Please,Call My Name

叶けい

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第三話 君の事が知りたい

scene8 マフラー

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―大知―
取材を受けていたビルから出て大通りに出ると、思った以上に人出が多かった。
ちらちらと、こちらを見てくる視線に気づく。全く変装して来なかった事を思い出し焦った。こういう時に限ってマスクも何も持っていない。
人目を避け、俯き気味に歩きながら細い道へ抜ける。スマホで時間を確かめると、待ち合わせの時間はとっくに過ぎてしまっていた。
眞白に連絡しないと、と考えて、自分が眞白の連絡先を全く知らない事にようやく気がついた。
「しまった、ハル……」
立ち止まり、急いで悠貴の番号を呼び出して通話ボタンを押す。
「……」
出ない。当然だ。今頃、奏多と二人で動画コメントの撮影をしているはずだった。スマホが近くにあるわけがない。
こうなったら、とにかく待ち合わせ場所まで急ぐしかなかった。
足早に近道の路地を通り抜ける。タクシーを使えばよかった気もするが、歩いて何分もかかるわけじゃないし、結構人の多い場所を指定してしまったから、人目につかないように停めてもらうのも難しい。
待ち合わせの駅前広場が見えてくる。時計台を囲むように置かれたベンチを見回すが、眞白の姿は無い。まだ来ていないのだろうか。
「あのー」
「え?」
声をかけられ、咄嗟に振り向いてしまった。若い女の子二人組が、それぞれ俺と目が合うなり歓声を上げた。
「大知くんですよね?!『star.b』の!」
「や、違……」
否定してみたところで、変装もしないで顔がもろに出ていては説得力のかけらも無い。おまけに、雑誌の撮影後だからメイクもそのままで来てしまった。
「すごーい!こんなとこで会えるなんて」
「握手してもらえませんか?」
「えっと、ごめんなさい。プライベートなので……」
しどろもどろになりながら後ずさる。ふと見ると、スマホを向けて撮影している人がいた。まずい。
「ごめんなさい!」
言うなり急いで走り出した。足の速さには自信があった。高いヒールのブーツを履いた女の子くらい振り切れる。
人が少ない所に行くと余計に追われる気がしたので、帰宅ラッシュの会社員の間をすり抜け駅のコンコースへ逃げ込んだ。待ち合わせと反対の出口へ抜け、物陰に身を隠す。
追ってくる足音は聞こえなかったので、さすがに諦めてくれたらしい。ほっとしたら、急激に疲労が足に来た。膝に手をつき、荒れた呼吸を調える。
駅のコンコースへ戻るとまた同じ事が起きそうだったので、遠回りだが駅の外を周って歩いて行く事にした。
人がいないか警戒しながら歩き出そうとしたところで、突然手の甲に何か温かい物が触れて飛び上がった。驚いておかしな声が出る。
「わあ!何……」
振り返ると、驚きに見開かれた黒目がちな瞳と目が合った。
「眞白!」
よかった、と一気に力が抜ける。
「会えないかと思った……」
呟く俺を見て首を傾げ、眞白はスマホを出すと文字を打って俺に見せた。
『大丈夫?』
「あ……うん、ごめんね。大丈夫」
答えながら、ふと疑問が浮かぶ。
「どうしてここに?」
地面を指差して聞くと、眞白は俺の真似をして地面を指差し、首を傾げた。伝わったのか、小さく頷くと文字を打って見せてくれる。
『追いかけられてるとこ見てた』
「あー、そうだったんだ」
待たせてごめんね、と謝る。眞白は微笑んで、首を横に振った。スマホに文字を打つ。
『平気やで。ハルはいつも遅れて来るし』
「あ、そうだ。ハルはまだ来れなくて」
ハル、の文字を指差すと、眞白は頷いた。
『知ってる。まだ仕事やろ』
そう打ったのを見せてくれてから、はい、と左手に持っていた物を俺に差し出してくる。
「え?缶コーヒー?」
受け取って見てみると、無糖と書かれていた。まだ温かい。さっき手の甲に触れたのはこれだったことに気づいた。
「……くれるの?」
眞白は頷き、スマホの画面を見せてきた。
『寒かったからコンビニ行っててん。あげる』
「いいの?」
聞くと、ふふ、と笑われた。
『この間、忘れて飲めへんかったやろ?』
「あ……忘れ物」
悠貴に見せられた写真を思い出して恥ずかしくなる。
「ありがとう」
ちゃんと伝わるように、口元の動きを意識しながらお礼を言う。
眞白は微笑んで頷き、行こう、と唇を動かして待ち合わせ場所の方向を指差した。
「あ、ちょっと待って」
顔を手で隠す。眞白が不思議そうな表情になったので、ええと、と顔を指差した。
「変装してくるの忘れちゃって。どうしようかな……」
すると言いたい事が分かったのか、ああ、と眞白は頷いた。
自分が巻いていた白いマフラーを外し、はい、と差し出して来る。
「え?違うよ眞白、寒いわけじゃなくて」
説明しようとしたけれど、眞白は構わず俺の首にマフラーを巻きつけた。少し背伸びして二回巻き、首の後ろで結んでくれる。すぐ目の前に小さな顔が近づいて来て、どぎまぎしてしまった。
巻き終わると、鼻元を隠すようにマフラーの位置を調整してくれる。柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐった。どうやら顔を隠すために巻いてくれたらしいとようやく気づく。
「……ありがと」
マフラーに隠れた口でお礼を言ってから、これじゃ伝わらないことに気づいたけれど、眞白が微笑んで、おっけー、と指で丸を作って見せてきたので、俺も同じように、指で丸を作って返してみせた。
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