幸せな人生を目指して

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第1章 新しい世界

7 脱出の手立て

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「痛っ……」

身体に痛みが走り、その衝撃で意識が浮上する。

……えっ、ここどこ……?

そして目が覚めた私はどこか分からない場所に閉じ込められていた。そこには窓などはなく薄暗いが、目が慣れてくると人一人が入れるくらいのスペースしかない場所、だという事が分かった。四角い木箱のようなものだろうか?所々に隙間があり、そこから光が差し込んでいる。

「ぐっ……」

とにかく状況を確認しなくてはと横になっていた体を起こそうとしたところ、後ろ手にロープで腕を縛られている事に気づく。その為、体に力を入れ自力で上体を起こす。その際に首を捻り縛られている腕を見ると少し赤くなっていたので、先程の痛みはこれだったのだと納得した。

それはそうと先程から断続的に揺れを感じるのだ。
光が差し込むと言ってもほんの少しの隙間である為、外の状況を見る事は叶わないが、この断続的に続く揺れからしてここは恐らく馬車の中だと私は思い至る。或いは荷物を運ぶ荷車の中。どちらにしろ乗り物の中である事は確かだろう。

そこまで予想が付いたのは良いとする。だけど肝心な事が把握出来ないのは痛いところだ。
今もこうして動いているという事は何処か目的地に向かっているという事。
隙間から入ってくる光で昼間なのだとは分かるが、自分がどれ程の時間意識を失っていたのかは定かではない。
となると最悪、この場所に連れ込まれてから丸々一日過ぎているという可能性も考えられるのだ。

それに元を辿って行けば、何故私を誘拐したのか。元から私が目的だったのか。その場合金銭目的なのか、等様々な憶測が考えられる。
もしも私がそもそも誘拐の標的であったなら、金銭目的と言うのが一番に考えられる。
それか目的は私ではなく、偶々見かけた上流階級っぽいなりをしていた私に狙いを定めたのか。
そんな大それて目を引くような身なりではないけど、見る人には分かる生地の良い上品なワンピースを私は着ている。それに上流階級の人間とは分からなくとも、振舞や、身のこなしから裕福層の人間だと思われたのかもしれない。

そういえば意識を失う直前、誘拐犯であろう男が何かを言っていたような気がするけど、何と言っていたのか思い出せない。


……凄い災難だな。街に買い物に来ただけなのにこんな事に巻き込まれるなんて……。ついていないとしか言いようがないよ……。
これからどうしよう……。


そう思った瞬間だった。

「……わっ!」

揺れが停まった。しかもゆっくりではなく急に停車した為、身構えていなかった体が少し浮き、そのまま床に体が打ち付けられる。

……痛っ!

背中からいってしまい、既に傷がある縛られている腕にまたも痛みが走り悶絶した。

一体、何が……?何処かに着いたの……?

痛みに耐えながらも警戒を怠らず耳を澄ませていると、外から足音が聞こえてくる。そしてその音が段々とこちらに近づき、私の目の前まで来たと思ったら更にガチャリと音がして、この箱の扉が開いたのだ。扉と言っても良いのか分からないがそれが誰かの手によって外側から開けられ、入ってくる光が眩しくて目を細める。

「おっ、お目覚めかい?手間が省けたぜ。それならさっさと来てもらおうか。お嬢ちゃん?」

状況を整理する暇もなく、男の声が頭上から落とされた。
顔を上げると膝下まである黒いマントに、顔を隠す為かフードを深く被った如何にも怪しい人物がそこに立っていた。
この声……。これだけは覚えている。意識を失う前に聞いた声と同じ。もしかしなくともこの男が誘拐犯だ。

そう分かってもこの状況、今の私には何も出来る事がない。
相手は男。それもマントを羽織っていても体格が良いのが見て取れるのだ。勝ち目がない。
ここは男の言う通りにするしかない。

私は大人しく頷くと、歩き出した男の後に続いた。


折角外に出れたのにここは何処なの……?

目隠しをされる事なく難なく外には出れたものの、辺りに広がる景色に見覚えのあるものはなかった。
周りにはそもそも建物と呼べる程のものはなく、あったとしても廃墟にしか見えない有様で、その他は崩れた建物の残骸が落ちているだけだった。

そして男の向かっている先。そこには周囲とは明らかに違う雰囲気の建物があった。縦に長く伸びる太い柱が規則正しく並び、天井が高い。建物の入り口近くには、羽が生えた天使の彫像がいくつか並べられている。

ここは所謂神殿と呼ばれる場所だろう。

周囲の廃墟よりはましだが、しかし所々彫像の一部が壊れていたり、壁にヒビが入っていたりと、既に使われてはいない建物だという事が分かった。

男はどうやらこの神殿へと入っていくようだった。
不気味な感じがするが、今は大人しく従う外ないので後に続いて私もその場所へ足を踏み入れる。中は暗くて、ひんやりとした空気が漂っている。
明かりが点いていない事もあり、何かが出てきてもおかしくない雰囲気だ。

……?

先の事を考え不安が募るそんな中、不意に何かの気配を感じた。
はっとした私は男に気づかれないよう慎重に周囲の様子を伺う。だが暗いせいもあって良く見えない。それにこんなところに誰かがいる訳もなく、入って来た時と変わらず辺りはシーンとしていて、私と男の歩く足音しか聞こえてこない。
気のせいだろうと思ったが、それは奥に進んでいく程に強くなっていった。

……でもこの感じ……。

しかし不思議な事に、気配が強くなっても何故か嫌な気はしなかった。

……人とはまた違う存在がいるのかもしれない……。

確信はないが不思議とそう思ったのだった。



そして歩き続ける事数分。やがて開けた場所に出た。

……ここは何だろう?それに気配も強いし……。

暗いところにもようやく目が慣れ、多少は物等も見えるようになったので見回して見るが――やはり誰もいない。

「ちんたらしてないで早く歩けっ!」

おかしいなと立ち止まっていたら、それに気が付いた男がイラついたように声を上げ、我に返った私は慌てて男の後を追いかけたのだった。



先程の開けた場所から更に奥。ここに来るまでの道のりで結局誰にも会わなかった。
他にも仲間がいると踏んでいたんだけど。それともこの先で待っているとか……?
もしそうだとしてこのまま進み、仲間と合流されたらもう逃げる機会は巡って来ないかもしれない。

そう思い焦りそうになるが、気持ちを落ち着かせ今一度自分の置かれた状況を思い返す。

もしこの先仲間がいた場合私は袋の鼠だ。でも今なら自分の目の前にいるこの男しかいない。
それに手を縛られているとはいえ、魔法は発動できるし足も自由だ。火属性の魔法で縄を燃やせれば体も自由になる。
ただ魔法を使えば何かしら現象が起きてしまうので、この暗闇の中では気づかれる恐れがある。

それでも……やるしかない。

そして体が自由になったらとにかく逃げる。外に出る事さえ出来れば周りを気にする事なく魔法を使えるし、もしもルカが近くにいれば何かしら合図を送れるかもしれない。

大丈夫。落ち着くのよ私。
いざと言う時の為、姉様から魔法を教わっていたでしょ。今こそそれを活かす時なんだ。

そう気合を入れると私は直ぐに行動へ出る。

「マイクロ・フレイム・アクティベート」

魔法を発動させる為の呪文を囁いた。男にバレないように小さな声で。
加減を間違えないように慎重に魔法を発動し、意識を集中させ巻き付く縄だけを燃やしていく。
よし、発動は成功した。縄も後少しで切れる……!

「……っ!おいっ、何をしている……っ!」

そう思った矢先、こちらを振り返った男が異変に気付いた。激しく激昂しながら近づいてくる。

ここで捕まったらおしまいだ!

男が迫る中、私はここぞとばかりに両手に力を入れ、まだ焼き切れていない縄を無理やり引き千切った。

取れた……っ!
擦れた部分に痛みが走るが今はそれどころではない。

近くまで来た男が再び私を捕らえようとその手を伸ばしてくる。
恐怖で足が縺れそうになりながらも、それをどうにか交わして走って距離をとる。そして間髪入れずに攻撃系の呪文を唱えた。

「デバステート・ウィンドッ!」

唱えたのは風の魔法。発動させると何処からともなく風が吹き荒れ、激しく髪を揺らした。
そして素早く両手を男へと向ける。すると突風となった風が男目掛けて襲い掛かった。

「……っ!!」

猛スピードで容赦なく迫る突風に、男は成すすべもなく、後方へ大きく吹き飛ばされるとそのまま地面へ落下した。
男は今ので失神したのかピクリとも動かなかった。

咄嗟の事で加減が出来なかったけど、命を奪う程の威力ではない。
ただ派手に吹き飛んだから怪我は負っただろう。勿論謝る気は毛頭ないけどね。

そう心の中で思ったが安心するのはまだ早い。男が伸びている間に早く外へ!

余裕等なく、とにかく来た道を戻った。死に物狂いで何が何でも帰るんだ、と強く思いながら私は走り続けた。
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