幸せな人生を目指して

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第7章 Memory~二人の記憶~

7 導く光

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初めて彼と会った夜から数日後、彼が言っていた通り私達は再会する事になった。

「また会ったわね」

「ああ、言っただろ?また会おうって」

呆れ半分で言う私に、彼は初めてあった日と同じようにどこか嬉しそうに笑っていた。
この日も夜、そして中庭で。
見上げれば同じくまた満月が私達を優しく照らしていた。
その何もかもがあの夜と同じで夢だったのでは、と勘違いしてしまいそうだ。

「まあ確かにそうは言ったけれど……、でも貴方とまた会うなんてね。それもこの場所で」

「俺が会いたかったから来ただけだよ」

……。
またそう言う事をさらっと言ってくれるわね、この少年は。
彼の言葉に私は自分の顔が急激に熱くなってきている事を自覚した。

「おい、大丈夫か?顔が真っ赤だぞ」

誰のせいよ!誰の!

私がこうなったのは貴方が恥ずかしい事を、恥ずかし気もなくさらりと言うからよ?
まるで自分のせいだとは微塵も感じていない彼に、私は心の中で思い切り反論を返す。

「もう、良いわよ。それよりも貴方、先日ここへ来た時迷い込んだって言っていたけれど、それって嘘なんじゃないの?今日の貴方を見ていると更に不信感が増すのだけれど。どうなの?」

これ以上言われては私の方が持たないと思い、咄嗟に話題を変えた。今口にしたことは一番気になっていた事だった。

「いやいや、君と初めて会った時は本当に迷い込んでしまっただけなんだ。信じてくれ。……まあ、今日は意図的に、だけど……」

「へー、そう。良いわ、正直に言ったみたいだからそう言う事にしてあげる。それで?私に会いたいって言うのはどうしてなの?」

私が反撃と言わんばかりに言葉を返すと、少し驚き、彼が一瞬言い淀みを見せた。

「いや、その、また話したいな、と思って。……ただそれだけだ。他に理由はない」

一瞬言葉に詰まったような間は何だったのか気にならなくもないけれど……、まあ良いでしょう。
それに今の今まで射抜かれそうな勢いでこちらを見ていた彼が、私が話題を振った途端あからさまに目を逸らした。
……怪しいわ。

「それで、何を話したいの?」

興味本位で聞いてみると、彼は一度逸らした視線をまた合わせて、それから一瞬にして真剣な表情になった。

「そうだな。……君は今起こっている争い、それについてどう思っている?」

……え?争い……?
それって今まさに勃発している戦争の事、よね?

今の時代、私達の暮らすオルデシア王国だけでなく、あらゆる王国が他国を侵略しようとして争いを起こしていた。
その事は外の世界の事をあまり知らない私でも承知している事実。
だけど……。

「急にどうしてそんな事聞くのよ」

「良いから、答えてくれ」

そんな事を急に言われても困る。
それに彼の雰囲気が急に変わって戸惑ってしまう。けれどそんな私を彼は急かすように先を促してきて、それに仕方なく私は思いを口にした。

「そうね……、私はこの争いが早く終わってほしいと願うわ。そのためにこの王城を飛び出して、命の危険にされされるのだとしても、この争いを終わらせる事が出来るのなら、私は喜んでその道を突き進んで行くでしょうね」

「……」

……っ
気がつけば思った以上に熱く語っていた自分に驚き、そしてとてつもなく恥ずかしくなり、またしても顔から火が出る勢いで羞恥に悶える事となってしまった。

な、何言っているのよ私っ!
いや、今の言葉に嘘偽りはないけれど熱くなりすぎよ。
と言うか、彼も彼よ。一体私に何を言わせたいの?

心の内で感情を爆発させている私に対して、彼は穏やかな表情で私を見る。

「リリーシェ、君はやはり凄いな」

「……そんな事ないわ。結局のところ、そう願っていてもここからは出られないもの」

彼の言葉に嬉しさを感じたものの、ここから出られない現実に急に暗い気持ちになってくる。
そんな私を思ってなのか、彼はとんでもない事を言いだした。

「なあ、それなら俺と一緒にこの城を抜け出さないか?」

「えっ、何を言っているのっ!」

「ここから出たいと言ったのはリリーシェだ。ここから出て外の世界へ行こう。大丈夫だ、外は慣れているからな」

「でも……、無理よ」

彼の提案は突拍子もないし実に勝手なものだ。けれどどうしてかそれにとても魅力を感じてしまう自分がいるんだ。

ただそこまで甘くないのも現実だ。
自分はこれでも一国の王女なのだ。そんな私が知人とは言え、彼と二人きりで城の外へなど出て行けるわけがない。
そんな事をしたら直ぐに見つかるし、それにその場合、私は良くても彼には重い罰が下されてしまうであろう事は目に見えている。
それが分かりきっているのに、みすみす彼を私のせいで危険な目に合わせるわけにはいかないんだ。

そう思って私は身を引こうとするが、それでも彼は諦めようとはしなかった。

「無理じゃない。リリーシェの事は俺が守ってみせるよ。それに俺はもう覚悟とか決めてるんだよ。さあどうする?後はリリーシェ次第だ」

守ると言う言葉に思わず顔を上げれば金色の瞳が神々しく、そして凛々しく私を射抜くように見つめてくる。
そんな彼は思い悩む私に優しく手を差し出してきた。

「手を取れ、リリーシェ!」

答えはまとまってはいない。けれど、それでも彼を信じてみたいと思った事だけは確かだ。

私は覚悟を決めるとゆっくりと手を伸ばす。後少しで彼の手に届く、と言うところで待ちきれない、と言わんばかりに彼の方から私の手をしっかりと掴んできた。力強くて、そして温かい彼の手。
私の手よりも大きくてどこまでも優しい手だ。

今は亡きお母様のように温かくてとても安心できる。

「よし!そうと決まれば即行動だ。今から少しだけ外の世界を見に行こう」

「えっ、ちょ、ちょっとっ!」

そう言うと彼は私の手をしっかりと握りしめたまま走り出した。
私の反論を全然聞いてくれない彼。けれど、彼を見ていると、話をしていると、冷めた心が温かくなるんだ。

私達を見れば誰しもが異を唱えるだろう。そもそも二度しか会った事がない人間を信用するなどありえない、と。
だけど私はそういう人達に言ってやりたい。彼は違うんだって事。私に必要な人なんだって事を。
どうしてか、と問われても理由は簡単。手を引っ張って、私をこの狭い世界から連れ出してくれる人だから。
そして何より、私が一緒にいたいからと思ったからってね。


私達は夜の庭を走った。直ぐ近くにある彼の背中を見ていると何だかおかしくなってしまって、気づけば私は笑っていた。
彼の行動全てが私の調子を狂わせる。言う事は突拍子もなくて、決まれば直ぐに行動を起こす変わった人。
それでもそんな彼を気に入ってしまった自分が一番可笑しいのかもしれない。

「……ありがとう、アレス」

そんな思いを胸に抱きながら、彼の広い背中に私は小さくお礼の言葉を囁いたのだった。
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