39 / 52
第九話 たった一言に込める想い
scene39 東京駅
しおりを挟む
-眞白-
いつまでも着かなければ良いのにと思っていたけれど、とうとう東京駅の表示が目に入ってきてしまった。
電車を降りるとホームの人出は思った以上に多かった。丁度乗り換えの時間に重なったせいで、反対側のホームに着く電車に乗ろうとする人が溢れ返っている。
降りてくる人に押され、つい後ろを振り返った。再び前を見た時には人波に流され、大知くんは少し先を歩いて行ってしまっていた。呼び止めようとしたけれど、声が出ない。
そもそも普段、自分の家以外で滅多に声を発する事なんかない。どれぐらいの声量で聞こえるか分からないから躊躇してしまう。
それに、この人混みの中で芸能人の大知くんを大声で呼び止めるのは気が引けた。
どうしよう、と思いながら流されるように歩いている内に、ようやく俺がいない事に気づいた大知くんが振り向いた。立ち止まってくれたかと思ったら、しっかりと手を握られる。戸惑う暇も無かった。
大知くんは俺の手を引っ張り、人混みをかき分けるようにして先を歩いて行く。
……すごく人が多い。ざわざわしとるんかな。
人の足音とか話し声とか、混ざるとどんな感じやったやろ。もう思い出せへん……。
あまりに雑音が多過ぎてまともに音が拾えないせいで、何度も人にぶつかってしまった。
しっかり手を握って歩いているのに、大知くんの背中が遠く感じた。
改札前、人混みを抜けたところで自分から大知くんの手を離した。男同士で手を繋いでいたら、変な目で見られそうな気がした。それが大知くんだとばれたりしたら、おかしな噂が立ってしまう。
気づいた大知くんが振り返った。俯けていた顔を上げたら、何か話しているのが分かった。けれど唇をちゃんと見ていなかったせいで、何を言っているのか分からない。
俺に伝わってない事に気づいた大知くんが、話した内容をスマホの画面に表示して見せてくれた。
『このまま仕事に行くんだ』
うん、と小さく頷いた。
「(ありがとう、楽しかった)」
大知くんも頷いてくれる。俺も、と言ってくれたのが分かった。
「(仕事頑張って)」
そこまで伝えてから、ふと思いつく。
「(電車、乗り換えるん?)」
何気なく手を動かしてしまってから、大知くんの戸惑った表情に気がついた。
……あ、分からんかったかな。
スマホで文字を打ち、大知くんに見せる。
たった一言伝えるだけで、こんなに時間がかかる。もどかしくて堪らなかった。
大知くんが返事を打って画面を見せてくれる。
『乗り換えるよ』
すぐに返事を返した。
『なら、大知くんが電車乗るとこまで見送りたい』
離れがたい気持ちが伝わったのか、大知くんは優しい目で俺を見ると頷いてくれた。
せっかく上ってきた階段を、もう一度降りて行く。さっきの人混みはすっかり消えて、ホームの人出はまばらになっていた。
いつまでも着かなければ良いのにと思っていたけれど、とうとう東京駅の表示が目に入ってきてしまった。
電車を降りるとホームの人出は思った以上に多かった。丁度乗り換えの時間に重なったせいで、反対側のホームに着く電車に乗ろうとする人が溢れ返っている。
降りてくる人に押され、つい後ろを振り返った。再び前を見た時には人波に流され、大知くんは少し先を歩いて行ってしまっていた。呼び止めようとしたけれど、声が出ない。
そもそも普段、自分の家以外で滅多に声を発する事なんかない。どれぐらいの声量で聞こえるか分からないから躊躇してしまう。
それに、この人混みの中で芸能人の大知くんを大声で呼び止めるのは気が引けた。
どうしよう、と思いながら流されるように歩いている内に、ようやく俺がいない事に気づいた大知くんが振り向いた。立ち止まってくれたかと思ったら、しっかりと手を握られる。戸惑う暇も無かった。
大知くんは俺の手を引っ張り、人混みをかき分けるようにして先を歩いて行く。
……すごく人が多い。ざわざわしとるんかな。
人の足音とか話し声とか、混ざるとどんな感じやったやろ。もう思い出せへん……。
あまりに雑音が多過ぎてまともに音が拾えないせいで、何度も人にぶつかってしまった。
しっかり手を握って歩いているのに、大知くんの背中が遠く感じた。
改札前、人混みを抜けたところで自分から大知くんの手を離した。男同士で手を繋いでいたら、変な目で見られそうな気がした。それが大知くんだとばれたりしたら、おかしな噂が立ってしまう。
気づいた大知くんが振り返った。俯けていた顔を上げたら、何か話しているのが分かった。けれど唇をちゃんと見ていなかったせいで、何を言っているのか分からない。
俺に伝わってない事に気づいた大知くんが、話した内容をスマホの画面に表示して見せてくれた。
『このまま仕事に行くんだ』
うん、と小さく頷いた。
「(ありがとう、楽しかった)」
大知くんも頷いてくれる。俺も、と言ってくれたのが分かった。
「(仕事頑張って)」
そこまで伝えてから、ふと思いつく。
「(電車、乗り換えるん?)」
何気なく手を動かしてしまってから、大知くんの戸惑った表情に気がついた。
……あ、分からんかったかな。
スマホで文字を打ち、大知くんに見せる。
たった一言伝えるだけで、こんなに時間がかかる。もどかしくて堪らなかった。
大知くんが返事を打って画面を見せてくれる。
『乗り換えるよ』
すぐに返事を返した。
『なら、大知くんが電車乗るとこまで見送りたい』
離れがたい気持ちが伝わったのか、大知くんは優しい目で俺を見ると頷いてくれた。
せっかく上ってきた階段を、もう一度降りて行く。さっきの人混みはすっかり消えて、ホームの人出はまばらになっていた。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる