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第一章 数の暴力は雑魚キャラを最凶にする
奥の手直行便
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複数の場所から採集された粘液風物質のサンプルを受け取った風見は庁舎の屋上に向かい、分析に協力する科学者の研究室へと飛び立った。
それから一時間ほどが過ぎた頃、簡易な分析結果が瀬戸に届けられた。
「はいこちら瀬戸」
「何となく正体が分かってきた、先生に代わるな」
粘液風の物質の目撃箇所やサンプルの採集場所をまとめた地図を見下ろしながら、瀬戸は物質の分析に当たった平賀の話を聞く。
「あ、もしもし、平賀です。簡単にあれこれ調べさせてもらったところ、いずれのサンプルも自動的に動いてはいますが、細胞核が無いので生物ではなく、プラスチックの様な水に溶けない非金属性の粉末を内包していて、こう、腐敗臭のする物が一部に有りました。主成分と言っていいかは分かりませんけど、触った感じはホウ砂で作った玩具のスライムではなく、ぬめりが強い感じで、海藻に含まれる多糖類に近い物の様に見えます。ちなみに水素イオン指数を見たところ、アルカリ性の物と酸性の物、中和した様な中性に近い物、サンプルによって異なっています」
「という事は、生物錬金術で作られた物質ですか?」
「その可能性は高いですね。試した事が無いのでわかりませんけど、このプラスチックらしき粉末が媒介でしょう。そちらで発生源の目星はついていますか?」
「それが分かったら苦労してません。ただ、発見や被害の報告が有る地域と無い地域が有って、何となくですけど、報告の無い地域の周辺に報告が広がって、被害が出ている様には見えます」
「んー……だとしたら、何処からから流出している可能性が有りますね」
「流出?」
「今のところ、この出来損ないのスライムの用途は不明で、仮にこれが自然界の多糖類の塊だとすると、媒介に使ったプラスチック粉末が流出し、その媒介が依り代として水草の多糖類や、もし水質中に多糖類を生産する微生物が居ればその多糖類に定着して、偶発的に発生したのかもしれません」
「でもなんでそんな媒介が流出するんです?」
「それは分からない。不法渡航者のアングラサイエンティストが何かしでかしているのかもしれないし、そこから先は君達の仕事ですよ」
「分かりました……風見に代わってくれます?」
平賀は電話口を代わる旨を告げ、風見の声が瀬戸に届く。
「で、どうする?」
「地図の写真を贈るから、そっちに行ったついでに情報提供の無い地区の様子を偵察してきて」
「それはいいが、サンプルはどうする? 一応、謎の粉末の入っていないスライムなら害はないって行ってたんだが」
「毒性が無いなら預けておけば? 動き出す可能性が有る粉入りは持って帰らないと武寿賀さんに叱られるだろうけど」
「そうだな……分かった、動かない所の抽出が終わったら、件の地域を見てくる」
「よろしく」
電話を切った瀬戸は見下ろしていた地図を写真に収め、風見の端末に送信する。
「さてと……」
平賀の見解を武寿賀に伝えるべく、瀬戸は地図を手に間に合わせの丸椅子から立ち上がって物置部屋を出る。
「武寿賀さん、居ます?」
瀬戸が扉を叩きながら問いかけると、内側から扉が開けられた。
「瀬戸君、あの物体の正体が分かりましたか」
「みたいです」
係長室に入った瀬戸は応接机代わりの折り畳み机に地図を広げた。
「平が先生曰く、あの出来損ないのスライムの主成分は、水草か何かに含まれる多糖類の可能性が有って、粘液の中には、プラスチックのような粉末が入っている。それが生物錬金術の媒介ではないのかとの事です」
「水草ですか……」
首を傾げながら、武寿賀は天体模型のあるキャビネットの向かい側に有る豪奢な本棚から、古びた本を引っ張り出した。
「粘液風の物体と生体錬金術で一つ思い出した事が有りまして……金属のゼリー寄せという、黒錬金術……黒魔術の様に、いかがわしい目的で用いられる技術が有ります」
武寿賀は古びた本の一部を広げて見せるが、瀬戸はエルダールの言葉を理解しない。
「地球人としては、地球の中世頃の技術しかないとみられているかもしれませんが、エザフォスの錬金術、地球人が言う所の化学はあって、プラスチックの様な樹脂を作る事も有ります」
瀬戸は首を傾げながら、武寿賀の言葉を受け入れる。
「あまり一般的に使われる物ではありませんが、ケーロニオンの樹と呼ばれる特定の樹木の樹液と、精製された家畜の脂からプラスチックに類似した物を作る事が出来ます。そしてそれは錬金術と魔法を組み合わせた生体錬金術にも使用され、金属のゼリー寄せの基礎となる“ゼレ”に意思を与えるために利用されます」
「……そのゼリーって何から作るんです?」
「海藻や水草で、ゼリー状の物体を作り出す物が用いられます」
「寒天ですね」
「そうですね。エザフォスでは一般的に海藻を食用にしていませんが」
「へー……それで、その海藻のゼリーに樹脂の粉末を混ぜて……どうするんです?」
「金属のゼリー寄せは、主に砂金や砂鉄の回収に使用されています。意思を持たせたゼレに回収したい金属の粉末を微量に与え、金属を含む砂利や砂の上に放ちます。暫くするとゼレの中心に回収したい金属成分が集約されるので、適当な所でゼレを回収し、ゼレを鍋で溶かし、残った樹脂を再び精製した獣脂で溶かして取り除けば、かなり純度の高い金属の塊が出来上がります」
「結構面倒ですね」
「確かに手間はかかりますが、素材の殆どは最終可能で、錬金術師であれば樹脂の加工に使う獣脂の精製も可能ですから、金銭を得るという面では悪くない技術なんですよ」
「へぇ……それは分かりましたけど、それが何で東京に出ているのかが問題ですよ。平賀先生は隠れて何かしている錬金術師の仕業みたいに思ってるみたいですけど」
「そうでしょうね。ただ……仮に金属のゼリー寄せを作っていたとして、何故それが流出するのか……これが錬金術師の仕事だとしたら、その錬金術師はとても腕が悪いですし、何故それを住宅で作ったのかもわかりませんね」
それから一時間ほどが過ぎた頃、簡易な分析結果が瀬戸に届けられた。
「はいこちら瀬戸」
「何となく正体が分かってきた、先生に代わるな」
粘液風の物質の目撃箇所やサンプルの採集場所をまとめた地図を見下ろしながら、瀬戸は物質の分析に当たった平賀の話を聞く。
「あ、もしもし、平賀です。簡単にあれこれ調べさせてもらったところ、いずれのサンプルも自動的に動いてはいますが、細胞核が無いので生物ではなく、プラスチックの様な水に溶けない非金属性の粉末を内包していて、こう、腐敗臭のする物が一部に有りました。主成分と言っていいかは分かりませんけど、触った感じはホウ砂で作った玩具のスライムではなく、ぬめりが強い感じで、海藻に含まれる多糖類に近い物の様に見えます。ちなみに水素イオン指数を見たところ、アルカリ性の物と酸性の物、中和した様な中性に近い物、サンプルによって異なっています」
「という事は、生物錬金術で作られた物質ですか?」
「その可能性は高いですね。試した事が無いのでわかりませんけど、このプラスチックらしき粉末が媒介でしょう。そちらで発生源の目星はついていますか?」
「それが分かったら苦労してません。ただ、発見や被害の報告が有る地域と無い地域が有って、何となくですけど、報告の無い地域の周辺に報告が広がって、被害が出ている様には見えます」
「んー……だとしたら、何処からから流出している可能性が有りますね」
「流出?」
「今のところ、この出来損ないのスライムの用途は不明で、仮にこれが自然界の多糖類の塊だとすると、媒介に使ったプラスチック粉末が流出し、その媒介が依り代として水草の多糖類や、もし水質中に多糖類を生産する微生物が居ればその多糖類に定着して、偶発的に発生したのかもしれません」
「でもなんでそんな媒介が流出するんです?」
「それは分からない。不法渡航者のアングラサイエンティストが何かしでかしているのかもしれないし、そこから先は君達の仕事ですよ」
「分かりました……風見に代わってくれます?」
平賀は電話口を代わる旨を告げ、風見の声が瀬戸に届く。
「で、どうする?」
「地図の写真を贈るから、そっちに行ったついでに情報提供の無い地区の様子を偵察してきて」
「それはいいが、サンプルはどうする? 一応、謎の粉末の入っていないスライムなら害はないって行ってたんだが」
「毒性が無いなら預けておけば? 動き出す可能性が有る粉入りは持って帰らないと武寿賀さんに叱られるだろうけど」
「そうだな……分かった、動かない所の抽出が終わったら、件の地域を見てくる」
「よろしく」
電話を切った瀬戸は見下ろしていた地図を写真に収め、風見の端末に送信する。
「さてと……」
平賀の見解を武寿賀に伝えるべく、瀬戸は地図を手に間に合わせの丸椅子から立ち上がって物置部屋を出る。
「武寿賀さん、居ます?」
瀬戸が扉を叩きながら問いかけると、内側から扉が開けられた。
「瀬戸君、あの物体の正体が分かりましたか」
「みたいです」
係長室に入った瀬戸は応接机代わりの折り畳み机に地図を広げた。
「平が先生曰く、あの出来損ないのスライムの主成分は、水草か何かに含まれる多糖類の可能性が有って、粘液の中には、プラスチックのような粉末が入っている。それが生物錬金術の媒介ではないのかとの事です」
「水草ですか……」
首を傾げながら、武寿賀は天体模型のあるキャビネットの向かい側に有る豪奢な本棚から、古びた本を引っ張り出した。
「粘液風の物体と生体錬金術で一つ思い出した事が有りまして……金属のゼリー寄せという、黒錬金術……黒魔術の様に、いかがわしい目的で用いられる技術が有ります」
武寿賀は古びた本の一部を広げて見せるが、瀬戸はエルダールの言葉を理解しない。
「地球人としては、地球の中世頃の技術しかないとみられているかもしれませんが、エザフォスの錬金術、地球人が言う所の化学はあって、プラスチックの様な樹脂を作る事も有ります」
瀬戸は首を傾げながら、武寿賀の言葉を受け入れる。
「あまり一般的に使われる物ではありませんが、ケーロニオンの樹と呼ばれる特定の樹木の樹液と、精製された家畜の脂からプラスチックに類似した物を作る事が出来ます。そしてそれは錬金術と魔法を組み合わせた生体錬金術にも使用され、金属のゼリー寄せの基礎となる“ゼレ”に意思を与えるために利用されます」
「……そのゼリーって何から作るんです?」
「海藻や水草で、ゼリー状の物体を作り出す物が用いられます」
「寒天ですね」
「そうですね。エザフォスでは一般的に海藻を食用にしていませんが」
「へー……それで、その海藻のゼリーに樹脂の粉末を混ぜて……どうするんです?」
「金属のゼリー寄せは、主に砂金や砂鉄の回収に使用されています。意思を持たせたゼレに回収したい金属の粉末を微量に与え、金属を含む砂利や砂の上に放ちます。暫くするとゼレの中心に回収したい金属成分が集約されるので、適当な所でゼレを回収し、ゼレを鍋で溶かし、残った樹脂を再び精製した獣脂で溶かして取り除けば、かなり純度の高い金属の塊が出来上がります」
「結構面倒ですね」
「確かに手間はかかりますが、素材の殆どは最終可能で、錬金術師であれば樹脂の加工に使う獣脂の精製も可能ですから、金銭を得るという面では悪くない技術なんですよ」
「へぇ……それは分かりましたけど、それが何で東京に出ているのかが問題ですよ。平賀先生は隠れて何かしている錬金術師の仕業みたいに思ってるみたいですけど」
「そうでしょうね。ただ……仮に金属のゼリー寄せを作っていたとして、何故それが流出するのか……これが錬金術師の仕事だとしたら、その錬金術師はとても腕が悪いですし、何故それを住宅で作ったのかもわかりませんね」
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