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第7章 Memory~二人の記憶~
35 笑顔の為に
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「リリーシェッ!!」
……っ!!
声が聞こえた直後、誰かが覆いかぶさるようにして私を押し倒した。
「ぐ…っ!」
直後聞こえてきた苦しそうな呻き声にゆっくり振り返れば、私に覆いかぶさるようにして顔を歪めているリカルドが目に入った。
「リドッ!」
直ぐに私の上から離れたリカルドは腕を抑えてその場に蹲る。その抑えている腕からは血が流れだしていて、鋭利な刃物で切り裂かれたような傷があった。
「リド…ッ!」
命に別状はないけど決して軽傷な訳でもない。早く手当てをしないと…!
その事で頭がいっぱいになっていた私には、周りに気を配る余裕がなくなってしまっていた。
「…良いところでまた邪魔をしてくれたね」
…っ!
そうだここはまだ戦場。
魔物を使って私を襲わせようとした人物の声にハッと我に返る。
けれど遅かった。いつの間にか魔物の群れが私達を取り囲むようにしてそこにいたのだ。
このままじゃ…。ここまでなの……。
そう諦めかけた時。
「まるで初めて会った時と同じ光景じゃな」
突然の声と共に空から人影が飛び降りてきたのだ。
背中を向けて降り立ったその人物は、真紅の髪を靡かせ私達を守るようにして立った。私は彼女の登場に感極まって泣き出しそうになる。
「……ルリアーナッ!」
「まぁあの時は人間だったが、今回は魔物、じゃがな」
そう言ってこちらを振り返ったルリアーナは真紅の瞳を怪しく光らせ微笑を浮かべる。
「遅くなってすまない。無事か?」
「私は平気。だけどリドが…」
「治せそうか?」
「…や、やってみるわ」
「分かった。ならば妾がここを死守しよう」
「ありがとう」
「例には及ばん。お前も協力してくれるな?」
そう言ってルリアーナは宙へと視線を向ける。
「えぇ。とっとと片付けるわよ!」
彼女の視線の先、ウルティナはいつになく真剣な声でそう言った。
「よし、行くぞ」
そしてルリアーナの掛け声と共に二人は魔物へと向かって行った。
「君、その瞳の色と身体能力。まさか最強と名高い種族、バンパイアかい?」
「だからなんじゃ?」
魔物達に守られるようにして奥に立つ人物は、瞳の色と身体能力を見ただけでルリアーナの正体に感づいたようだ。しかし見破られたからと言ってルリアーナに不利な事はない。
「最強種族が人間を守るなんて、とても珍しい光景だなと思ってね。いや~良いものを見させてもらったよ」
「ふんっ!余裕でいられるのも今のうちじゃ!」
挑発ともとれる相手の言葉にも彼女は動じずに飛び掛かって行く。ウルティナもそれに加勢するように後に続いて行く。
その様子を見て私も立ち上がる。二人が足止めしてくれている間に早くしないと!
彼女達の配慮に感謝しながら私は彼の治癒へと思考を切り替えた。
「リド、傷を見せて!」
急いで彼の傍らに膝を着くと直ぐに傷を確認した。その傷は思っていたよりも深いようで、左の肩から腕までが避けていた。しかも出血も酷い。これ以上流れ続ければ貧血、それ以上だと意識を失う可能性も出てくる。どちらにしろ至急の治療が必要だった。
「リリーシェ…」
「大丈夫。私が治して見せるわ。だから安心して」
いつもは彼の方が大丈夫だと励ましてくれるけれど、今度は私が彼を励ます番だ。
大丈夫、大丈夫よ私。
私は魔法は得意ではないし、むしろ苦手だ。けれど、あれなら……。
この方法は出来れば使いたくはなかった。でも今はそんな事言っていられない。
覚悟を決めると私は深く深呼吸をして目を閉じる。
そして空へと向かって歌を紡いだ。
一音一音ゆっくり丁寧に歌っていく。彼の傷を癒すようにと思いを込めて。
まるで外敵から守るかのように、温かく優しい光が彼と私を包み込んだ。
私の歌には魔法のように傷を癒す事が出来る治癒能力が備わっている。
この事を知ったのは私がまだ幼い頃。怪我をした人を励まそうと思い、偶然歌った時だ。その怪我が見る見る内に塞がり、後も残らずに治っていった。
この事をきっかけに私はこの能力に目覚めた。
しかし当時、その様子を見ていたお母様にその力をむやみやたらに使わないようにと注意を受け、本当に必要な時以外は極力使わないようにしていた。
幼かった私にはどうして力を使ってはならないのか分からず、ただただお母様の言いつけに従って隠していたに過ぎなかったが、後でその意味を知り、お母様も私と同じ能力が使える事を知った。
しかもこの能力、元々お母様しか持っておらず、どうやらお母様からの遺伝で私はこの能力を授かり、開花したようだった。
それと詳しくは未だに分からないけれど、一応は魔法の一種のようだ。
ただこのような能力は見た事はなく、類まれな才能である事には変わらないのだそうで、だからこそ公にすれば能力目当てに狙われる可能性があった。だからこそお母様は自分とそして私に備わったこの能力の事を公にしないようにしていた。
幸いにも私はこの力を人前で使った事は一度だけ。一人の怪我人を直した時のみ。私がこの時治癒した人にはお母様から他言しないようにと固く口止めしてくれたようで、それもあってか未だにお父様にも知られていない。
そして時が経ち、お母様が亡くなってからは相談する相手も勿論いない為、この事を知っているのは実質自分だけになった。
人を救える特殊な能力。しかし使い道を間違えれば大きなリスクを背負う可能性がある。
そんな力を今この場で使っている。敵にも、シュレーデル王国の者達にも能力の事を知られてしまう。
それでも何もせずにはいられなかった。寧ろ今使わない方が後悔しそうなくらいなんだから。
それにお母様はこうも言っていた。『貴方のその力は私以上の能力よ。だからもしも使う時が来たら自信を持ちなさい』と。
今がその時。言葉を信じて力を使います。決して後悔しない為に。大切な人を助ける為に。
歌を歌い続けていると光が神々しさを増していく。これは癒しの光。心までも癒してくれるような温かな光。
それに不思議な事に何もなかったその場所に緑が、花が咲き乱れ始める。
「リリーシェ、これは…」
閉じていた目を開けると、花が咲き乱れ神秘的な光景に圧巻され驚いているリカルドが目に映り、信じられないと言う表情で私と花達とを交互に見る彼に、私はふわりと微笑んだ。
「これが私の秘密。私の特殊な能力よ」
「こんな能力があったのか…凄いな」
「そんな事ないわ。貴方の魔法に比べたら」
足手纏いだと思っていた自分が今の彼の言葉で少しは役に立てているような気がする。けれどやっぱり彼の魔法の方が凄いのだと直ぐに思い直す。
私の能力は歌う事で発動するし、傷を癒せる。けれど私の魔力量は多くないから結構な制限付き。つまり長くは使えないのだ。
それに対してリカルドの魔法は万能だ。彼自身も強大な魔力量を有していて、それを上手く使いこなせているのだから私とは比べ物にならない。
私から見たら彼の魔法の方が羨ましく映るのだから。
「傷を治してくれたんだな。ありがとう」
でも今はこの力を持っていて良かったと感謝したい。
「どういたしまして」
だってまた彼の笑顔がこうして見れたのだから。
やった…っ、上手くいったわ!
傷をほとんど治癒させる事が出来たからこれでもう大丈夫なはず。
「傷は癒せたけど、どう?痛いところはない?」
「大丈夫そうだ。もう動ける」
そう言って起き上がった彼に私は心底ホッとしたのだった。
後は……。
目の前で今も戦ってくれている二人に視線を向けた。
あっ、でももう終わった?魔物達がそこかしこに倒れているのが見えるけど。
「バンパイアと精霊の君達が相手だと流石に分が悪いかな」
「だから言ったのじゃ。油断していられるのも今の内じゃと」
「私達に挑んだ事が間違いよ。それにもう魔物はいない。終わりね、貴方の負けよ」
魔物相手に圧勝をしたらしい二人に私は称賛の声を上げそうになったが……。
謎の人物は―――口元に笑みを浮かべていた。
まだ終わってない!
その不気味な笑みに寒気を覚える。
「確かに君達は強い。けど残念。まだ終わってはいないよ!」
そう告げた瞬間、謎の人物はその場から姿を消した。
「これからが一番楽しい時間だよ」
その声が私達の直ぐ後ろから聞こえた。その人物だろうと思われる手がリカルドの肩に触れているのが視界に入り、それを見た瞬間とてつもなく嫌な予感が頭を過ぎり、必死な思いでリカルドに手を伸ばす。
何とか彼の服を掴み気が緩んだ瞬間、視界が歪みその気持ち悪さで目をギュッと閉じ耐える。
「待てっ!!」
「リリちゃんっ!!」
ルリアーナとウルティナの叫ぶ声が聞こえてくる。
あれ、さっきこんな展開があったような……。
そんな事をぼんやりと考えていると声が聞こえなくなってしまい、次に目を開けるとそこは――
「え…、ここは、中庭……?」
城の敷地内である中庭に移動していた。
「油断した。どうやら飛ばされたらしい」
隣を見ればリカルドが悔しそうに眉間にしわを寄せていた。
飛ばされた…ワープッ!?……まさか敵方も同じ手を使ってくるなんて。
油断した。確かにその通りね……。
「とにかくここから離れるぞ」
状況を一早く把握して離れようとするリカルドに賛成し頷いた直後。
「もう君まで来ちゃったの?はぁ、仕方ないか。それと駄目だよ逃げようとしちゃ。これから面白くなるんだからさ。ね?王子様」
視線の先にはここへ私達を飛ばした人物、そしてその隣にはエリオット王子と王宮魔法士であるオーガストの姿が。
しかも王子の手には二本の剣が握られている。
「リオ…」
「やあリド、そして姫君。また会えて嬉しいよ」
どう言う事?どうして彼らまで…。あいつは私達をここに連れてきて何をさせたいって言うの?
それにどうしてあいつと王子達が一緒にいるの……?
ここへ連れてこられた理由が分からず警戒する私達に対して、王子はいたって変わらず笑みを讃えてこちらに歩み寄ってくると、手に持っていた剣の片方をリカルドに向かって放り投げた。
「どういうつもりだ、リオ」
その問いに王子は笑みを更に深め答えた。
「私と殺し合いをしようか?リド」
その笑みとは裏腹に殺意の籠った眼差しをこちらに向けてくる。
「な、何を…っ」
「おっと、君はそこで大人しく見ているんだよ」
「きゃっ、な、なにっ!?」
「リリーシェッ!?」
王子の尋常ではない様子に私はリカルドに駆け寄ろうとした。しかしまたしても壁のようなものに阻まれてその場に倒れ込んでしまったのだ。
また結界っ!これでは近づけない。
「さぁ邪魔者はもういない。好きにすると良いよ」
まるで親しいようなそんな物言いに違和感を覚えたが、当の王子は何を思うでもなくあいつの声に従うようにして前へと出てきて言い放った。
「さぁ始めようか。最初で最後の本気の殺し合いを!」
その瞬間、王子から黒いオーラが溢れだす。黒く禍々しいオーラを纏ったような王子は、初めて会った時とはまるで別人のように見えた。
……っ!!
声が聞こえた直後、誰かが覆いかぶさるようにして私を押し倒した。
「ぐ…っ!」
直後聞こえてきた苦しそうな呻き声にゆっくり振り返れば、私に覆いかぶさるようにして顔を歪めているリカルドが目に入った。
「リドッ!」
直ぐに私の上から離れたリカルドは腕を抑えてその場に蹲る。その抑えている腕からは血が流れだしていて、鋭利な刃物で切り裂かれたような傷があった。
「リド…ッ!」
命に別状はないけど決して軽傷な訳でもない。早く手当てをしないと…!
その事で頭がいっぱいになっていた私には、周りに気を配る余裕がなくなってしまっていた。
「…良いところでまた邪魔をしてくれたね」
…っ!
そうだここはまだ戦場。
魔物を使って私を襲わせようとした人物の声にハッと我に返る。
けれど遅かった。いつの間にか魔物の群れが私達を取り囲むようにしてそこにいたのだ。
このままじゃ…。ここまでなの……。
そう諦めかけた時。
「まるで初めて会った時と同じ光景じゃな」
突然の声と共に空から人影が飛び降りてきたのだ。
背中を向けて降り立ったその人物は、真紅の髪を靡かせ私達を守るようにして立った。私は彼女の登場に感極まって泣き出しそうになる。
「……ルリアーナッ!」
「まぁあの時は人間だったが、今回は魔物、じゃがな」
そう言ってこちらを振り返ったルリアーナは真紅の瞳を怪しく光らせ微笑を浮かべる。
「遅くなってすまない。無事か?」
「私は平気。だけどリドが…」
「治せそうか?」
「…や、やってみるわ」
「分かった。ならば妾がここを死守しよう」
「ありがとう」
「例には及ばん。お前も協力してくれるな?」
そう言ってルリアーナは宙へと視線を向ける。
「えぇ。とっとと片付けるわよ!」
彼女の視線の先、ウルティナはいつになく真剣な声でそう言った。
「よし、行くぞ」
そしてルリアーナの掛け声と共に二人は魔物へと向かって行った。
「君、その瞳の色と身体能力。まさか最強と名高い種族、バンパイアかい?」
「だからなんじゃ?」
魔物達に守られるようにして奥に立つ人物は、瞳の色と身体能力を見ただけでルリアーナの正体に感づいたようだ。しかし見破られたからと言ってルリアーナに不利な事はない。
「最強種族が人間を守るなんて、とても珍しい光景だなと思ってね。いや~良いものを見させてもらったよ」
「ふんっ!余裕でいられるのも今のうちじゃ!」
挑発ともとれる相手の言葉にも彼女は動じずに飛び掛かって行く。ウルティナもそれに加勢するように後に続いて行く。
その様子を見て私も立ち上がる。二人が足止めしてくれている間に早くしないと!
彼女達の配慮に感謝しながら私は彼の治癒へと思考を切り替えた。
「リド、傷を見せて!」
急いで彼の傍らに膝を着くと直ぐに傷を確認した。その傷は思っていたよりも深いようで、左の肩から腕までが避けていた。しかも出血も酷い。これ以上流れ続ければ貧血、それ以上だと意識を失う可能性も出てくる。どちらにしろ至急の治療が必要だった。
「リリーシェ…」
「大丈夫。私が治して見せるわ。だから安心して」
いつもは彼の方が大丈夫だと励ましてくれるけれど、今度は私が彼を励ます番だ。
大丈夫、大丈夫よ私。
私は魔法は得意ではないし、むしろ苦手だ。けれど、あれなら……。
この方法は出来れば使いたくはなかった。でも今はそんな事言っていられない。
覚悟を決めると私は深く深呼吸をして目を閉じる。
そして空へと向かって歌を紡いだ。
一音一音ゆっくり丁寧に歌っていく。彼の傷を癒すようにと思いを込めて。
まるで外敵から守るかのように、温かく優しい光が彼と私を包み込んだ。
私の歌には魔法のように傷を癒す事が出来る治癒能力が備わっている。
この事を知ったのは私がまだ幼い頃。怪我をした人を励まそうと思い、偶然歌った時だ。その怪我が見る見る内に塞がり、後も残らずに治っていった。
この事をきっかけに私はこの能力に目覚めた。
しかし当時、その様子を見ていたお母様にその力をむやみやたらに使わないようにと注意を受け、本当に必要な時以外は極力使わないようにしていた。
幼かった私にはどうして力を使ってはならないのか分からず、ただただお母様の言いつけに従って隠していたに過ぎなかったが、後でその意味を知り、お母様も私と同じ能力が使える事を知った。
しかもこの能力、元々お母様しか持っておらず、どうやらお母様からの遺伝で私はこの能力を授かり、開花したようだった。
それと詳しくは未だに分からないけれど、一応は魔法の一種のようだ。
ただこのような能力は見た事はなく、類まれな才能である事には変わらないのだそうで、だからこそ公にすれば能力目当てに狙われる可能性があった。だからこそお母様は自分とそして私に備わったこの能力の事を公にしないようにしていた。
幸いにも私はこの力を人前で使った事は一度だけ。一人の怪我人を直した時のみ。私がこの時治癒した人にはお母様から他言しないようにと固く口止めしてくれたようで、それもあってか未だにお父様にも知られていない。
そして時が経ち、お母様が亡くなってからは相談する相手も勿論いない為、この事を知っているのは実質自分だけになった。
人を救える特殊な能力。しかし使い道を間違えれば大きなリスクを背負う可能性がある。
そんな力を今この場で使っている。敵にも、シュレーデル王国の者達にも能力の事を知られてしまう。
それでも何もせずにはいられなかった。寧ろ今使わない方が後悔しそうなくらいなんだから。
それにお母様はこうも言っていた。『貴方のその力は私以上の能力よ。だからもしも使う時が来たら自信を持ちなさい』と。
今がその時。言葉を信じて力を使います。決して後悔しない為に。大切な人を助ける為に。
歌を歌い続けていると光が神々しさを増していく。これは癒しの光。心までも癒してくれるような温かな光。
それに不思議な事に何もなかったその場所に緑が、花が咲き乱れ始める。
「リリーシェ、これは…」
閉じていた目を開けると、花が咲き乱れ神秘的な光景に圧巻され驚いているリカルドが目に映り、信じられないと言う表情で私と花達とを交互に見る彼に、私はふわりと微笑んだ。
「これが私の秘密。私の特殊な能力よ」
「こんな能力があったのか…凄いな」
「そんな事ないわ。貴方の魔法に比べたら」
足手纏いだと思っていた自分が今の彼の言葉で少しは役に立てているような気がする。けれどやっぱり彼の魔法の方が凄いのだと直ぐに思い直す。
私の能力は歌う事で発動するし、傷を癒せる。けれど私の魔力量は多くないから結構な制限付き。つまり長くは使えないのだ。
それに対してリカルドの魔法は万能だ。彼自身も強大な魔力量を有していて、それを上手く使いこなせているのだから私とは比べ物にならない。
私から見たら彼の魔法の方が羨ましく映るのだから。
「傷を治してくれたんだな。ありがとう」
でも今はこの力を持っていて良かったと感謝したい。
「どういたしまして」
だってまた彼の笑顔がこうして見れたのだから。
やった…っ、上手くいったわ!
傷をほとんど治癒させる事が出来たからこれでもう大丈夫なはず。
「傷は癒せたけど、どう?痛いところはない?」
「大丈夫そうだ。もう動ける」
そう言って起き上がった彼に私は心底ホッとしたのだった。
後は……。
目の前で今も戦ってくれている二人に視線を向けた。
あっ、でももう終わった?魔物達がそこかしこに倒れているのが見えるけど。
「バンパイアと精霊の君達が相手だと流石に分が悪いかな」
「だから言ったのじゃ。油断していられるのも今の内じゃと」
「私達に挑んだ事が間違いよ。それにもう魔物はいない。終わりね、貴方の負けよ」
魔物相手に圧勝をしたらしい二人に私は称賛の声を上げそうになったが……。
謎の人物は―――口元に笑みを浮かべていた。
まだ終わってない!
その不気味な笑みに寒気を覚える。
「確かに君達は強い。けど残念。まだ終わってはいないよ!」
そう告げた瞬間、謎の人物はその場から姿を消した。
「これからが一番楽しい時間だよ」
その声が私達の直ぐ後ろから聞こえた。その人物だろうと思われる手がリカルドの肩に触れているのが視界に入り、それを見た瞬間とてつもなく嫌な予感が頭を過ぎり、必死な思いでリカルドに手を伸ばす。
何とか彼の服を掴み気が緩んだ瞬間、視界が歪みその気持ち悪さで目をギュッと閉じ耐える。
「待てっ!!」
「リリちゃんっ!!」
ルリアーナとウルティナの叫ぶ声が聞こえてくる。
あれ、さっきこんな展開があったような……。
そんな事をぼんやりと考えていると声が聞こえなくなってしまい、次に目を開けるとそこは――
「え…、ここは、中庭……?」
城の敷地内である中庭に移動していた。
「油断した。どうやら飛ばされたらしい」
隣を見ればリカルドが悔しそうに眉間にしわを寄せていた。
飛ばされた…ワープッ!?……まさか敵方も同じ手を使ってくるなんて。
油断した。確かにその通りね……。
「とにかくここから離れるぞ」
状況を一早く把握して離れようとするリカルドに賛成し頷いた直後。
「もう君まで来ちゃったの?はぁ、仕方ないか。それと駄目だよ逃げようとしちゃ。これから面白くなるんだからさ。ね?王子様」
視線の先にはここへ私達を飛ばした人物、そしてその隣にはエリオット王子と王宮魔法士であるオーガストの姿が。
しかも王子の手には二本の剣が握られている。
「リオ…」
「やあリド、そして姫君。また会えて嬉しいよ」
どう言う事?どうして彼らまで…。あいつは私達をここに連れてきて何をさせたいって言うの?
それにどうしてあいつと王子達が一緒にいるの……?
ここへ連れてこられた理由が分からず警戒する私達に対して、王子はいたって変わらず笑みを讃えてこちらに歩み寄ってくると、手に持っていた剣の片方をリカルドに向かって放り投げた。
「どういうつもりだ、リオ」
その問いに王子は笑みを更に深め答えた。
「私と殺し合いをしようか?リド」
その笑みとは裏腹に殺意の籠った眼差しをこちらに向けてくる。
「な、何を…っ」
「おっと、君はそこで大人しく見ているんだよ」
「きゃっ、な、なにっ!?」
「リリーシェッ!?」
王子の尋常ではない様子に私はリカルドに駆け寄ろうとした。しかしまたしても壁のようなものに阻まれてその場に倒れ込んでしまったのだ。
また結界っ!これでは近づけない。
「さぁ邪魔者はもういない。好きにすると良いよ」
まるで親しいようなそんな物言いに違和感を覚えたが、当の王子は何を思うでもなくあいつの声に従うようにして前へと出てきて言い放った。
「さぁ始めようか。最初で最後の本気の殺し合いを!」
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