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第7章 Memory~二人の記憶~
40 またいつの日か……
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彼は薄っすらと微笑み途切れ途切れで言葉を紡ぐ。
「トランス…ミッション……」
刹那、リカルドから眩い光が放たれ、それは彼を中心に地面を伝うようにして、この場にいた全員の身体に吸収されるように消えていく。すると明かりが灯ったように自分と皆の身体が儚く光りだす。
「これは…」
その現象に一早く反応を示したウルティナは、ただただ驚いたように現象を引き起こしたリカルドを見つめた。
『…これでまともに会話が出来る』
声が聞こえてきた。いや、それは普通の声と言うより頭に直接語り掛けられているような、そんな不思議な感覚の声だ。
「リドの、声?」
その声は彼のものだった。先程まで苦しそうだったのに。
そう思って驚く私に彼は成功したと言って笑った。
『そうだ。魔法の力を借りて皆の頭の中に直接話しかけているんだ。今の俺は上手く声が出ないからな』
彼はまた笑う。その苦しさを紛らわすように。
『それじゃ聞いてくれ。あまり時間もないからな』
そう言い一息入れる様に目を閉じ、そしてもう一度目を開くと視線をオーガストへと僅かに移して笑いかける。
『オーガスト、お前は王宮魔法士として俺のライバルであり、良き友人だった。
俺は年下のくせに生意気で、どうしようもない子どもに見えていただろうけど、それでも俺はお前と数年間、肩を並べて戦えた事を本当に嬉しく思っている。
お前は俺の最高の相棒だ。これからもお前の主人を俺の代わりに守って欲しい』
「あぁ…勿論だ。俺は今回お前に命を救われた。救われたこの命、俺のなすべき事の為に使うと誓う。
そして、俺もお前の事は最高の相棒だと今でも思ってるぜ。お前は俺の誇りだ。
…後は任せておけ、志を共にした同志よ」
静かに涙を零しそう誓った男にリカルドは安心したように頷くと、次に王子へと視線を向けた。
『エリオット、お前にも昔から迷惑をかけている気がするな。
それにリオの方が身分的には上なのに俺全然礼儀なってなくて、よく師匠やオーガストに怒られてたけど、リオは一度もその事を咎めなかったよな。それが身分なんか関係ないんだって言ってくれている気がして、俺は嬉しかったよ。
それにな、お前は初めて声をかけてくれたのが俺だって言ったけど、それ本当は逆で、お前が俺に声をかけてくれたんだよ』
そこで一度言葉を区切ってからまた続きを話しだした。
『リオは知っていると思うが俺には両親がいない。物心ついた時にはもう亡くなっていたからな。それと唯一の家族だった妹も今は何処にいるのか分からない』
妹……知らなかった。リカルドに妹がいたなんて……?
何処かで彼を私と同じく一人で寂しい思いをしているのだと、自分と勝手に重ねて見ていた。
けれどそれは間違っていた。こうして彼と短い旅をしてきた中で、私は自分が一人じゃないって気が付いた。それは彼のおかげだ。
そしてその彼にもちゃんと繋がりのある人がいてくれた。それを知り、それがまるで自分の事のように嬉しく思ってしまった。
『昔の俺は友達と呼べる人間が一人もいなかったんだ。だけどそんな俺に声をかけ、手を差し伸べてくれたのはリオ、お前だった。
リオのおかげで俺は救われた。生きる目的を持たなかった俺の目的にお前はなってくれたんだよ。
まぁ俺の勝手な思いだけどな。それでも身分を気にせず手を差し伸べてくれて嬉しかった。こんな俺を必要だと言ってくれたリオに、親友の為に力になりたいと思った』
「それじゃあリドが王宮魔法士になったのは…私の為…?」
いくらか体力が戻った様子の王子はリカルドの傍に膝を着いて話を聞いている。泣くのを我慢するような表情を浮かべながら。
『そうだよ。お前は王子である前に一人の子ども。しかもかなり危なっかしい子どもだったからな、それはそれは心配だったよ』
「リド…」
『傍にいられた時間は長くはなかったけど、それでも傍にいられて良かったと思ってる。
お前との剣の稽古楽しかったぞ。強くなっていくお前を見られたしな。
あぁでもお前を守るって言っておいて、一番傍にいなくちゃならない時にいなかった…。あの時は本当にすまなかった。守る事が出来なくて』
「その事はもう良いんだっ…。私の方こそいつも守ってもらってばかりで、助けられてばかりで……。
こんな頼りない王子でごめん…。リドの事を逆恨みして、自業自得なのに最後の最後でまた命を守ってもらった……。
……私を庇わなければ…こんな事には……」
『それこそ気にするなよ。と言ってもお前は気にするんだろうな。
だったらこう考えてくれ。どんな形であっても最初に俺を救ってくれたのはリオだ。俺はその恩を返しただけだってな。
俺はお前を救えた事を後悔していない。
それとこの先俺は傍にいてやれないんだからしっかりしろよ。
本当は生きてお前が王になるのを、リオがつくる国って言うのを見て見たかった。残念だな。
リオ、俺は王族でもないし、国を変える事なんか出来ないけど、戦争も争いもない平和な国を望んではいたんだ。
だからな、こんな一般市民の頼みで悪いが、俺の代わりに俺の見る事の出来ない平和な国をつくって、リオにはそれを見届けて欲しい。
一緒には見れないけど、俺の親友は立派な奴だったんだって、誇れるような王になってくれ』
「………分かった。
誰かの支えがないと一人で何もできないこんな私だけど、それでもいつか立派だったと、誇れる王だと、親友であるリドに言ってもらえるように頑張るから。私はこんなだから時間はかかるだろうけど、それでも必ず平和な国にして見せるよ。だから…後は任せてくれ。
リド、この別れは最後じゃないって私は信じているよ。だからさようならとは言わない」
『あぁ』
「またいつか、会える日まで…」
涙を我慢していた王子の瞳から一筋だけ雫が零れる。それを見たリカルドは何を言うでもなく、ただただ微笑ましそうに笑うのだった。
そして今度はルリアーナとウルティナを見つめて言葉を口にした。
『ルリアーナとウルティナ。お前達にも凄く助けられた。本当にありがとう』
「お主が素直に礼を言うなど不思議な気分じゃな。
だがまぁ礼には及ばん。妾がそうしたいと思ったから行動したまでの事じゃ」
「その通りね。私達がそうしたかったからそうしたまでよ。お礼を言われるような事はしていないわ」
『だけどお前達はバンパイアと精霊、本来なら人間とは相容れない存在の者達。それなのに人種を問わず人間に力を貸してくれた。
高位の奴らは自分達より劣っている下位の存在を見下す。それが俺の知りうるお前達の存在だったけれど、今訂正する。
全員が全員ではないにしてもここにいるのは、人にも力を貸してくれる慈悲深く心優しい友人だったんだと』
「うむ。妾も心に刻みつけておこう。
人間と言う種族はか弱く儚い。だが人の為に、友の為に命を懸けられる者もいる強い種族でもあるとな」
「私も人間と言う存在の優しさ、そして強さを見させてもらったわ。
残酷な事をする人間がいるのも確かだけれど、それでも懸命に足掻き続けようとする人間もいる。その姿は私達精霊から見ても目を見張るものがあるわ」
『ありがとう。
二人から見たら人の人生なんてあっという間のものだろうけど、それでも頼みたい事がある。
この先も人間と、いや、俺の友人達の助けになってはくれないか。返せる物はなにもない…ただの俺の願いだが』
「今更な事を言うな。言われるまでもなく、元からリリーシェ達に助力をするつもりでいたぞ」
「そうね。こうして出会ったのも何かの縁。短い時間であったとしても最後まで見届けさせてもらうわ」
リカルドはもう一度二人にお礼の言葉を告げた。頼もしく、そして心優しい友人の少女達に。
そして最後に彼が私に視線を向ける。真っ直ぐに向けられる眼差しを私も受け止めた。
『リリーシェ、今回の事で一番迷惑をかけて、そして俺の問題に巻き込んでしまって、今更だけど謝らさせて欲しい。本当にすまなかった』
「気にしなくて良いわ。貴方について行くって決めたのは最終的に私自身。貴方の隣に立つと決めたのも私自身。私は後悔していないわ」
『ありがとう。君がついて来てくれると言った時、本当に嬉しかったよ。これ以上ない程に。
君は俺の事を頼りになると言ってくれたけど、実際はそうでもなかっただろう?
俺は誰かに頼ってもらえるような大した人間じゃない。自分の事で精一杯で、浅薄な男に見えただろう。
ふざけていたつもりはないけど、そうでもしていないとどうも嫌な事ばかり思い出してしまって、時折怖くなるんだ。
特にリオを助けられなかったと思っていた時は、それが夢に出てきて恐ろしかった。情けないが、こんな男なんだ俺は』
「情けなくなんてないわよ。出会った時も今も、貴方は頼もしいし、誰よりも明るくて、私が挫けそうな時にそっと慰めの言葉をくれる素敵な人。
それにね。人はそれぞれ何かしら抱えて生きているものよ。怖くなって泣いたりする事だって時にはある。それは男でも女でも関係ない。当たり前なのだから情けないなんて事はないのよ。
だから一人で頑張ろうとする必要もない。全ての恐怖、悩みを消し去る事は出来ないけれど、一緒に抱えてあげる事は出来るの。
人間は一人では生きられない。それぞれが誰かを支えて生きて行くもの。それが人間なのだから。
リドはもっと肩の力を抜いて、私に、皆に寄りかかって良いのよ」
弱音を吐かずにここまで一人で頑張ってきたリカルド。人一倍明るく振舞うのに、人一倍寂しがり屋でもあった彼。でもそんな張らなくてもいい意地を張る彼を私は愛おしくも思うのだ。
私は貴方にちゃんと慰めの言葉を言えたかな?
貴方に今までもらった沢山の事を返せたかな?
そして今もちゃんと笑えているかな?
『ありがとうリリーシェ…。やっぱり君は優しくて心が綺麗な人だ。君を好きになって本当に良かった…。
……好きだよリリーシェ。愛してる。今もこれからも………』
「私も…私も愛してるわ…この先もずっと………」
『…本当はこれから先の未来も君と一緒にいたかった。ずっと一緒にいたかった…』
そう言って彼は涙を流した。漸く泣けたね……。今までためていた全ての気持ちを吐き出すように、彼は泣いていた。
『……君を残していってしまう事…許してほしい。
…もしもリオの言うように…次の人生と言うものがあるのなら……次こそはずっと一緒にいよう』
「…えぇ。次の人生では、ちゃんと私を……貴方の妻に、してね……」
溢れてくる言葉を先程はちゃんと言えたのに、ここに来て、最後の最後で声が震えてしまった。
『リリーシェ…』
それでも嬉しそうに彼が微笑むものだから、私も精一杯の笑顔を浮かべて見せた。
そしてそっと屈んで彼の唇に自分のものを重ね合わせる。
最初で最後の口付け。貴方の告白に対しての私の精一杯の答え……。…漸く、漸く伝える事が出来た……。
傍にいる皆は静かに見守ってくれていた。誰も言葉を発せずただただ見守ってくれている。
でも見守ってくれていたのは彼らだけではないみたい。
「わぁ」
「これは美しいな」
ウルティナ、そしてルリアーナから感嘆の声が漏れた。それにつられるようにして目を開け周りを見れば――――
「……綺麗…」
庭園に咲くダリアの花達が蛍のように淡く光り輝いていた。
心地良く、心まで落ちつかせてくれるような温かな光。
その光が思いが通じ合った私達を祝福してくれているような、そんな気がした。
「ねぇ、見えるリド…とても綺麗よ。…花達も、私達を祝福してくれてるみたい…」
『…あの花は…?』
「ダリアの花。
知ってる?ダイアの花は色によってその花に込められた意味が違うのよ。
その中でも私が一番好きな言葉は『感謝』ね。だって今の私にとってはこの言葉こそ、私を支えて、助けてくれた人達に伝えたい言葉だもの。そしてそれはリド、貴方にも当て嵌まる言葉よ。
………リド。私をあの城から救い出してくれてありがとう。私に世界の美しさ、そして人生の素晴らしさを教えてくれてありがとう。
……私を、愛してくれてありがとう…」
想いを伝える。私のありのままの気持ちを。
想いを伝えられて嬉しい…はずなのに……涙が止まらないわ……。枯れる事なく次から次へと涙が溢れてくる。
でもね、気持ちはすっきりしたと思う。泣いていても、ちゃんと笑って、笑顔でいられている気がするわ。
――これでちゃんと貴方を見送れる。
『ここまでこれて良かった…。最後に綺麗な景色を見れた……。
あぁ…でも師匠にもやっぱり会いたかったな……。
リリーシェ、師匠に会えたら伝えて欲しい…、今までありがとうございました。貴方は俺にとって、最高の師匠であり、もう一人の父親だったって……』
「えぇ、ちゃんと伝えておくわ」
『ありがとう、リリーシェ』
そう言うと、リカルドは眠るように静かにその瞳を閉じた。
そしてその瞬間、明るい光が彼の身体を包み込む。その光に触れる私の手もその温かさにまた涙が零れた。
「傷は癒せないけれど、これで安らかにいけるわ」
それはウルティナの力によって現れた安息の光だった。
「ありがとう、ウルティナ…」
お礼を言ってリカルドの顔を見ると彼女が言った通り、彼は穏やかな表情で眠りについていた。
力の抜けた手が落ちそうになり、私はその手を両手で掴み頬を寄せる。
お疲れ様と言うように彼の髪を優しく撫でる。
「おやすみ…リカルド……」
まだ残っている彼の手の温もりを感じながら。
私は静かに涙を流し続けた――――
「トランス…ミッション……」
刹那、リカルドから眩い光が放たれ、それは彼を中心に地面を伝うようにして、この場にいた全員の身体に吸収されるように消えていく。すると明かりが灯ったように自分と皆の身体が儚く光りだす。
「これは…」
その現象に一早く反応を示したウルティナは、ただただ驚いたように現象を引き起こしたリカルドを見つめた。
『…これでまともに会話が出来る』
声が聞こえてきた。いや、それは普通の声と言うより頭に直接語り掛けられているような、そんな不思議な感覚の声だ。
「リドの、声?」
その声は彼のものだった。先程まで苦しそうだったのに。
そう思って驚く私に彼は成功したと言って笑った。
『そうだ。魔法の力を借りて皆の頭の中に直接話しかけているんだ。今の俺は上手く声が出ないからな』
彼はまた笑う。その苦しさを紛らわすように。
『それじゃ聞いてくれ。あまり時間もないからな』
そう言い一息入れる様に目を閉じ、そしてもう一度目を開くと視線をオーガストへと僅かに移して笑いかける。
『オーガスト、お前は王宮魔法士として俺のライバルであり、良き友人だった。
俺は年下のくせに生意気で、どうしようもない子どもに見えていただろうけど、それでも俺はお前と数年間、肩を並べて戦えた事を本当に嬉しく思っている。
お前は俺の最高の相棒だ。これからもお前の主人を俺の代わりに守って欲しい』
「あぁ…勿論だ。俺は今回お前に命を救われた。救われたこの命、俺のなすべき事の為に使うと誓う。
そして、俺もお前の事は最高の相棒だと今でも思ってるぜ。お前は俺の誇りだ。
…後は任せておけ、志を共にした同志よ」
静かに涙を零しそう誓った男にリカルドは安心したように頷くと、次に王子へと視線を向けた。
『エリオット、お前にも昔から迷惑をかけている気がするな。
それにリオの方が身分的には上なのに俺全然礼儀なってなくて、よく師匠やオーガストに怒られてたけど、リオは一度もその事を咎めなかったよな。それが身分なんか関係ないんだって言ってくれている気がして、俺は嬉しかったよ。
それにな、お前は初めて声をかけてくれたのが俺だって言ったけど、それ本当は逆で、お前が俺に声をかけてくれたんだよ』
そこで一度言葉を区切ってからまた続きを話しだした。
『リオは知っていると思うが俺には両親がいない。物心ついた時にはもう亡くなっていたからな。それと唯一の家族だった妹も今は何処にいるのか分からない』
妹……知らなかった。リカルドに妹がいたなんて……?
何処かで彼を私と同じく一人で寂しい思いをしているのだと、自分と勝手に重ねて見ていた。
けれどそれは間違っていた。こうして彼と短い旅をしてきた中で、私は自分が一人じゃないって気が付いた。それは彼のおかげだ。
そしてその彼にもちゃんと繋がりのある人がいてくれた。それを知り、それがまるで自分の事のように嬉しく思ってしまった。
『昔の俺は友達と呼べる人間が一人もいなかったんだ。だけどそんな俺に声をかけ、手を差し伸べてくれたのはリオ、お前だった。
リオのおかげで俺は救われた。生きる目的を持たなかった俺の目的にお前はなってくれたんだよ。
まぁ俺の勝手な思いだけどな。それでも身分を気にせず手を差し伸べてくれて嬉しかった。こんな俺を必要だと言ってくれたリオに、親友の為に力になりたいと思った』
「それじゃあリドが王宮魔法士になったのは…私の為…?」
いくらか体力が戻った様子の王子はリカルドの傍に膝を着いて話を聞いている。泣くのを我慢するような表情を浮かべながら。
『そうだよ。お前は王子である前に一人の子ども。しかもかなり危なっかしい子どもだったからな、それはそれは心配だったよ』
「リド…」
『傍にいられた時間は長くはなかったけど、それでも傍にいられて良かったと思ってる。
お前との剣の稽古楽しかったぞ。強くなっていくお前を見られたしな。
あぁでもお前を守るって言っておいて、一番傍にいなくちゃならない時にいなかった…。あの時は本当にすまなかった。守る事が出来なくて』
「その事はもう良いんだっ…。私の方こそいつも守ってもらってばかりで、助けられてばかりで……。
こんな頼りない王子でごめん…。リドの事を逆恨みして、自業自得なのに最後の最後でまた命を守ってもらった……。
……私を庇わなければ…こんな事には……」
『それこそ気にするなよ。と言ってもお前は気にするんだろうな。
だったらこう考えてくれ。どんな形であっても最初に俺を救ってくれたのはリオだ。俺はその恩を返しただけだってな。
俺はお前を救えた事を後悔していない。
それとこの先俺は傍にいてやれないんだからしっかりしろよ。
本当は生きてお前が王になるのを、リオがつくる国って言うのを見て見たかった。残念だな。
リオ、俺は王族でもないし、国を変える事なんか出来ないけど、戦争も争いもない平和な国を望んではいたんだ。
だからな、こんな一般市民の頼みで悪いが、俺の代わりに俺の見る事の出来ない平和な国をつくって、リオにはそれを見届けて欲しい。
一緒には見れないけど、俺の親友は立派な奴だったんだって、誇れるような王になってくれ』
「………分かった。
誰かの支えがないと一人で何もできないこんな私だけど、それでもいつか立派だったと、誇れる王だと、親友であるリドに言ってもらえるように頑張るから。私はこんなだから時間はかかるだろうけど、それでも必ず平和な国にして見せるよ。だから…後は任せてくれ。
リド、この別れは最後じゃないって私は信じているよ。だからさようならとは言わない」
『あぁ』
「またいつか、会える日まで…」
涙を我慢していた王子の瞳から一筋だけ雫が零れる。それを見たリカルドは何を言うでもなく、ただただ微笑ましそうに笑うのだった。
そして今度はルリアーナとウルティナを見つめて言葉を口にした。
『ルリアーナとウルティナ。お前達にも凄く助けられた。本当にありがとう』
「お主が素直に礼を言うなど不思議な気分じゃな。
だがまぁ礼には及ばん。妾がそうしたいと思ったから行動したまでの事じゃ」
「その通りね。私達がそうしたかったからそうしたまでよ。お礼を言われるような事はしていないわ」
『だけどお前達はバンパイアと精霊、本来なら人間とは相容れない存在の者達。それなのに人種を問わず人間に力を貸してくれた。
高位の奴らは自分達より劣っている下位の存在を見下す。それが俺の知りうるお前達の存在だったけれど、今訂正する。
全員が全員ではないにしてもここにいるのは、人にも力を貸してくれる慈悲深く心優しい友人だったんだと』
「うむ。妾も心に刻みつけておこう。
人間と言う種族はか弱く儚い。だが人の為に、友の為に命を懸けられる者もいる強い種族でもあるとな」
「私も人間と言う存在の優しさ、そして強さを見させてもらったわ。
残酷な事をする人間がいるのも確かだけれど、それでも懸命に足掻き続けようとする人間もいる。その姿は私達精霊から見ても目を見張るものがあるわ」
『ありがとう。
二人から見たら人の人生なんてあっという間のものだろうけど、それでも頼みたい事がある。
この先も人間と、いや、俺の友人達の助けになってはくれないか。返せる物はなにもない…ただの俺の願いだが』
「今更な事を言うな。言われるまでもなく、元からリリーシェ達に助力をするつもりでいたぞ」
「そうね。こうして出会ったのも何かの縁。短い時間であったとしても最後まで見届けさせてもらうわ」
リカルドはもう一度二人にお礼の言葉を告げた。頼もしく、そして心優しい友人の少女達に。
そして最後に彼が私に視線を向ける。真っ直ぐに向けられる眼差しを私も受け止めた。
『リリーシェ、今回の事で一番迷惑をかけて、そして俺の問題に巻き込んでしまって、今更だけど謝らさせて欲しい。本当にすまなかった』
「気にしなくて良いわ。貴方について行くって決めたのは最終的に私自身。貴方の隣に立つと決めたのも私自身。私は後悔していないわ」
『ありがとう。君がついて来てくれると言った時、本当に嬉しかったよ。これ以上ない程に。
君は俺の事を頼りになると言ってくれたけど、実際はそうでもなかっただろう?
俺は誰かに頼ってもらえるような大した人間じゃない。自分の事で精一杯で、浅薄な男に見えただろう。
ふざけていたつもりはないけど、そうでもしていないとどうも嫌な事ばかり思い出してしまって、時折怖くなるんだ。
特にリオを助けられなかったと思っていた時は、それが夢に出てきて恐ろしかった。情けないが、こんな男なんだ俺は』
「情けなくなんてないわよ。出会った時も今も、貴方は頼もしいし、誰よりも明るくて、私が挫けそうな時にそっと慰めの言葉をくれる素敵な人。
それにね。人はそれぞれ何かしら抱えて生きているものよ。怖くなって泣いたりする事だって時にはある。それは男でも女でも関係ない。当たり前なのだから情けないなんて事はないのよ。
だから一人で頑張ろうとする必要もない。全ての恐怖、悩みを消し去る事は出来ないけれど、一緒に抱えてあげる事は出来るの。
人間は一人では生きられない。それぞれが誰かを支えて生きて行くもの。それが人間なのだから。
リドはもっと肩の力を抜いて、私に、皆に寄りかかって良いのよ」
弱音を吐かずにここまで一人で頑張ってきたリカルド。人一倍明るく振舞うのに、人一倍寂しがり屋でもあった彼。でもそんな張らなくてもいい意地を張る彼を私は愛おしくも思うのだ。
私は貴方にちゃんと慰めの言葉を言えたかな?
貴方に今までもらった沢山の事を返せたかな?
そして今もちゃんと笑えているかな?
『ありがとうリリーシェ…。やっぱり君は優しくて心が綺麗な人だ。君を好きになって本当に良かった…。
……好きだよリリーシェ。愛してる。今もこれからも………』
「私も…私も愛してるわ…この先もずっと………」
『…本当はこれから先の未来も君と一緒にいたかった。ずっと一緒にいたかった…』
そう言って彼は涙を流した。漸く泣けたね……。今までためていた全ての気持ちを吐き出すように、彼は泣いていた。
『……君を残していってしまう事…許してほしい。
…もしもリオの言うように…次の人生と言うものがあるのなら……次こそはずっと一緒にいよう』
「…えぇ。次の人生では、ちゃんと私を……貴方の妻に、してね……」
溢れてくる言葉を先程はちゃんと言えたのに、ここに来て、最後の最後で声が震えてしまった。
『リリーシェ…』
それでも嬉しそうに彼が微笑むものだから、私も精一杯の笑顔を浮かべて見せた。
そしてそっと屈んで彼の唇に自分のものを重ね合わせる。
最初で最後の口付け。貴方の告白に対しての私の精一杯の答え……。…漸く、漸く伝える事が出来た……。
傍にいる皆は静かに見守ってくれていた。誰も言葉を発せずただただ見守ってくれている。
でも見守ってくれていたのは彼らだけではないみたい。
「わぁ」
「これは美しいな」
ウルティナ、そしてルリアーナから感嘆の声が漏れた。それにつられるようにして目を開け周りを見れば――――
「……綺麗…」
庭園に咲くダリアの花達が蛍のように淡く光り輝いていた。
心地良く、心まで落ちつかせてくれるような温かな光。
その光が思いが通じ合った私達を祝福してくれているような、そんな気がした。
「ねぇ、見えるリド…とても綺麗よ。…花達も、私達を祝福してくれてるみたい…」
『…あの花は…?』
「ダリアの花。
知ってる?ダイアの花は色によってその花に込められた意味が違うのよ。
その中でも私が一番好きな言葉は『感謝』ね。だって今の私にとってはこの言葉こそ、私を支えて、助けてくれた人達に伝えたい言葉だもの。そしてそれはリド、貴方にも当て嵌まる言葉よ。
………リド。私をあの城から救い出してくれてありがとう。私に世界の美しさ、そして人生の素晴らしさを教えてくれてありがとう。
……私を、愛してくれてありがとう…」
想いを伝える。私のありのままの気持ちを。
想いを伝えられて嬉しい…はずなのに……涙が止まらないわ……。枯れる事なく次から次へと涙が溢れてくる。
でもね、気持ちはすっきりしたと思う。泣いていても、ちゃんと笑って、笑顔でいられている気がするわ。
――これでちゃんと貴方を見送れる。
『ここまでこれて良かった…。最後に綺麗な景色を見れた……。
あぁ…でも師匠にもやっぱり会いたかったな……。
リリーシェ、師匠に会えたら伝えて欲しい…、今までありがとうございました。貴方は俺にとって、最高の師匠であり、もう一人の父親だったって……』
「えぇ、ちゃんと伝えておくわ」
『ありがとう、リリーシェ』
そう言うと、リカルドは眠るように静かにその瞳を閉じた。
そしてその瞬間、明るい光が彼の身体を包み込む。その光に触れる私の手もその温かさにまた涙が零れた。
「傷は癒せないけれど、これで安らかにいけるわ」
それはウルティナの力によって現れた安息の光だった。
「ありがとう、ウルティナ…」
お礼を言ってリカルドの顔を見ると彼女が言った通り、彼は穏やかな表情で眠りについていた。
力の抜けた手が落ちそうになり、私はその手を両手で掴み頬を寄せる。
お疲れ様と言うように彼の髪を優しく撫でる。
「おやすみ…リカルド……」
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転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
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