまま外に出るのはなんだか恥ずかしい。

その顔を隠す為か、トキは早めにサングラスとフェイスマスク、帽子を身に付け、手袋をはめた。


私達の恋の始まり。どこまでが仕事の為のシミュレーションでどこからが本当だったのか。その境界線は曖昧だ。

でも一つ言えることはこれは元々ある誰かの恋物語の翻訳ではない、私達のオリジナルでリアルな恋愛作品だということだ。原作者の私達にさえ先がどうなるのかはわからない。

過去はもう変えられなくて、未来はまだ見えない。明日のことすらわからないからこそ、あなたといたいと思う今を大切にしたい。きっとそれが未来の笑顔に繋がっていくはずだ。

恋心は形がなくて繊細だ。ちょっとのことで輝いてちょっとのことで傷つく。だからこそ尊い。

この鍾乳洞のつらら石が1cm伸びる間にこの地球ほしではそんなオリジナルな恋心がいくつも芽生えては実ったり消えていったりしていったのだ。今この瞬間もたくさんの恋心に彩られて、この惑星は明日に向かって回っている。

外に出る瞬間、ぱあっと光に包まれる。二人で同時に日傘を開き新しい一歩を踏み出した。






───『甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・』  完───