星空の通り道 ―警視庁亜人相談室調査係―

詩方夢那

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第一章 数の暴力は雑魚キャラを最凶にする

嵐の前の静寂

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 正午をとうに過ぎた頃、武寿賀に連絡がもたらされた。
 それは調査に出ていた風見らからの情報で、スライムの発生源と思しき住宅を発見したとの物だった。それは彼等の聞き取り調査から浮かび上がった物で、一ヶ月ほど前までは空き家だった住宅が大量の水を使用している可能性が濃厚になったという。
 だが、相手が不法滞在者であれば不用意な訪問により逃亡される危険性が有る事、無防備なまま悪意ある錬金術師に近づくのは危険である事から聞き取りには踏み込めず、踏み込んだ調査には令状が必要になるとの事だった。
 しかし、風見からその住宅周辺では火の手が無いにもかかわらず、焦げ臭い臭気が時折発生しているので、迷惑防止条例か何かで令状が出ないかと問われ、武寿賀は頷いた。
「醍醐さん、よろしいですか」
 武寿賀は室長室で書類の整理に当たっていた醍醐に声を掛ける。
「何でしょうか」
「調査で令嬢が必要になったので、生活安全部に掛け合っていただけますか」
 武寿賀は一枚の文書を醍醐に手渡した。其処には風見からもたらされた情報を元に捜査令状を請求する旨が記されている。
「総務課の亜人対策係の担当にこれを渡して下さい」
「断られたりはしませんか?」
 不安そうに首を傾げる醍醐に、武寿賀は不敵な笑みを浮かべた。
「スライムが越境してもいいのかと脅せば大丈夫でしょう」
「分かりました。行ってきます」
 足早に部屋を出ていく醍醐に続き、武寿賀も室長室を出て執務室に向かう。
 武寿賀が入って程無く、執務室の内線電話が着信を告げる。発信元は来客の案内をする担当で、亜人相談室調査係宛の昼食が届いたとの事だった。武寿賀は担当者に対し、注文に相違は無いので直接持ってくるようにと依頼する。 
 それから数分後、エレベーターホールで待つ武寿賀の前に一人の男が姿を現した。
「色々とご無理を押し付けて申し訳ありません」
「いえ、お忙しいのは承知してますよ、それで、どちらに持って行きます?」
「ご案内します」
 執務室に案内された男は、手近な机に取っ手付きの箱を下ろした。
「平たい方の容器が冷たいお惣菜、前菜のセットになっています。サラダ用のドレッシングと併せて、冷蔵をお勧めします。
それから、これがメインのパスタです、冷めても蓋をしたまま温めて頂ければ十分召し上がっていただけます。ピザの温め直しはトースターがお勧めです。後、ジェラートはおまかせとの事でしたので、苺と桜が二つずつとバニラを三つ、冷凍庫に入れて下さい。ティラミスの方は冷蔵保管で、早めに召し上がって下さい」
「分かりました」
「キャンセル料は要りません、会計は一人分ずつで出してます」
「まとめて立て替えますので、清算して頂けますか」
「はい」
 男は仕事用の端末を出し、武寿賀の携帯端末を使った電子決済を済ませ、領収書の束を渡す。
「ところで……近頃、空を飛ぶ不審な影がしばしば目撃されています。何かご存じではありませんか?」
「不審な影ですか」
「えぇ、夜間にもしばしば目撃されていて、鉤爪の痕跡が見つかる事も有ります」
 武寿賀はポケットからエザフォスの銅貨を一つ取り出す。
「あー、そういえば。うちの店の向かいにある、エルフがやってるブティックが入ったビル、覚えてます?」
「はい」
「あの店の外壁に、妙な黒い汚れが有って、窓掃除の業者曰く、焦げ跡だと言っていたそうですよ」
「そうですか」
「鉤爪の跡が有ったかは知りませんけど、火を吐く鳥人ってのが向こうの星には居ますよね」
「そうですね」
 男は銅貨を受け取り、仕事用の端末と共に片付ける。
「それじゃ、またよろしくお願いします、鵺田ぬえださん」
「こちらこそ」
 鵺田は空になった箱を手に来た道を引き返す。そしてその道中、小柄な女性とすれ違った。
「あら、お弁当ですか?」
 令状の請求から戻った醍醐は執務室の気配に室内を覗き込み、机に積まれた食品容器に興味を示す。
「えぇ。急な調査で食事会が流れてしまったので、料理だけ届けて頂きました。皆さんが戻ったら食べましょう」
「それは素敵ですね!」
 醍醐は声を弾ませ、一行の帰りを待った。
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