星空の通り道 ―警視庁亜人相談室調査係―

詩方夢那

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第一章 数の暴力は雑魚キャラを最凶にする

食事中にしたくない話

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 調査に出ていた一行が執務室に戻ると、昼食の支度が整えられていた。
 持ち帰ったサンプルを金庫に格納するなどして一同が集まった頃には、料理はすっかり冷めていた。
「折角の歓迎会が報告会になって申し訳ありませんが……瀬戸君、報告をお願いします」
 武寿賀に促され、瀬戸はこれまでの経緯を説明する。
「ただ、金属を王水で溶かして金属のゼリー寄せゼレ・メタレイアで回収するって、そんな事が出来るんですか? 副産物というのも、なんだかよく分からないんですけど」
「おそらく、金属のゼリー寄せゼレ・メタレイアを応用した生体操作魔法が関係しているのでしょう。大量の排水が発生しているというのは、廃液の中和処理ではなく、微生物の投入を可能にするためかもしれません」
 武寿賀の推論に、ピッツァを齧っていた天野は思わずその手を止めた。瀬戸は地球の科学とエザフォスの錬金術、亜人の科学の話をしていたはずだった、と。
「生体操作に媒介が必要になるんですか?」
金属のゼリー寄せゼレ・メタレイアの応用、特定の金属のみを生体濃縮によって回収する為に、例えば小魚の様な物を使うとしたら、金属に誘導するための媒介を使った方が手っ取り早いでしょう。私自身は試した事が有りませんけれど。それと、金属のゼリー寄せゼレ・メタレイア自体も使用されているかもしれません」
 瀬戸は首を傾げた。
「仮に小魚に金属を回収させたとして、それは体内から取り出さなくてはなりません。そこで考えられるのが、濃縮された生物を焼き払って、灰の中から砂金や砂鉄の要領で、金属のゼリー寄せゼレ・メタレイアに回収させる事です」
「……すごくめんどくさくないですか、それ」
「えぇ、面倒ですが、原理的には可能です」
 瀬戸は得体の知れない透明な物体が金属を絡め取っている様子を想像して俯いた。それは、真夏の海岸に容赦なく打ち上げられたクラゲの死骸を連想させ、その気色悪さを彼は思い出してしまったのだ。しかも、クラゲの死骸であればその場に留まるが、粘液質なスライムは肌にまとわりつく。彼は手指や肌にまとわりつく物体という物が、尽く嫌いなのである。
「ま、元気出せって。明日例の家の中を家探しすれば、あのスライムもどきともおさらばだよ」
「それが一番憂鬱なんだけど?」
 眉間のしわに嫌悪をにじませながら、瀬戸は溜息を吐いた。
「ところで、明日踏み込むとして、だいぶイカれた錬金術師相手に、どう対策するんです?」
「踏み込む時には私が責任を持ちます。催眠の通じる種族であれば催眠魔法で無力化させますよ」
 風見の問いに、あっけらかんとして武寿賀は答えるが、風見は表情を曇らせる。
「そんなふわっとした対策で大丈夫なんですか?」
「隠れて何かをしているところで、いきなり毒煙を撒く事は無いでしょう。近隣の無関係な人間に被害が及ぶとなると、厭が追うにも摘発されてしまいますからね」
「そりゃ、そうでしょうけど……」
 短く無い年月を武寿賀の部下として過ごしている風見であっても、いまだ時として武寿賀の考えを理解出来ない事がある。
「ん? そういや響、麺の方食べないのか?」
 風見は隣の瀬戸がパスタの容器を空けていない事に気付いた。
「気色悪い物思い出したら食欲が失せた。晩御飯にでもするよ」
「そうか……それじゃ、これでも食えよ」
 風見は取り分けられていたティラミスの容器を瀬戸に差し出した。
「え?」
 瀬戸は訝しげに風見を見遣る。
「まだ仕事は残ってんだ、ちゃんと食っとけ」
「どーも」
 風見と瀬戸のやり取りを瀬戸の隣で聞いていた草薙は、取り分けられたティラミスの容器に手を伸ばした。
「はい、風見さん、これあげるよ」
「えっ? いいのか? 甘い物は」
「好きだけど、今日はもうお腹いっぱい。ほら、今日はサラダちゃんと食べたし!」
「本当にいいのか? うん。残りの仕事も頑張ろうね!」
 容器を受け取りながら、風見は拭い切れない違和感に眉を顰めていた。
 そんな食事が終わると、次の仕事を控える四名は立ち上がる。
「皆さんは……」
「明治神宮から赤坂御用地周辺の緑地の調査。だだっ広い緑地をフェンスの外から眺めて、化け物が居たらどうにかしろっていう無茶ぶり」
 不機嫌を極めた瀬戸の物言いに、天野は思わず首を傾げた。
「勿論、御用地には警備員が十分に居るんだが……流石にあっちの警備に亜人は使えねぇのに、外から探してどうするのかは謎だよ」
「何かあったとしたら、どのみち風見さんが上空から手を出して、何も無かった事にするのがオチだよ。そうじゃなきゃ、草薙さんがちょっとフェンスを越えて殴って、警備が来た時には何事も無かった事にするか、だよ。ま、電動キックボード化してくれる分マシなんだけどね」
 肩を竦める瀬戸に、天野は大変ですねと返すのが精いっぱいだった。
「では、天野君と醍醐君は私に付いて来て下さい、片付けたら外に出ますよ」
 武寿賀は残る二人に声を掛け、第五は机に残された食品容器を回収し始めた。
「天野さんは飲み物の容器を洗ってくれますか? 流し台に案内します」
「はい」
 いくつかの容器を抱えたまま、醍醐は申し訳程度の給湯室へと天野を案内する。
「飲み物の容器やちょっとした洗い物はここで大丈夫です。大きい物や汚れの強い物は、向こうの物置に有るシンクを使って下さいね」
「分かりました」
 調査に出た職員をエリートとするなら今の天野の仕事は単なる雑用係であり、まだ何も知らない新人に辛うじてできる程度の物でしかなかったが、かつて役場に勤めていた頃には上司や先輩職員、同僚にさえ疎まれていた事を思えば、頼りにされている分報われる仕事だった。
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