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第8章 ノスタルジア

16 強敵…レヴィside

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「殿下、皆もあいつには気をつけろ。絶対に油断をするなよ」

俺は確信をもってこの場にいる全員に忠告した。

相手は一人、対してこちらは多数。
魔物が現れていない今の時点では数では俺達の方が有利。
それに魔物がもしも現れても対処できるだけの人数、そして精鋭達がいる。

それなのに、目の前の小さい影には隙を見せればやられる…。そこまでの狂気をあいつから感じた。

戦う前から分かっている事。
それはあいつは強い、只者ではないと言う事。


「どうした?余裕のない顔だなレヴィ。数日共に行動していたが、お前の危機迫るような顔は初めて見たぞ」

そう言って殿下は己の腰にある剣を抜いた。

「そう言う殿下こそ、手が震えている様に見えるが」

「これは武者震いと言う奴だ。恐怖している訳ではない。
今までこれ程の強敵に手合わせしてもらった事がないから心が躍っているだけだ」

確かにそう言われてみれば、ここ数日見て来たどの表情よりも生き生きしている様にも見える。
少し意外だ。
この王子様は戦いになればもう少し冷静になるものとばかり思っていたが、
こんなに変わるものとはな。
人は見た目によらないとは良く言ったものだ。

「全く貴方達はもう少し落ち着いて下さい。後ろから見ていてこちらの方がヒヤヒヤしてしまいますよ」

落ち着いた声のトーンで話に入って来たのは、ルーカス…いや、今はルキウスだったか。
事情があるとはいえ、正体を隠しているのも大変だな。
こんな状況だと咄嗟に本名を口走ってしまうかもしれないが、まあその時はその時だ。


「最初は何でいるんだと思ったが、今はお前達がいてくれて良かったと思ってるよ」

「おや、貴方からそんな言葉が出て来るとは驚きました。どういう心境の変化ですか」

こいつ意味わかっててわざと言ってるな。
晴れ晴れとした笑顔を見せるルキウスだが、俺には悪魔のようにしか見えない。


普段なら絶対に言わないセリフだが、口が勝手に動いてしまったのだから仕方ないだろ。

それにここにいる城からの応援部隊は精鋭だが、正直、それでもこの中で目の前に敵とやり合えるのは俺達三人と、アリン…いやアイリーンだったか、そしてリッカさんくらいだろう。だから戦力になるルキウスとアイリーンが来てくれた事は戦力としては大きいと言うだけ。


「あの、皆さん!悠長に話している場合ではないのではありませんか!?」

流石に場を考えろとでも言いた気にリッカさんから声がかかる。だがその一声で空気が変わった。

そうだよな、リッカさんみたいな反応が普通なんだよな。

いつまでもくだらないこと言ってないで、頭を切り替えないとな。


そう思った瞬間、敵側も臨戦態勢に入った。

それを見て俺は味方に叫んだ。

「魔法を使った遠距離攻撃は俺が防ぐ!近距離も対応できない事はないが、そっちは殿下に任せる。
ルキウスとアイリーンは俺達の援護を頼む!
リッカさんは後方で他の兵士達と魔物が来ないか見張ってくれ!襲って来た時の対策は任せるぞ」

「「「「「了解!!!」」」」」

素早く指示を出すとそれに全員が答える。

それとほぼ同時に相手も動いた。

殺気だった赤い瞳を怪しく光らせたそいつは、魔法を使用した遠距離攻撃…ではなく真っ直ぐにこちらに突っ込んできた。
それも地面を一蹴りし、俺達との距離を一瞬で埋める程の人間離れした跳躍を見せて。

「はっ!」

だが殿下が素早い動きで相手の動きを止めた。その際にキーンと刃と刃がぶつかり合う音が響き、いつの間に出していたのか、相手の手には短剣が握られている事に気が付く。

こいつとんでもない身体能力だ……。

今の相手の動き、俺達以外には姿が消えた様に見えたんじゃないか……。
その跳躍力とスピード、その辺の奴には出来ない動きだった。

とは言え俺に今の動きを真似しろと言われて出来ない事もない。
実際、魔法乱舞の時に魔法で身体を強化して俺も同じような事をしているし、だから出来ない事はないんだが……。

ただ今のは魔法を駆使したものではないし、魔法を発動させた形跡も感じられなかった…。

つまり魔法を使っていないと言う事になる。

……こいつ、人間ではないのか……?

そこまで考え付いたところで一度思考する事を止め、目の前の状況に頭をシフトする。

「…くっ」

攻撃を受け止めていた殿下から苦渋な声が漏れ、良く見れば殿下が少し押されているように見える。
殿下の持つ剣よりも小さい短剣でしかも小柄な体格の相手は、それでもなお力で殿下を上回っているようだった。

「ウォーター・アロー」

殿下には倒れられたら困る。

俺は水魔法を発動させ、相手に容赦なく放った。
水の形を変え、矢のように鋭くさせ放つ。

普段の水の使い方とは異なるが、魔法ではこういった使い方が出来るのが便利なところだ。

風も同じだが、水は勢い良く放ちスピードをつける事で岩をも切り裂く攻撃技になる。
その切れ味は想像したくないが凄いものだろう。

俺は魔力量が多いから、魔法の出力を加減しなければ相手を殺しかねないが、目の前の敵にはその必要はない。
手加減はしない。倒すつもりでやらなければこちらがやられてしまうのだから。

だが――

「人間のくせに中々の威力だ」

……っ!

手を抜いているはずない俺の攻撃をいとも簡単に交わされてしまった。

「くそっ!」

しかも余裕のあるセリフを残しながら交わしやがった。


そいつは空中で一回転し、後方に着地しようとする、が次の瞬間、
突風が俺の横を通り抜け、そして相手が着地したその場所が何の前触れもなく爆発した。


威力はそこまでではなかったにしろ、緻密なコントロール力だ。
今のは風魔法のスコール、そして火魔法のマイクロ・フレイム。

スコールはかまいたち、マイクロ・フレイムは扱い方によって明かりにもなれば、今のように爆発を引き起こす事も可能な幅広い使い方が出来る魔法だ。
しかも爆発は小規模で、敵以外を巻き込まないようなコントロール技術。これはルキウスの魔法だな。

後ろを振り返れば一息ついただけでいつもと変わらない彼がそこにいた。

ルキウスの奴、いつの間に呪文を……。全く気付かなかった。
それに援護のタイミングも完璧だったのが少しあれだが。

正確に必要なだけ魔法を使用する冷静さ、判断力、そして確実に相手に攻撃を当てるコントロール技術。
そこだけは認めざるを得ないが、絶対に本人の前では言わない。


「やったか…?」

殿下が自信なさげに呟く。
無理もない。煙が立ち込め、相手の姿が良く見えないのだから。

敵の身体能力は凄かったが、これだけ食らえば流石に傷の一つや二つ負わせる事は出来ただろう。

まあ一番は倒れてくれれば最高なんだけど。
と言うそのささやかな希望は彼女の一言で見事に崩れ去った。


「まだだよ」

そう小さく呟くアイリーン。
彼女は確かエルフだったよな。エルフって言うのは身体能力が高いだけでなく目も良いのか。

彼女がそう断言するのだからまだ終わっていないのは残念ながら本当のようだ。
現に……煙の中から黒い影が動くのが今俺にも見えたから。

「まあそう上手くいくわけもないか」

あっさりと期待を打ち砕かれて思わず笑みが零れてしまう。


この結果から余裕な態度も、一人で俺達の前に敵が現れたのも納得がいった。
一人の力でこの強さだ。俺達を倒すにしても足止めするにしても一人で十分ってわけだ。


そう考えるとエルを別行動させて良かったと思う。
最初こそ抵抗があったけど、今はこの場にエルがいなくて心底ほっとしている自分がいる。

もしもエルがいたら真っ先に狙われていたはずだからだ。

何故なら、敵の最初の攻撃、あれは俺を狙ってのものだった。
明らかに俺を最初のターゲットにしていたんだ。それには俺も気が付いていたが、あの時は殿下が横から割って入り防いでくれたから良かった。
俺一人でも防ぐことは出来たが、少しでも無駄な魔力を使わせないようにと言う殿下の気づかいか、はたまた良く言う考えるより身体が先に動いてしまっての行動か正直分からないが。


それに敵の身体能力なら近接戦は有利になるだろうが、そこに遠距離からの魔法攻撃があっては戦い辛いだろう。
しかも俺のように魔力量が多いとそれが尽きるまで魔法の攻撃は続くわけだ。
俺の魔力が尽きるのを攻撃を交わしつつ待つのは得策ではない。

だから魔力量が多く、遠距離攻撃の出来る俺を真っ先に潰そうとしたんだと俺は考えているが。

なんせ魔法が使える奴のほとんどは魔法に頼りきりで、近接戦に弱い傾向があるからな。
それを考えれば俺を狙ったのは当然と言えば当然だ。

だから尚更、俺以上の魔力量を誇るエルがここにいたら俺と同じ目にあっていたと言う事になる。
しかもあいつの場合は近接戦まるっきり駄目だからな……。

本当にこの場にあいつがいなくて良かったよ。
あいつは直ぐ危険があるところに自分を顧みず、自ら飛び込もうとする癖があるし、そのくせ他人の心配ばかりして自分の事のように涙を流すし。
本当に危なっかしくて目が離せない。


あいつが悲しそうにしているのは、泣いているのは見たくないし、笑っていて欲しいと思う。

今回の件でもあいつは他人の事を自分の事のように考えて、心配して、悲しそうにしていた。
心配する事は悪い事ではないが、心を擦り減らしてまでする事ではない。

それを見ているこちらの方が辛くなる。だから今回の件も早く片をつけて帰りたいんだ。


と思ったが……なんだか俺らしくない。調子を狂わされる。

これはあれだ、最近いろんな奴から変な話を聞かされて、更には変な夢も見たせいだ。
きっとそうだ……。





「来る」

アイリーンのその声で俺は現実へと意識を引き戻された。


煙が風で流れていき敵の姿がはっきりと目に映った。
先程の攻撃を食らってもしっかりとその足で立ち、こちらを睨みつけている姿が。
ただ、ダメージはいくらもないようだが、身体をすっぽりと覆っていたマントが破け、その顔が露になっている。


敵の正体は子どもだった。歳は俺と同じか少し下くらいの少年。

人間だと思ってしまったが、それは少年の見た目が人間と変わらないから………目の色と鋭く尖った耳を除いては――。


あの容姿エルフか……?

ちらっとアイリーンを一瞥すると彼女がこちらを見て目が合う。
その瞬間考えが伝わったのか、しかし彼女は首を横に振った。

つまり彼女と同じエルフではない。

とすれば考えたくない可能性だが、

魔族……なのか………?

吸血鬼も目が赤いと言う特徴があるし、吸血鬼の女王であるルリアーナにも直接会っているからその可能性もあると考えたが、だがこいつは吸血鬼とはまた違ったオーラを持っている。



こいつが何者なのか。それを確かめたかったのだが、相手からの鋭い攻撃が迫ってきたことにより、その機会は持ち越しとなってしまった。
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