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第4章 追憶~過ぎ去った日~
4 寄り添う温もり
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「そうか。それは辛かったな」
話を聞き終えた彼女は一言だけ呟いた。それだけだったけど僕には十分だ。
「うん、辛かった。でも今こうして君が話を聞いてくれたおかげで気持ちが少し楽になったよ」
「何故だ?妾は何もしていないぞ」
本当に分からないと言う顔で彼女は不思議そうに首を傾げた。それに僕は笑ってしまった。
「何もしなくても聞いてくれるだけで良いんだ。それだけでも気持ちが軽くなるんだよ。だから聞いてくれてありがとう」
そんなことでと驚いている彼女に微笑んで聞いてくれたことに対してのお礼を述べた。
冷めていたような心が少し、温度を取り戻したように感じるのはきっと気のせいじゃない。
「そう言えば君はどうしてこの村に?初めて見るし、服装からして貴族?」
つい彼女が優しいからため口で話してしまっているが、もしも貴族の令嬢とかだったら許されることではない。まぁ今更だけど。
「ああ、まあそうだな。だが気にする必要はない。それとこの村へは、なんだ、少し散歩に、だな……」
「……え?散歩?」
さっきまで凛としていたのに急に歯切れが悪くなり、どこか表情も焦っているように見えるけど。
それに僕も思ってもいなかった返事に思わずオウム返しで問い返してしまうし。
「妾は中々外出が出来ないんだ、立場上。それで今日はこっそりと一人で村の様子を見に来たと言う訳だ。偶には息抜きもしたくてな」
「ふふふ」
それを聞いて思わず笑ってしまう。すると彼女は途端に顔を赤らめ声を荒げる。
「何を笑っている!別におかしな事は言っていないぞっ!」
「ふふ。そうだね、ごめん。おかしいから笑ったわけじゃなくて想定外の事を言われてつい」
「想定外?」
「だって君僕より年下だろう?君くらいの女の子が息抜きで村に、それも一人で散歩って中々珍しいなと思ってさ。上から見てるわけじゃないけど、凄いしっかりしてるしそれに色々な面で逞しいよね。あっ、逞しいなんて女の子に言ったら失礼かな?ごめんね」
言ってしまった言葉に僕は謝りながも言葉を続ける。
「それに僕のこんな話を真摯に聞いてくれて、心の優しい子だなって思ったよ」
「そんなこと、ないぞ。妾もまだまだだ。だがその言葉、素直に受け取るとしよう。ありがとう」
誉め言葉を言われるのが慣れていないのか彼女は少し赤い顔をして、でも嬉しそうに微笑んでいた。それを見て僕は目を細めた。
「似ているな、あいつに……。」
「え?」
僕を見て誰かを思い出したのか、彼女が急に聞き取れるかギリギリ位の声で独り言のようにそう呟いた。
「いや、なに、昔の知り合いに似ていたのでな」
もしかしてそれって……。
「もしかしてそれが僕に話しかけた理由?」
そういうと図星と言わんばかりに彼女は一瞬驚きそして苦笑した。誰かまでは流石に見当つかないけど、今日話し掛けてくれたのは僕をその誰かと重なって見えたからなのでは、と思ったんだ。
「ああ、そうだ。お前があいつと同じ顔をしていたから、放っておけなくなった」
不意に窓の外を彼女は見上げる。僕も目を向けるとあれだけの雨が嘘だったかのようにいつの間にか雨は止んでいて、雲の隙間からは夕日の美しい光が差し込んでいた。
夕日で赤く染まる空を見つめながら、今、彼女は何を思っているのだろうか。
……きっとその人のことを思い出しているんだろうな。
窓の方を向いてしまっているため彼女の顔は見えないけど、何となくその姿は寂しそうに見えた。さっきまで逞しくて凛々しいと思っていたのに今はとても儚く見えてしまう。
その姿に僕は何とも言えない寂しさを感じて目を逸らした。
「さて、妾はそろそろ帰るとしよう」
「え、あ、うん、そうだね」
物思いにふけっていると唐突にかけられた声に僕は我に返り、彼女が立ち上がったのを見て僕も慌てて立ち上がる。
「タオルありがとう。それに家にまで邪魔してしまってすまなかったな」
「いや、こちらこそ、色々とありがとう」
そう言うとすっかり乾いた艶のある髪を揺らして僕の方へと一歩近づく。そして自然な動作ですっと彼女の手が僕の頬をそっと撫でた。
え?ええ?な、なに!?
戸惑う僕をよそに彼女は僕の瞳を覗き込んできた。
「お前会った時から思っていたが、綺麗な瞳をしているな」
「へ?」
またしても彼女の思わぬ発言に拍子抜けし変な声を上げてしまった。言葉を理解して純粋に嬉しいのと、恥ずかしい気持ちで顔が熱くなる。
「綺麗な瞳だ。それに髪も美しい緑」
「え、えっと……」
僕の気も知らないで発せられる言葉に更に顔が熱くなってくる。そしてようやく僕の様子に気付いて頬から手を離すと、その様子が面白いのか彼女は優しく笑った。
「ふふ。それではな、また会おう」
「ああ、うん、また」
そう言い残すと彼女は早々と家を出て行ってしまった。僕の咄嗟の呟きは彼女には聞こえていなかったかもしれないが、もうそんな事はどうでも良いか。
「綺麗な瞳、か……。そんなこと言われたの初めてだ」
僕はさっき彼女に言われた事を思い返してみた。
それにまた会おうって言ってたな。思わずまたって言ってしまったけど、また来てくれるのかな?なんてね。
でも、彼女と、ルリアーナともう一度会って他愛もない事で良いから話したいと思っていて、期待をしている自分もいた。
そんな事を思っていたが、しかしそれは思わぬ形、いや、最悪な形で現実のものとなる事を、この時の僕は少しも想像していなかった――――
話を聞き終えた彼女は一言だけ呟いた。それだけだったけど僕には十分だ。
「うん、辛かった。でも今こうして君が話を聞いてくれたおかげで気持ちが少し楽になったよ」
「何故だ?妾は何もしていないぞ」
本当に分からないと言う顔で彼女は不思議そうに首を傾げた。それに僕は笑ってしまった。
「何もしなくても聞いてくれるだけで良いんだ。それだけでも気持ちが軽くなるんだよ。だから聞いてくれてありがとう」
そんなことでと驚いている彼女に微笑んで聞いてくれたことに対してのお礼を述べた。
冷めていたような心が少し、温度を取り戻したように感じるのはきっと気のせいじゃない。
「そう言えば君はどうしてこの村に?初めて見るし、服装からして貴族?」
つい彼女が優しいからため口で話してしまっているが、もしも貴族の令嬢とかだったら許されることではない。まぁ今更だけど。
「ああ、まあそうだな。だが気にする必要はない。それとこの村へは、なんだ、少し散歩に、だな……」
「……え?散歩?」
さっきまで凛としていたのに急に歯切れが悪くなり、どこか表情も焦っているように見えるけど。
それに僕も思ってもいなかった返事に思わずオウム返しで問い返してしまうし。
「妾は中々外出が出来ないんだ、立場上。それで今日はこっそりと一人で村の様子を見に来たと言う訳だ。偶には息抜きもしたくてな」
「ふふふ」
それを聞いて思わず笑ってしまう。すると彼女は途端に顔を赤らめ声を荒げる。
「何を笑っている!別におかしな事は言っていないぞっ!」
「ふふ。そうだね、ごめん。おかしいから笑ったわけじゃなくて想定外の事を言われてつい」
「想定外?」
「だって君僕より年下だろう?君くらいの女の子が息抜きで村に、それも一人で散歩って中々珍しいなと思ってさ。上から見てるわけじゃないけど、凄いしっかりしてるしそれに色々な面で逞しいよね。あっ、逞しいなんて女の子に言ったら失礼かな?ごめんね」
言ってしまった言葉に僕は謝りながも言葉を続ける。
「それに僕のこんな話を真摯に聞いてくれて、心の優しい子だなって思ったよ」
「そんなこと、ないぞ。妾もまだまだだ。だがその言葉、素直に受け取るとしよう。ありがとう」
誉め言葉を言われるのが慣れていないのか彼女は少し赤い顔をして、でも嬉しそうに微笑んでいた。それを見て僕は目を細めた。
「似ているな、あいつに……。」
「え?」
僕を見て誰かを思い出したのか、彼女が急に聞き取れるかギリギリ位の声で独り言のようにそう呟いた。
「いや、なに、昔の知り合いに似ていたのでな」
もしかしてそれって……。
「もしかしてそれが僕に話しかけた理由?」
そういうと図星と言わんばかりに彼女は一瞬驚きそして苦笑した。誰かまでは流石に見当つかないけど、今日話し掛けてくれたのは僕をその誰かと重なって見えたからなのでは、と思ったんだ。
「ああ、そうだ。お前があいつと同じ顔をしていたから、放っておけなくなった」
不意に窓の外を彼女は見上げる。僕も目を向けるとあれだけの雨が嘘だったかのようにいつの間にか雨は止んでいて、雲の隙間からは夕日の美しい光が差し込んでいた。
夕日で赤く染まる空を見つめながら、今、彼女は何を思っているのだろうか。
……きっとその人のことを思い出しているんだろうな。
窓の方を向いてしまっているため彼女の顔は見えないけど、何となくその姿は寂しそうに見えた。さっきまで逞しくて凛々しいと思っていたのに今はとても儚く見えてしまう。
その姿に僕は何とも言えない寂しさを感じて目を逸らした。
「さて、妾はそろそろ帰るとしよう」
「え、あ、うん、そうだね」
物思いにふけっていると唐突にかけられた声に僕は我に返り、彼女が立ち上がったのを見て僕も慌てて立ち上がる。
「タオルありがとう。それに家にまで邪魔してしまってすまなかったな」
「いや、こちらこそ、色々とありがとう」
そう言うとすっかり乾いた艶のある髪を揺らして僕の方へと一歩近づく。そして自然な動作ですっと彼女の手が僕の頬をそっと撫でた。
え?ええ?な、なに!?
戸惑う僕をよそに彼女は僕の瞳を覗き込んできた。
「お前会った時から思っていたが、綺麗な瞳をしているな」
「へ?」
またしても彼女の思わぬ発言に拍子抜けし変な声を上げてしまった。言葉を理解して純粋に嬉しいのと、恥ずかしい気持ちで顔が熱くなる。
「綺麗な瞳だ。それに髪も美しい緑」
「え、えっと……」
僕の気も知らないで発せられる言葉に更に顔が熱くなってくる。そしてようやく僕の様子に気付いて頬から手を離すと、その様子が面白いのか彼女は優しく笑った。
「ふふ。それではな、また会おう」
「ああ、うん、また」
そう言い残すと彼女は早々と家を出て行ってしまった。僕の咄嗟の呟きは彼女には聞こえていなかったかもしれないが、もうそんな事はどうでも良いか。
「綺麗な瞳、か……。そんなこと言われたの初めてだ」
僕はさっき彼女に言われた事を思い返してみた。
それにまた会おうって言ってたな。思わずまたって言ってしまったけど、また来てくれるのかな?なんてね。
でも、彼女と、ルリアーナともう一度会って他愛もない事で良いから話したいと思っていて、期待をしている自分もいた。
そんな事を思っていたが、しかしそれは思わぬ形、いや、最悪な形で現実のものとなる事を、この時の僕は少しも想像していなかった――――
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