幸せな人生を目指して

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第7章 Memory~二人の記憶~

42 受け継がれる思い

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「そんな事が……」

「これが妾の知りうる全てだ」

長い長い話が終わり、ルリ様は静かに息を吐いた。

「何というか…正直現実味ないけど、あんたが言うと説得力あるな」

レヴィ君は驚きつつも若干疑うような表情だ。だけどルリ様は顔色を変えずに静かに答える。

「当たり前だ。この目で見たものだ。どう思おうと構わないがこれが現実なのだ」

「そうよ。あの子達は確かにいたのよ。あの場所に…」

同意するようにウルも言葉を重ねる。普段笑顔が絶えないウルの表情は少し陰っていた。切なそうな顔だ。

「そのペンダントもきっと彼女が彼の妹に送ったものなのだろう。大事にする事だ」

ルリ様はレヴィ君の持つペンダントを静かに見つめた。




その後沈黙が続き、それを破りルリ様が言葉を発したのはそれから少し経ってからだ。

「とにかくだ。昔そう言う事があったと言うだけだ。ただそれだけ……」

最後の方は聞こえるか聞こえないかと言う程か細かった。昔の事を、大切な人達の事を思い出して寂しく感じているんだと分かる。
強い人だけど心は私達と同じで繊細だから。

ルリ様は長い時間を生きられるけどそれ故に大切な人達を何人も見送ってきたのだろう。
私が言えたことではないかもしれないけど、大切な人を見送る程悲しく、寂しく、辛い事はない。
置いて行かれた方は本当にやるせない気持ちになると思うから。

本意でなくても私は前世で死んでしまって、結果的に家族を置いてきてしまった。
不慮に起こった事故が原因で。今更遅いけど、もっと気を付けていれば良かったと思う事はある。

それでも起こってしまった事は変えられないし、大切な人にももう会う事は出来ない。

ふとした瞬間に思い出しては泣きそうになる。私でさえそうなのだから、ルリ様はもっと悲しかったでしょうね。


それとレヴィ君の持っているペンダント。あれはきっと話に出てきた彼女が彼に渡した物だ。

それを知っていたからレヴィ君のペンダントを見て、ルリ様も同じ事を思ったんじゃないかな。

ペンダントだけだと私達が彼らの生まれ変わりなのか、はっきりと断言は出来ないけど、もしかしたらルリ様は何か感じたのかもしれない。

ルリ様だけじゃない。レヴィ君も夢を見ると言っていたし、私も似たような夢を見た、と思う。
だから少なからず関係はあると思うんだ。


もしも、本当に二人の生まれ変わりなら嬉しいなって思う。
だって本人じゃないけど時を越えてまたルリ様と言う『親友』に巡り合えた事になるから。


「ルリ様。話してくれてありがとうございました」

「エル…」

「ルリ様も寂しかったんですよね?大切な人達が自分よりも先に遠くへと行ってしまう。それをずっと見ていたから。忘れて欲しくないのに時が経つと皆忘れて行ってしまうから。
それが悲しいからずっと誰にも話さずに自分の中に大切に閉まっておいたんですよね?」

「それは…」

「良いと思います。それでも。誰だって忘れられたら寂しいし、悲しい気持ちになりたくないから。
……でもルリ様はそれでも私達に話してくれた。大切な人の話をするのって勇気がいると思います。だから話してくれて嬉しかったです。
私達が本当に彼らの生まれ変わりなのか、正直分かりませんが、そうであってもそうでなくても私は今もこの先も、ルリ様の友人…親友であり続けます。
まあ私も人間なのでルリ様みたいに百年、二百年と生きる事は出来ませんけど、でも長生きしようと思います。
一応私の目標なので。
直ぐにはいなくなりません。意地でも長生きします!こう言った言い方は可笑しいかもしれないですけど、だから安心して下さい」

まとまってないけど言いたい事は言えた、と思う。
ルリ様に伝わっていると良いけど…。

「……本当に、お前はリリーシェに似ているな」

「えっ、そうですか?」

「ああ、似ているよ」

ルリ様は目を細めて笑った。とても優しい顔で。


でも私って似てるかな?
話に聞いた感じ彼女はしっかり者のイメージだったけどな。
私しっかりしてると言うよりはどちらかと言うとドジっ子?的な感じだと思うけど。ルカにも色々な事良く注意されるし。
あ、なんか自分で言ってて泣きたくなるから考えるのはやめようっと。

良いんだ。ルリ様が笑ってくれているんだから。


「それにレヴィもあいつに似ているよ」

話を振られたレヴィ君は首を傾げる。

「そうか?話に聞いたそいつと俺性格正反対じゃないか?俺そんな素直に感情出さないし」

と言う割には何だか頬薄っすらと赤みを帯びているような。自分の前世かもしれない彼が表情豊かで、彼女の事を大好きだと全身で表現していたと言うのがレヴィ君には気恥ずかしく感じるのかな?
まあレヴィ君は絶対しないですもんね。
それこそ窮地にでもなければ、彼から素直な言葉は聞けないでしょう。その事は私も経験して十分に理解していますから。


「ふふふ。まあ貴方達は彼らに似ていなくても良いのよ。彼らは彼らで貴方達は貴方達なんだから。
彼らの事は本当に大好きで、大切で、私にとっても掛け替えのない子達だったわ。でもね、それと同じように今は貴方達が大切よ。
だからこれからも私は貴方達を守る守護者でありたい」

「ウル、それは嬉しいし、私も貴方は大切な人です。でも、私は守られるだけは嫌です。私はウルと対等でいたいです。
だからウルが良いのなら、私と友人でいて下さい」

そう言うとウルは一瞬驚いた顔をしてから、ふっといつものような微笑みを見せた。

「ええ、喜んで。最後まで傍にいるわ。エルちゃん」

言いながら抱き着いてきたウルの小さな体を私も抱きしめ返す。

長い間彼女も孤独だったのかもしれない。でも今は嬉しくてしょうがないと言ったように身体全体で表現してくれている。
その気持ちが伝わってきて私も心が温かくなったのだった。




「では今日はこれで終わりにしよう」

名残惜しいけど楽しい時間は終わりを告げる。

席を立ったルリ様にそう言われて少し寂しく感じてしまった。

「今夜は我が城に泊まって行くと良いぞ」

「えっ、でも……」

仕方ないと思い、帰ろうとすれば城へ泊るようにと勧められて返事に困ってしまう。

「遠慮はしなくて良い。妾が呼んだのだから少しくらいの持て成しはさせてくれ」

「そう言う事なら遠慮なく」

そこまで言われたら甘えようと思っていたら、代わりにレヴィ君が答えてくれた。

「うむ。では今夜は久しぶりのパーティーだ」

その答えに満足そうに笑顔を浮かべたルリ様に私は安心したのだった。




その日の夜。ルリ様の一言で執り行われる事となったパーティーがが開かれ、私には勿体ない程の豪華な食事がずらりと並んだ。
手に取って食べてみたらどれも美味しくて、思わず顔が緩む。

他の皆も同じようで、レヴィ君は流石に私のようにはなってなかったけど、それでも少し嬉しそうな顔をしていた。

そんな皆の様子を私は幸せだなとつくづく思ったのだった。













パーティーの後…レヴィside

「そろそろ切り上げるとしよう」

ルリアーナの一言で賑やかだったパーティーは終わりを告げた。

十分すぎる食事をし、楽しそうに話していたエル達も名残惜しそうにしていたものの、何処か満足そうな顔をしていた。

そのままお開きになり、俺達はそれぞれ与えられた部屋へと入って行った。

部屋に入ったら疲れがどっと押し寄せてきた。

話を聞きに来ただけなのにどうしてこんなに疲れているのか不思議だが。

まあそれは良いとして、とっとと寝るか。

首にかかるペンダントを外し、近くの机の上にそっと置き、早々に寝る準備をしてから大きな寝台に潜り込む。
自分の家のものよりも上質なそれのせいか、ただ単に疲れていただけなのか、横になるなり直ぐに睡魔が襲ってきて、そのまま身を委ねた。





眠っていると不意に何かの気配を感じた。

身体をゆっくり起こして部屋の中を見渡すが、特に変わった様子はない。

気のせいか…?そう思ってもう一度寝ようとした時――

『――』

声が聞こえた気がしてハッと視線を向けると、先程まで誰もいなかった部屋の中に誰かが立っていた。
部屋は暗くてはっきりと姿は見えないはずなのに、その人物の容姿が俺にははっきりと見えた。

短い黒い髪と俺と同じ金色の瞳をした小柄の少女。
何処かで見た事があるような、そんな懐かしさを感じさせる少女だった。

『――』

その彼女が何かを言っている。
気づけば俺は不思議にも警戒する事なく彼女の言葉に耳を傾けていた。

『――おにいちゃん…』

すると今度ははっきりと聞こえた。鈴の音のように消え入りそうに儚い声が。
俺は答える事なく続く彼女の言葉を聞く。

『ありがとう……。今度こそ…今度こそは……幸せになってね――』

そう言った彼女は笑った。とても優しい笑顔だった。


あれ…?

その笑顔を見た途端、自分の手にぽたりと何かが落ちてきて下を向くとそれは雫だった。
可笑しいなと思いながら自分の目元を手で触るといつの間にか涙が頬を伝っていた。

どうして?

どうしてか分からないけど、何故か悲しいと言う気持ちが自分の中から次から次へと溢れてくるのだ。それはもうどうしようもないくらいに。

なんでなんだ…。

彼女の言葉を聞いた途端にこれだ。少し動揺しながら、俺はもう一度彼女のいた場所を見る。

……。

でももうそこには彼女の姿はなく。感じていた気配ももうなくなってしまっていた――。




「はっ…!」

そこで目が覚めたように勢い良く起き上がり、あれ?と首を傾げる。

え?夢…だったのか、あれは…?

俺は寝ていた?ようだ。しかも窓を見るともう朝になっていた。


夢…にしてはやけに現実味があったな……。


あれが夢だったのか現実だったのか、区別が出来ずに悩むが、とりあえず落ち着くためにも着替えようと思いなおし、ペンダントに手をかける。

…?

手に触れるとペンダントがなんとなく温かいような気がして見ると、ペンダントが一瞬光ったような気がした。

え?

嫌そんなはずは。そう思い首を振ってもう一度見たけど、光はなく、温かいと思ったペンダントは冷たくなっていた。




着替えを終え、不思議な事も有るんだな。と思いながら部屋を出た所で同じくちょうど部屋を出てきたエルに出くわした。

「おはようございます、レヴィ君!良く眠れましたか?」

「おはよう。ああ、まあな。その様子だとお前も寝れたようだな」

相変わらずの笑顔で挨拶をしてくるエルに、思わず笑いそうになるのを我慢して俺も挨拶を交わす。

するとエルは笑顔のままあのですね、と意味深な前置きをして続きを話しだした。

「実は夢…を見たんです」

「え?」

夢と言う単語に一瞬ドキッとした。夢なんてよく見るものだけど、俺の体験したあの事が鮮明すぎて、頭から離れないせいだろう。

「夢の中で二人の後姿を見ました。一人は白くて長い髪の女の人で、もう一人は黒い髪をした男性。二人ともお互いに寄り添うようにして手を繋いていました。顔は見えないのに何故か二人は幸せそうに笑っている気がして……。そう思ったら私泣いてしまっていました。他人事には思えなくて……。
それで暫くしたら二人は歩いて行って静かに消えてしまって、二人のいた場所には綺麗な花達が、まるで見送るように咲いていたんです」

とても綺麗でした。そう言ってエルは泣きそうな顔で、でも嬉しそうに笑った。エルの言った綺麗に咲き誇る花のように。

……その笑った顔がいつか見た人のものと重なって見えたような、気がした。


「切ないけれど、でも幸せな夢。そんな気がします」

「そうか…」

呟いた声は小さくて自分でも驚くものだった。

「それでは行きましょうかレヴィ君!ルリ様達が待ってますよ」

エルが明るい声で言った後、手を引かれる。

「ああ、そうだな。行こう、エル」

そう答えたら手を繋いだまま元気良くエルが走り出す。


俺は無意識に首から下がるペンダントを握りしめる。気づけば手が伸びていたんだ。






何とも不思議な気持ちになりながら、皆が待つ場所へと向かい俺達は二人で走っていった。
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