幸せな人生を目指して

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第1章 新しい世界

6 危機

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「すみません僕まで」

お店を後にして二人並んで歩いていると、隣からポツリと聞こえてくる。
今の今まで年相応に喜びを見せていたルカ。しかし、お店を出るといつもの冷静さを取り戻したのか、罪悪感に責められたような表情で謝るのだ。

その様子に私は一言大げさな!と心の中で突っ込みを入れる。

ルカの事だから、主人の買い物に首を突っ込み、更に買い物とは言えないものの品物を頂いてしまった。従者として有るまじき行為。とか思っているんだろうな。
気にしなくて良いんだけどな。本当に。

「気にしなくて良いですよ。今日私の買い物に付き添ってくれたお礼、とでも思って下さい」

「しかし僕の仕事は主人を傍で見守る事です。それなのに一緒になって楽しむわけには……」

「もう、私が良いって言ってるんです。それに見守るのだけが従者の仕事ではありませんよ。主人のお願いを叶えるのも仕事の内です」

世間では従者は主人に付き従うもの、と定義づけされているけど私はそうは思えない。貴族でなかった頃の記憶があるから尚の事、貴族にとっての普通は私にとっては普通ではないのだ。
とはいえ、貴族社会が当たり前のこの世界ではそれは言っても無駄な事。当のルカですら私の発言に意外そうな顔をしている。

「エル様は時折、予想もしない事を言いますね」

「むっ、それは馬鹿にしているんですか」

「感心しているんですよ。だからそんなにむくれた顔しないで下さい」

馬鹿にするような物言いに、私はむすっと頬を膨らませて対抗する。すると笑いをこらえるように口元に手を当てるルカ。口では否定しておきながら顔に出てるよ。
ルカの態度に私の頬が更に膨らんだのだった。


その後、何件かお店を周り私的にはもう満足。
自分で初めて足を踏み入れるお店ばかりで、中々に新鮮な体験が出来たと思うし、何より自分で選んだ洋服を購入出来たのが嬉しかった。何しろ自分で自分の洋服を購入したなんて今までないから。
今までは仕立屋に仕立ててもらった洋服を着ていたので、こうして自ら足を運んで、好みのものを選んで購入するという楽しい体験をしたのだった。前世では割と当たり前の事なんだけどね。

「では、そろそろ戻りましょうか」

「そうですね」

私は一時前のルカの行い等とうに忘れて、笑顔で返事をしたのだった。


「人多いですね」

「この街は栄えていますからね」

更に移動して人が一番多い通りまで来ていた。私達が来た時よりも時間が過ぎ人が多くなってきているようだ。その人の多さと街の賑わいに驚きつつ先を進む。

まるで満員電車に乗っているようで、人に酔わないようにと願う。

「エル様、僕から逸れない様に気を付けてくださいね」

前方を歩くルカに忠告され、何と言うかフラグみたいだなと呑気な事を思っていた時。

「分かりまし――えっ、わっ!」

言ってる傍からフラグ回収。
返事も途中に驚きの声を上げる。唐突にルカと私の間にぬっと男の人が現れたのだ。その人は先を急いでいたのか、私の前を無理やりに横切ろうとする。その際に体が軽くぶつかる。体格差的に私の方が力がない為、少しぶつかっただけでよろけてしまった。
そしてあっと思った時はもう遅く、前方は自分よりも大きい人達で埋め尽くされ、今さっきまで見えていたルカの背中も見えなくなっていた。

「……ルカっ!」

この状況はまずい。非常にまずい。
パニックを起こす頭。落ち着かなければと思うのに頭は混乱する。

と、とにかく人混みから出れば……。
それだけ判断出来たから即行動に移そうと動く。ルカの声が聞こえないから完全に逸れてしまったようだが、それでもそう遠くには行っていないだろう。そう思い、小さい体を一生懸命に動かし、やっとの事で人の波から外れる。
建物と建物の間にするりと入ると一先ずホッと胸を撫で下ろした。

そして次にこの状況をどうしようか考える。
きっと名前を呼んだところで聞こえないだろうし、相手の場所を特定できる魔法があるにはあるけど、これだけ人が多いと特定がしづらい。

とはいえ考えても私が出来ることは少ないし、今はもう出来る事をしていくしかないか。やっても駄目だったらその時にまた考えればいい。
街に来てまで魔法を使用したくなかったけど、やむを得ない。

そう思い集中する為に目を閉じた。
探知魔法であるサーチを自分の周り、広範囲に渡って展開していく。

うーん……。中々見つけられない。

探知魔法は一見便利そうだけど、案外使用が難しい。
魔力があれば発動自体は簡単。ただ現状のように大多数がいる中の使用や、魔法を使える人がいたりすると判別がしづらくなってしまう。
そもそも魔法が使える人と言うのは体内に魔力が備わっていて、それがサーチすると波動、つまり波となって感じ取れるのだ。
魔力の多さは人によって違う為、波の伝わり方も大小と人それぞれでもある。
人が多ければ多い程それに伴って魔力反応も大きくなり、今がまさにその状況だ。

……思った以上に反応が多い。こんなにいるの。

それ見たことかと王都の街だけあって、魔力持ちが多すぎる。

うう……。やっぱりこの方法は難しかったな。
もうルカが探しに来てくれるまで大人しく待っていた方が良いよね。

そう思い、不安は拭えないものの魔法の発動を止め、その場で様子を伺う事に切り替える。
するとその時。

「……っ!」

突然何かが私の口を覆った。いや、正確には口と鼻をだ。
それに驚いて反射の声すらも出ない。

何っ……?

状況を理解していないまま、それでも口元に手を持っていくと誰かの手に触れ、そうした事で唐突に理解した。

見知らぬ誰かに布のようなもので口と鼻を塞がれている……!

その事実にショックを受け、咄嗟に逃げ出そうと暴れたが、その際に強烈な臭いが鼻につき視界がブレる。

これって何かの薬……っ!

そう気づいてこれ以上吸ってしまわないように息を止める。そしてどうにかしてこの手から逃れようと爪を立てたのだ。

「痛っ」

私の背後で低い声がし、その声からして中年くらいの男性だろうか。
確認をと思い振り向こうとしたその時、お返しだと言わんばかりに強く手を掴まれてしまい、その痛みと衝撃で息を吸ってしまった。盛大に吸ってしまい再度、強烈な臭いが鼻にくる。
先程よりも視界が悪くなり、歪んでいき段々と目の前が暗くなっていく。

この状態では魔法を発動したくとも出来ない。

「可愛い嬢ちゃんだな。ちょうど良い。一緒に来てもらうぜ」

私は成すすべなく、男のその声を最後に意識を失った。




ルカside

その頃――。

「エル様っ!どこですかっ!」

僕は逸れてしまったエル様を探していた。
自分の性格は冷静な方だと自負しているが、今は冷静さの欠片もなく焦る気持ちが上回っていた。
名前を呼んで辺りを探すがエル様を一向に見つける事がかなわない。それにこのまま見つけられなければ、何か事件に巻き込まれる可能性もあり得る。あの容姿だ。最悪誘拐や人身売買という恐れもある。

そんな縁起でもない事を思ってしまい慌てて頭を振る。

エル様の傍を少しでも離れた僕の責任だ、と後悔が押し寄せたその時だった。

「おい!女の子がさっき怪しい奴に連れていかれたの見たんだっ!早く衛兵を呼んでくれっ!」

「何だって!それは本当か!?」

「なら早く連絡をっ!」

一人の男性がそう叫んだと思えば、それに反応して周りの人達も次々と連鎖するように騒ぎ出したのだ。
その騒ぎに何だと思ったのは一瞬で、直ぐに気持ちを切り替えると今しがた叫んでいた男性の元へと急いで向かった。

「すみません!連れていかれたと言っていたその女の子の特徴、分かりますか?」

その男性を見つけるや否や、僕はそう声をかける。すると僕の声に男性がはっとこちらを見た。

「あ、ああ。一瞬だったけど、金色の髪が見えたよ。それに裕福そうな服を着ていたような気もするな」

「どの方角へ向かったか見ましたか?」

動揺しながら答える男性に悪いと思いながらも重ねて質問をする。男性は僕の威圧に押されながらも、それでもある方角に指を向けた。

「……ありがとうございます」

僕はそれを見るなり簡単に礼を述べ、すぐさま男性の示した方角へと走り出した。


あの方角は、恐らく――。

男性が示したその方角には大きな街があった。街の名前はアイビス。
だがしかしそれは昔の話で、その街は栄えていたにも関わらず数年前に滅んでしまったと言われている。
滅んでしまったと理由は分からないが、今は誰も近づく事がない場所で、残っているものと言ったら廃墟になった建物だけと聞く。
だが人が寄り付かないのを良い事に、悪人共がそれを利用しているのかもしれない。

そう思い至った時、運良く目の先に馬を連れている男性を見つけ、僕は迷いなく男性へ近づいて行った。
説明をしている時間がない為、適当に金を渡してその馬に跨る。男性は驚いた顔をしていたが理由を追及してくることもなく、ただ黙って様子を見ていた。追及をしてこなかったのは恐らく金を渡したからだろうが、手間が省けてこちらとしても助かる。

そしてその男性にお礼も早々に馬を走らせる。
馬が急に走り出したことに周りの人々が驚くが、それに構っていられる程僕も余裕がなかった。
とにかく今はエル様を見つける事が最優先なのだ。

それだけを考え、前を見据えたのだった。
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