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第一章 数の暴力は雑魚キャラを最凶にする
金粉入りスライムのその後
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側溝から這い出してきたスライムの流入が治まったその後、水分を含んで動きの鈍った金属回収スライムが証拠品として押収された。そして、現場の片付けの目途が付いた頃には、風見と瀬戸によって中和剤の原料調達に出ていた錬金術師の助手の身柄が確保された。
――それで、このスライム、どうするんです?
助手の身柄を確保して戻ってきた瀬戸は、不穏にうごめくスライムを封じ込めた段ボールを前に、その扱いを嫌悪感剥き出しの表情で尋ねた。刑事課としては鑑識による鑑定の必要性は理解しているが、得体の知れない生命体を庁舎内で開封する事はしたくないとの意向で、吉備津の判断は鑑定に協力する専門家に見せた方がいいというものだった。
――折角ですから、平賀先生に挨拶をしておいて下さい。
武寿賀は証拠品の鑑定を“錬金術”に造詣の深い平賀に依頼し、鑑定の現場には被疑者二名を同席させる事を提案した。刑事課は被疑者の同席を渋ったが、エザフォスの錬金術の知識が無い警察官では取り調べにもならないだろうと指摘され、渋々了解するに至った。
こうして亜人相談室調査係に着任したばかりの天野と、調査係に移動したばかりの醍醐は被疑者の監視と証拠品の管理という名目で平賀の研究室へと同行する事となった。
「お忙しいところ申し訳ありません、先程連絡が有ったかと思いますが、警視庁公安部亜人相談室調査係の天野照彦と申します」
「同じく、醍醐桜と申します。お初にお目にかかります、平賀先生」
深々と頭を下げる天野の隣で、醍醐は笑顔を見せた。
「これはご丁寧にどうも。早速ですが、こちらに証拠品と錬金術師とやらを連れて来て下さい」
平賀に促されるまま、天野はスライム入りの段ボール箱を手に渋い表情で待機する刑事と錬金術師達を研究室へと誘導する。
「さぁて……開封する前に、何を使ってこのはた迷惑な物を作ったのか、白状してもらおうか……錬金術師殿は、どっちだね」
平賀が目を向けた先には、後ろ手に手錠を掛けられ腰紐でもでつながれた二人の男が立たされている。二人は総じて不貞腐れた様な表情で俯いたまま、何も言おうとはしない。
「おい」
刑事は発言を促そうとするが、平賀は段ボール箱の蓋を抑える醍醐の視線をなぞって理解していた。
「この粗悪品を作ったのは、君かね」
平賀は少し長い髪を無造作に束ねた無精ひげの男の顎を無理やりに引き上げた。
「錬成に使った素材は何だね。嘘を吐いた時には、毒ガスが出ようが火が点こうが、君を巻き添えにするだけだよ?」
「……海藻の粉と薄い樹脂の袋、それから水だ」
「それが魚の代用品かい?」
「あぁ」
「という事は、代用品のゼレを金属の溶けた薬品を希釈あるいは中和した物に放り込んで金属を回収し、精製したという事だね」
「そうだよ」
「だが、現場からはニトロセルロースが出てきているし、魚の代用であるゼレに含まれるプラスチックは燃えカスが多い……ゼレ・メタレイアはどうやって作ったんだね?」
「海藻の粉と、ケーロニオンの代用品の、そのニトロセルロースとやらだよ。燃えカスが少なくて便利だと聞いたんだ」
沈黙を破った錬金術師は、半ば自棄になった様子で答える。
「その事を聞いた相手について、此処では問わんが……とにかく、このゼレを溶かして媒介を燃やして金粉を回収するつもりだった、と」
「そうだよ!」
「そうですか……というわけで」
平賀は錬金術師から離れ、責任者と思しき刑事の前に歩み出る。
「まず、この証拠品のゼリー部分を溶解させ、動き回らない様にします。それから……ニトロセルロースは可燃性が高い物ですから、燃やして除去し、証拠品の金を引き渡します」
燃やす、という言葉に刑事は血相を変える。
「御安心下さい、ニトロセルロースは地球の手品師が使う小道具ですから、大した火力にはなりません。もちろん、ラボの中で扱う分に危険は有りません。さて……」
積まれた段ボール箱に視線を移した平賀は、その視線を後ろ手に手錠を掛けられた錬金術師の助手に向ける。
「この量を一人で煮溶かすのは骨が折れます。というわけで、其処の助手らしき君、手伝いなさい」
錬金術師と共に俯いていた金髪の男は意表を突かれた様に顔を上げる。
「いや、ちょっと待って下さい、平賀さん、この人は」
「私一人で煮溶かしていたら、あなた方もそうだが、其処の可哀想な調査係の二人も徹夜だよ?」
疲れた表情にあからさまな悲哀をにじませる天野を目の当たりにした若い警察官は、小さな声で掲示の名前を呼ぶ。
「……あぁ、分かったよ! そっちの助手は汚い海岸で干からびた海藻を拾っていただけだ、此処から出さない限り好きにしろ!」
刑事の言葉に、若い警察官は助手の手錠を外す。
「さて、天野君と醍醐君だったかね、二人にも手伝ってもらうよ。なに、寒天を作る要領で混ぜていればいいんだ。加熱すれば動きは治まるだろうし、駄目なら溶けて動かなくなるまで蓋をしておけばいいんだよ」
困惑した天野と醍醐は顔を見合わせ、醍醐は頷いた。彼女もまた、早く終わらせたいのである。
それから数時間、平賀の研究室では、何を煮込んで混ぜて来たのかよく分からない大鍋に放り込まれたスライムの後始末が続いた。そして、そんな大掛かりな作業の果てに証拠品として採取されたのは、ごく微量の金粉だった。
――それで、このスライム、どうするんです?
助手の身柄を確保して戻ってきた瀬戸は、不穏にうごめくスライムを封じ込めた段ボールを前に、その扱いを嫌悪感剥き出しの表情で尋ねた。刑事課としては鑑識による鑑定の必要性は理解しているが、得体の知れない生命体を庁舎内で開封する事はしたくないとの意向で、吉備津の判断は鑑定に協力する専門家に見せた方がいいというものだった。
――折角ですから、平賀先生に挨拶をしておいて下さい。
武寿賀は証拠品の鑑定を“錬金術”に造詣の深い平賀に依頼し、鑑定の現場には被疑者二名を同席させる事を提案した。刑事課は被疑者の同席を渋ったが、エザフォスの錬金術の知識が無い警察官では取り調べにもならないだろうと指摘され、渋々了解するに至った。
こうして亜人相談室調査係に着任したばかりの天野と、調査係に移動したばかりの醍醐は被疑者の監視と証拠品の管理という名目で平賀の研究室へと同行する事となった。
「お忙しいところ申し訳ありません、先程連絡が有ったかと思いますが、警視庁公安部亜人相談室調査係の天野照彦と申します」
「同じく、醍醐桜と申します。お初にお目にかかります、平賀先生」
深々と頭を下げる天野の隣で、醍醐は笑顔を見せた。
「これはご丁寧にどうも。早速ですが、こちらに証拠品と錬金術師とやらを連れて来て下さい」
平賀に促されるまま、天野はスライム入りの段ボール箱を手に渋い表情で待機する刑事と錬金術師達を研究室へと誘導する。
「さぁて……開封する前に、何を使ってこのはた迷惑な物を作ったのか、白状してもらおうか……錬金術師殿は、どっちだね」
平賀が目を向けた先には、後ろ手に手錠を掛けられ腰紐でもでつながれた二人の男が立たされている。二人は総じて不貞腐れた様な表情で俯いたまま、何も言おうとはしない。
「おい」
刑事は発言を促そうとするが、平賀は段ボール箱の蓋を抑える醍醐の視線をなぞって理解していた。
「この粗悪品を作ったのは、君かね」
平賀は少し長い髪を無造作に束ねた無精ひげの男の顎を無理やりに引き上げた。
「錬成に使った素材は何だね。嘘を吐いた時には、毒ガスが出ようが火が点こうが、君を巻き添えにするだけだよ?」
「……海藻の粉と薄い樹脂の袋、それから水だ」
「それが魚の代用品かい?」
「あぁ」
「という事は、代用品のゼレを金属の溶けた薬品を希釈あるいは中和した物に放り込んで金属を回収し、精製したという事だね」
「そうだよ」
「だが、現場からはニトロセルロースが出てきているし、魚の代用であるゼレに含まれるプラスチックは燃えカスが多い……ゼレ・メタレイアはどうやって作ったんだね?」
「海藻の粉と、ケーロニオンの代用品の、そのニトロセルロースとやらだよ。燃えカスが少なくて便利だと聞いたんだ」
沈黙を破った錬金術師は、半ば自棄になった様子で答える。
「その事を聞いた相手について、此処では問わんが……とにかく、このゼレを溶かして媒介を燃やして金粉を回収するつもりだった、と」
「そうだよ!」
「そうですか……というわけで」
平賀は錬金術師から離れ、責任者と思しき刑事の前に歩み出る。
「まず、この証拠品のゼリー部分を溶解させ、動き回らない様にします。それから……ニトロセルロースは可燃性が高い物ですから、燃やして除去し、証拠品の金を引き渡します」
燃やす、という言葉に刑事は血相を変える。
「御安心下さい、ニトロセルロースは地球の手品師が使う小道具ですから、大した火力にはなりません。もちろん、ラボの中で扱う分に危険は有りません。さて……」
積まれた段ボール箱に視線を移した平賀は、その視線を後ろ手に手錠を掛けられた錬金術師の助手に向ける。
「この量を一人で煮溶かすのは骨が折れます。というわけで、其処の助手らしき君、手伝いなさい」
錬金術師と共に俯いていた金髪の男は意表を突かれた様に顔を上げる。
「いや、ちょっと待って下さい、平賀さん、この人は」
「私一人で煮溶かしていたら、あなた方もそうだが、其処の可哀想な調査係の二人も徹夜だよ?」
疲れた表情にあからさまな悲哀をにじませる天野を目の当たりにした若い警察官は、小さな声で掲示の名前を呼ぶ。
「……あぁ、分かったよ! そっちの助手は汚い海岸で干からびた海藻を拾っていただけだ、此処から出さない限り好きにしろ!」
刑事の言葉に、若い警察官は助手の手錠を外す。
「さて、天野君と醍醐君だったかね、二人にも手伝ってもらうよ。なに、寒天を作る要領で混ぜていればいいんだ。加熱すれば動きは治まるだろうし、駄目なら溶けて動かなくなるまで蓋をしておけばいいんだよ」
困惑した天野と醍醐は顔を見合わせ、醍醐は頷いた。彼女もまた、早く終わらせたいのである。
それから数時間、平賀の研究室では、何を煮込んで混ぜて来たのかよく分からない大鍋に放り込まれたスライムの後始末が続いた。そして、そんな大掛かりな作業の果てに証拠品として採取されたのは、ごく微量の金粉だった。
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