55 / 229
第4章 追憶~過ぎ去った日~
3 少年と少女
しおりを挟む
傘もささずに立ち尽くす二人。でもそれを怪しく思う人は周りには誰も居ない。
「そうかクラウスというのか。良い名だな。それはそうとクラウス。少し雨宿りをしたいのだがどこか良い場所はないか?」
少女、ルリアーナはどうやら雨宿り出来る場所を探して僕に話しかけたらしい。もうずぶ濡れなのだが。
「なら僕の家に来る?今は誰もいないし。君が良ければだけど」
他に言い馬車が思いつかなくてつい自分の家を進めてしまうけど、すぐに後悔した。いきなり女の子を見知らぬ者の家に招くなど失礼な事だったと。
変に思われただろうか……?そう思い彼女の様子を伺う。
「そうか。それなら行くとしよう。感謝するぞ」
僕の提案に彼女は特に気にする様子もなく、寧ろ早く行こうと催促する口ぶりをみせた。そして道も分からないのに踵を返してさっさと歩き出そうとする。
「あっ、待って」
予想だにしない反応に呆気に取られていた僕ははっと我に返ると、反対方向へと向かって行く彼女のあとを急いで追う。
「何だ、早くしないとびしょ濡れだ」
「僕の家知らないでしょ。反対方向だよ。案内するからついてきて」
「そうだったか。すまない、よろしく頼む」
僕の後を彼女は大人しくついてきた。そして僕は見ず知らずの彼女と雨の中、家まで一緒に帰って行った。
「どうぞ入って」
「ほう。ここがお前の家か、中々良いところに住んでいるではないか」
家の中に入ると彼女は興味津々な様子で周りを見回していた。こういった家に初めて入ったかのような反応を見せるあたり、やはりどこかのお嬢様なのだろうと僕は思った。
「何もないけどね。そこの暖炉で温まってて、今タオルを持ってくるから」
「ああ、助かる」
勧めると彼女は暖炉の前にゆっくりと腰を下ろした。帰って一番に付けた暖炉の火はあっという間に大きくなり、冷えきった体と、この家を温めてくれる。彼女が温まっている間、僕は店の奥へ行きまだ使っていない新しいタオルを二つ持つと来た道を戻って行き、温まっている彼女にタオルを手渡す。
「これ使って」
「ありがとう」
タオルで冷たくなった体を伝う水滴を拭い、冷えた体を温めるため、僕は彼女の隣に少し間を開けて座る。
不思議なものだな。誰かと暖炉で温まるなんていつぶりだろう。
僕が小さかった時なんかは暖炉の前で家族三人仲良く座って温まったりもした。僕は真ん中で両親が両隣に座り、包み込むように寄り添っていた。とても温かかったのを昨日の事のように覚えている。
「どうした?」
「え……?」
懐かしむように過去の思い出に浸っていたが、彼女の戸惑った声に我に返り、横を向くと困惑した表情で僕を見つめる彼女が居た。
「何故泣いているんだ?」
「えっ、……泣い……てる?」
何を言われているのか分からず僕は戸惑う。そして彼女に言われて初めて気がついた。瞳からは知らず知らずの内に涙の雫が零れ落ちていた。
「ご、ごめん。昔のことを思い出しちゃったからかな」
「そうか。先ほども泣いていたな」
気づいていたのか。僕でも雨なのか涙なのか良く分からなかったと言うのに。それに何だか恥ずかしさと、女の子の前で泣いてそれを見られてしまった情けなさに、これ以上は見せまいと顔を俯かせる。
「気にすることはない。泣きたいなら泣けばいい。泣けるときに泣いておかないと後で後悔するぞ。初対面の、こんな小さいなりの少女で申し訳ないが、妾が傍にいるから。今だけは意地を張らなくて良い」
その言葉にゆっくりと顔を上げると、彼女は美しい笑みを浮かべてそっと僕を抱きしめる。そしてまるで母親のように優しい手つきで頭を撫でてくれた。
それもあってか更に昔を思い出してしまって僕はみっともなく泣いてしまった。恥ずかしいと思うけどどうしても止まらなかった。それでも彼女は何も言わずに、ただずっと僕を抱きしめ続けてくれていた。
「……ごめん。情けないな……、僕」
それから暫くしてようやく泣き止むと僕は彼女の腕の中からそっと抜け出し、溢れた涙を拭った。
「気にするな。少しはすっきりしたか?」
本当に気にした様子もなく優しい声色でたずねてくて、それにどこかホッとする。
「うん。ありがとう」
「そうか、良かった」
それからは暫く沈黙し、お互いに話す事もなく気まずい空気になり、唯々時間だけが流れていった。
……何を話せば。思い返せば聞きたいことはあるだろうに、今の僕には何も言葉が思い浮かばなかった。
すると唐突に彼女の方から話し掛けられる。
「お前、今辛いのか?」
「え?」
沈黙を破り凛とした彼女の声が響く。
「少しお前の話を聞いても良いか?何があったのか。話したくなければ話さなくてもいいが」
そう言った彼女は何故か悲しそうに微笑んだ。
その時僕は悟った。彼女は何となくでも偶然でもなく、何か理由があって僕に話しかけてくれたのではないか、と。
自分の勝手な想像だが、もしもそうなら今のこの気持ちを彼女に聞いてほしいと思った。言葉をかけて欲しいわけじゃない。ただ聞いてほしいんだ。一人で悩むのにはこの気持ちは辛すぎるから。
「君になら、いや君に聞いてほしい。僕の今の気持ち、そして少しの間の思い出話しを」
「分かった」
彼女の返事聞いてから僕はゆっくりと話し始めた。話している間、彼女は寄り添い、時々相槌を打って話しに耳を傾けてくれていた。
両親との生活、この家で商人として両親の仕事の手伝いをしていたこと、そして事故のこと……。
途中で何度も泣きだしそうになったり、歯切れが悪くなってしまったりしたけど、それでも先を急かす事なく、ただ静かに隣に居てくれたのだった。
「そうかクラウスというのか。良い名だな。それはそうとクラウス。少し雨宿りをしたいのだがどこか良い場所はないか?」
少女、ルリアーナはどうやら雨宿り出来る場所を探して僕に話しかけたらしい。もうずぶ濡れなのだが。
「なら僕の家に来る?今は誰もいないし。君が良ければだけど」
他に言い馬車が思いつかなくてつい自分の家を進めてしまうけど、すぐに後悔した。いきなり女の子を見知らぬ者の家に招くなど失礼な事だったと。
変に思われただろうか……?そう思い彼女の様子を伺う。
「そうか。それなら行くとしよう。感謝するぞ」
僕の提案に彼女は特に気にする様子もなく、寧ろ早く行こうと催促する口ぶりをみせた。そして道も分からないのに踵を返してさっさと歩き出そうとする。
「あっ、待って」
予想だにしない反応に呆気に取られていた僕ははっと我に返ると、反対方向へと向かって行く彼女のあとを急いで追う。
「何だ、早くしないとびしょ濡れだ」
「僕の家知らないでしょ。反対方向だよ。案内するからついてきて」
「そうだったか。すまない、よろしく頼む」
僕の後を彼女は大人しくついてきた。そして僕は見ず知らずの彼女と雨の中、家まで一緒に帰って行った。
「どうぞ入って」
「ほう。ここがお前の家か、中々良いところに住んでいるではないか」
家の中に入ると彼女は興味津々な様子で周りを見回していた。こういった家に初めて入ったかのような反応を見せるあたり、やはりどこかのお嬢様なのだろうと僕は思った。
「何もないけどね。そこの暖炉で温まってて、今タオルを持ってくるから」
「ああ、助かる」
勧めると彼女は暖炉の前にゆっくりと腰を下ろした。帰って一番に付けた暖炉の火はあっという間に大きくなり、冷えきった体と、この家を温めてくれる。彼女が温まっている間、僕は店の奥へ行きまだ使っていない新しいタオルを二つ持つと来た道を戻って行き、温まっている彼女にタオルを手渡す。
「これ使って」
「ありがとう」
タオルで冷たくなった体を伝う水滴を拭い、冷えた体を温めるため、僕は彼女の隣に少し間を開けて座る。
不思議なものだな。誰かと暖炉で温まるなんていつぶりだろう。
僕が小さかった時なんかは暖炉の前で家族三人仲良く座って温まったりもした。僕は真ん中で両親が両隣に座り、包み込むように寄り添っていた。とても温かかったのを昨日の事のように覚えている。
「どうした?」
「え……?」
懐かしむように過去の思い出に浸っていたが、彼女の戸惑った声に我に返り、横を向くと困惑した表情で僕を見つめる彼女が居た。
「何故泣いているんだ?」
「えっ、……泣い……てる?」
何を言われているのか分からず僕は戸惑う。そして彼女に言われて初めて気がついた。瞳からは知らず知らずの内に涙の雫が零れ落ちていた。
「ご、ごめん。昔のことを思い出しちゃったからかな」
「そうか。先ほども泣いていたな」
気づいていたのか。僕でも雨なのか涙なのか良く分からなかったと言うのに。それに何だか恥ずかしさと、女の子の前で泣いてそれを見られてしまった情けなさに、これ以上は見せまいと顔を俯かせる。
「気にすることはない。泣きたいなら泣けばいい。泣けるときに泣いておかないと後で後悔するぞ。初対面の、こんな小さいなりの少女で申し訳ないが、妾が傍にいるから。今だけは意地を張らなくて良い」
その言葉にゆっくりと顔を上げると、彼女は美しい笑みを浮かべてそっと僕を抱きしめる。そしてまるで母親のように優しい手つきで頭を撫でてくれた。
それもあってか更に昔を思い出してしまって僕はみっともなく泣いてしまった。恥ずかしいと思うけどどうしても止まらなかった。それでも彼女は何も言わずに、ただずっと僕を抱きしめ続けてくれていた。
「……ごめん。情けないな……、僕」
それから暫くしてようやく泣き止むと僕は彼女の腕の中からそっと抜け出し、溢れた涙を拭った。
「気にするな。少しはすっきりしたか?」
本当に気にした様子もなく優しい声色でたずねてくて、それにどこかホッとする。
「うん。ありがとう」
「そうか、良かった」
それからは暫く沈黙し、お互いに話す事もなく気まずい空気になり、唯々時間だけが流れていった。
……何を話せば。思い返せば聞きたいことはあるだろうに、今の僕には何も言葉が思い浮かばなかった。
すると唐突に彼女の方から話し掛けられる。
「お前、今辛いのか?」
「え?」
沈黙を破り凛とした彼女の声が響く。
「少しお前の話を聞いても良いか?何があったのか。話したくなければ話さなくてもいいが」
そう言った彼女は何故か悲しそうに微笑んだ。
その時僕は悟った。彼女は何となくでも偶然でもなく、何か理由があって僕に話しかけてくれたのではないか、と。
自分の勝手な想像だが、もしもそうなら今のこの気持ちを彼女に聞いてほしいと思った。言葉をかけて欲しいわけじゃない。ただ聞いてほしいんだ。一人で悩むのにはこの気持ちは辛すぎるから。
「君になら、いや君に聞いてほしい。僕の今の気持ち、そして少しの間の思い出話しを」
「分かった」
彼女の返事聞いてから僕はゆっくりと話し始めた。話している間、彼女は寄り添い、時々相槌を打って話しに耳を傾けてくれていた。
両親との生活、この家で商人として両親の仕事の手伝いをしていたこと、そして事故のこと……。
途中で何度も泣きだしそうになったり、歯切れが悪くなってしまったりしたけど、それでも先を急かす事なく、ただ静かに隣に居てくれたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる