Please,Call My Name

叶けい

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第七話 二人で重ねる思い出

scene30 願い事

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―眞白―
思えば、病気になってから旅行に出掛けたのは初めてかも知れない。
東京から電車に揺られて一時間半ほど、よく名前は聞くけど初めて降り立った観光地の空気は冷たく澄んでいた。
平日のど真ん中にも関わらず人が多い。半分くらいは外国からの観光客だろうか。
ぼんやりと周りを見ていたら、帽子を目深に被った長身の人影が近づいてきた。眼鏡もかけていて、ぱっと見ただけでは顔がよく分からない。
スマホを出して文字を打つ。
『ロッカー空いとった?』
大知くんは指で丸を作って見せてきた。荷物を駅構内のロッカーに置いていくことになり、大知くんが探しに行ってくれていたのだ。無事に預けられたらしい。
行こうか、と言いながら道の向こうを指差され、頷いた。
駅周辺の店を見ながら、パワースポットとして有名だという神社を目指して歩く。
歩きながらスマホを触るわけにもいかず、しばらく無言が続く。隣を歩く大知くんを見ると、どことなく元気が無いような気がした。
車の通りが多い交差点で立ち止まったタイミングで、素早く文字を打って大知くんに見せる。
『やっぱり無理したんちゃうの』
大知くんは驚いたように目を丸くし、苦笑を返してきた。
『そうじゃないよ。ちょっと考え事してた』
大知くんが喋った事が画面に出る。
考え事って何やろ、と思ったけれど再び歩き出したので聞けなかった。

湖畔に建つ鳥居の前は写真映えするのか、若い人達が記念撮影に夢中になっていた。
『ここ映ってたね』
鳥居を指差す。
『写真撮ってもらう?』
聞かれたけれど、首を横に振った。若い女の子達の姿が多くて、近づいたら大知くんだとばれてしまいそうな気がしたからだ。
長い参道を抜け、本殿に辿り着く。参拝し、絵馬を書く事になった。
『パワースポットで有名だから、きっとお願い事書いたら叶えてもらえるよ』
そう言って大知くんが、龍が二匹描かれた絵馬を手渡してくれる。
何を書こうか悩んでいると、大知くんはさっさと書き上げ他の絵馬がたくさん吊るされた中に自分の物を掛けた。

"たくさんの人に愛されて長く活動出来ますように"

大知くんの書いたのを読みながら自分は何を書こうかと考えていると、目の前にスマホが差し出された。
『トイレ行って来ていい?』
おっけー、と指で丸を作って見せる。大知くんがいなくなってから、自分の絵馬にようやく願い事を書いた。

"star.bがもっと活躍出来ますように"

絵馬を吊そうとして、ふと手が止まった。
とある絵馬に緑色のペンで書かれた願い事が目に飛び込んでくる。

"大知くんに会えますように"

その下には違う人の字で、"star.b クリスマスライブ当選祈願!"と書かれていた。
書かれた文字を見つめて固まっていると、そっと肩を叩かれた。振り向くと、大知くんが怪訝そうに俺を見ていた。どうしたの、と唇が動く。
咄嗟に自分の絵馬を裏返しにし、さっき目に飛び込んできた絵馬の上に掛けて隠した。
ますます怪訝そうな表情になる大知くんの目の前にスマホの画面を突き出す。
『何でもないよ、行こ』
少し強引に大知くんの腕を押し、先ほど上ってきた石段を降りる。
―さっき見た絵馬が、頭から離れない。
あんな事を絵馬に書いて吊るす人がいるなんて思わなかった。大知くんがロケで来ていたからなのか。
もしかして、気づかなかったけど他にも同じような物がたくさんあったんやろか。一体、どれくらいの女の子が大知くんの事を……。
ぐるぐる考えているうちに石段を降りきった。休憩しようか、とベンチを指さされたので素直に頷く。
ふと思いつき、スマホを手に取った。
『スタービーって男のファンもおる?』
大知くんに見せると、当然のように頷かれた。
『いるよ、何人かのグループでイベント見に来てくれたりとかもするし』
『男に応援されても嬉しい?』
『嬉しいよ。むしろ、同性にかっこいいって思われる方が嬉しいかも』
『そうなん』
うん、と頷きながら、何でそんな事聞くの、という様に不思議そうな目で見てくる。目のやり場がなくて、歩いてきた参道を見渡した。
観光地なのもあって、旅行に来ているらしいカップルも多かった。また余計な事が頭に浮かんでしまう。
『大知くん、彼女とかおるの』
打ってから、何を聞こうとしてるのかと我に返り急いで消そうとした。その前に大知くんに気づかれ、苦笑される。
『どしたの?急に』
大知くんのせりふが画面に出る。汗で滑る指で返答を打つ。
『ごめん、おるわけないよね』
『いたらまずいでしょ。俺アイドルだよ?』
画面に浮かんだ文字に釘付けになる。
俺、アイドルだよ――。
『そうだよね』
辛うじて返事を打ち、大知くんに見せてから画面を消した。
絵馬に書かれていた内容をまた思い出す。
大知くんは違う世界に住む人なんだと、改めて気づかされた気がして寂しくなった。
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