13 / 16
第一章 数の暴力は雑魚キャラを最凶にする
食事中にしたくない話
しおりを挟む
調査に出ていた一行が執務室に戻ると、昼食の支度が整えられていた。
持ち帰ったサンプルを金庫に格納するなどして一同が集まった頃には、料理はすっかり冷めていた。
「折角の歓迎会が報告会になって申し訳ありませんが……瀬戸君、報告をお願いします」
武寿賀に促され、瀬戸はこれまでの経緯を説明する。
「ただ、金属を王水で溶かして金属のゼリー寄せで回収するって、そんな事が出来るんですか? 副産物というのも、なんだかよく分からないんですけど」
「おそらく、金属のゼリー寄せを応用した生体操作魔法が関係しているのでしょう。大量の排水が発生しているというのは、廃液の中和処理ではなく、微生物の投入を可能にするためかもしれません」
武寿賀の推論に、ピッツァを齧っていた天野は思わずその手を止めた。瀬戸は地球の科学とエザフォスの錬金術、亜人の科学の話をしていたはずだった、と。
「生体操作に媒介が必要になるんですか?」
「金属のゼリー寄せの応用、特定の金属のみを生体濃縮によって回収する為に、例えば小魚の様な物を使うとしたら、金属に誘導するための媒介を使った方が手っ取り早いでしょう。私自身は試した事が有りませんけれど。それと、金属のゼリー寄せ自体も使用されているかもしれません」
瀬戸は首を傾げた。
「仮に小魚に金属を回収させたとして、それは体内から取り出さなくてはなりません。そこで考えられるのが、濃縮された生物を焼き払って、灰の中から砂金や砂鉄の要領で、金属のゼリー寄せに回収させる事です」
「……すごくめんどくさくないですか、それ」
「えぇ、面倒ですが、原理的には可能です」
瀬戸は得体の知れない透明な物体が金属を絡め取っている様子を想像して俯いた。それは、真夏の海岸に容赦なく打ち上げられたクラゲの死骸を連想させ、その気色悪さを彼は思い出してしまったのだ。しかも、クラゲの死骸であればその場に留まるが、粘液質なスライムは肌にまとわりつく。彼は手指や肌にまとわりつく物体という物が、尽く嫌いなのである。
「ま、元気出せって。明日例の家の中を家探しすれば、あのスライムもどきともおさらばだよ」
「それが一番憂鬱なんだけど?」
眉間のしわに嫌悪をにじませながら、瀬戸は溜息を吐いた。
「ところで、明日踏み込むとして、だいぶイカれた錬金術師相手に、どう対策するんです?」
「踏み込む時には私が責任を持ちます。催眠の通じる種族であれば催眠魔法で無力化させますよ」
風見の問いに、あっけらかんとして武寿賀は答えるが、風見は表情を曇らせる。
「そんなふわっとした対策で大丈夫なんですか?」
「隠れて何かをしているところで、いきなり毒煙を撒く事は無いでしょう。近隣の無関係な人間に被害が及ぶとなると、厭が追うにも摘発されてしまいますからね」
「そりゃ、そうでしょうけど……」
短く無い年月を武寿賀の部下として過ごしている風見であっても、いまだ時として武寿賀の考えを理解出来ない事がある。
「ん? そういや響、麺の方食べないのか?」
風見は隣の瀬戸がパスタの容器を空けていない事に気付いた。
「気色悪い物思い出したら食欲が失せた。晩御飯にでもするよ」
「そうか……それじゃ、これでも食えよ」
風見は取り分けられていたティラミスの容器を瀬戸に差し出した。
「え?」
瀬戸は訝しげに風見を見遣る。
「まだ仕事は残ってんだ、ちゃんと食っとけ」
「どーも」
風見と瀬戸のやり取りを瀬戸の隣で聞いていた草薙は、取り分けられたティラミスの容器に手を伸ばした。
「はい、風見さん、これあげるよ」
「えっ? いいのか? 甘い物は」
「好きだけど、今日はもうお腹いっぱい。ほら、今日はサラダちゃんと食べたし!」
「本当にいいのか? うん。残りの仕事も頑張ろうね!」
容器を受け取りながら、風見は拭い切れない違和感に眉を顰めていた。
そんな食事が終わると、次の仕事を控える四名は立ち上がる。
「皆さんは……」
「明治神宮から赤坂御用地周辺の緑地の調査。だだっ広い緑地をフェンスの外から眺めて、化け物が居たらどうにかしろっていう無茶ぶり」
不機嫌を極めた瀬戸の物言いに、天野は思わず首を傾げた。
「勿論、御用地には警備員が十分に居るんだが……流石にあっちの警備に亜人は使えねぇのに、外から探してどうするのかは謎だよ」
「何かあったとしたら、どのみち風見さんが上空から手を出して、何も無かった事にするのがオチだよ。そうじゃなきゃ、草薙さんがちょっとフェンスを越えて殴って、警備が来た時には何事も無かった事にするか、だよ。ま、電動キックボード化してくれる分マシなんだけどね」
肩を竦める瀬戸に、天野は大変ですねと返すのが精いっぱいだった。
「では、天野君と醍醐君は私に付いて来て下さい、片付けたら外に出ますよ」
武寿賀は残る二人に声を掛け、第五は机に残された食品容器を回収し始めた。
「天野さんは飲み物の容器を洗ってくれますか? 流し台に案内します」
「はい」
いくつかの容器を抱えたまま、醍醐は申し訳程度の給湯室へと天野を案内する。
「飲み物の容器やちょっとした洗い物はここで大丈夫です。大きい物や汚れの強い物は、向こうの物置に有るシンクを使って下さいね」
「分かりました」
調査に出た職員をエリートとするなら今の天野の仕事は単なる雑用係であり、まだ何も知らない新人に辛うじてできる程度の物でしかなかったが、かつて役場に勤めていた頃には上司や先輩職員、同僚にさえ疎まれていた事を思えば、頼りにされている分報われる仕事だった。
持ち帰ったサンプルを金庫に格納するなどして一同が集まった頃には、料理はすっかり冷めていた。
「折角の歓迎会が報告会になって申し訳ありませんが……瀬戸君、報告をお願いします」
武寿賀に促され、瀬戸はこれまでの経緯を説明する。
「ただ、金属を王水で溶かして金属のゼリー寄せで回収するって、そんな事が出来るんですか? 副産物というのも、なんだかよく分からないんですけど」
「おそらく、金属のゼリー寄せを応用した生体操作魔法が関係しているのでしょう。大量の排水が発生しているというのは、廃液の中和処理ではなく、微生物の投入を可能にするためかもしれません」
武寿賀の推論に、ピッツァを齧っていた天野は思わずその手を止めた。瀬戸は地球の科学とエザフォスの錬金術、亜人の科学の話をしていたはずだった、と。
「生体操作に媒介が必要になるんですか?」
「金属のゼリー寄せの応用、特定の金属のみを生体濃縮によって回収する為に、例えば小魚の様な物を使うとしたら、金属に誘導するための媒介を使った方が手っ取り早いでしょう。私自身は試した事が有りませんけれど。それと、金属のゼリー寄せ自体も使用されているかもしれません」
瀬戸は首を傾げた。
「仮に小魚に金属を回収させたとして、それは体内から取り出さなくてはなりません。そこで考えられるのが、濃縮された生物を焼き払って、灰の中から砂金や砂鉄の要領で、金属のゼリー寄せに回収させる事です」
「……すごくめんどくさくないですか、それ」
「えぇ、面倒ですが、原理的には可能です」
瀬戸は得体の知れない透明な物体が金属を絡め取っている様子を想像して俯いた。それは、真夏の海岸に容赦なく打ち上げられたクラゲの死骸を連想させ、その気色悪さを彼は思い出してしまったのだ。しかも、クラゲの死骸であればその場に留まるが、粘液質なスライムは肌にまとわりつく。彼は手指や肌にまとわりつく物体という物が、尽く嫌いなのである。
「ま、元気出せって。明日例の家の中を家探しすれば、あのスライムもどきともおさらばだよ」
「それが一番憂鬱なんだけど?」
眉間のしわに嫌悪をにじませながら、瀬戸は溜息を吐いた。
「ところで、明日踏み込むとして、だいぶイカれた錬金術師相手に、どう対策するんです?」
「踏み込む時には私が責任を持ちます。催眠の通じる種族であれば催眠魔法で無力化させますよ」
風見の問いに、あっけらかんとして武寿賀は答えるが、風見は表情を曇らせる。
「そんなふわっとした対策で大丈夫なんですか?」
「隠れて何かをしているところで、いきなり毒煙を撒く事は無いでしょう。近隣の無関係な人間に被害が及ぶとなると、厭が追うにも摘発されてしまいますからね」
「そりゃ、そうでしょうけど……」
短く無い年月を武寿賀の部下として過ごしている風見であっても、いまだ時として武寿賀の考えを理解出来ない事がある。
「ん? そういや響、麺の方食べないのか?」
風見は隣の瀬戸がパスタの容器を空けていない事に気付いた。
「気色悪い物思い出したら食欲が失せた。晩御飯にでもするよ」
「そうか……それじゃ、これでも食えよ」
風見は取り分けられていたティラミスの容器を瀬戸に差し出した。
「え?」
瀬戸は訝しげに風見を見遣る。
「まだ仕事は残ってんだ、ちゃんと食っとけ」
「どーも」
風見と瀬戸のやり取りを瀬戸の隣で聞いていた草薙は、取り分けられたティラミスの容器に手を伸ばした。
「はい、風見さん、これあげるよ」
「えっ? いいのか? 甘い物は」
「好きだけど、今日はもうお腹いっぱい。ほら、今日はサラダちゃんと食べたし!」
「本当にいいのか? うん。残りの仕事も頑張ろうね!」
容器を受け取りながら、風見は拭い切れない違和感に眉を顰めていた。
そんな食事が終わると、次の仕事を控える四名は立ち上がる。
「皆さんは……」
「明治神宮から赤坂御用地周辺の緑地の調査。だだっ広い緑地をフェンスの外から眺めて、化け物が居たらどうにかしろっていう無茶ぶり」
不機嫌を極めた瀬戸の物言いに、天野は思わず首を傾げた。
「勿論、御用地には警備員が十分に居るんだが……流石にあっちの警備に亜人は使えねぇのに、外から探してどうするのかは謎だよ」
「何かあったとしたら、どのみち風見さんが上空から手を出して、何も無かった事にするのがオチだよ。そうじゃなきゃ、草薙さんがちょっとフェンスを越えて殴って、警備が来た時には何事も無かった事にするか、だよ。ま、電動キックボード化してくれる分マシなんだけどね」
肩を竦める瀬戸に、天野は大変ですねと返すのが精いっぱいだった。
「では、天野君と醍醐君は私に付いて来て下さい、片付けたら外に出ますよ」
武寿賀は残る二人に声を掛け、第五は机に残された食品容器を回収し始めた。
「天野さんは飲み物の容器を洗ってくれますか? 流し台に案内します」
「はい」
いくつかの容器を抱えたまま、醍醐は申し訳程度の給湯室へと天野を案内する。
「飲み物の容器やちょっとした洗い物はここで大丈夫です。大きい物や汚れの強い物は、向こうの物置に有るシンクを使って下さいね」
「分かりました」
調査に出た職員をエリートとするなら今の天野の仕事は単なる雑用係であり、まだ何も知らない新人に辛うじてできる程度の物でしかなかったが、かつて役場に勤めていた頃には上司や先輩職員、同僚にさえ疎まれていた事を思えば、頼りにされている分報われる仕事だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる