15 / 52
第四話 光り輝くステージと影
scene15 控室
しおりを挟む
―眞白―
ショーケースが終了し、会場から出ようとしたらスタッフらしき男性に呼び止められた。
何か話しかけて来たので慌てて補聴器を着けたけれど、周囲のざわめきが大きくて聞き取れない。伊織が代わりに聞いて教えてくれた。
「(楽屋に案内するって言ってるよ)」
ハルから貰ったスタッフパスを首から下げていたことを思い出す。
「(これで楽屋入れるって言っとったわ)」
「(行って来なよ。俺は帰る)」
「(何で、なら俺も帰る)」
伊織が顔を顰めた。
「(ハルが待ってるじゃん、行きなよ)」
「(でも)」
躊躇っていると、スタッフの男性が困った様にこちらを見てくるのに気づいた。伊織が肩をすくめる。
「(外で待ってるから)」
「(……分かった)」
これ以上ごねているとスタッフの方に迷惑になると思い、渋々頷いた。
慌ただしく人が行き交う廊下を歩き、案内された部屋には『star.b 控室』と紙が貼られていた。
扉が開け放たれたままになっていたので、そっと中を覗いてみる。まつ毛の長い、ぱっちりした目と視線が合ってしまった。
何故だか嬉しそうな表情で駆け寄って来たのは、最年少メンバーの千隼くんだった。
「わあ!は……の、……?」
話しかけてくれるけれど、周りの物音が大きくて上手く聞き取れない。困っていると、背後からハルが現れて千隼くんを羽交い締めに捕まえた。
ハルが何事か千隼くんに言う。千隼くんは驚いた様に俺を見た。目線が僅かに、左に寄る。耳を見られたのだとすぐに分かった。
千隼くんを離し、ハルが近づいてくる。
「(伊織くんは?)」
「(来ないって。外で待ってる)」
「(そっか。俺、ちょっと出てくるで待っててな)」
え、と思う間もなくハルは慌ただしく控室から出て行ってしまった。
腕をつつかれ、振り返る。千隼くんが、こっち、と言いながらテーブルを指差すので仕方なくついて行った。椅子に座ると、千隼くんも隣に座り、近くにあったメモとペンを手元に引き寄せた。さらさらと文字を書き、見せてくれる。
"ちはやです"
にこにことペンを差し出してくるので、受け取って、ましろです、と書いて返した。
"今日は楽しかった?"
"うん、みんなかっこよかった"
"やったー、うれしー"
文字通り嬉しそうに笑い、また何か書き始めた千隼くんを見るふりをしながら、そっと楽屋の中を見回してみる。
大半がスタッフらしき人だったけど、奏多くんと碧生くんが何か話しながら荷物を片付けている様子が目に入った。
千隼くんが肩を叩いてくる。
"誰か探してるの?"
書かれた文字を読んで、どきりと心臓が跳ねた。
手渡されたペンを手に持ち、しばらく躊躇ってからメモの端っこに名前を書いた。
"大知くんは"
いないの、と書く前に千隼くんがトントンと机を叩いた。顔を上げると、出入り口の方を指さしていたので、つられる様にしてそちらを見る。
戻って来たハルに背中を押される様にして入って来たのは、私服に着替えた大知くんだった。
大知くんはすぐに俺に気づくと、満面の笑顔で駆け寄ってきた。千隼くんの反対隣に腰を下ろすと、スマホを出して文字を打ち、見せてくれる。
『びっくりした、来てたんだね』
うん、と頷く。大知くんが自分のスマホを渡してくれるので、返事を打った。手が震える。
『かっこよかったよ』
ほんと?と言っているのが分かったので、うん、としっかり頷き返す。再び大知くんが文字を打って見せてくる。
『俺が手振ったの、分かった?』
思わず大知くんの顔を見た。その時の真似をしているつもりなのか、俺に向かって手を振ってくる。
『前にいた女の子に手振ったんやと思った』
そう返すと、違うよ、と言う様に顔の前で手を振られる。
『眞白に気づいたから振ったんだよ』
読んでいたら、画面の前に手が伸びて来てひらひらと大知くんの手が揺れた。顔を上げたら、嬉しそうな表情の大知くんと目が合った。どうしたらいいか分からなくてすぐに俯いてしまう。
視界の端に、さっきまで千隼くんとやり取りしていたメモが映った。大知くんは、と書きかけた部分が見えたと同時くらいに、大知くんがメモに気づいて手を伸ばそうとしたので思わず、名前を隠す様に手で覆った。
「……?」
大知くんが不思議そうな表情でこちらを見てくる。急いでメモを引き寄せたら、後ろからぱっとメモを取られてしまった。
メモを手にした千隼くんが、俺が隠そうとした部分に気づいたのか、にやにやしながら見てくる。一気に頬が熱を持った。
返して、と言う様に手を出したら、千隼くんは素直にメモを折って返してくれた。口元で、指をクロスさせてバッテンを作って見せてくる。言わないよ、という意味だと解釈し、頷いておく。
なになに、と言うように大知くんが身を乗り出してくる。慌ててメモを握りしめてポケットに押し込んだ。
自分のスマホを出し、文を打つ。
『友達待ってるから、もう行くね』
大知くんが頷いたのを見て席を立った。同時に立ち上がりながらスマホを触っていた大知くんが、俺に画面を見せてくる。
『またご飯行こうね』
頷き、急いで楽屋を出た。出たところでハルに会ったので、もう帰るから、とだけ短く告げて足早に伊織の元へ急いだ。
顔が熱い。外に出たら寒さで少しはましになるだろうか。急いで歩くのをやめたら、激しく高鳴る鼓動は治まってくれるんだろうか。
本当はもう少し顔を見ていたかった。話したかった。でも。
あの場に、これ以上いたら。
何かが溢れてしまいそうで、こわくなった。
ショーケースが終了し、会場から出ようとしたらスタッフらしき男性に呼び止められた。
何か話しかけて来たので慌てて補聴器を着けたけれど、周囲のざわめきが大きくて聞き取れない。伊織が代わりに聞いて教えてくれた。
「(楽屋に案内するって言ってるよ)」
ハルから貰ったスタッフパスを首から下げていたことを思い出す。
「(これで楽屋入れるって言っとったわ)」
「(行って来なよ。俺は帰る)」
「(何で、なら俺も帰る)」
伊織が顔を顰めた。
「(ハルが待ってるじゃん、行きなよ)」
「(でも)」
躊躇っていると、スタッフの男性が困った様にこちらを見てくるのに気づいた。伊織が肩をすくめる。
「(外で待ってるから)」
「(……分かった)」
これ以上ごねているとスタッフの方に迷惑になると思い、渋々頷いた。
慌ただしく人が行き交う廊下を歩き、案内された部屋には『star.b 控室』と紙が貼られていた。
扉が開け放たれたままになっていたので、そっと中を覗いてみる。まつ毛の長い、ぱっちりした目と視線が合ってしまった。
何故だか嬉しそうな表情で駆け寄って来たのは、最年少メンバーの千隼くんだった。
「わあ!は……の、……?」
話しかけてくれるけれど、周りの物音が大きくて上手く聞き取れない。困っていると、背後からハルが現れて千隼くんを羽交い締めに捕まえた。
ハルが何事か千隼くんに言う。千隼くんは驚いた様に俺を見た。目線が僅かに、左に寄る。耳を見られたのだとすぐに分かった。
千隼くんを離し、ハルが近づいてくる。
「(伊織くんは?)」
「(来ないって。外で待ってる)」
「(そっか。俺、ちょっと出てくるで待っててな)」
え、と思う間もなくハルは慌ただしく控室から出て行ってしまった。
腕をつつかれ、振り返る。千隼くんが、こっち、と言いながらテーブルを指差すので仕方なくついて行った。椅子に座ると、千隼くんも隣に座り、近くにあったメモとペンを手元に引き寄せた。さらさらと文字を書き、見せてくれる。
"ちはやです"
にこにことペンを差し出してくるので、受け取って、ましろです、と書いて返した。
"今日は楽しかった?"
"うん、みんなかっこよかった"
"やったー、うれしー"
文字通り嬉しそうに笑い、また何か書き始めた千隼くんを見るふりをしながら、そっと楽屋の中を見回してみる。
大半がスタッフらしき人だったけど、奏多くんと碧生くんが何か話しながら荷物を片付けている様子が目に入った。
千隼くんが肩を叩いてくる。
"誰か探してるの?"
書かれた文字を読んで、どきりと心臓が跳ねた。
手渡されたペンを手に持ち、しばらく躊躇ってからメモの端っこに名前を書いた。
"大知くんは"
いないの、と書く前に千隼くんがトントンと机を叩いた。顔を上げると、出入り口の方を指さしていたので、つられる様にしてそちらを見る。
戻って来たハルに背中を押される様にして入って来たのは、私服に着替えた大知くんだった。
大知くんはすぐに俺に気づくと、満面の笑顔で駆け寄ってきた。千隼くんの反対隣に腰を下ろすと、スマホを出して文字を打ち、見せてくれる。
『びっくりした、来てたんだね』
うん、と頷く。大知くんが自分のスマホを渡してくれるので、返事を打った。手が震える。
『かっこよかったよ』
ほんと?と言っているのが分かったので、うん、としっかり頷き返す。再び大知くんが文字を打って見せてくる。
『俺が手振ったの、分かった?』
思わず大知くんの顔を見た。その時の真似をしているつもりなのか、俺に向かって手を振ってくる。
『前にいた女の子に手振ったんやと思った』
そう返すと、違うよ、と言う様に顔の前で手を振られる。
『眞白に気づいたから振ったんだよ』
読んでいたら、画面の前に手が伸びて来てひらひらと大知くんの手が揺れた。顔を上げたら、嬉しそうな表情の大知くんと目が合った。どうしたらいいか分からなくてすぐに俯いてしまう。
視界の端に、さっきまで千隼くんとやり取りしていたメモが映った。大知くんは、と書きかけた部分が見えたと同時くらいに、大知くんがメモに気づいて手を伸ばそうとしたので思わず、名前を隠す様に手で覆った。
「……?」
大知くんが不思議そうな表情でこちらを見てくる。急いでメモを引き寄せたら、後ろからぱっとメモを取られてしまった。
メモを手にした千隼くんが、俺が隠そうとした部分に気づいたのか、にやにやしながら見てくる。一気に頬が熱を持った。
返して、と言う様に手を出したら、千隼くんは素直にメモを折って返してくれた。口元で、指をクロスさせてバッテンを作って見せてくる。言わないよ、という意味だと解釈し、頷いておく。
なになに、と言うように大知くんが身を乗り出してくる。慌ててメモを握りしめてポケットに押し込んだ。
自分のスマホを出し、文を打つ。
『友達待ってるから、もう行くね』
大知くんが頷いたのを見て席を立った。同時に立ち上がりながらスマホを触っていた大知くんが、俺に画面を見せてくる。
『またご飯行こうね』
頷き、急いで楽屋を出た。出たところでハルに会ったので、もう帰るから、とだけ短く告げて足早に伊織の元へ急いだ。
顔が熱い。外に出たら寒さで少しはましになるだろうか。急いで歩くのをやめたら、激しく高鳴る鼓動は治まってくれるんだろうか。
本当はもう少し顔を見ていたかった。話したかった。でも。
あの場に、これ以上いたら。
何かが溢れてしまいそうで、こわくなった。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる