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第8章 ノスタルジア

21 出会いと別れ

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今回で第8章は終わりとなります。次回、第9章でお会いしましょう!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日。
治癒魔法のおかげもあって回復したレヴィ君と私は、他の皆と顔を合わる事が叶った。
その時には名前を偽ってはいるけれどルカとアリンちゃんもいて、そして私が無事だと分かるなりメリル様が抱き着いてきてそれはもう驚いた。
可愛い顔をくしゃくしゃにして泣く姿に、本当に優しい方なんだなってもらい泣きしそうになったりしたり。そこは頑張って耐えたけど。
こんなに泣かれるとは思っていなくて、申し訳ないと思う気持ちはあったけどその反面、そんなに心配してくれていたんだと嬉しい気持ちもあり、私はメリル様が落ち着くまでずっと頭を撫で続けたのだった。

そして落ち着くと、私は早々にあるお願いをした。それはある場所へと赴く許可だ。

その後、許可は難なく通り、リッカさんと共にその場所へと赴いた。その場所とは瘴気の影響によって床に臥せている人達のところだ。

森への調査の前に一度足を運んではいるけど、その時は症状を少しの間だけ和らげる処置を施しただけだった。
でも今は瘴気の影響は精霊達のおかげで薄れているはずで――、だからあの魔法をもう一度使って皆を治すそうと思ったのだ。


結論から言うと成功した。
その場所にいた人達に私はあの日と同じ魔法を傍らにいるウルの力を借りて発動させた。その時には森で使用した時よりも扱いに慣れ、思うように展開できたのが幸いで、そしてその力によって身体を蝕んでいた瘴気を無事浄化する事が出来たのだった。
時を同じくして王城でも、国王陛下が瘴気の影響で臥せっており、その治療の為王妃様が付き添っていたのだけど、私達の時と一緒で瘴気の影響が薄れた為、国王陛下の治癒が終わったとの事。
未だ眠っておられるようだけど、もう命に別状はないらしい。

王城に戻ってからその報告を聞き、リハルト殿下やメリル様と同じように心底安心したのを覚えている。



そして時は進みお昼過ぎ。
私達はあの時の状況を話し合う為、応接室に集まっていた。

その応接室にはお馴染みリハルト殿下とその側近であるノアさん、メリル様と同じく側近のリッカさん。それからアルフレッド殿下にレヴィ君、そして私を含めた七人が集まっていた。ルカとアリンちゃんはここではなく別室で待機中だ。
理由はまあお察しの通りだけど、でもこちらの話しが聞こえる様に耳にあるピアスに掛けられている魔法を発動させている。前世で言う電話の役割を持つ魔法道具でもあるこのピアス。それを応用して別室にいるルカのピアスを通してアリンちゃんにも会話が聞こえる様、拡張の魔法も施したのだ。これで心配する事無く話し合いが行えると言うものです。

そうしてまず私から別行動をとっていた事から湖の瘴気の影響、浄化の成功についてなどを順番に話していった。と言っても掻い摘んで話したけどね。勿論精霊の事を伏せて。
私の話を聞き終えた面々が驚いた顔をしていたけど、特に突っ込まれなかったので本当に良かったと思う。
精霊達の力を借りてやっとの思いで瘴気を浄化した事を細かく説明出来ない為、そこを突かれたらどう説明をつけようかと悩んでいたのだ。でもその悩みも無用だったようね。



それからその後、話しは最終決戦の場面へと移り――。

「――と言う事があった。その後どうなったのかは俺達は知らない。なんせ意識がなかったもので」

大方の出来事をレヴィ君はあっけらかんとした口調で話し、そう締め括る。
何と言うかあの時は状況が状況なだけに仕方がないと思うんだけど、レヴィ君は失態を犯したと思っている節があった。
自分がその場にいながら自分よりも小柄な少年に一本取られた事を。

私も負けず嫌いなところはあるけど、レヴィ君には負けるかも…なんて。

それはともかく彼の話しに耳を傾けていた皆は、話し終えるとなるほどと言うように頷き合う。

「そうか。私が言えた事ではないかもしれないが、危険な目に合わせてしまって申し訳ない」

話しを聞き終えるや否や、唐突なリハルト殿下の謝罪をくらい私達は驚いてお互いの顔を見合わせる。
一国の王太子に頭を下げさせていると言う事実に私はどうしようとおどおどしてしまう。するとそれを見兼ねてか、隣から溜息を吐きながらレヴィ君が立ち上がるとリハルト殿下の方へと近づく。
彼の方に手を置くと口を開く。

「頭を上げて下さいよ。仮にも一国の王子が他国からの客人とは言え、下の者にそんな軽く頭を下げるものじゃありませんよ。それに今回俺達は依頼されて来たんだから戦闘だって覚悟していた事だ。
それより頭を下げるよりもやらなければならない事があるでしょう?」

矢継ぎ早に捲し立てるレヴィ君。ちゃっかり失礼な用語もいくつか入っていたけど、それを咎める者は誰もいなかった。

「そうだぞ。調査の要請があったとは言え、こちらはその要望を断る事も出来たが今こうしてこの場にいる。自分の意志でここにいるんだ。それに正直なところ、国の問題とは別に、友として個人的にお前達を助けたいとも思っていたからな」

アルフレッド殿下もレヴィ君に続いてそう告げる。

二人は立場が似ている。一国の王子でもあり、年齢も近い男の子同士。
王子と言う立場がなければ堅苦しい態度もなく、学び舎に行き勉学に励んだり、外で思い切り遊んだり、時間を共にしていたんだろうなって、もしもの話しだけど容易に想像が出来る。

そんな二人だから分かる事も有るのだろう。特に今回はアルフレッド殿下の方がリハルト殿下に対して思う所があるようだけど。

「すまない、取り乱した。
本当に私はまだまだ子どもだ。これではどちらが年上なのか分からないな」

リハルト殿下は頭を上げるとクスリと笑った。漸くその顔に笑みが戻り、隣で成り行きを見守っていたメリル様の強張っていた表情も緩やかなものへと変わる。


「さて、では話を続けますが宜しいですか、皆様」

それを見てノアさんがタイミング良く話しを切り出す。そしてここにいる全員へ視線を向けてから先を続ける。

「確認したい事があるのですが、話しに出て来た謎の少年の事です。私は残念ながら姿を見ていませんが話しを聞くに恐ろしい戦闘能力を有しており、ただの少年ではなかったそうですね」

「はい。身体能力が高く、それだけでなく魔法の威力も半端なものではありませんでした。それに――」

「あの容姿。赤い瞳に尖った耳。一瞬エルフかとも思ったが違う」

もっと禍々しい何かを感じた。
ノアさんの問いに私が答え、それに被せる様に続きを話すレヴィ君。

「もしかしたら…魔族、かもしれない」

歯切れ悪く呟いたレヴィ君にその場にいた全員が息を呑んだ。


魔族は魔物とは違い理性があり、自ら行動し言葉も話せる。
だけどその性質は冷徹冷酷と書物に記されていて、人々は魔族と言う種族の事を認識してはいるけど、何処かお話の中に登場する者達、と言う思考があり実際に目にしたものでなければ信じがたい存在。
言ってしまえば精霊と同じかもしれない。最も人前に姿を現さないと言う点だけだけど。

「とは言っても憶測に過ぎないがな」

自信なさげにレヴィ君が告げる。するとリハルト殿下が首を振って応える。

「いや、そこまで推測できれば十分だ。ありがとうレヴィ。
その件はこちらでも調べておくよ。何か分かれば直ぐに知らせよう」

リハルト殿下の計らいに頷き返し、それを見計らったように今度はアルフレッド殿下が更なる質問を投げかける。

「そう言えばレヴィ。あの時どうして意識を失ったのか分かるか?
お前は強いし、それに魔力の緻密な制御も得意だろう?あの時もそうだったはずだ。それなのにあの少年を前にして倒れた。一体どう言う事なんだ?」

「それは俺にも分からない。あいつが俺の首に触れた瞬間、急に身体の力が抜けていって、気が付けばここに戻って来ていた」

あの時の事は当人であるレヴィ君自身も良く分からないらしい。

「ただ気持ちが悪かった。何か得体のしれないものが身体の中に入ってくるような、そんな感じがした」

思い返しているのか彼の表情が強張り、膝の上に置いている手にも力が入っていたので思わず手を伸ばしてしまった。

「大丈夫だ。悪い」

気を使わせて悪い、と困ったような笑みを零したのだった。




そうして話し合いは進み――。

「ではこれで依頼は達成だな」

「そうだね。本当にありがとう。この恩は忘れないよ」

喜びを隠さないアルフレッド殿下に対して、リハルト殿下は依然として変わらぬ態度で返した。
そしてそれに続きメリル様からも声がかかる。

「アルフお兄様…とエルお姉様、レヴィお兄様…街の皆を救ってくれて、お父様を助けてくれて本当にありがとう」

緊張した面持ちで、それでも最後まで言い終わると、ぺこりと効果音が付きそうな素振りで頭を下げる小さなお姫様。
何ともまあ小動物を思わせるような可愛さだ。
しかもエルお姉様…って、可愛すぎか!!顔は笑顔のまま心の内では自分で突っ込みをしていましたね、はい。



こうして長いようで短かった水の都、シュレーデル王国での問題は無事解決したのだった。



その話し合い後は、世間話のようなものをして楽しい時間を過ごし、それから数日はこちらに滞在させてもらった。
その間に元気になられた国王陛下、そして付きっきりで一度もお顔を拝見できなかった王妃様とも謁見が叶い、今回の件については後日改めてお礼をさせてくれとのお達しがあった。

そんな事があってから、とんとん拍子に月日は流れて行き名残惜しくも滞在最終日。
リハルト殿下やメリル様、ノアさんにリッカさんも見送りの為に駆けつけてくれた。
その際にメリル様がまた泣いてしまったけれど、そんな可愛い妹を優しく宥める兄のリハルト殿下の姿に胸がぽかぽかと温かくなったのだった。


それにしても大変だったけど、それだけではなかったなとも思う。実は滞在している間に街の観光も出来たのです!
嫌がるレヴィ君を半ば強引に連れて行ったのは申し訳ないとは…思っているけど、おかげでとても楽しかったし、元気になった街の人達とも交流が出来たのは嬉しい限りだよ。

それから終始ルカとアリンちゃんには本当の自分を隠していてもらわなくちゃならなくて心苦しかったけど、最後まで嫌な顔一つせず、ついでに正体も隠し通してくれて…。それもあってか特に追及もなかったから助かりましたね…。

はあ…。問題は無事解決したのに達成感どころか冷や汗ものだ。
そんな中でも終始元気な人がいるけど……。本当に殿下はブレないよね。

馬車に揺られる中、窓の外に移る景色を眺めながらシュレーデルでの事を思い返して、苦笑いを浮かべたのだった。

後日、今回の件を聞いた父様や姉様にも質問詰めされるなんて思ってもみなかった。






――あの日の出来事を、私は一生忘れる事はないだろう。
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